TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#152

基本的に運輸ギルドの会員証登録に顔写真は必要ない。

必要なのはインプラントチップによる生年月日と持っている鉄道車両である。

 

そんな雑で良いのかと思ってしまうが、運び屋としての信用は過去の経歴だ。

事実重大な犯罪歴や懲役刑、数件の逮捕歴があると運輸ギルドの証明書は発行されない。

 

運び屋という仕事を行うための戸籍である運輸ギルド証は機関車の車籍と紐づけられている。

機関車自体は複数の連名で保有していても問題はない。そして自分が保有して連結している貨車や客車に関しても申請をする必要があり、これは貨物の過積載を防止するためであった。

 

「ふぅ…」

 

下馬で保養を行うスフェーンは少女の姿でサングラスを掛けて煙草を吸う。

これでもインプラントチップを見れば適正年齢であるので、インプラントチップを見せれば良いのだが…。

 

「ちょっとちょっと」

「?」

 

そこでスフェーンは治安官に話しかけられ、そこで言われる。

 

「ダメだよ、煙草吸っちゃあ」

「あぁ〜、一応成人です。はい…」

 

そこでスフェーンは手慣れた様子でインプラントチップをのある部分を指さすと、

 

「あぁそうかい…すまなかったね」

 

あまりにも手慣れたその仕草に治安官も察してくれて少々申し訳ない様子でその場を後にしていた。

下馬は中立を宣言した都市である為、先の命令があっても軍警の駐屯部隊が残っていた。

 

一部では軍警が撤退したことで緑化連合や企業連合から離脱した都市もあった様子で、軍警も今は微妙な立ち位置にあると言えるだろう。

 

『もはや手慣れてしましましたね…』

「まぁね、こればっかりはね…」

 

今は少女の姿をしているスフェーン。元々あの姿は無理をしていたのは分かっていたので、今は大人しく最も効率の良い体を作っていた。

 

「中に溜まったエーテルでいけると思ったんだけどなぁ…」

『その分放熱をしてしまいましたからね』

 

元より非効率は分かりきっていた事ゆえにルシエルはスフェーンに言う。

 

『体内に有していた過剰なエネルギーが抜けたという事でしょう』

「ダイエットかな?」

 

そんな事を言いながらスフェーンは飲みきった蜂蜜アイスコーヒーを置いて席を立つと会計を済ませる。

 

「まぁそれはそうとして…」

 

サングラスをかける彼女は、そこで太陽の光を見るとそのサングラスの下から見える虹と灰色の瞳が軽く反射していた。

 

「これからどうしよっかなぁ…」

『あとどれほど滞在するのかによって予定は大きく変更されますが?』

「うーん…」

 

スフェーンはそこで少し考える。

下馬の街と温泉街を行き交ってダラダラと過ごしているスフェーンはそろそろ次の街に移動するかなどと考えていた。

 

「ぶっちゃけ最近は指名依頼も来ないんだよなぁ…」

『たまに働くときも運輸ギルドから仕事を選んでいますからね』

 

そう言い下馬を中心に活動している現状にスフェーンも少し考えてしまう。

 

「そろそろ次の街に行く準備をしますかね〜」

 

下馬に訪れて約一ヶ月、スフェーンは時折仕事で離れることはあっても基本的に下馬を中心に活動をしていた。

 

『ですと方角はどちらにされますか?』

「寒かったから南かなぁ〜」

 

バイクに跨り、エンジンをかけながらスフェーンはヘルメットを被る。

サラのネックレスを下げていた彼女は服の中にそれをしまうと、スロットルを回してクラッチを回す。

 

『南ですと…いくつか依頼がありますね』

「おぉ〜、良いね」

 

スフェーンは車の間を抜けながらアーケードを見る。

雪の残る商店街では観光客が闊歩し、ついでに土産を買っている。かくいうスフェーンもサラ宛に寄木細工のからくり箱を送っていた。

 

