TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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運輸ギルドから指名依頼を受けたスフェーン・シュエット。指名依頼は基本的に支払いが良いので受けない事はなかったが、ここ最近は指名依頼ばかり入って来ていたのでお断りさせてもらっていた。

金払いは悪いくせに指名依頼をして来た上に大量に入っていたので捌ききれないと思ったからだ。

 

そして最近の物流に復活の兆しがある今、久しぶりに受けようと思った矢先にこれである。

 

『今回の指名依頼は機械運送でしたが…』

「アンドロイド輸送ですか…それもめちゃ古い」

 

指名依頼をして来た人物は基本的に匿名であり、運び屋と依頼主の間には運輸ギルドが必ず割って入るようになっている。

運び屋の名前は悪用を防ぐ目的で、運輸ギルドの登録番号で管理されている。

 

鉄道管理局の傘下に属している運輸ギルド。鉄道管理局は他に鉄路郵船や鉄路・運輸支援施設建設機構、国際鉄道連盟(IRF)なども傘下に納めており、世界中の九割以上の路線を管理・運営しており、軍警とも規模で言えば対等に渡り合える組織力を持っていた。

 

そしてそんな巨大な組織であるが故に、鉄道の運行は全て管理しており。どの時間にどの列車が走っているかなどはリアルタイムで把握されていた。

 

「改めてご挨拶をさせて貰ってもよろしいですか?」

「あぁはい。此方こそ、よろしくお願いします」

 

帽子を取ってサングラスをしたままスフェーンはアンドロイドに頭を下げると、アンドロイドはそんな彼女に軽く笑みを見せた。

 

「いやぁ、行儀の良いお嬢さんだ」

 

そう言いアンドロイドはスフェーンに手を出した。コードや関節が剥き出しのカバーのないその手は機械であるとまざまざと見せつける。

 

「私めの事はトシゴローとお呼びください」

「トシゴローさんですね、よろしくお願いします」

 

そう言い少女はその手を取って挨拶をすると、付け加えて言う。

 

「こんななりですが、一応成人を迎えておりますよ?」

「おや、これは失敬。立派な女性でありましたか」

 

トシゴローは軽く笑ってスフェーンを見ると、彼女はトシゴローを連れて運輸ギルドをバイクを押して出る。

 

「留置線に列車は停めていますので…」

「歩きますか?それとも私が後ろに乗ればよろしいでしょうか?」

 

トシゴローはスフェーンに聞くと、少し考えた後にバイクに跨った。

 

「後ろ向きでも大丈夫なら」

「私の心配は御無用です」

 

そう言いトシゴローは慣れた手つきでバイク後部に後ろ向きに座ると、荷物置きの端を掴んでいた。

 

「しまったぁ、サイドカーにすれば良かった」

「この方が戻ってくる手間がなくて良いでしょう」

 

トシゴローはスフェーンの気遣いにそう返すと、エンジンをかけてスフェーンは走り出した。

 

「落ちないです?」

「えぇ、昔はこうやってヒッチハイクを頼んで乗せてもらったものです」

 

トシゴローはそう言うと、後ろに背中合わせで乗っている現状にスフェーンは苦笑しつつも、留置線のホームの坂を登る。

この操車場は留置線に高床式ホームがある優しい場所であり、荷物の出し入れが比較的容易にできた。

 

「これが君の列車かね?」

「えぇ」

「運び屋でカーゴスプリンターとは珍しい」

「まぁそうですよね〜」

 

基本的にカーゴスプリンターは運送業者が使用する車両であり、運び屋というのは機関車を一両保有し、レンタルで貨車を借りるというのが一般的である。

 

「元々、譲り受けたものなので」

「なるほど、長く使われてきたと言うわけですね」

 

そう言いながら停車している九両編成の列車を前にトシゴローは感心した様子で眺めていると、

 

「今回の依頼なら旅客便を使っても良かったのではありませんか?」

 

ガレージにバイクを収めながらスフェーンは言う。

今回の指名依頼は機械運送の依頼であるが、運ぶ荷物はアンドロイド。普通なら旅客便に乗る方がずっと安いはずだ。

 

「いやはや、私はヒッチハイクの要領で私は街から街へと旅を続けているものでしてね」

「…よくそんな体でここまで生き残りましたね」

「はははっ、自慢のボディーですとも」

 

トシゴローはそう返すと、スフェーンは今回の指名依頼を行ったアンドロイドにガレージから車内に案内する。

 

「どうぞ、一応土足厳禁ですので」

「おや、旅客キャビンに私をあげますか」

「えぇ、機械油で中をべったり汚さなければ」

 

そう言い油圧で動く脚部などを一通り確認すると、トシゴローは言った。

 

「はははっ!であるなら、私はガレージにいた方が宜しいでしょうな」

「…そうですか」

 

自分の欠点すら笑いのタネにしているトシゴローを前にスフェーンは彼の要望を受け入れた。

運ぶ機械類にコンテナは無く、トシゴローは身一つでスフェーンに指名依頼を出していた。

 

「充電器具は?」

「こちらのコードです」

 

そう言い、トシゴローが背中から取り出した一本のケーブル。今時珍しいケーブル充電式であり、スフェーンはその充電口が列車とキャビンを繋いでいるのと同じだと直ぐに判別すると、そのケーブルをガレージ端のコンセントに指差した。

 

「ここで充電はして」

「ありがとうございます」

 

トシゴローは頭を何度も下げてケーブルをコンセントに差した。

 

