「私を殺してもらえませんか?」
焚き火をする荒野の中で言われたその一言に私は唖然となった。
列車のガレージにて、サイドカーや工具箱、作業台を置くその場所でスフェーンは銃の整備を行っていた。
「…」
散弾銃に拳銃、果てにはロケットランチャーを備えるガンラック。
側には消火器の中身を炸薬に変えたお手製の対人榴弾とそれに取り付けるブースターが置かれている。
いつの時代も、安い・強い・簡単の三拍子は傑作兵器と謳われるものだ。事実この改造弾頭も発射機も比較的安く売られていた。
ガシャンガシャン
そして作業台の上でレバーを倒して使用済みのプラケースの赤い散弾銃の薬莢に火薬とワッズと小粒を入れる。
対人用にも用いられるやや大きめの粒のスチール球をカップに掬って装填する。
最初に雷管を交換して、火薬を詰めてワッズを入れて小球を入れるまでの過程をレシピ通りにやる。
そして最後にクリンプをして散弾に蓋をするとハンドロードの散弾が完成する。
「…よし」
制作した散弾を一つずつ確認し、それを予備弾薬を置いている作業台のケースに丁寧にしまう。
銃弾箱には散弾の他に.357マグナム弾も入れられていた。
弾薬代をケチるために別々で購入する事が最近は増えてきていた。
「次は…」
そこでスフェーンは次に自分の身長よりも大きい対戦車ライフルの弾薬である7.92×107mm弾を確認する。
『弾頭は既に購入しています。既存の雷管も使用可能です』
「そうね…」
この対戦車ライフルに使われている銃弾の銃弾は弾芯に軟鉄を使用しているので、命中すると内部の装甲を剥離させて怪我を負わせる仕様である。
「小銃用弾薬も電磁加速用の無火薬弾が当たり前の時代で未だに薬莢式の古い銃を使うとはね…」
『電気的な信号を一切使用しないですから、EMP攻撃の影響を受けませんよ』
ルシエルが言うと、スフェーンはやや苦笑気味に返す。
「だから未だにケースレス弾と電磁加速の複合銃ばかりなのでしょう?」
そう言って銅色の弾頭を一つ摘んで見る。
この銃弾の弾頭は有名で、今でも一部で使われている7.92mm口径の小銃弾の物が流用できた。そして今摘んでいるのは鋼鉄弾芯の硬芯徹甲弾頭であった。
「使った分は変えていこうかしらね」
そう言い後付けのテープで巻かれた薬莢入れに溜まった長い薬莢を一つずつ洗浄機に入れる。
「弾薬って売っていると思う?」
『さぁ…珍しい銃ですからね。最悪自作になるかもしれませんね』
「意外と面倒だなぁ…」
しかしそれを鑑みても有り余る威力を持っているので手放すという手段はなかった。
『長い銃ですね…』
「まぁ開発目的は当時の戦車の破壊ですからね」
『今じゃドアノッカーもいい具合ですが…』
ルシエルはそう言い、スフェーンは改造した犬足の様なボルトハンドルを引いて弾薬の有無を確認する。
特徴的なマズルブレーキに基本装備の二脚バイポット。
アイアンサイトを使っての直接照準がこの銃の基本であるが、スフェーンにとってみれは視界がスコープのように望遠が効くのでそれの有無は関係なかった。
しかし望遠機能が阻害された時の為に前の小銃で使っていたスコープを使える様に改造していた。
「だけど対人と狩猟じゃあ無類よ?」
そう言い彼女は銃を両手に持って引き金を引くと、カチッと言う音が聞こえた。
あの洋館の事件から数ヶ月が経ち、スフェーンは新しい仕事と旅を続けていた。
元々放浪に近い目的のない旅路ではあったが、この新大陸に来てからは『新しい体を作る材料を集める』と言う明確な目的を持って行動していた。
「と言ってもやることは変わらないんだけど…」
スフェーンは運転席に座って前方の視界を眺める。
最近は戦時鉄道条約のおかげで線路の安全と、身分が担保された運び屋達も業務を徐々に再開していた。
あの条約の締結のおかげで今まで勾留されていた運び屋や運送業者の運転士も釈放されており、前よりも鉄道の運行頻度は上がっていた。
『段々と鉄道輸送も業務を再開し始めましたね』
「戦争があるって言ったって、中立の方が勢力としては大きいしね…」
そう言って彼女は複線専用機関車が対向車線を走るのを眺める。
パシリコとサブラニエとの戦争も、序盤のエーテル・ボンバの攻撃も、大都市を破壊したとは言え世界的に見れば被害は小さいと言えた。
幾ら数十の都市が破壊されたとは言え、世界にごまんと存在する都市から見れば微々たる量なのも事実であった。
「ただ与えた経済的損失は馬鹿やばいけど…」
スフェーンはそう言い、今も運んでいる建設資材を思い返す。
開戦後半年の無法ぶりは流石と言わざるを得ず。スフェーンに届いた指名依頼の数は圧倒的にキャパオーバーなほど増えていた。
普段では運ばない様なものの依頼まで届いており、勘弁してくれと言うのが本心だった。
『お陰でサブラニエに対する感情は良くありませんね』
「流石に中立都市をぶっ壊したらね〜」
そう言い彼女は見えて来た都市を前に速度を落とす。
『鉄道管理局から通信です』
「うい」
荷物運送を受注し、それを目的地まで運んで報酬を受け取る。
それは運び屋の真髄であり、運び屋が運び屋と呼ばれる所以である。
