TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#143

『私にスパイみたいな事をしろって?』

 

ネクィラムからの依頼にスフェーンは苦笑する。

 

『そんな技術私にはないわよ』

「(これほどのエーテルが騒いでおるのだぞ?碌な事をしていない訳がなかろう)」

『…』

 

スフェーンとしてもそれは同感であった。これほどこの学園都市に降り注ぐエーテルが騒めいている状況ははっきり言うと異常である。

 

「(活性化エーテルの誘爆寸前とも違う明らかな異常事態だ)」

『かと言って研究室に入れる訳ないでしょ』

「(最悪証拠だけでも良い。私の方から軍警の部隊を動かしてやれる)」

『冗談…では無いか』

 

今は軍警の研究施設にいるネクィラム。彼の変人さはすでに知れ渡っている事だろう、故にエーテルが騒ついていると常に言っているに違いない。

 

ただ嘘をつくような人間ではないので彼の言う事にも信用があるのだろう。

 

『分かった…やれるとこまでやってみますさ』

 

スフェーンはそう言って通信を切ると、ネクィラムはそのまま正面を見る。

 

「博士?」

 

すると彼を迎えにきたアンドロイドは、そこで彼が呟いた一言を耳にした。

 

「…戦争が起こる」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ネクィラムとの連絡を切ったスフェーンは、そこでルシエルと話す。

 

「どう思う?」

『どう…と言われましても』

 

ルシエルはやや返答に困りながらスフェーンに言う。

 

『明らかにこの学校ではエーテルに関連した大規模な実験を行っているとしか…』

「まぁそうよね〜」

 

そこで空を見上げてスフェーンは呟く。

 

「んで、一番怪しいのはジョン達がいる研究室と来た」

 

そう言いエーテル解析研究室で感じ取った異様なエーテル波を思い返す。

 

『アイリーンはここで一体何を研究しているのでしょう…』

「少なくとも、赤砂が企業連合を抜けてから怖ぇくらい動きのないアイリーンの動きにも関係しているかもね」

 

あと数週間で傭兵ギルドの本格稼働が始まる。

本拠地は黒鉄市、かつてマーセナル・タウンと呼ばれた傭兵の街だ。

 

何の因果か、あそこは企業連合と緑化連合の勢力圏の狭間に存在している。政治的非常に危うい場所に存在しているが、傭兵ギルドは双方にとって戦力を揃えるのに必要な組織なので攻撃をすると言うことはまずないだろう。

 

『企業連合には余裕な雰囲気が感じ取れますね』

「或いは緑化連合との戦力差に諦めたのか…」

『それは無いでしょう』

 

ルシエルはバッサリと切ると、スフェーンも少し頷いてから溜息を漏らす。

 

「だよねぇ〜…」

 

そこでスフェーンはどうしたものかと考えてながらベンチを立ち上がって校庭を歩く。

 

「さて、午後の仕事やりますか〜」

 

軽く腕を伸ばして彼女は実験棟のある区画に歩いて行く。

ここに所属している生徒は受験戦争を潜り抜けた猛者達であり、また学費を払うことのできる富裕層が半分ほどである。

 

一部天才的才能を持った人間が奨学金という形で入学してくるが、それは本当にごく一部だ。

 

そして本物の優秀な奴は科学先進技術捜査研究所に入学を果たす事が当たり前だ。

理由は企業なんかよりも圧倒的に規模が大きく、設備も充実していて人気な為だ。おまけに軍警という特殊な職業柄、リストラや会社の倒産などによって路頭に迷うことが無いからだ。あと学費も他の学校と比べて安い。

 

近くには軍警の装備品生産拠点の名古家陸軍造兵廠も存在しており、職に困ることはほぼ無かった。

 

「ほんと、歪な社会な事で…」

 

スフェーンはそこで今の世界の、軍警というすべての上に立つ超法規的な組織にやや苦笑する。

 

掃除を終え、今日のタイムカードを切ったスフェーンはそう言って職場を後にする。

ユウナに誘われて参加した掃除のバイト。初日にしては随分と雑な説明であったが、三週間しかしないつもりなのでこんな物なのだろうと思っていると、

 

「スフェノスさん」

「んぉ?おぉ!ユウナちゃん」

 

裏の従業員用駐車場の前で待っていたユウナがスフェーンに声をかけていた。

 

「こんな時間にどうしたの?」

 

そう言い校庭にある時計台を見ると、そこでは既に普通の生徒であれば帰っている時間だった。

 

「少し休憩をしてました」

「ホーン、サボり?」

 

スフェーンは聞くと、ユウナはやや疲れた表情を見せた。

 

「いえ、私のいる研究室に本当の休みなんてないので…」

「あぁ…なるほど」

 

その一言でスフェーンは全て納得が行くと、彼女は言った。

 

「じゃあこんなところでサボって良いの?」

 

エーテルの研究をしている彼女とジョンのいる研究室。常に多くの人がいるとはいえ、立場的にはサブリーダー的なユウナがここにいる事に少し疑問に思っていると、

 

「いえ、ジョンが今は入り浸っていますので」

「そうなの、珍しいわね」

 

察したように答えたユウナに、スフェーンのイメージではジョンは何かと研究室を抜け出しているイメージがあった。

 

「本来のジョンは抜け出すことの方が珍しいですよ」

「あっ、そうなの」

 

スフェーンはユウナからジョンの本来の姿を教えて貰い、そこで二人は駐車場近くの自販機の前でスフェーンは缶コーヒーを購入する。

 

「どれが欲しい?」

「あっ、大丈夫ですよ」

 

そう言いユウナはペットボトル紅茶を購入すると、場所がなかったのでスフェーンのサイドカーに乗り込んだ。

 

