モハメド・イル・パシリコヴァ大統領による総力戦演説は強烈な印象を与えて世界中に拡散された。
『我々パシリコ共和国は、経済の自由、言論の自由、表現の自由、報道の自由から人々を守るための砦として!かの残虐非道たるエーテル・ボンバによって無惨にも焼き殺された人々のためにも!我々は国民の協力が必要不可欠である!!』
この演説はエーテル・ボンバによって家族や愛人を失った人々の心に燻っていた感情に火を付ける事となった。
元より中立都市や軍警察直轄都市にまで落下したエーテル・ボンバは、いまだに動きを見せない軍警察に苛立ちを覚えていた人々にとってはまたとないチャンスであり、多くに人々がパシリコの入隊事務所に足を運んでいた。
その演説は海を超えた大陸でも当然広まっていた。
元よりこちらでもパシリコとサブラニエによる飛び地戦争は勃発しており、かつて緑化連合と企業連合に所属していた都市は結束し、国家へと変貌し、入り混じった国境線は占領と侵略を受けて徐々に落ち着き始めていた。
「やれやれ、戦争に巻き込まれるのだけは勘弁です」
「全くですよ。お陰で最初の頃はどれだけ苦労したか…」
ガレージでトシゴローとスフェーンは座り込んでそんな話をしていた。
スフェーンは近くに銃の作業台があるが為に煙草に火を付けられないので、代わりに口の中に風船ガムを入れて膨らまして遊んでいた。
「はははっ、私もあの都市で長い事拘束されてしまいましたとも」
トシゴローはスフェーンのぼやきに相槌を打って頷いており、スフェーンもそんなトシゴローに共感しか沸かなかった。
「でもまぁ、戦争もこの前の条約で確か線路と鉄道車両に戦争行為で攻撃をする事は禁止になりましたな」
「でもまぁ、こんな状況でしょうしどこか抜け道を…」
すると直後、スフェーンのタブレットから警告音が鳴った。
「あーあー…」
「襲撃ですか?」
「えぇ、恐らく行き先が問題なのでしょうね…」
そう言い、これからパシリコ共和国と同盟を結んだ新興国家である中連森林同盟に向かう貨物列車に襲撃を行って来た野盗を迎撃する為に武装が迫り上がる。
「どうせ野盗に金払った奴らでしょうよ」
「はははっ、手慣れておりますな」
タブレットを片手に視界をエーテル・カノンの照準器と接続したスフェーンにトシゴローは言う。
事実、最近の野盗と言うのは中立都市に向かう貨物列車にはあまり攻撃をしてこないと言うのが実感としてある。
「窓は閉めていますね?」
「えぇ、閉めていますよ」
確認を取ると、直後に列車から迫撃砲やCIWSの射撃が加わって列車に独特の振動と轟音が響く。
「おぉ…」
襲撃した野盗団はオートマトンや装甲車で構成された混成部隊であり、いかにも野盗らしい身なりをしていた。
『加圧エーテル充填、薬室内圧力上昇』
そして迫り出した武装の一つ、長砲身を展開してその奥から光が溢れる。
『発射』
そしてその砲身から眩い光線が射出されると、荒野に一本の光線が発射され、襲撃をかける野盗団を灼く。
金属は消滅し、持っていた弾薬が余波熱でクックオフを起こし、引き金を引かずとも自動的に自動小銃が発射される。
『くそっ!レーザー兵器か!』
『どんな出力のレーザー兵器だよ!?』
ルシエルのお陰で一瞬で解読された無線を聴きながら、スフェーンはCIWSのミサイルを発射する。
熱源探知のそのミサイルは発射され、煙を引きながら生き残った一台のオートマトンに命中する。
『ぐあぁっ!』
流石にジャックを行うのは余人の目がある前でやるのは問題大有りなのでしていなかった。
『くそがぁぁぁあああっ!!』
