その日、カルティエ・ラタンの車両工場では、事故を起こして破損したスフェーンの列車の前面の修理作業を急ピッチで行なっていた。
「ほーん…」
車両工場では先の事故で破損した車両達が並べられており、大小様々な修理を行なっていた。
『かなり被害は大きい様ですね』
「そりゃあれだけでかい爆発じゃあね」
そう言いながら自分の列車を停めている場所に移動すると、
「おーい!バーナーあるか!」
「ガラス発注はどうした!?」
「今届きます!!」
前面の修理を行なっている今、運転台含めて新造した部品までを使ってくれる有難いアフターサービスを受けながら修理を受ける自分の列車。
「失礼しまーす」
台車点検も行ってくれる有り難みを感じながらスフェーンは自分の列車を安全な場所から眺める。
「不安ですか?」
するとそんなスフェーンに一人の年老いた機械工が話しかけてきた。
「…えぇ」
スフェーンはそんな彼に頷くと、機械工は軽く笑う。
「はははっ、まあ気持ちは分かります。こんな場所に来るくらいですしね」
「お恥ずかしい話です」
「いやいや、自分の家がこんな状態では誰だって不安になるものですよ」
そう言い修理中で入れない旅客キャビンを見る。
「取り敢えず設計図のおかげで運転台は修理完了しました」
「了解です」
「あとは破損した窓ガラスと凹んだ貫通扉、各種照明と信号装置の復旧が完了すれば施行完了です」
「分かりました」
スフェーンは大まかな修理の経過を確認するとそのまま工場を後にする。
『被災した車両の数がすごいですね』
「中でも一番酷かったから優先して見てくれるとさ」
旅客キャビンはロックをかけているので中にある荷物が盗まれる心配はないが、機関部に関しては分かる人には分かってしまうので、今の所下手に余人に見せるのはごめんだった。
「エーテル機関を自分で点検出来てよかった…」
『えぇ、おかげで簡易整備場でエーテル機関の整備が出来ますからね』
そんな事を言いながらスフェーンは停めてあるサイドカーに乗り込む。
このサイドカーには連結器があり、後ろにトレーラーを牽引することができるようになっている。
「さて、今日も今日とて調査しますか?」
近くのカプセルホテルで滞在している彼女はヘルメットを被り、エンジンをかけると足元のクラッチでギア変換を行うとそのまま修理工場から走り出して行った。
ネクィラムの言う通り、都市に滞留するエーテルに異変が感じ取られる。
五感の一つの視界を持たない代わりにエーテル感応に関しては自分とほぼ差異のない彼はさすがと言うべきであろう。
《〜♪》
バイクで走る途中、彼女は『夢の中へ』を流しながら街を走る。
「探し物は何ですか〜」
『見つけにくいものですか〜』
そして最近のマイブームの一人カラオケ(二人)をしながらサイドカーを走らせる。
行き先は一昨日も訪れた学園を一望できる丘だ。
「かと言って学内に入れた方が色々と調べられて良いんだけどなぁ…」
『それは厳しいのでは?』
「やっぱそうだよねぇ〜」
基本的に学園都市の学内に入るには許可証が必要となる。
主な理由として生徒のスカウト防止や企業秘密の管理などを行うため。
もともと優秀な生徒が集まるこの学園都市では企業同士の生徒間の勧誘も裏では行われており、一応エキスポという形で学校同士の交流は盛んに行われているものの、それでも優秀な人材たり得る生徒の引き抜きが後を絶たないのだ。
「学校に入れないなら上から見るしかないんだよなぁ…」
『ドローンも使えませんしね』
基本的に無許可で都市部でのドローンの使用は禁止されている。なので学園を上から偵察することも叶わない。
「かと言って下手に怪しまれるのもなぁ…」
スフェーンはそんな事を考えていると、
「ん?」
電話が入り、スフェーンはルシエルに体を預けて電話に出た。
『もしもし?』
電話相手は番号を交換したジョンであった。
『あぁ、出てくれたかスフェーン』
『どしたの?』
スフェーンは電話をかけてきたジョンに聞くと、彼は言った。
『いやぁ、ユウナ…ウチの助手が言ってきてね。君に菓子折りを渡したいらしいんだ』
『はぁ…』
『だからウチの実験棟に来れるかね?』
『良いわよ。すぐ行く〜』
そして電話が切れると、スフェーンはルシエルと話す。
「運良いですね」
『よっしゃ〜、これで中入れる〜』
巡り巡った運を引き当てた彼女は少し嬉しげにスロットルを回した。
イレーネ・サイエンス・スクールは、これまた資金繰りに困っていたとある中小企業の保有していた学園をアイリーンが大金叩いて購入した学園である。
アイリーンは今や世界に名を轟かす一大複合企業へと発展しており、企業連合の音頭取りを行っていた。
「よ〜ぅ」
「やぁ、悪いね」
学校の駐車場に呼ばれ、スフェーンはサイドカーを停めて降りてジョンと顔を合わせる。
「実験棟にこいって言われた時は驚いたけど…」
そんな事を話しながらスフェーンは駐車場受付でサインをする。
「スフェノス・ククヴァヤ…それが君の名前なのか」
「あら、言ってなかったっけ?」