「このまま出そうか?」

「いえ、今日はここに残る予定ですので」

「おぉ、勉強熱心」

「それが会社からの命令ですから」

 

そう言いユウナはキャップを開けて中の無糖アイスティーを飲む。

 

「苦労するねぇ、まだ学生じゃないの?」

「そういうスフェノスさんだって…あれ?」

 

ユウナはそこで煙草とライターを取り出したスフェーンにやや驚いた。

 

「ス、スフェノスさん…?!」

「ん?いる?」

「い、いえ…煙草は…」

 

ユウナは煙草を吸うスフェーンに若干驚いていると、

 

「大人なんですね…」

「運び屋みたいな貧乏人は煙草が無いと生きていけないのよ」

「そ、そうなんですか…」

 

ユウナは驚いていると、スフェーンは慣れた手つきで横で火をつけて煙草を吸う。

 

「ふぅ…」

 

そして仕事終わりの一服をしていると、ユウナは突然聞いた。

 

「スフェーンさん、この問題解けますか?」

「ん?」

 

ユウナが携帯の画面で見せてきた数学の問題を見せてくる。

 

「なんだ、ただの三角関数だろ?」

 

そう言って簡単に三倍角の公式を使ってスラスラと計算をすると、そんな彼女にユウナはややジト目で見つめた。

 

「…頭良いんですね」

「いやぁ、知識があるだけよ」

 

そう言い彼女は軽く笑いながら煙草を吸う。実際問題、自分には応用力はないと彼女は言った。

 

「そんな頭が良いのに?」

「学校に通いたく無い事情があるの」

 

スフェーンはそう言うとそのまま空を見上げる。

 

「運び屋は良いよ〜、好きな時に働けるし、好きな場所に行けるし」

「…羨ましいです。そんな自由な生活」

 

いつも学校で授業と研究室を行き来しているユウナは思わず呟くと、スフェーンはやや苦笑気味に言う。

 

「さぁ、それはどうだろうかね〜」

「え?」

 

彼女はそこでユウナに話す。

 

「行き過ぎた自由ってのは人に不幸をもたらすこともあるのさ」

「…自由が不幸を?」

 

ユウナの疑問にスフェーンは頷く。

 

「自由ってのは、自分がとった行動に責任をとってくれる人が突然いなくなってしまうからね。逆に色々と苦労が増えるもんだよ」

 

そう言い彼女はそれが一番わかりやすく出るのが学校を出てからだと言った。

 

「どうしてですか?」

「そりゃあ、学校を出たら自分がやってきた行いは全て自分で責任取らないといけなくなるし。あれやれこれやれと指示してきた人がいなくなるからね〜。あと自分たちだけでは解決できないどうにもならない問題も出てくるし…」

 

スフェーンは言うと、ユウナはそんなスフェーンにやや驚いた目を向けていた。

 

「それに…」

 

そしてスフェーンはユウナの顔を見ながら言った。

 

「学校でできる友人は大事にするべきだよ〜」

「どうしてです?」

 

ユウナは聞くと、スフェーンは返す。

 

「社会に出てた時に心置き無くバカみたいな話ができるからね」

 

スフェーンはそう語ると、ユウナの顔を見て少し遠い目を浮かべた。

 

「大人って怖いよ〜、楽しげに話してても裏で何考えているか分かんないからね」

 

その言葉の重みにユウナは思わず唾を飲み込んでしまう。

自分のまだ知らない世界を経験してきた彼女の言葉の節々から感じるその言葉の重みを。

 

「ユウナちゃんはさ、治安官に職質とかされた事ある?」

「え?い、いえ…」

 

治安官に職質されるなんてよほど悪いことでもしなきゃ無いのではないか?

するとスフェーンはそんなユウナに軽く笑った。

 

「いやぁね、たまに碌でも無い治安官もいるんだよ。職質するからってパトカーに連れ込んでそのまま押し倒そうとしてくる奴とかさ」

「なっ…?!」

 

さらりと言い放ったスフェーンの一言にユウナは目を見開いて驚いた。世界最大の治安維持組織がそんな事をするのかと。

 

「まぁ大体治安官には削除不可能なボディカメラがあるんだけどね、それでも下の男の子が元気な奴もいるんだよ」

「そんな事が…」

 

ユウナは驚いていると、スフェーンはそんな彼女に言った。

 

「一回やっちゃったらその後罰せられても傷は残ったままになるからね。そう言うことする奴らはそれで満足する事が多いんだよ」

「…」

 

スフェーンが言ったそれにユウナは絶句してしまった。

 

「だから君みたいな顔の整った世間知らずなお嬢様は気をつけた方が良いよ〜」

 

そう言い彼女はいつもかけていたサングラスを取ってユウナを見る。

 

「っ…」

 

そこでスフェーンの素顔を見たユウナは灰色の瞳に灰色の長髪で、とても整った容姿をしたスフェーンを見て色々と納得できた。

この人もこの見た目でさぞ苦労したに違いない。

 

「世の中知らなかったじゃ通用しないからね、勉強以外考えなくていい学校生活は最高だよ」

 

スフェーンはそう言いユウナに『世の中、危険がいっぱいだよ』と言うと、彼女は聞いた。

 

「人を見たら泥棒と思えって言う言葉があるくらいだからね、危ない人に目を付けられるなよ〜」

 

そう言った彼女にユウナは聞いた。

 

「じゃあ、スフェノスさんにとって一番危ないと思う人はどんな人ですか?」

 

ユウナが聞くと、スフェーンは流れるようにさらりと言った。

 

「挫折を経験したことが無いすげぇ頭良い人」




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  • 軍警のクーデター
  • 雪の田舎町
  • 抵抗する者達
  • 労働者にやさしい街
  • 水と緑の廃墟
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