「すみませんが、いくらか依頼を受けてから出発しますので、少々お時間を頂いても宜しいですか?」

「えぇ、構いませんよ」

 

時間にルーズな様子で返したトシゴローにスフェーンは感謝しながら帽子を取ってキャビンの方に消えて行った。

 

『恐ろしく古い機体です。検索結果を行ったところ、アンドロイドが生産された初期の頃の機体ですね』

「大災害の数百年も昔の機体?恐ろしいわね」

『下手しなくともキンバレー宣言以前より生産されていた機体ですよ』

 

キンバレー宣言とは、大災害以前にアンドロイドの地位向上のために自らをダックス・キンバレーと名乗ったとある子育型のアンドロイドが行ったアンドロイドの為の人権宣言である。

すでに世界中に人工的に創造された機械生命体であったアンドロイドの奴隷的搾取からの解放という名目で高らかに掲げられたその宣言は、後に人とアンドロイドの緊張を作り出した。

 

しかし、ダックス・キンバレーの徹底した平和的非暴力運動により次第にその行動に感化された人々も加わった事でアンドロイドにも人権が認められるようになり、新たに公民権法が制定されるに至った。

世界で最も成功した人権獲得運動であるとも称されたキンバレー宣言は今もトラオムに強く根付いており、当たり前のようにアンドロイドには人権が与えられていた。

 

「古っ、よく乗り換えなかったね」

 

このキンバレー宣言の中にはアンドロイドが作られた命であっても、生命としての尊厳を獲得するために『寿命』を求める事も記されていた。

そのため、キンバレー宣言以降に製造されたアンドロイドには、人間と同じ一四〇年の人工的な寿命が与えられる事となった。

 

アンドロイドに個性が備えられ、人と変わらぬ生活を送っていたアンドロイド達はデータを移し替えることで体の乗り換えも容易にできるように設計されていた。

 

『パーツもとっくの昔に製造は終わっています』

「テセウスの船見たくなってそ〜」

 

そんな事を言いながらタブレットで依頼受注を行うスフェーン。

運輸ギルドからの受領確認の通信が入ると、スフェーンはそこでガレージに戻るとそこで充電中のトシゴローに話しかける。

 

「依頼受注しました。少し揺れますよ」

「わかりました」

 

直後、列車の前照灯が点灯。軽く汽笛を鳴らした後に列車が動き出す。

 

「おっと」

「なるほど、制御運転ですか」

 

スフェーンが目の前に立っているのにも関わらず列車が動いていることにトシゴローは慣れた様子ですぐに聞くと、彼女は頷いた。

 

「よく分かりますね」

「はははっ、これでも長生きなものでしてね」

 

トシゴローは少し笑みを見せながら返すとスフェーンはそこでトシゴローに聞く。

 

「しかし随分と古いボディーですね」

「はははっ、もう予備パーツもないので最近はなんとか最新のものと交換しながら使っておりますとも」

 

そう言い愛着の湧いた様子で自分の腕を軽くさする。

 

「油圧も、もう最新のものに変えてから長くなってしまいました」

 

トシゴローはそう言うと、列車は積卸線に入線し、そこで停車をすると依頼を受けたコンテナが次々と積み込まれていく。

 

「今回の目的となる場所までに数回停車をします。あと、それほど旅客運用には慣れていないことも留意してください」

「えぇ、分かっていますよ。これもヒッチハイクの楽しみでもありますしね」

 

トシゴローはガレージに座って軽く笑って返すと、コンテナを積み込んだ時の特有の揺れがガレージで感じる。

 

「…随分慣れていますね」

「えぇ、人生経験は人一倍豊富と自負していますとも」

 

トシゴローは自慢げに返すと、コンテナの積み込みが完了し、列車の運行許可が降りるのを待っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

サブラニエの先制攻撃により始まったパシリコとの戦争。

大災害後としてはほぼ初となる大規模な国家間戦争。

開戦より間も無く一年が経とうとしており、サブラニエ・パシリコ双方国軍は今も戦線の膠着状態が続いていた。

 

 

パシリコ共和国臨時首都 金又

エーテル・ボンバによる攻撃で市街地の四割が機能不全となったこの国家は、所属していた第二の都市である副都金又に政治的拠点を移して国家体制を維持していた。

 

『親愛なるパシリコ共和国国民』

 

多くの民衆が集い、その手にはパシリコの国旗を持っていた。

そしてスタジアム壇上にはパシリコ共和国初代大統領となったモハメド・イル・パシリコヴァが立っていた。

 

『今、この国は存亡の危機にある!』

 

そこで彼は最初から力強い声色で集った国民に中継や配信と共に演説をする。

 

『サブラニエの全体主義(トータリタリアニズム)の脅威は常に大きく、それに対する我が国軍は唯一の反抗の砦である!』

 

エーテル・ボンバの攻撃で都市そのものが破壊されたパシリコ領内では、開戦最初期に所属していた国軍部隊の三割がその被害に遭ったことで軍部隊の再編成が急務であり。人員の補給も必要不可欠であった。

 

『もし!ここで我等が敗北する事となれば!パシリコ国民が屈服すると言うのであれば!それはすなわち、世界が巨大な権威主義の前に屈服する事となる!』

 

そこで彼は堂々と国民に向けて宣言した。

 

 

 

『総力戦は刻下の急務である!』

 

 

 




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新たな依頼をピックアップ致しました。

  • 軍警のクーデター
  • 雪の田舎町
  • 抵抗する者達
  • 労働者にやさしい街
  • 水と緑の廃墟
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