その後の証言でジョンは全て話した。
自分が製作したエーテル・ボンバの基本設計から、何発の爆弾が製造されて何処に移送されたのか。
どれほどの威力があり、いつから研究していたのか等。
製造されたエーテル・ボンバの数は四四、MIRV方式の大陸間弾道ミサイルで途中まで追跡はできたがその先は不明であった。
自分が生み出したその兵器について責任を取ると言い、彼は非常に軍警に協力的であった。
匿名通報で、学園都市に配備されていた陸軍部隊が一斉に動き出していたが、内容が内容なだけに迂闊に公表する事は憚られていた。
「私は最後まで自分が生み出したものに対し、責任を負う所存です」
全ての証言を終え、彼は最後にこう言ったと言う。
エーテル・ボンバは特殊な設備を必要とし、製造拠点はあの実験棟以外で存在しない事や、作られたのは爆弾のみで研究施設にあった砲弾はまだ試験段階で実用には至っていない事などが証言された。
「…」
ネットニュースにすらなっていないその事実をスフェーンは知っていた。
『今、拘束された研究者達は先技研の一室に監視の元収容されている』
そう言い態々背中合わせで座っているにも関わらずネクィラムと会話する。
『他は?』
『研究施設諸共全て接収している』
事件発生より一週間、スフェーンは事が落ち着き始めた頃にネクィラムから話を聞いていた。
『しかし…驚くべき速度で事態が動いたもんだ』
『元々研究者達の間でも反発の意思があったみたいね』
『なるほど…』
ネクィラムは軽く相槌を打ちながらコーヒーカップを傾ける。
『お前さんがそう誘導したんじゃないのか?』
『さぁ?』
態とらしく惚けたスフェーンにネクィラムはやや苦笑する。
『そもそも匿名通報を受けてこれほど部隊が動くとはな…』
『あら、本来カルティエ・ラタンに居ない部隊まで集結させたのはどこの誰かしら?』
スフェーンはそうネクィラムに問いかけると、彼は言う。
『さぁな、軍警に強いコネを持った人間がいたのだろうな』
『さぞその人は変態なんでしょうね』
スフェーンはそう呟くと、ネクィラムはそこで空を見上げる。
『しかし…挫折を知らぬ天才…か』
ネクィラムはあり得たかもしれない自分の姿に少し考える。
『この際、改めて私自身、見つめ直すべきかもしれんな』
『あら、貴方に自分を見つめ直す意味はあるの?』
スフェーンは言うと、
『失敬な、これでも君と違ってちゃんと人間であるのだぞ』
『おう喧嘩売ってんのか?』
ネクィラムはただでさえ未知の塊であるスフェーンを前に言い返すと、彼女は席を立つ。
「もう行くのか?」
ネクィラムは聞くと、彼女は言う。
「いいえ、まだ列車の修理は完了していないわ」
スフェーンはそう言うとそのままカフェを後にする時、
「すまんね」
彼女はネクィラムのテーブルに先技研の職員カードを置く。
「悪いけど、これ使わなかったわ」
「…そうか」
彼はスフェーンから返されたカードを見て言う。
「まぁ持っていけ」
「でも写真全く違うわよ?」
「だが君の名前が載っているだろう?」
「…」
スフェーンは良いのかと疑問に感じながらその職員カードを見ると、顔写真やらは若干違うものの、名前はしっかりスフェーン・シュエットと記されていた。
「何、そのカードは既に利用不可能だ。臨時の職員カードだからな」
「なるほど…減るもんじゃあないと?」
「そう言う事だ」
ネクィラムはそう言うと、彼女はカードを持ったまま去って行った。
「…」
その時、ある部屋でユウナは呆然と見える窓から外の景色を眺めていた。
ここらかでもエーテルのオーロラの光景は見えており、その美しさが今は少し忌々しく思えた。
