TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#146

その日、黒鉄市である業務が始まった。

 

「証明書発行はどうなっているの!?」

「仕事が忙しいったらありゃしないんだから…!!」

 

職員が走り回り、無数の仕事を裁いている。

今日から本格的に稼働するその組織の名は傭兵ギルド。

この世界で数多に起こる企業間抗争や軍警からの野盗討伐の為の依頼など、様々な仕事を所属する傭兵達に紹介する仲介業者である。

 

世界中に支部を設置し、傭兵達に手数料を取る代わりに仕事を紹介するその組織は初日早々阿鼻叫喚の嵐に包まれていた。

 

世界中の傭兵団や各種企業が参画し、大いに注目しているその組織は企業から依頼された仕事を、事前に発行した傭兵ギルド証持ちの傭兵達に紹介していた。

 

軍警や運輸ギルドとも提携し、円滑なシステムを構築したその組織は僅か半年で本格稼働に持ち込んでいた。

 

「始まったか…」

 

そんな中、黒鉄市に設置された傭兵ギルド本部最上階にて、スーツに身を包んだブルーナイトは窓の外から見える街の様子を見下ろす。

 

「市政も今日から本格稼働する…か」

 

黒鉄市に改名したこの都市は、傭兵の為の都市としてこれから動く。

既に軍警の治安維持部隊が駐屯し、開発中の都市の治安を守っていた。

 

「ここまでお疲れ様でした」

「ご苦労様です」

 

そんな彼に二人の人物、次の黒鉄市市長と次の傭兵ギルド会長が話しかける。

二人とも、それぞれ別の選挙で選ばれた代表者であった。

 

「本当に良かったのですか?」

 

街を見るブルーナイトに傭兵ギルド会長が聞くと、彼は言う。

 

「あぁ、もう傭兵業からは身を引かせてもらうつもりだ」

 

赤砂傭兵団を解体し、作り上げたものから潔く去る彼に二人は何も言う事はなかった。

 

「これからはよろしく頼んだよ」

「はいっ!」

「お任せください」

 

市政と傭兵ギルドを預かる二人は頷くと、ブルーナイトは部屋を出ていく。

 

「…」

 

傭兵ギルド本部は川沿いに建設された通信塔も兼ねた巨大ビルである。

運輸ギルドと似たようなシステムを採用した事で各地域ごとに仕事が送られて、運輸ギルドからも経験者が多く転職や指導に来た事で初日にしては大きな問題なく業務をこなせていた。

 

「…」

 

そして彼は本部一回の広い空間に設置されたソレを見上げる。

 

「…ふっ」

 

軽く鼻で笑ったソレは傭兵ギルドの創設者として参画した傭兵団や企業の寄付金で設置された銅像であった。

 

「どんな顔をしているだろうか…」

 

自分の財産を全て傭兵ギルドに充てて欲しいと願ったギルド創設の立役者と言う美談に仕立て上げられたレッドサン、その功績を讃える形で大広間の中央には彼と、彼の乗機であったロート・フォッカーが模られた巨大な銅像が設置されていた。

 

その下を多くのギルド証の発行を待ちながら仕事を探す傭兵や、仕事を振り分けたり受付をする職員の姿があり、広間の壁には今回の傭兵ギルド創設に協力した人々の名前が掘られた銘板や傭兵ギルドの組織規則を記した石板も設置されていた。

 

「…賑やかだな」

 

人々が闊歩する中、ブルーナイトはそのまま外に出ようとした時、

 

「おいっ!居たぞ!」

 

そこで彼の姿を見つけてカメラや携帯を持って走ってくる記者の姿があった。

 

「ブルーナイトさん、今回の市長と傭兵ギルド会長双方を辞任した理由に関してーー」

「今回の市議会選挙に立候補しなかった理由はーー」

「傭兵ギルドの創設は正しかったと思いますか!?」

 

無数の記者達が輪になってブルーナイトに質問をする。

大勢の人々が闊歩する傭兵ギルドの大広間で彼は軽く苦笑していると、

 