スフェーンはそう言いながらジョンを見ると、彼は軽く頷くと仮の許可証を受け取って中に入る。
「わぁ、広いのね」
「今度新しい実験棟が開かれる予定らしい」
そう言い煉瓦が敷き詰められて植林もされた学園の施設は何処も整えられていた。
「まぁ私も入学した時からアイリーンに買収されていたので前の状態はよく知らないがね」
ジョンはそう話すと、スフェーンはそんな彼に言う。
「いつもどんな研究をしているの?」
「エーテルの研究さ、あの物質に秘められた無限の可能性を探るね」
「ほーん…」
スフェーンはそこで周囲を軽く見回すと呟く。
「随分エーテル濃度が高いわね」
「おや、君も感じているのかね?」
学園全体で周囲のエーテル濃度が他の地区と比べると高く感じており、スフェーンはジョンに言う。
「貴方も感じ取れる人間?」
「あぁ、私は軽度のエーテル過敏症だからな」
自ら病名を公表した彼に一瞬だけスフェーンは驚いた。
「良いの?言って」
「特段悪い通りも無かろう。それに、エーテル過敏症にそれほど今は苦労もしておらん」
彼はサラリと答えると、スフェーンはやや感心した。
「持つものは強いわね」
「はっ、どうだかね」
ジョンは軽く自笑すると、スフェーンはそこで思った疑問を口にした。
「でもエーテル研究をしているのにどうしても列車砲なんか買うのよ」
「実験で必要だからな」
「ふーん…学者様の考えることはよく分からんね」
そう離していると、二人は学園郊外に近いある実験棟の前にたどり着く。
「ここが私の研究室だ」
「エーテル解析研究所…」
スフェーンはそこで銘板の打たれた建物に招かれると、そこでは
「計測結果はどうだ?」
「新しいデータ送ります」
「第三実験区画から…」
白衣を着た作業員や研究者が走り回って機械を触っていた。
「…」
その異様なまでの熱気と奥底から感じ取れるエーテルのざわめきを感じ取ったスフェーンはここで確実に何かが行われていると理解する。
「うわっ、凄…」
思わず小さく呟いてしまうほどにはその研究室には金がかけられていると理解できた。
「こっちだ」
「えぇ…」
ジョンに導かれ、彼女はそのまま実験棟の彼に割り当てられた部屋に入った。
「まっ、座ってくれ」
彼はそう言ってスフェーンをソファに座らせると、自分も反対に座った。
「悪いが、飲み物は置いていないんだ」
そう言い彼は部屋に置いてある塩煎餅を手に取って齧ると、スフェーンは思わず聞いた。
「こんな場所に部外者入れて大丈夫なの?」
するとジョンは軽く笑って返した。
「なぁに、やってるのは活性化エーテルのエネルギー変換の研究さ」
「それ、エーテル機関の改良じゃあないですか…」
スフェーンは思わず突っ込んでしまうと、
「ジョンッ!!」
部屋の扉をバンと開けてユウナ・キュリーが入って来た。
「貴方また何処に行って…って?」
すると部屋のソファで座っていた私服姿のスフェーンを見て一瞬固まったが、
「あぁ、昨日の…」
「スフェノス・ククヴァヤと言うそうだ」
「ど、どうも…」
何とも言えないこの微妙な空気感を前にユウナはスフェーンに言った。
「今日はお呼び立てして申し訳ありません。幾分色々と忙しくて…」
「あぁ構いません。私も暇ですので…」
何せ一ヶ月滞在することが確定している身だ。暇つぶしにもなる。
「この前の工学部の爆発事故でここにしばらく留まるらしい」
そんなジョンの呟きに思わずユウナとスフェーンは突っ込んだ。
「「そう言う余計な事は言わなくて良いです(言わんくって良い)」」
思わず言ってしまうと、二人は顔を見合わせてしまった。
「あぁ、すみません」
「いえいえ、こちらこそ…」
お互いに謝り合うと共に何処となく共通点を見た気がした。
「なるほど、工学部のあの爆発事故ですか…」
「まぁ、修理は全額持ってくれるだけ有難いですよ」
その後、学園のカフェに移動してユウナと話すスフェーン。
「大変でしたね〜」
「いやぁ、本当に。おまけにその後苦手な人から連絡来るしで…」
軽くため息を交えてスフェーンは呟く。
「苦手な人…ですか」
「えぇ、ある研究者でその人の手伝いさせられてるんですけどね…これがまた偏屈な人で大変なんですよ」
そう言いスフェーンはユウナに日頃のネクィラムからの愚痴を溢す。
「実験だからと言って私に変な場所に行かせようとしてくるし。観測機械を押し付けて、尚且つそれが一日中自分の行動を記録したりするし。挙げ句の果てには被験者の私に実験協力させたりして大変で…」
そんな愚痴を溢すと、ユウナはスフェーンの手をがっしりと掴んだ。
「その気持ち…よく分かります…!!」
その時、ユウナの目線がとても同情に孕んだ目をしており、涙も浮かべていた。
「振り回されるこちらの身にもなって見ろと言う話ですよね」
「えぇ、全く」
スフェーンもそんなユウナに強く握り返すと、そのままスフェーンの目を見てユウナは呟いた。
「心の友よ…」
二人の間に硬い友情が芽生えた瞬間であった。
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