そろそろ列車に小改造を施したいと考えるスフェーンだが、その前に先立つものが必要。
……そう、金だ。
列車に簡易キッチンや防衛兵装諸々を購入して載せるにはどうしたって金が必要になる。
そして現在のスフェーンはルマリテで大量に乾物と言った保存食や調味料を購入していた。その所為で今回の儲けはほぼチャラとなった。
「さて、稼がないとな」
『お勧めな依頼を数件ピックアップいたしました』
ウリヤナバートル旧宇宙港、今回の運送の最終目的地であり。元はエーテルを宇宙に運ぶためのロケット発射基地だったが、今では空が封鎖されているのでロケットなどの危険物を満載した飛行物体がオーロラを突き抜けようものなら忽ち引火して大爆発するだろう。
「運輸ギルドに行かないと駄目なのか……」
ここではいつものように間接的な通信で依頼を受ける事は出来ないようで、仕事を受けるには毎度毎度運輸ギルドに向かう必要があると言う。
インプラントされた状態と同じような景色を見れるスフェーン、普段なら網膜に依頼が映し出されるので不思議に思っていたらこう言う事だった。
「面倒だな」
『しかし、だからと言って規則違反は今のあなたの潔癖なギルド証明書に傷をつける事になります』
「わかってるよ」
後ろで運んできたコンテナをトップリフターが取り外しながらトラックに乗せられる。
統一規格の大きさのコンテナは鉄道から直接船舶やトラックに積載可能であり、大きさは特大型・大型・中型・小型と四種類に分かれている。
小型コンテナ二つでちょうど大型コンテナの大きさとなり、中型コンテナの積載量は小型コンテナの1.5倍の大きさだ。
自分のこの列車に搭載できるコンテナは大型から下の大きさ。特大型を載せるには新たに貨車を買うか借りる必要があるが、そもそも特大型コンテナは滅多に運び屋で扱わない。
「新しい依頼は……」
ホログラムで映る仕事を探していると、スフェーンは声をかけられた。
「ここはガキンチョの来るところじゃないよ」
「?」
声のした方を見上げると、そこでは一人の黒い肌の女性が立っていた。
「あなたは?」
「私かい?私はマルシュ、個人で運び屋をしているよ」
日焼けした女性はスフェーンに向かってそう答えると、彼女はギルドで仕事を選んでいるスフェーンに軽く怪訝な目を向けていた。もう慣れっこな景色だ。
「生憎と、私もギルドの人間ですので。お構いなく」
「へぇ、証拠は?」
「こちらに」
そこで電子グローブでギルドの登録情報を見せるとマルシュは驚いた表情を見せた。
「マジかよ……」
「私も、あなたと同じ個人の運び屋をしている者です」
「こんな子供が?」
「いけませんか?」
スフェーンは驚くマルシュに聞き返すと彼女は困惑をしている様子で、スフェーンを見返した。
「普通、その歳だったら街で仕事しているだろ」
「生憎と、私はそうではないので」
そもそも生まれがアレだし。
スフェーンは少々失礼なマルシュに軽く睨んで返すと、マルシュはスフェーンに聞いた。
「運び屋は遊びじゃないんだぞ?」
「ええ、こう見えて私は半年の新米ですが、指名依頼を受けていますので」
「……」
企業からの指名依頼をこなしたと言うのは個人の運び屋でも箔がつく代物だ。それゆえにマルシュは怪しんだ。
「……身内贔屓か?」
「その前に企業の娘はここで働かない」
現実を受け入れられない様子のマルシュはとんでもない事を言い出す。私だって企業の娘だったらこんな仕事やってないだろうよ。
「そ、そうか……」
トチ狂った考え方をしていたマルシュは思考回路を正常に叩き戻すと、目の前に立っている少女を見た。
「悪かったな。話しかけて」
「いえ、同業者に出会すのは悪い事ではありませんので」
「そうか」
基本的に個人の運び屋は横の繋がりをあまり必要としない。
理由は簡単で運輸ギルドに仕事を求めて都市に集まって仕事を受けたらさっさと街を去ってしまうからだ。傭兵のように集団で動いたり、共に戦った友情が芽生えると言うのがあまり無い。
しかしだからと言って運び屋のコミュニティーが無い訳ではない。ただ自分とはご縁がなかっただけだ。
企業と契約をした運び屋は車両をレンタルして動かす。レンタルされた列車は改造不可能で、代わりに豊富な武装が取り揃えている。
しかしそう言った車両をレンタルしない人々、個人の運び屋は車両にどれだけ改造を施しても問題ない。その代わり、使用した弾薬も全て込みで購入しなければならない。
「あんた、名前は?」
「スフェーンと言います」
「スフェーンか……もし次会ったらよろしくな」
「ええ」
そしてマルシュは運輸ギルドから消え、それを見送るとスフェーンは仕事を選んでそれをギルドに提出する。
そこで待機していた職員から怪訝な目を向けられ、そこでギルド証明証と過去の運輸記録を見て驚かれるテンプレを受けるのだった。
「さて、仕事を受けた訳だが……」
『依頼の品が届くまで時間があります』
「それまでは観光か調達かなぁ……」
するとルシエルが列車の状況を伝えた。
『車両の搭載弾薬、エーテル残量も問題ありませんので追加購入も必要ありません』
「了解」
