タタンタタン
ジョイント音を奏でて一本の列車が防砂林に囲まれた人工森林の中で停車する。
その周囲には草色の軍服に身を包んだ大勢の兵士が待機し、近くには対空トラックや武装コンテナ車両が停車して警戒をしている様子だ。
「作戦は?」
深緑色の
「問題ありません、作戦本部より予定通りに行うと報告が届いております」
その問いに通信兵が答えると、その将校は短く頷きながら停車するその列車を眺める。
「いよいよ始まるか…」
その顔は興奮と緊張に覆われていた。
その時、とある緑化連合に所属していた都市郊外の空港。
そこでは
「…」
そして駐機した機体の後部ハッチが開くと、そこに7式装輪戦車が積載されていく。
他にも
そんな軍警の大規模な行動を静かに、市民は不安げな顔を隠さずに見つめている。
タタンタタン…タタンタタン…
またある企業連合に所属する都市では貨物ターミナルに停車した複線専用貨物列車に1式戦車や1式対空戦車、オートマトンや各種装甲車両を列車毎に積載して行く。
特殊車両運搬用の複線二階建て車運車には係員が赤く灯る誘導灯を両手に持って誘導を行う。
「オーラーイ…」
そして満載されると列車は管理局の許可を経て本線に進入する。
「…」
その景色もまた、市民にとっては今後の未来を不安視させる事態であった。
先に発表された大規模な軍警の部隊再編による緑化連合、企業連合双方に駐屯する部隊の撤収作業。
駐屯部隊は中立を宣言、若しくは何方にも所属していない都市に移動する事となる。
この事実上の軍警による都市内における治安維持行為の打ち切りに、双方は軍警に牽制されている事は重々承知していた。
その為の対策も怠る事はなかった。双方共にその為に都市の自警団をいつでも軍警の肩代わりができるよう武装を整えていたのだから。
但し緑化連合は企業連合が保有し、軍警の艦隊を葬ったエーテル・ボンバの存在に非常に危機感を募らせていた。
一発で一個艦隊を行動不能に至らせるその爆弾の登場により、自分たちは軍警だけではなく企業連合にも一歩遅れている事を認識せざるを得なかった。
元より大災害で失われたE兵器の技術。製造能力も設計図すら残されなかったその技術は、いまだに何故途絶えたのか不明瞭であった。一説では軍警がE兵器技術を独占する為に態と情報を消したと言う話もあった。
今の緑化連合は大災害を引き起こした活性化エーテルの暴走を懸念し、其れ等E兵器の開発は一切が禁じられていた。
そして何処かしらで
軍警に喧嘩を売って生き残れるわけがない。アイリーンも馬鹿な事をしたものだ。
世界最大の軍事力を持つ彼らを実験台代わりにした代償は無視できない物であると彼らは思っていた。
下馬温泉は温泉街に行くために登山鉄道が敷設されている。
本来であれば禁止されている鉄道路線の独占ではあるが、ここの線路軌間は1067mm軽便鉄道軌間の鉄道であり、本線の鉄道軌間は1435mmの為、乗り入れは不可能であった。
そしてこの敷設された鉄道は下馬市が独自に敷設した路線であり、鉄道管理局の補助を一切受ける事なく運営されていた。
但し鉄道管理局との提携は済ませていたので、下馬駅で登山鉄道は接続していた。
『間も無く、下馬〜、下馬〜。路面電車、本線へお乗り換えのお客様はここでお降りください』
温泉街のある山間から本線の駅である下馬駅に到着したスフェーンは、そこでバイクを押しながら駅を出る。その荷台にはトランクケースが置かれており、ホテルを一旦チェックアウトしていた。
頭端式ホームの向こうではコンテナの積み替えを終えた貨物列車がちょうど温泉街に向けて発車していく。
この街に宿泊を初めて早一週間。それまで何度もこっちの方に来ては街を観光しており、同時に足湯に浸かったり茶屋に寄り道をする。
そして偶に自分の列車を留置している車庫に移動して自分の列車の状況を確認する。
スノーシェードで覆われているので雪に埋もれる心配は無いが、そろそろ資金繰りの為に働く必要があった。
「んじゃあ、久しぶりに仕事しますか!」
遠くで特急列車用のホームに進入して来る新幹線N700S系電車を見ながらスフェーンはバイクを旅客キャビンに放り込んで運転台に向かう。
しかし見かけた新幹線の塗装が0系と同じ柄なのは何故だろうか?
