開戦から半年。
線路が破壊され、その復旧作業が遅々として進まない状況に鉄道管理局は緊急会議開催を決定。
戦争当事国並びに建国宣言を行った各国家首脳並び軍警察に対し、会議に参加するよう要請。
鉄道管理局本部の存在するオードリー島にて、各国首脳が集まった緊急会議の後、鉄道管理局を中心に『戦時下における鉄道の保護管理に関する条約』、通称『戦時鉄道条約』の締結を宣言する。
この条約は鉄道管理局が敷設・管理を行う鉄道路線とその周辺設備に対するあらゆる攻撃を禁止し、また運輸ギルドに所属する鉄道車両に対する攻撃も禁止する条約である。また違反した場合は相応の罰金や復興義務が課される事も記されている。
これに対し各首脳陣は鉄道施設に軍警察を除く全ての軍事組織に、軍事行動を目的とした車両の使用を禁止するよう要請。これに応じて条文に記されていた。
これは先のエーテル・ボンバによる攻撃が、列車搭載型の大陸間弾道ミサイルから発射されたことに起因していた。
鉄道路線は国家からの攻撃不可侵の聖域となり、またそこを走る運び屋や運送業者にとっても条約の名の下、あらゆる攻撃を禁止した事で今まで滞っていた物資運送が行えると少し安堵していた。
この条約が締結された背景には中立を宣言した都市における物資輸送の滞納による経済低迷に危機感を覚えた中立地帯の都市群による火急の要件であったからだ。
『鉄道管理局は人類の共有財産である鉄道路線を管理し、経済の活性化を狙う事を目的とする非軍事組織である事をここに宣言する』
鉄道管理局の傘下に属する運輸ギルドは傭兵ギルドや軍警察と既に提携を結んでおり、鉄道路線の防衛は軍警が、鉄道車両の防衛は傭兵が行う事がこの時期では既に良く行われていた。
あらゆる政治的介入を行わない代わりに全ての国家に鉄道の保護義務と略奪禁止を約束させた代表の手腕は後年も高く評価されていた。
乱立する国家を前にこの会議の後、乱立する中立都市は統合し、自らをアンセトル連邦共和国やアリアドール合州国などの国家の建国を宣言していた。
「あーあー、大変なこった」
そのニュースを運輸ギルドの食堂で見ていたスフェーンは言う。
『ですが、これで危険な仕事をせずに済みますね』
「全くだよ」
そう言いスフェーンはこの半年で仕事をするたびに危険手当を依頼主に要求して疲労を増やしていたのを思い返す。
食堂のテレビでは条約締結の為にオードリー島でサインをする鉄道管理局の重役や此度の騒動で建国を宣言した国家の首脳達がサインをしている様を見せていた。
『条約の効力は永久。あらゆる国家に対し、強制的に批准させる条約ですか…』
「改めて聞くと凄い条約ね」
つまり、この条約は宣言されたと同時に世界中の国家はたとえ署名していなくともこの内容に批准する必要があり、トラオムに存在するあらゆる軍警察以外の軍事組織は鉄道車両や路線への攻撃は一切が禁じられたと言うことになる。
「ある意味政治的に混乱しているからできた所業ね」
開戦から半年、あらゆる地域で戦闘を繰り広げていたサブラニエとパシリコはこの時期から戦いの勢いは落ち着いていた。
序盤で圧倒的勝利を収めたサブラニエであったが、急激な戦線拡大を前に補給線が伸び切って疲弊しており、パシリコはエーテル・ボンバを撃ち込まれたことによる損害で現場は混乱していた。
お互い前線からの報告を聞き、積極的な攻勢を抑えるようになったのはこの時期からであった。
「さて、これから忙しくなりそうね」
『破壊された線路や鉄道設備の復旧、破壊された都市の復興。軍需物資の輸送など、やる事には事欠きませんよ』
ルシエルはザッと思いついただけの仕事を呟くと、それに頷いていた。
「さて、条約の施行は明日からと言うし…」
『でも本格的に運び屋や運送業者が戻ってくるのは数ヶ月かかりそうですね…』
「それな〜」
事実、この半年はスフェーンも指名依頼以外で仕事をする事がなかった。
理由は単純に危ないからで、仕事を受けると正規軍や野盗の襲撃で武器弾薬を多く使ってしまう事があった。
「お陰で金欠〜」
そんな事を言っていると、スフェーンに連絡が入った。
「うん?」
相手を見て一瞬首を傾げるも、電話に出ると
『スフェーン、今何処にいるかしら?』
サラはそう言ってスフェーンの居場所を聞いてきた。
「え?どしたのいきなり?」
唐突な質問に首を傾げていると、彼女は言う。
『今度やっと休暇が取れたから久しぶりに会おうかと思ってね〜』
「え?あなた今海向こうにいるから会えんでしょ」
スフェーンはそう言うと、そこでサラは言う。
『実は今、私ヴェルヌ大陸の方に出張で来ているのよ』
「…はい?」
そこでスフェーンは一考する。なぜ彼女がこっちにいる?出張と言っていたか?