列車に装備されている30mmガトリング砲の残弾を正確に把握しているルシエルはそう教えると、スフェーンはそのままウリヤナバートルの街を歩く。
流石は砂漠の中に建立された街という事もあって超高層ビルや高速道路が町中を張り巡らし、モノレールも走る。
ここにはかつて宇宙港があった事で、そこに集った人々が大陸の砂漠地域に水を引いて巨大な街を作った。
宇宙港ができたのは、ここら辺は一体が平らでシャトルやロケットの打ち上げに適していると判断されたからだ。
郊外にはロケットの射場跡が残されており、宇宙港としての機能は存在しないが。この地域一体の経済の中心地としての機能をうまく活用したこの都市の評議会のおかげで、ルマリテよりも圧倒的な繁栄を見せていた。
「でっかい街だなぁ」
『ウリヤナバートルはボラン砂漠の経済的中心都市、街には多くの企業や富裕層が暮らしています』
「だろうな」
そして街の中心部に聳え立つ巨大なタワー、全高四千メートルを超すウリヤナ・ビルディングは街のどこにいても目立つ施設だった。
「今の所持金で大層なお遊びは出来んな」
『賭博場は危険と判断します』
「賭博ね…この体で行けんのか?」
酒は基本的に提供されない、大災害の前にあった法律の時の伝統がいまだに続いているせいで未成年に酒は提供されないのだ。
賭博に関しても同じかと思っていると、ルシエルが答えた。
『ウリヤナバートル評議会の規則によれば、カジノを含めた賭博場にはある程度の保有資産があればどのような年齢でも入場可能です』
「金ね……」
ある訳がない、この前の食料到達で散財しちまって今は素寒貧。簡易キッチンを買うギリギリの金額しかない今の状態では無理だった。
「かと言って違法賭博もねぇ」
『スフェーンの今の体では大勢のオオカミたちが寄ってくる事でしょう』
「変態の相手はしたくねぇし、男ともやりたくねぇ」
売春婦はごめんだと吐き捨ててスフェーンは街のショッピングモールに足を踏み入れる。
「わぁ……」
入ったウリヤナ・モールはこの大陸最大のショッピングモールであり、ありと凡ゆる商品が置かれている。
中にいるのは中産階級の人間や観光客ばかりで、そこに傭兵や貧困層、上流層の姿は見えなかった。
傭兵や貧困層はそもそもここに来て買う商品は皆無だし、ここで商品を買えるほど儲からない奴がほとんどだからだ。
後者は自宅にモールや店から派遣された外商員が直接お伺いを立てながら商品販売をしていくからだ。
「すげぇ……」
ブランドからアパレル、飲食店なども盛りだくさんな店内に唖然となるスフェーン。ただ悲しいかな、今の所持金でここにある商品は買えないのでスフェーンは観光するしかできる事はない。
正直、ファッションに興味はないので。スフェーンはそこらへんの店よりも、その地区の装飾を楽しみながらモールの出店で飲み物の冷やし飴を飲む。
基本的にこの都市は真昼の気温が平均で四十度くらいまで上がるので、こう言う冷たい飲み物が至る所で売られていた。
すりおろした生姜の喉を温める感覚に冷たい水飴を溶かした水が流れ、喉を潤していると近くのベンチに座り込む。
『さまざまな建築様式が取り入れられていますね』
「金があるから為せる技だな」
モールの中には博物館や遊園地まであるのだから一日じゃあ回りきれない程だ。また今度来るかなと思いながら彼女はモールを後にして貨物ターミナルに戻る。
「あれ?お前さんは……」
そしてそこでスフェーンはバッタリと出会した。
「あっ、マルシュさん」
黒いタンクトップにジーパン姿の黒肌の女性、マルシュの姿があった。
「これから仕事かい?」
「はい。マルシュさんもですか?」
「ああ、二時間後にピギーバックの貨客混載仕事さ」
ピギーバックとは貨物を積んだトラックなどをそのまま貨車の上に乗せて運ぶ貨物形態の事を指し、貨客混載は貨物と人をまとめて運ぶ貨物形態だ。
「人を運ぶんですか?」
「ああ、人と物。二つを同時にな」
そしてマルシェと歩きながら話すと、マルシェは操車場で止まっていた一台の機関車の前で止まった。
「こいつが、私の機関車さ」
「これですか……」
そこには黒い流線型の車体で、中央部に運転台のある機関車だった。
『GG1型機関車です。最初期に発明された量産型エーテル機関搭載型の機関車です』
「レトロな機関車ってことか……」
機関車の前で立って見ていると、スフェーンも横に停車していた自分の列車に乗り込んだ。
「おや、それがあんたの機関車かい?」
「ええ、そうです」
運転台に登りながらスフェーンが答えると、マルシュは言った。
「いい機関車だ、カーゴスプリンターとは珍しい」
「あなたの機関車も丁寧に整備されていて綺麗ですよ」
軽くお世辞を言い合うと、マルシェは言った。
「いいねぇ貨物専用とは。荷物から文句を言われない」
「ははは、お客さんを運んでいるのもすごいですよ」
そう答えるとスフェーンは先にエンジンを掛けると軽く汽笛を鳴らした。
「気をつけて行ってらっしゃいな」
そんな少女に発車準備をするマルシェは幸運を軽く願った。
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