世界にエーテルが降り注ぐ景色は当たり前の光景であった。
空に浮かんでエーテルに覆われていた世界は閉ざされており、変化が無かった。
大災害以降、永遠と言われていた常識は『自分達は空を失った』と言うことだ。
エーテルで覆われた空を突き抜けられるのは軍警が保有している宇宙船である強襲揚陸艦と宇宙戦艦だけであった。
どちらも大災害以前に作られたものを騙し騙し直しながら使われてきていたもので、どう言う技術なのかエーテルで覆われたこの空を突破することができていた。
「大変なことになったもんだ」
『えぇ、全くです』
一面の荒野を走る列車の中、スフェーンはルシエルに言うと彼女も頷いていた。
エーテル・ボンバが世界中に落着してから半年、国家を名乗ったパシリコとサブラニエとの戦争は膠着状態に陥っていた。
都市の境目には塹壕が掘られ、空ではヘリコプターやドローン、ミサイルや砲弾が飛び交う。
世界中に降り注いだ大陸間弾道ミサイルは着弾した全ての都市を文字通り死の大地に変化させていた。
四〇発の大陸間弾道ミサイルは途中で無数の小爆弾に変貌し、都市に無造作に降り注いだ後に爆発。多くの建物が消失し、爆発の衝撃波でどんな巨大なビルも薙ぎ倒されていた。
そして戦争状態に移行したパシリコとサブラニエであったが、サブラニエにとっての最初の誤算はパシリコ共和国初代大統領がエーテル・ボンバの攻撃から生き残っていたことであった。
始まりの火の直前、彼はエーテル・ボンバの威力を知っており。いきなりグリーンボウルからコノハナに出張という名目で都市を離れていた。
この四時間後、グリーンボウルにエーテル・ボンバが着弾していた。
都市は壊滅したが、緑化連合の代表が生存していた事で統率機構に多少の混乱はあれど体裁は保てていたおかげで緑化連合は直ちにパシリコ共和国建国宣言と共にサブラニエに宣戦布告を行い反撃を開始していた。
元より早期決着を目論んでほぼ全てのエーテル・ボンバを使い切ったサブラニエ側はそのまま創設された陸軍部隊と交戦を開始、地面に塹壕を掘り。かつて境を接してた都市群は交戦地帯となった。
そしてあっという間に戦火は元緑化連合所属だった都市と企業連合所属の都市、それと中立都市に分かれて世界中で戦争となっていた。
都市間の戦争により、すでに多くの路線が被災していた。
復旧作業を行おうにも元々補給線断絶のための攻撃であり、双方からの妨害工作によって遅々として進んでいなかった。
「…」
『何をしているのですか?』
列車の中、キャビンのテーブルにパソコンを置いてキーボードを叩いていたスフェーンにルシエルが話しかける。
「見て分からない?日記書いているの」
そう言いスフェーンはルシエルに返してパソコンの画面に映る文字列を見る。
『態々そんな古いキーボードを使わなくても…』
「こういうのは昔ながらの手順でやるから面白いのよ」
そう言い彼女はルシエルに誤字訂正を頼むと、ルシエルはそこでスフェーンの書いた日記を見ながら一言。
『…まるで物語みたいに書きますね』
「うーん、至って真面目に書いているんですがね〜」
そんな事を話していると、
『スフェーン』
「チッ、あぁもう、またかよ!!」
スフェーンは軽く毒吐きながら列車の武装を起動させると、搭載されていたCIWSが発砲。飛んでくるミサイルとドローンを迎撃すると次に手を動かす。
『うわっ?!何だ!!』
『くそっ!ハッキングだ!!』
荒野の線路に近づいてくる敵部隊…あぁ、あの機体は武装が統一されているからおそらく正規軍なのだろうが…
『くそっ!これじゃあ襲撃できねぇ』
『撤退しろ!』
盗聴した無線で思いっきり襲撃と言っており、ここを走っていた列車全てに襲撃を仕掛けていたのだろう。
行き先が何処であろうと自分達の荷物以外は全て敵と言う状態なのだろう。なので、
「お仕置き」
そう言ってクイッと手を動かす。
『うわぁああっ!!』
『ぎゃぁぁああっ!!』
直後、ジャックしたオートマトンと戦車を乱れ打ちさせて味方同士で殺し合いの闘技場を作り上げてパシリコ軍オートマトン部隊を全滅させた。
「ふぅ…バカが寄ってたかってきやがって…」
一個分隊の小規模なオートマトン部隊を倒し、スフェーンはそこで見境なく襲ってくる野盗や正規軍相手に毒吐いた。
『エーテル・カノンもろくに使っていませんね…』
「雑魚相手にあんなご大層な武器使う必要ある?」
『それはそうですけど…』
ルシエルはやや苦笑気味にスフェーンに言うと、彼女は言う。
「どうせ正規軍部隊が死んだところでこんな状況じゃあ一瞥されたら御の字よ」
被害を受けていないローカル路線を走るスフェーンは言う。
パシリコとサブラニエの戦争により、その余波は海を超えたこの大陸にも伝わっており、次々と都市が建国を宣言していた。
「えーっと、次の目的地は…」
『都市マトリールですね。今は中連森林同盟に属す都市ですね』
「あれ?依頼受けた時はカスピア王国でなかった?」
スフェーンは聞くとルシエルはやや苦笑気味に言う。
『どうやら占領されたようです…』
「…国の統合分裂が激しすぎるっぴ!!」
