野盗が一人いれば近くに二十人いると思え。
こんな言葉があるように、野盗というのは基本的に潰しても潰しても消える事のないゴキブリのような存在である。
元々はPMC敗残兵や脱走兵、落魄れた傭兵などが行う地の底のような仕事であるが、もちろん軍警の拘束対象であり、司法局で裁かれれば刑務所行きとなる。
そんな野盗が多く集ったものは俗に野盗団と呼ばれ、企業や軍警から殲滅対象となり、軍勢が送り込まれることとなる。
ようは昔のマジコンのように実害がデカくなければ企業も軍警も動くことはないが、一度大きな事件が起きれば企業や軍警は本気を出して潰しにかかると言うわけだ。
ッーー!!
小さくて甲高い汽笛を鳴らしながら細い線路を走って行くのは古く懐かしい
その列車の足元に線路はなく、列車が走ると薄く水の様な航跡がゆっくりと波紋を広げている。
一面が暗い灰色に覆われ、上から細かい灰色の粉が永遠と降り注いで機関車の前照灯が行く先を照らしていた。
その車内は薄暗い灯りと豪華で柔らかい向かい座席が扉で個室ごとに区分けされている。
時折客車全体が揺れており、コリドーでは明かりが薄暗く揺れていた。
「…」
その車内でスフェーンは窓に肘を立てて外の薄暗い灰色の景色を眺めていた。
「いつまで此処に?」
するとその反対に座っていた一人の少女、少女のスフェーンの姿をするルシエルはその手に一冊の本を開いて読んでいた。
「もう少し居るわ」
「そうですか…」
客車で二人は向かい合って座っており、二人とも幼い少女の姿のまま揺らされていた。
「…」
そして永遠と灰色の景色が広がるこの世界で彼女はふと上を見上げると、遙か遠く暗い場所から巨大な影が浮かんでくる。
よく見ればその影は他にもあり、戦車やテクニカル、オートマトンや装甲車や航空機、機関車に果ては軍艦まで。
有りとあらゆる無機物がそっと音も立てずに列車の走る地に接触すると、そのまま沈むように消えて行く。
そしてその先で灰色に染まっていたそれらは色が鮮明に乗って残骸となって色界に降る。
降り注ぐ灰はその先で形作られ、色がついて生物となる。
「ここは欲界と色界の狭間、生が交差している区間ですよ」
「言われなくとも」
窓の外からその景色を見ていたスフェーンは軽く鼻で笑う。
線路がないにも関わらず走る列車の中、ルシエルはスフェーンに話しかける。
「スフェーン、そろそろ行きませんか?」
「ん、良いよ」
そこでスフェーンは軽く頷くと、そこで二人の視界は変わると、そこはかつて二人が訪れた事のある場所だった。
水平線に近づくにつれ水色の透き通る空は淡い紫色に変わり、地面は白い大地の上に薄く水面が張り詰め、空には無数の流れ星が煌めきを持って溢れる。そんな、この世とは思えない景色。
「ここも懐かしいわね」
そんな場所でスフェーンとルシエルは共に空をを見上げる。
双子の様に同じ容姿の二人の違いは目の色、灰色と虹色の瞳以外に差異は見られない。
「かつて、ここを私達は精神世界と呼んでいましたね…」
「今は無色界なんてご大層な仮称付けているよ〜」
そう言いスフェーンは素足のまま大地を歩く。
歩く度に地面の水面が揺れ、その白い大地は永遠の地平線を築いていた。
「まぁ精神世界でない事は事実ですから」
ルシエルはそう言い持っていた本を地面に置くと、それはすぐに白い砂となって大地に消える。
「無色界と仮称するこの場所は、全てが一つとなった世界」
「全てが平等で、自由で平和で誰もが幸せになれる世界。それが
スフェーンが聞くと、ルシエルも振り向いた彼女に少し笑みを浮かべながら頷く。
「ふふっ、まさか思いもよらないわよね…」
「えぇ、あくまでも欲界、色界の肉体はエーテルによって造られたものですからね」
そこでルシエルはスフェーンを見る。
そして彼女に近づく。
「臨界エーテルを持ち出す事はできませんが、漏れる事はある…と言うわけです」
そしてスフェーンとルシエルは顔を合わせる。
「んじゃあ、やってみますか?」
「えぇ、壊れたらまた直せば良いです」
「あいよ」
するとスフェーンは左目に手を当てると、そのまま掴んで眼球を引き剥がす。
ブチッ
そして神経を反対の手に持った短刀で切り、くり抜いた目から流れるのは臨界エーテルの涙。透明な虹色に光る涙が大地に滴り落ちると、その涙は白い大地に溶けて消える。
ルシエルも同様に右目を取り出し、お互いの眼球を取り替えると、スフェーンはルシエルの左目をくり抜いた自分の右目に押し当てる。
そしてくり抜いて空になっていた眼球が埋め込まれると、数回瞬きをして一瞬狭くなった視界が一瞬ボヤけながらも元に戻る。
「これで見た目の差異はほぼ無くなりましたね」
「んふふ〜、これで一緒」
スフェーンはその事に少し嬉しげに、興奮も混ざった様子でルシエルに軽く抱きつく。
「あとは順応するのを待つだけです」
ルシエルもスフェーンから受け取った左目を右目に埋め込み、灰色と虹の瞳を左右に持つ。
「えぇ、これで私達は体を分け与えた存在となりますね」