「よっ」
「っ!?」
すると部屋の扉が開いてそこから見知った顔が現れた。
「スフェノスさん…」
彼女はいつものサイドカーに乗っていた時の格好で頭にはサングラスを付けていた。
「元気そうで何よりだよ」
「…どうやってここに来たんですか」
今彼女がいるのは先技研の一室、今回拘束された研究者達が一時的に収容されている場所であった。
「少し伝手を頼った」
そして匿名通報をした時に彼女は軍警に知り合いがいるだけと言うのは彼女は知っており、ユウナはそこで納得する。
「ふぅ…」
そこでスフェーンはユウナの隣に座ると、そこで彼女は呟く。
「…本当に、これで良かったのかな」
そう言い彼女の瞼には拘束されて連れて行かれたジョンが浮かぶ。
「さぁね…でも、」
スフェーンはそこでもたれかかって来たユウナに答える。
「これで少しは死んだ人は少なくなるのかもしれないね」
「…」
「少なくとも、貴方の踏み出した一歩は立派よ」
スフェーンは正面を見たまま言うと、ユウナはそのまま項垂れるようにスフェーンに倒れ込んでいた。
「これで色々な人が救われたに違いないわ」
スフェーンはそう言い、サイレン音が聞こえて来た時にジョンが浮かべていた安堵の表情を思い返す。
「…ずるい人です」
「そうかしら?」
ユウナはスフェーンに呟くと、彼女はそれほど気にしていない様子で返していた。
後に、ジョン・ルートヴィヒ・オッペンハイマーは優れたエーテル研究者として歴史に名を残す事となる。
悪魔の発明家とも、天が授けた天才とも呼ばれた彼は、エーテル学会の創始者と評されるネクィラム・キヨシ・オカダの元で、エーテルの無限の可能性を多数発見する事となる。
その際、彼は口々に周囲の人間にこう話していたと言う。
『特に周囲から天才と持て囃される人間ほど、人間としては危うい存在になる』
「レーダーに感あり!」
「総員、対水上戦闘用意!!」
CICで一人の乗組員が叫ぶと、艦内に警報が鳴り響いて一斉に船員達が配置に付く。
「停船命令を呼びかけろ」
「了解」
通信員はそこで音声、無線、発光信号全ての通信手段を用いて言う。
『こちらは第二四打撃艦隊旗艦酒匂。企業連合所属巡洋艦、インディアナポリスは直ちに停船し、臨検に応じろ』
全ての通信回線を用いて軍警の巡洋艦は言うも、相手は応じる様子はなかった。
「不明船、方位速度変わらず。減速の気配なし」
「…いやっ!」
そこで聴音を担当していた一人が叫ぶ。
「機関音増大!インディアナポリス、速度を上げています!!」
「追跡だ!威嚇射撃を行う!砲撃用意!!」
酒匂は即座に船速を上げたペンサコーラの追跡を開始、同時に前部二基の砲塔と砲身が旋回を始める。
「いきなり主砲ですか!?」
「構わん!向こうがどうせ積んでるのはE兵器だ!」
「…了解」
「VLS、副砲も照準を合わせろ」
「了解っ!」
この海域に展開していたのも、元々は連絡を受けてエーテル・ボンバを積んだ巡洋艦を捜索する事であった。
「各艦に伝達!インディアナポリスは逃走を画策、直ちに追跡を行い威嚇射撃を開始する!」
通信は付近に展開していた同所属の艦隊に行き渡り、海域全体を封鎖していた軍警艦隊はインディアナポリスに砲口を向ける。
「威嚇射撃だ!くれぐれも当てるなよ」
「了解」
威力の高いエーテル・カノンの照準を向ける。
「直接照準で確実性を持たせます」
「了解した」
測距儀からレーダーが照射され、一門の砲身がゆっくりと仰角を下げる。
「各測距!準備完了次第各個に発『射撃待て!射撃待て!』っ!?」
その時、通信に割って入った声に砲術長は一瞬驚く。