「次はどこに行こうかなぁ〜」

 

スフェーンはそんな事を言いながらバイクを駆って街中を走って行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その時、企業連合支配下の生い茂る防砂林に囲まれた鉄道路線の一つ。

 

「…」

 

腕時計を見ていた司令官が一言呟く。

 

「時間だ」

「はっ!」

 

その一言で一斉に兵士たちは動き出す。

 

「発射プロトコル発令!」

『発射用意!』

 

発令所から指示がとび、静かに停車していた車両の天井が二つに別れて中から巨大な円柱が現れる。

針葉樹林の中で止まっていたその列車から一斉に円柱が現れる。

 

『RT-23各発射台、直立状態に移行』

『全車両、直立完了しました』

 

客車型の発令所に連結され、客車に偽装された垂直発射台。

電源車や長距離通信用の通信機器まで搭載したその特別列車から十本の円柱状の筒に格納された大陸間弾道ミサイルを前に護衛を担当していた護衛列車はすでに兵を乗せて退避している。

 

「本部より発射コード受信を確認」

 

その特別列車は全部で四本存在し、それぞれ企業連合支配下の別の場所で待機していた。

 

「発射用通信を確認しました」

「了解した」

 

司令官は軽く頷くと、ポケットから鍵を取り出す。

 

「パスコードを入力」

 

そして司令官と発射ボタンを押す兵士しか知らないパスコードを入力する。

 

「本部より通信、『作戦成功を祈る』です」

「了解した」

 

そして司令官は鍵を発令所の赤い金属箱に刺して開けると、発射ボタンを押す士官も同様に金属箱の中身を開け、入っている封筒を確認する。

 

「…コード照合、正式な命令です」

 

そして封筒の一つを手に取ってその兵士は言う。

 

「了解した。発射準備を始める」

 

そこで先ほど差し込んだものとはまた違う鍵を取り出すと、発射ボタンを押す兵士とは離れた場所にある隠された鍵穴に鍵をさす。

 

「3、2、1…鍵を回せ」

 

合図とともに同時に回して固定する。

そしてダイアル式の鍵を操作し、発射用のコードを入力する。

 

「コード入力終了」

 

一人が言うと、そこでテレビを見ていた別の兵士が言う。

 

「本国司令部より通信を確認しました」

 

そこでは速報で『サブラニエ人民共和国連邦より宣戦布告』と書かれたニュース番組があった。

そしてその横で機器のランプが点灯する。

 

数多くの安全装置を正規の手段で解除し、最後の鍵が解除された。

 

『発射準備完了』

 

そして直後に次々とランプが点灯する。

 

『発射口開口』

『ミサイル点火』

『発射』

 

それと同時に起立した発射台の蓋が開き、直後凄まじい轟音と振動が列車全体を襲った。

 

ッーーーーー!!

 

そして発射台から一本の大陸間弾道ミサイルが飛び出し、同時に轟音と煙を吐き出しながら飛翔を開始する。

 

『発射完了』

 

最後に緑のランプが点灯すると、発射された十発の大陸間弾道ミサイルは遥か高空に消えて行った。

 

「これで戦争は終わる」

 

司令官は飛んで行った大陸間弾道ミサイルを見ながら呟くと、与えられた真新しい軍服の帽子に付けられた国章を見つめていた。

 

「呆気ないものだな」

 

 

 

 

 

その頃、とある緑化連合に所属していた都市。

 

ウゥーーーーーッ!