一層の事、都市国家の方がまだ良かったかもと思うほどに今の状況は混沌を極めていた。
サブラニエの放ったミサイルは中立都市や軍警直轄地おも焼き払った事で世間の多くは彼の国の行動に戦慄し、その傘下に降る者や報復を願ってパシリコの傘下に入る都市などしていた。
都市間連合はそれぞれ国となり、都市毎によって国境線が敷かれていた。
そして戦争により、占領や奪還を行われている事で国境線は毎日変化していた。
「やってられるかよ…」
まるで鉄血宰相がいなかった時代のドイツのようだと苦笑しながらスフェーンは日記の続きを書く。
「ババンババンバンバンかよ」
『その場合、バンの意味が変わってくると思うのですが…』
ちょうどエーテル・ボンバの落着が起きた時、スフェーンは下馬の露天風呂でその歌を鼻歌で歌っていた。
「あの時の閃光はちと目に悪かったよ…」
『でしょうね』
エーテル・ボンバはのちに最も汚いE兵器として歴史に埋もれることとなる兵器である。
その威力は見ての通り都市を更地にするほどの威力があった。
「まさかエーテルの空を突き破って撃ってくるとは…」
『アイリーン…いや、サブラニエのやる事は見境がありませんね』
「全くだ」
中立都市をも破壊対象にし、更地に仕立てた事でサブラニエの反応は二つに分かれた。
しかしここで予想外だったのは元々短期決戦を目論んでいたサブラニエでは、パシリコはエーテル・ボンバに怯えてすぐに和平を申し込んでくるだろうと予測していた。だが、パシリコはこんな状況になっても徹底抗戦の構えを崩さなかった事だ。
これで初期目的であった短期決戦の目論見は完全に崩れた。
「線路も被災し、復旧工事をしようとすると資材を積んだ列車が襲撃に遭う…」
『悲惨ですね』
そして襲撃を行うのは野盗も居たが、最近はもっぱら敵国に物資を運んだとして臨検という名の強奪を開始する正規軍が多かった。
『やっている事は野盗と変わりませんね』
「最初に線路持ってかれたのは痛手だった…」
そう言ってスフェーンは復旧資材である鉄道用二〇〇メートルが持って行かれた時のことを思い返す。
「腹が立って二回目は潰したけど大丈夫だよね?」
『まぁ…それは…』
そう言い臨検の名の下で体を触って興奮を隠していた一人のサブラニエ兵士に腹が立って全員を斃したのを思い返す。あれは自業自得で、軍隊特有の連帯責任をとって貰っただけなのだ。
『事実、貴方は指名手配をされていないので大丈夫かと』
「うん、ならよし」
そしてスフェーンは依頼されたコンテナ、中身は中立都市へ送る植物プリンターとその材料である。
『なるべく安全なルートを選定してもこのザマですか…』
「軍警も今は荒れているからね…」
中立都市の中には軍警が居を構えていた都市もあった。
降り注いだエーテル・ボンバは艦隊を潰した。運悪く定期点検のために停泊していた空母翔鶴がその被害をもろに受けて破壊された。
それと同時に停泊していた宇宙戦艦や強襲揚陸艦も破壊されていた。
最初に実験の叩き台にされた艦隊と今回の攻撃による艦隊と、二つの艦隊を機能不全に陥らせ、陸上巡洋艦も被害にあっていた。
しかしこの結果を受けてもまだ上層部は報復をしなかった。
おそらくまだ迷っているのだろう、今までと徹底した中立を保ってきた自分達がどこかの組織に肩入れするのか否かということに。
「二個艦隊潰れて動かないの凄えわ」
スフェーンは最早感心した様子で軍警の孤立主義に舌を巻いていた。
その時、ヴェルヌ大陸のとある空港に一機のIl-80が着陸する。
一機の空中指揮機は空港に着陸した後、そのままタラップが接続されると、その奥から屈強なボディーガードに囲まれて一人の女性が降りてくる。
そしてタラップを降りる途中、その女性は言う。
「全く、お父様もよく言いますわね」
「お嬢様…」
その女性の横で一人のアンドロイドが軽くため息を漏らす。
「リスク分散のためでしょう。このような事が起こっては、仕方ありません」
そう言うと、その女性は聞く。
「確かこっちにはスフェーンが居たわよね?」
「はい、この前は下馬温泉のからくり箱をお送りになられておりました」
そのアンドロイドは答えると、その後にややジト目になりながら彼女に言う。
「言っておきますが、お嬢様がヴェルヌ大陸に派遣されたのは事業拡大の為である事をお忘れなく」
「大丈夫よ、ちゃんと休暇届出すから」
「…」
その女性は言うと、彼女に長年支えていた執事は内心感謝する。
「(彼女にまた礼を言わなければなりませんね…)」
エーテル・ボンバの攻撃から生き残り、世界で戦闘が散発的に起こっている情勢下で放浪の旅を続けて尚且つ生き残っていたことだけでも有難いと思うべき話だろう。
すると、曇天の淡く光る雲を見るとその場にいたアンドロイド以外全員がガスマスクをつける。
「お嬢様」
「あら、またエーテルの雨ですの…?」
そう言いエーテル・ボンバの爆発以降に確認された気象現象に軽くため息を吐きながらガスマスクをつけて迎えにきた車に乗り込んだ。
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