「なんで?」
『企業拡大のためにね〜、今もカジノ買収の交渉をしていたのよ』
サラはそう言うとスフェーンに地図の写真を送る。
『もし一週間以内に来れるなら、ここに行かない?』
「えっ?!ちょ、ちょっと厳しいかなぁ〜」
『あらどうして?』
サラは聞くとスフェーンは現実問題を突きつける。
「真面目な話、今現在私は金欠でございまして…その」
『あぁ、戦争の影響ね?』
「そそっ」
理解が早くて助かると思っていると、サラはサラリと言う。
『なら私のバイトに付き合いなさいな』
「えぇ…」
『露骨に嫌がるなや』
スフェーンにサラは突っ込むと、彼女は至って真面目な顔で言う。
『実は私の方でも会社の荷物が滞っているのがあるの。それを斡旋してあげられるけど…』
「それだいぶ不味くないです?」
基本的に公平を謳う運輸ギルドに置いて管轄外での仕事の斡旋は重い罰が与えられる。今までは黙認などされていたが、昨今の動向からスフェーンは少し警戒していた。
『あら、だったら指名依頼を他の人に回してもいいのよ?』
「やらないわけ無いけどさ…」
スフェーンそう返すと、サラはそのまま片手に指名依頼のための依頼書を書く。
『幾つか仕事を回してあげる。それで資産にも余裕が生まれるでしょう?』
「お嬢様マジ感謝です」
こう言う時、知り合いに金持ちがいると大変助かる。いやぁ、ありがたやありがたや。するとサラはそこで言う。
『ふふっ、じゃあ代わりに今度会う時はメイド服を着てね』
「えっ…?」
スフェーンはそこで固まった。めいどふく?あぁ、メイド服か。いや着たく無いんだが?
『もう指名依頼出しちゃったから、必ず着てくるのよ?』
「あのー、お断りは…」
『知り合いに依頼を斡旋した噂を流してあげる』
「チクショーッ!!」
外堀をあっという間に埋められてスフェーンは頭を抱えていた。
「とほほ…背に腹はかえられぬか…」
運輸ギルドを出てスフェーンはガックリと肩を落としていた。
『良いではありませんか、メイド服は素晴らしく可愛いですよ?』
「あれ見るのは良いけど、着るのは好きじゃ無いんだけどなぁ…」
そんな事を言っていると、周囲の人々がガスマスクを着けているのを見てスフェーンは遠くの空から淡く光を伴った雲を見て、同様に持っていたガスマスクを付ける。
『エーテルの雨ですか』
「えぇ、エーテル・ボンバで吹っ飛んだ後からずっとね」
そう言いその後にポツポツと雨のように降り始める活性化エーテルの雨を見上げる。
常にエーテルの空で覆われ、エーテルのオーロラが浮かんでいたこの世界だが、この前のエーテル・ボンバの爆発以降、空から不定期で活性化エーテルの雨が降るようになっていた。
一般的にその雨はエーテル・ボンバが爆発した事で空に再びエーテルが舞い上がったからだと言われていた。
「厄介なものよ」
『少なくとも、人にとっては有害となる存在ですからね…』
降っているのは活性化エーテル。
今まで霧状に世界中にゆっくりと降り注いでいたそれが雨粒ほどの大きさとなって、死を振り撒く雨となって自分達に襲いかかっていた。
「エーテル病は口とか鼻からしか入ってこないからね」
『これが最善の防御方法というわけですか…』
最近ではニュースの天気予報にエーテル降雨の警報が出されるようになり、市民は常にガスマスクが手放せなくなっていた。
「災厄の証だよ、本当に」
スフェーンはそう言うとその中を歩く。
『所でスフェーン』
「ん?」
そこでルシエルはスフェーンに言う。
『サラさんから集合場所に指定された所なのですが…』
そこでスフェーンは衝撃的な話を聞いていた。
その日、スフェーンはサイドカーのそばに立って煙草に火をつけていた。
「ふぅ…」
待ち合わせ場所の時間は午前一時、とある都市の郊外の山中にある休憩所であった。
「まだ少し早いか…」
スフェーンは小銃を背中に下ろし、少女の姿でメイド服に着替えていた。
言われたとおりにしないと後が怖いのでスフェーンは大人しくメイド服を着ていた。
弾薬嚢を下げ、銃剣も持つ彼女は煙草を片手に待ち人を待っていると、遠くからエンジン音が聞こえてくる。
「おっ、来たかな?」
道路沿いの休憩所で待っていると、そのエンジン音はどんどん近づいてきており、車のライトが見えた。
「ブッ」
そして目の前にその車がやって来て停車すると思わず吹き出してしまった。
「飛んだ高級車じゃねぇかい」
そう言いこんな夜中の山道に似つかわしくない
すると車の窓が開いて運転していたサラが顔を軽く出した。
「やっほ〜!久しぶり〜」
そう言って休憩所に車を止めてドアを開けると、彼女は今のスフェーンの姿を見てご満悦になる。
「うんうん、ちゃーんと服は着て来たみたいね」
「えぇ、これで数ヶ月分の食費が賄えるなら安いものですよ」
そう言いスフェーンはサラを見ると、彼女に言う。
「良く生きていましたね」
「えぇ、偶々ね…」
サラはそう言い、エーテル・ボンバが落着した時はベガスシティで役員会議に出席していたと言う。
「お陰でお父様の発案で、私たち兄妹は事業拡大による出張が命じられたわ」
「事実上の疎開じゃないですか」
「ええそうよ、リスク分散はするべきだもの」
サラはそう言うとスフェーンを見て言う。
「久しぶりに会って色々と聞きたいことはあるけど…」
彼女はそう言ってスフェーンの後ろにあるサイドカーを見ながら聞いた。
「その馬鹿みたいにある大量の武器は何ですのん?」
そう言い、サイドカーに積まれた
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