 

突如、街全体に響き渡るサイレンの音。

誰もがその音に驚き、顔を上げるとそこでは街頭テレビが一斉に速報を伝えていた。

 

『臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます』

 

警報級のニュースを伝えるアナウンスと共にキャスターが言う。

 

『緑化連合、統括軍事委員会は現地時刻八月十五日午前六時発表。緑化連合代表委員会はサブラニエ人民共和国連邦と戦闘状態に入れり』

 

テレビ、ラジオ、ネットニュース。全ての情報媒体を通じて一斉に放送されたその内容に誰もが唖然となって聞いていた。

 

『本十五日未明、緑化連合代表委員会はサブラニエ人民共和国連邦と戦闘状態に入れり』

 

それはつまり、ついに戦争が始まった証であった。

 

『只今、緑化連合代表委員会よりこのように通信を承りました』

 

そのニュースは繰り返し報道され、それを聞いていた市民達は誰もが驚く。

 

「ママー、何これ?」

 

どう言う事だと首を傾げていた子供に親はその少女を肩に抱いて言う。

 

「大丈夫。大丈夫だから…」

 

誰もがそれを聞いて不安げになっていると、

 

「?」

 

少女は遠くに映る白い線を見た。

 

「何あれ?」

 

少女は不思議そうにそれを指差しながら見ると、それに釣られて見上げた一人のサラリーマンが直後に驚愕した顔を浮かべると、

 

 

遠くに閃光が走った。

 

 

それを呆然と見ていた市民。一部は逃げ出そうとし、あるものは何が起こったのか分からないまま立ち尽くしていると、

 

ッ----!!

 

ありとあらゆる建物から煙が上がり、同時に衝撃波をまともに受けてあれだけ高かったビルが簡単に吹き飛びながら瓦礫となって崩壊していく。

 

「っーーーー!!」

 

自分達を囲うように閃光が都市全体を覆うと、少女を抱えていた母親は反射的に抱えていた子供を覆い、地面にうずくまって閃光の見えた位置を背中に向ける。

そして閃光と共に都市のあらゆる物質を巻き上げながら接近してきた瓦礫と衝撃波にその交差点にいた人々は一斉に飲み込まれた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ーー現地時刻八月十四日午前四時二三分。緑化連合所属都市フルシバリョークとの通信途絶。

通信やレーダーには直上より弾頭を確認していた。

 

ーー午前六時二五分。軍警察直轄都市大港に着弾を確認。

軍警察航空艦隊、並びに宇宙艦隊壊滅。民間人に把握不可能な損害あり。

 

ーー八月十五日午後一時二五分、中立都市石切との通信途絶。

軍警察駐屯部隊被害多数、陸上巡洋艦消失。

 

ーー同日午前六時二四分。緑化連合所属都市グリーンボウルに接近する弾頭をレーダー上で確認。

迎撃に成功するも、市街地の四割が破壊される。

なお、緑化連合代表委員会委員長モハメド・イル・パシリコヴァ氏は直前の秘密裏のコノハナ出張により生存を確認。

 

 

ーー同日午前十時三分、緑化連合はパシリコ共和国と改名。建国を宣言し、サブラニエ人民共和国連邦に宣戦布告を行う。

 

 

 

 

 

この日、世界は爆発と閃光の渦に巻き込まれた。

 

企業連合はサブラニエ人民共和国連邦と名を変え、緑化連合に過去の慣わしと今後の戦後処理の為に宣戦布告を宣言。

 

宣戦布告と同時に発射された四〇発の大陸間弾道ミサイルは世界中の都市に降り注いだ。

MIRV方式の大陸間弾道ミサイルは一度宇宙空間に危険を承知で飛び出した後、十個の子弾頭に分裂。ありとあらゆる物を破壊した。

 

落着した総計四〇〇発のエーテル・ボンバの子弾頭、その爆発の総量はTNT換算にして推定二五〇メガトン。

大災害以降、記録上最強の爆発が世界を襲った。

 

 

死者・行方不明者:推定三億〜四億人(うち緑化連合関連都市は二億〜三億)

負傷者:不明

被災者人数:不明

被災都市:グリーンボウル、大港、石切を初めその他一〇五の都市

 

 

後に『始まりの火』とされた世界大戦の幕は切って落とされた。

 

 




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