「ほら!散った散った!」

「邪魔なんだからさ」

 

警備を担当する治安官がやって来て記者達をブルーナイトから剥がす。

 

「ブルーナイトさん、どうしてこちらにお越しになったのですか…」

 

やや呆れる様に一人の治安官がブルーナイトに言うと、

 

「そうだな…」

 

彼はレッドさんの銅像を見上げながら呟いた。

 

「最後に、アイツの姿を見ておきたかったからだろうな」

「?」

 

その時のブルーナイトの目に治安官は首を傾げていると、

 

「失礼」

 

そこにスーツ姿のロトと、数名の他の別の治安官が現れた。

その事に記者や彼等をはがした治安官の全員が困惑する。

 

「ジェローム・サックスさんですね?」

「…あぁ」

 

ブルーナイトは本名を言われて頷くと、ロトは片手に一枚の紙を見せた。

 

「ジェローム・サックスさん、貴方を殺人の容疑で逮捕します。…ご同行を」

「あぁ、分かった」

 

彼は頷いて返すと、彼の手首には手錠がかけられ、そのまま治安官に囲まれてパトカーに連行される。

 

「どう言う事ですか!?」

「何で逮捕…?」

「殺人の容疑とか言っていなかったか…!?」

 

目の前で行われた出来事に記者達は困惑し、連行されるブルーナイトを写真に収めようとするが、既に配備されていた治安官たちによって阻まれていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

所変わってここは海を越えた大陸。

緯度が高い場所にあり、気候は全体的に寒帯であるその場所では雪が降るとこも珍しくはない。

 

ゴーッ!!

 

風と共に厚い灰色の雲から粉雪が風に乗って吹雪く。

そんな中を先頭に黒に黄帯に塗られたキ550貨車を連結して線路を走る一本の列車。

 

『もう少し速度を落としてくれ』

「了解しました」

 

貨車に乗る作業員から言われ、スフェーンは新しく直してもらった運転台のマスコンを動かして答える。

 

複線用のラッセル除雪車を押して進む彼女は吹雪で見えづらい周囲の景色を見る。

 

「すげぇ雪。こんなに吹雪いちゃってまぁ…」

『今日は一日中吹雪くそうですよ』

 

防雪林に積もった雪を見ながらルシエルは言うと、ラッセル車で融雪溝に雪を落とす作業をする。

雪が融雪溝の上で凍らない様に鉄道員やバイトの子供たちがスコップ片手に凍りかけの雪を潰していた。

 

「今日は一段と酷いわね」

『今の区間は上下線ともに通行規制が行われていますからね』

 

そう言い反対でXrotdロータリー除雪機関車がキ900のマックレー車によって掻き集められた雪を遠くに吹き飛ばしていた。

 

「依頼を受けたは良いけど…」

『あとで温かいものを食べましょう』

 

自分のキャビン内は完全密閉で温度も調節されているが、運転室は外に比例して寒くなっており、彼女はナッパ服の上からジャンパーを羽織っていた。

 

「寒々〜!!」

 

目的地には温かい場所が多くあり、それを楽しみに今回も仕事を受けていたのだが…。

 

「こんなんじゃ着く前に凍りそうだわ」

 

そう言って言われた除雪作業で彼女は軽く悲鳴をあげる。

運び屋チャットで知った仕事なので受けたは良いものの、今回参加した運び屋の人達も同じことを考えていたのだろう。

 

『あぁくそっ!寒すぎる!!』

『これじゃあギルドで大人しく待ってたほうがマシよ!!』

『畜生、最初に目的地に到着できるんじゃないのかよ!』

 

そう言って同じ除雪作業のバイトをしているグループチャットは大荒れであった。

 

この区間は線路の間にエーテル機関を冷却する為の水を流すウォーター・トラフが設置されており、線路脇の巨大なものほどではないが融雪溝として機能している。そして線路脇の巨大な融雪溝からは湯気が立ち昇っていた。