「艦長っ!?」
艦橋で双眼鏡を使って今までを見ていたアンドロイドの艦長は言う。
『射撃待て!エーテル・カノンは使うな!!』
「しかし…」
すると艦長は軽く叱責する。
『馬鹿者!向こうが積んでいるのはE兵器だ!一発でも当ててみろ!エーテル・カノンとの連鎖爆発が起こる可能性があるぞ!!』
「…」
その実、積んでいるE兵器の詳細は彼等ですら隠匿されていた。
ただ言われていたのはある企業が違法でE兵器の開発を行っており、そのE兵器は非常に強力な爆発力を持った恐ろしい兵器であると言うものであった。
『威嚇射撃は通常砲弾のみだ!』
「…了解」
砲術長はそこで軽く頷くと、改めて砲撃指示を出す。
「榴弾装填!電磁加速砲発射用意!」
「宜候!」
「水中で爆破させる、各副砲は射程位置に入り次第各個に自由射撃、くれぐれも船体に当てるなよ!」
CICではインディアナポリス周囲に駆逐艦やフリゲート艦、潜水艦が続々集結する。
「各艦海域に到着、指示を求めています!」
「各艦艇は各個に威嚇射撃を実施しろ」
通信員は指示を受けて復唱する。
「了解、各艦艇は各個にインディアナポリスに威嚇射撃開始」
「当該船舶は新型E兵器を保有している可能性あり、船体の命中を避け、スクリュー破壊を優先せよ」
「当該船舶は新型E兵器を保有している可能性あり、船体の命中を避け、スクリュー破壊を優先せよ」
復唱を終えると駆けつけた艦艇群は二門の主砲を逃走する巡洋艦に向けると発砲を始める。
ッッ!ッ!ッ!ッ!
激しい砲声が轟き、一隻の巡洋艦の周囲には水柱が無数に立つ。
すると砲撃を受けたインディアナポリスは装備された砲塔やミサイル、魚雷などをを発射する。
「魚雷発射を確認!」
「対空防御!」
「魚雷迎撃!」
「面舵!」
戦闘音の中にはインディアナポリスの船底から密かに発進した潜水艇のスクリュー音も混ざっていたが、水面の激しい音からそれを探知する事はできていなかった。
各艦艇のCICから指示が飛び、艦隊がインディアナポリスを囲い込んだ時。
ッーーーーー!!
突如インディアナポリスから眩い閃光が走り、直後彼等はその閃光に呑まれた。
「っ!?」
その閃光はインディアナポリスを囲んでいた艦隊にも影響し、衝撃波と強力な閃光が襲う。
「うわぁっ!?」
「何だっ…!!」
海面が大きく揺れ、囲んでいた艦隊の駆逐艦やフリゲート艦は船体が大きく傾く。
「浮上タンク破損!」
「船体が海面から突き出ています!!」
「何だと!?」
本来は海中に潜んでいるはずの潜水艦ですらこの大波の影響で海から飛び出てしまう。
『何が起こった!?』
『旗艦消失!各戦隊に被害多数あり!』
『インディアナポリス並びに酒匂が消えた!?』
『被害報告はどうなってる!?』
『ダメです!ほとんどの艦艇から被害報告が来ています!!』
そこに立ち上がるは巨大なきのこ雲、急激に中心に向かって風が嵐の如く吹き荒れる。
この日、エーテル・ボンバを起爆させたインディアナポリスは囲んでいた軍警の艦隊の約二割を消失・撃沈、四割を戦闘不能にした。
特に艦隊旗艦であった酒匂の轟沈は艦隊行動に影響を及ぼす事となった。
「軍警の艦隊が…たった一発で…」
その時、その光景を見ていたインディアナポリスの艦長は後にその時の事をこう残していた。
『あの光と爆発を見た時、私は恐怖と興奮が入り混じった。何か触れてはいけない禁忌を踏んだ気分ではあったが、同時にあの閃光を前に限りない興奮が私を撫でていった』
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