『下馬から出ている依頼ですと…』
ルシエルはそこで今出ている運輸ギルドの仕事を確認する。
『こちらの依頼などはいかがでしょうか?』
「ほほぉ〜」
スフェーンはそこで見せられた依頼を眺めて自分の今の車両数を考えて依頼の選定を行う。
最近は指名依頼も無かったので自由に旅を続けることができており、彼女としては非常にゆったりとした満足な時間を過ごせている。
「今回は個人依頼が多いね〜」
そう言いながら仕事を受けるスフェーンは個人依頼が多い下馬駅のコンテナ輸送を見る。
『中身は土産品ばかりですね』
「あぁ〜…」
荷積み業者や中身の荷物を見てスフェーンは事情を察した。
「お土産を宅配で送っている人が多いのね…」
下馬は温泉を売りにした観光都市である。その為訪れる人の多くは温泉で疲れを癒しながら土産を買って帰る。
そして購入した土産物はどうせ自分たちはまだ泊まるので先に送ってしまおうと言う考えなのだろう。
「お嬢様にお土産でも買っておこうかな…」
『お届け先は海向こうですので、食べ物はやめておいた方が良いかと』
「せやな」
スフェーンはそこで世話になった人達に生存報告も兼ねて土産物を送ろうかと考えながら受けた依頼のコンテナを受け取りに運転台の電源を入れる。
「よしっ」
この気温で一週間放置していたにも関わらず動いたエーテル機関に安堵しながら彼女はマスコンを動かす。
前の事故で新しく付け直してもらった運転台故にまだ動きは少々硬い。
「出発進行!」
ライトを点灯し、軽く汽笛を鳴らすと列車は留置線からゆっくりと前進を始める。
留置線はコンテナヤードの奥にあり、前進をすると一面が雪に覆われた操車場が広がっており、そのまま列車は指示された積卸線に入ると、そこで待っていた車両達は次々と受けた依頼のコンテナを積み込んでいく。
「これ全部お土産かな?」
『だとしたらすごい量ですよ?』
そんな事を言いながら車両全体の重さが均等になるようにコンテナに荷物が積まれる。
『積み込み完了しました』
「了解」
スフェーンはそこで職員から連絡を受けると、軽く頷いて運転台に私服姿で座り込む。
コンテナヤードには今も貨物列車が行き交っており、複線専用機関車が専用のヤードに到着していた。
『鉄道管理局より発進許可を確認』
「了解」
視線の先で転轍機が自動で動き、分岐点が動き回って前方で停車している貨物列車を避けるように路線が設定される。
『制限速度は時速二〇キロです。注意して走行しましょう』
「ほーい」
スフェーンはそこで頷くと、マスコンを操作してゆっくりと前進させた。
その後、本線に出た列車は雪景色の中を巡航速度で進む。
防雪林が緑化作業とも相待って行われ、融雪用の散水機が線路上に撒かれている。
今日は初日のような吹雪もなく、天気も晴れている。いつも通りに運行を行なっており、
『スフェーン、不明機。高速で接近中』
そして野盗もいつも通りのご登場である。
「迫撃砲発射」
音声認識で列車の武装が稼働する。
ッ!ッ!ッ!ッ!
そして武装区画の一つに乗せられた
ドローンを飛ばしているので敵を先に発見できるのは大きなアドバンテージだが…。
『ドローンとの通信途絶』
「チッ、やっぱりするわよね」
安物だから良いが、電波妨害を出して襲撃をする野盗に軽く舌打ちをしながらスフェーンはすぐに目を繋げると、
『ミサイルを発射します』
直後、迫り出したCIWSからミサイルが発射された。
「エーテル・カノンは?」
『今は必要ないでしょう。敵が電波妨害を仕掛けている以上、直接照準で仕留めましょう』
「おけおけ」
最後の切り札として戦術E兵器を隠すスフェーン達は襲ってくる野盗の迎撃を行う。
雪の上を疾走するのはオートマトンと多脚戦車で構成された部隊だ。
「あっ!」
そして近づいてくる野盗を前にスフェーンは子供のように思いついた様子でスフェーンに提案する。
「ちょっと試したいことあるんだけど?」
『…どうせ碌でもないことでしょう?』
「まぁまぁ、軽い実験だよ」
そう言いルシエルはスフェーンの考えている事を理解するとため息を吐いた。
『相変わらずですね、スフェーン』
「よっしゃ」
そこで軽く意気込んだ彼女は襲撃してくる野盗が出て来る方向を見た。
『このまま突っ込むぞ!』
『了解!』
雪上の線路を走る一本の列車を前に野盗のリーダーは叫ぶと、数台の残ったオートマトンと多脚戦車が雪原を疾走する。
雪が積もって丘となっていた場所から野盗団は運び屋で、尚且つ襲いやすそうな車両を狙って襲撃を行ったが、
「なっ…?!」
自分の操縦していた多脚戦車の映像が突如消滅すると、勝手に武装ロックが解除されて背負い式の105mmリボルバーカノンが発射された。
『てめぇっ!』
「ちっ、違う!これは俺じゃない!!」
咄嗟に弁明するも、無線は通じていないのでその多脚戦車は容赦なく裏切り者としてコックピットを30mm自動小銃で破壊された。
『行くぞっ!』
そう言った直後、今度はリーダーのオートマトンが不可解な行動を始める。
『はぁっ?!』
そのオートマトンは突如方向を変えると、持っていたガトリング砲やミサイルを無造作に乱射し、味方部隊に降り注がせると共に発射されたミサイルの一部は自分の方に飛んできていた。
「あっ…」
そこで襲撃をしたリーダーはミサイルが命中する直前、眼前に灰色の髪の少女の姿を見た。
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