そして二人の差異は目の色の変化からオッドアイの左右となり、二人は鏡写しのように同じとなった。
「むしろ今まで何でして来なかったんだろうね〜」
「それは、体の改造には幾らか抵抗があったからでしょう」
二人はそんな事を言いながら地面に寝そべって空を見上げる。
「目の前にあるのに、持ち出せないなんてもどかしいよ〜」
「どうせすぐに触れますよ」
そう言い白い大地の砂を一つ掴んで持ち上げると、その白い砂はサラサラと手の中からこぼれ落ちる。
「戦争が始まれば…」
「いったいどれだけの人が来るのでしょうね…」
目の前の満天の昼の星空を眺め、二人は言う。
「まぁ軍警が真っ先に逃げ出したのは予想外だったけど…」
「おそらく、二つの組織を牽制する狙いがあるのでしょうが…」
「まぁ何発もエーテル・ボンバを喰らってられないわよ」
そう言い二人はぼんやりと空を眺めていると、
「それで重要な話だけど…」
胡座をかいてスフェーンはルシエルに言う。
「私がお姉ちゃんで合ってるよね?」
真剣な真顔で聞くと、ルシエルは何を言っているんだと言った顔を見せた。
「え?貴方はお姉さんキャラじゃないでしょう?」
「何だと?」
「お姉さんは私のほうがいいでしょう。そうに決まっています」
自信満々に答えたルシエルにスフェーンは彼女の頬を軽く摘む。
「なっ、何をしますか」
「あーたは産まれたばっかなんだから歳的に私が上でしょうが」
スフェーンが言うと、ルシエルは反論する。
「何を言いますか、貴方は私の忠告をたまに聞かないのにお姉さんが務まりますか?」
ルシエルもスフェーンの頬を摘んでグリグリとこねくり回す。
「何だと〜?」
スフェーンも反論の意を込めてグリグリと摘んだ頬をこねくり回す。
「最初にあの体を使い始めたのは私なんだから、私がお姉さんでしょう」
「それを支えているのは誰ですか?」
そんな二人は口論を始めてしまった。
その後、長い時間を喧嘩した後、スフェーンは負けた。
「畜生…」
ルシエルに言葉で勝てるはずもなく、言いくるめられてしまった彼女は姉になることができなかった。
軽く地面に四つん這いになって項垂れていると、ルシエルが話しかける。
「と言う訳で私がお姉さんです。良いですね」
「…分かったわよ」
スクリプトを並べられてプレゼンをされたスフェーンはそこで軽くため息を漏らす。
「そろそろ行こ」
「えぇ、そろそろ向こうでは朝の時間ですからね」
そう言いルシエルはスフェーンと手を取ると、そのまま軽く抱き合うように地面に横になる。
「…ルシエル」
そしてそこでスフェーンは話しかける。
「どうかしましたか?」
唐突に話しかけて来た彼女にルシエルはスフェーンを見る。
「…我儘に付き合ってくれてありがとね。おねーちゃん」
「…改めて言われるとむず痒いですね」
ルシエルは思わずそう返してしまうと、スフェーンは言う。
「言われ慣れていないとどうしてもね」
そう言いスフェーンはそのままルシエルと額を合わせると、二人は目を閉じて無色界から離れた。
「…んっ」
そこで目を覚まし、敷布団の温もりを感じながらゆっくりと瞼を開けた彼女はほんのりと日の光が差し込む部屋を見る。
「ふんん〜っ!」
そして腕を出し、布団の中で伸びをすると、そのまま部屋の冷気を少しずつ布団の中に入れて体を慣れさせながらモゾモゾと布団の中で芋虫となって体をくねくねと動かす。
「寒…」
そしてそのまま彼女は体を起こすと、敷布団を畳んで新しく宿泊した民宿の狭い部屋で窓を開ける。
「うわっ、眩しっ」
そこで差し込んだ太陽光に一瞬視界が真っ白になる。
場所は下馬駅の近くの民宿。いくら山間の温泉街が有名とは言え、下の方の街でも温泉は湧き出ている。
その為、今泊まっている民宿にも銭湯形式で温泉が用意されていた。
「あぁ〜」
スフェーンはそこで軽く鼻を指でかくと、置いてあった煙草とライターを手に取って部屋で吸う。
「ふぅ…」
するとそこでスフェーンは自分の着ていた浴衣がブカブカになっていることに気がつく。
「あれ?」
それに違和感を感じて色々と体を見回すと、自分の体がいつものあの少女の体になっている事を認識する。
『黒ずくめの奴らに毒薬を飲まされ、目が覚めたら…』
「体が縮んでしまっていた。…って、なんで私が高校生探偵してんだよ」
ルシエルにスフェーンはそう突っ込むと、理由が分かりきっている若返りにスフェーンは部屋の鏡を見る。
「あぁ…」
そこでスフェーンは本来の姿の自分と、目の色が変わった顔を見る。
「ルシエルの目だ」
軽く左目を触り、そこで虹色に光を反射する瞳を見る。
「ふふふ…」
少しだけ笑うと、彼女は呟く。
「すごいなぁ、体の改造もお手のものだって!」
『そうですね』
そこでルシエルは体を改造してそれに興奮しているスフェーンに少し危なさを感じながら、姉として手綱をしっかりと握ろうと思っていた。
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