一部は行商人という自ら商品を仕入れて小売業者を営む健気な輩もいるそうだが、自分はそんな面倒なことを進んでしようとは思わなかった。
『列車は制限速度区間にて時速八〇キロでの走行を行えとのことです』
「八〇か…おっそいなぁ」
そう言いながらスフェーンは速度を落として分岐点を通過する。
線路が一つの聖域として国家からの一切の攻撃が禁止された今、戦争を継続させている補給線が事実上大きく叩けない状況にある。
そのため国は敵の補給線を叩くと言う目的の為、貨物列車を昔ながらの野盗による列車強盗という形で補給物資を運ぶ貨物列車に襲撃を行っていた。
軍警察以外の軍事組織が軍事行動の為に鉄道路線を用いる事は条約で禁止されており、その為現在戦争を行なっている二国については軍需物資の運送のみ鉄道を利用することが可能であった。
その為列車砲やミサイルコンテナは輸送する事はできても、鉄道管理局の保有する線路の上で発射を行う事はできないのだ。
『入里操車場に進入しました』
「おけおけ〜」
そこで長い直線の線路が立ち並ぶ巨大な操車場の一つに列車は入ると、そこで積載していた各種コンテナをトランスファークレーンが回収していく。
『都市の治安は高いですね。危険度Ⅰです』
「安全なのは良い事さ〜」
そう言いながら背中に散弾銃を背負い、腰からは拳銃入ホルスターを降ろし、防弾チョッキを付けて上からトレンチコートを羽織る彼女。
その間にルシエルが遠隔で操作することで列車は積卸線から留置線に移動し終える。
『相変わらず煙草ですか…』
そして最後にカートンで本棚に置いてある煙草の箱を一つ取る。
本棚の上にはルーレットを模した回転灰皿が置かれており、カートンも封を開けていないものが二つ置かれており、既に手遅れであった。
『せっかく禁煙をしていましたのに…』
「いやぁ、下手に大麻とかアヘンするくらいならねぇ?」
『それは一部地域じゃあ麻薬指定されていますよ。ダメに決まってるじゃないですか』
ルシエルは扉を開けてバイクに跨るスフェーンに一言申す。
「ぶっちゃけ煙草は美味い」
『…とんだヤニカスですね』
「お?言うようになったじゃないのぉ、えぇ?」
体を共有する仲で姉妹となった二人ではあるが、煙草に関してはルシエルは絶対に吸わなかった。
「まぁ良いさ、自由に吸わせてもらうけど誰かに強要したりはしないんでね」
『当たり前でしょう。そんな体に悪い物なんか…』
スフェーンはそんなルシエルの小言を流しながら散弾銃をバイク前方の革製のホルスターに突っ込んでエンジンを掛けた。
「よっしゃ、仕事完了の報告も終えたし。街に行きましょか〜」
そんな事を言いながらスフェーンはクラッチを動かして列車からホームに降りた。
入里は新たに建国された中立国家に属する中規模都市であり、スフェーンが今まで回ってきた都市の中でも特段印象に残るような都市でもなかった。
「〜♪」
音楽を流しながら信号で待っていた彼女は郊外を周回する高速道路に入ろうとした時、
「あの〜」
「んぁっ?!」
横の歩道から話しかけられ、思わず驚いた声をあげてしまったスフェーンは横を振り向くと、
「…?」
驚いた事に首を傾げる極めて古めかしいアンドロイドが自分を見つめていた。
今では古い電光掲示板タイプの顔全体が表示される顔に、ロボットのような細身の胴体と手足。
茶色い中折れ帽に服は使い古したであろうシャツとジーパンを履いていた。
「どしました?」
するとそのアンドロイドに唖然となっていたスフェーンに、そのアンドロイドが話しかけてくると、彼女は意識を戻した。
「あぁすみません…どうかしましたか?」
咄嗟に意識を切り替えた彼女はそのアンドロイドに聞くと、アンドロイドは聞いた。
「ここの場所って分かりますかね?」
そう言い地図を指さすと、そこはこの街の運輸ギルドであった。
「えぇ分かりますよ」
そこでスフェーンは今の位置を指差し、そこからの道順を示すと
「すみません、ありがとうございます」
そう言いそのアンドロイドは歩いて去って行った。そしてスフェーンとルシエルはそんな去って行ったアンドロイドを見ながら一言。
『「スッゲェ古いアンドロイドだなぁ(ですね)」』
そのアンドロイドの画像検索を行ったルシエルが言う。
『あの型のアンドロイドは大災害以前の、最初期の頃に制作されたアンドロイドですよ』
「とんでもなく昔の奴じゃないですかやだ〜」
『逆にそんな時代のアンドロイドを今も継続して使用していると言うのは恐ろしいですね』
今の時代、アンドロイドは多くの企業がその機体を提供しており、アンドロイドもまた自分の蓄積データを、機体が破損した場合は記録データを移し替えていた。
そんな中、今の時代ではパーツすら製造していないであろうその機体を使っていたそのアンドロイドに驚きながらスフェーンはバイクを走らせていた。
「おや、さっきぶりですなぁ」
その後、買い物を済ませたスフェーンは前に立つそのアンドロイドに唖然となっていた。
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