 

「ズズッ、あぁ早く駅に着かんかなぁ…」

 

軽く身震いしながら赤くなった鼻を啜ったスフェーンは少々遠い目をしながら目の前のラッセル車を押して雪を押し除けていた。

 

 

 

 

 

「いやはや、今日はありがとうございました」

 

その後、無事に(?)目的地に到着し、尚且つ除雪のバイトを終えたスフェーンとその他運び屋の皆さんは温められた缶コーヒーを受け取りながら鉄道員の挨拶を受けた。

 

「お礼と言ってはあれですが…」

 

すると鼻の赤くなった運び屋を見ながらその人は一枚ずつあるチケットを渡した。

 

「これでゆっくりあったまって下さいな」

 

そう言ってその人は温泉の無料チケットを渡してくれた。神かこの人は。

 

「温泉だ〜っ!!」

「「うぉぉおおっ!!」」

 

そして仕事を終えて報酬も貰ったスフェーンはその脚で近くの温泉施設に突撃する。他の運び屋の人たちも同じ気持ちで近くにある温泉施設に突入する。

 

此処は行楽の温泉街の一つの下馬温泉。大陸三大名湯の一つとされており、都市全体から温泉が湧き出る観光都市である。

 

町中の至る所で湯気が立ち昇っており、多くの旅館が立ち並んでいた。

名物はもちろん地下から湧き出る温泉である。

 

「ぬあぁぁ〜」

 

脱衣所で人目もくれずに服を脱いで必要な手順をそそくさと終えて早速温泉に浸かるスフェーンは顔が半分溶けており、先ほどまでの仕事の疲れと寒さを吹き飛ばしていた。

元男が女湯?そんなの関係ないさ、見た目は女なんだから抵抗感もへったくれもなかろう。

 

「溶けるぅぅ…」

 

首から下を温泉に埋め、髪を上で団子状にまとめた彼女は温泉特有の温かみのある体の芯から温められる感覚に強い快楽を覚える。

 

『気持ちが良いですね』

「いやぁ、出たくなくなるよ〜これは」

 

スフェーンと感覚の共有をしているルシエルも同じ様に蕩けていた。

雪が降る地域なので今も窓の外では雪が降り続いており、露天風呂からは大量の湯気が立ち込めていた。

 

『どうせなら外に行ってみませんか?』

「え?寒く無い?」

 

そう言いつつも露天風呂の坂で見える外の景色に少し期待するスフェーンは浸かっていた風呂を出てタオルを巻くと外に繋がる扉を開けた。

 

「寒っ!!」

 

しかし扉を開けた直後、そこで感じた冷気に思わず扉を閉じてしまう。

 

「え?嘘でしょ?此処二重扉だよね!?」

 

思わず確認を取ってしまう。しかし確かに露天風呂に繋がる場所は確かに二重扉で一旦外との空気を混ぜる為の心の準備をするゾーンがあった。

 

『現在の外気温は…氷点下12℃ですね…』

「寒すぎる!絶対歩けないって!!」

 

スフェーンはそう言って来た道を戻ろうとするが、

 

『良いんですか?露天風呂』

「その前に足が凍傷で死んでしまいます」

『せっかくの雪景色ですよ?』

「ソトハ、フブイテイマス」

 

スフェーンはそう言って抵抗を試みる。だって心の準備ゾーンであの寒さだぞ。外出たらマジでやばいって。

 

『大体そのくらいで凍傷なんてしませんよ』

「嫌じゃ、寒いのは嫌じゃ」

 

そうしてルシエルと軽く口論をした後…

 

 

 

ピト「きぃぃぃいいぇぇえっ!!」

 

キンキンに冷え込んだ石畳の上を素足で歩き、露天風呂からスフェーンの悲鳴が上がった。




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新たな依頼をピックアップ致しました。

  • 軍警のクーデター
  • 雪の田舎町
  • 抵抗する者達
  • 労働者にやさしい街
  • 水と緑の廃墟
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