直後、バズーカ装備の生き残ったオートマトンがその引き金を引いており、CIWSで迎撃した流れ弾がそのオートマトンに当たって破壊された。
「ぬおっ!?」
しかし発射されたバズーカは運良く掠れたものの、爆発の衝撃波で五両目の台車が浮き上がってしまい、
「わぁった!?」
そのまま線路から台車がずれてしまった。
ルシエルは緊急ブレーキをかけて列車を停車させた事で長く滑り続ける。
「掴まれぇ!!」
「っ!!」
そこでスフェーンとトシゴローは列車にしがみついて脱線した列車が安全に止まる事を祈る。
戦闘中に速度を時速一〇〇キロに落としていたのが幸いしたか、はたまた台車が一つずれただけなのか、列車は順調に車輪から火花を垂らしながら速度を落として本線上の路線で停車した。
「た、助かった…」
「ふぅ…」
列車全体が静かになり、そこでスフェーン達は安堵していると、そこで直ぐにスフェーンはガレージに置いてあった
「ちっ…やっぱりか!」
そしてそこで荒野をこっちに向かってくるオートマトンを見てスフェーンは消火器改造の炸薬たっぷりの弾頭の引き金を弾いた。
「っ!?」
強烈なバックブラストがガレージの両方開いた扉を貫通して行き、トシゴローはやや驚きながらその様子を見ると、遠くでは真正面からロケット弾の攻撃を受けて爆発するオートマトンが見えた。
「来れるもんなら来てみやがれってんだぁ!この野郎!!」
今の彼女は列車を脱線させられ、その分の修理費で今回の仕事の報酬がパァになる計算に腹が立っていた。
「死んで詫びろやぁ!!」
「あっ、ちょっと!!」
そこで飛び出して行ったスフェーンにトシゴローは驚いて声を出そうとしたが、既に彼女の姿はそこに無く。散弾銃とロケットランチャーを持ってオートマトンに射撃を加えていた。
『うおっ、何だこいつ!?』
『馬鹿が!死にに来やがったか!?』
スフェーンの行動に野盗達も驚きはしたが、持っていた自動小銃を向けて迎撃をしようとした。
しかし直後、彼女の身体は透明になって消えた。
『なっ…!?』
『光学迷彩だ!気を付け…』
直後、そのオートマトンの首元から巨大な爆発音が閃光とともに上がると、中の機器類やコードが散弾となってコックピットを血祭りに上げ、その直後にもう一方のオートマトンは破壊されたオートマトンの腕部を縫うように飛んだ小さな影を見た。
『こいつっ!!』
オートマトンはその見えた一瞬の影を頼りに射撃をしたが、すでにそこにその少女の姿はなく、代わりに自分の機体の頭からロケット弾が走っていた装甲車に命中すると、爆発の威力で派手に装甲車は横転して荒野の地面に埋める。
『くそっ!サイボーグかよ!』
そう叫び、光学迷彩を使った時の距離からここまで到達した時間を考えて少女の正体を予想すると、空いていた片方の腕部を頭にやる。
『死ねぇっ!!』
機体からはたき落とす勢いで腕部を回したが、上に立つ少女は軽々と上に飛んで逆にその腕部の手の上に乗っかる。
『このぉっ!!』
そしてそのオートマトンの上で腕を動かしながら少女と格闘する野盗。
その間に装甲車から飛び降りた野盗は持っていた銃で照準を合わせるが、
ダァンッ!!
発射された散弾が命中し、身体中にスチール小球が命中する。
「ぎゃぁぁぁぁああっ!!」
そしてレバーを押して片手で回して排莢、装填をした後に引き金を弾く。これでもう一人。
「このっ…!!」
オートマトンの腕部と遊んでいる事で照準が定まらず、終いには乱射し出すのを横目にスフェーンは銃口をオートマトンの手首に合わせると、引き金を引いて中のケーブルを寸断させた。
『なぁっ!!』
すると彼女はオートマトンの胴体に降りる。
「ポチッとな」
そしてそこで胴体下の赤いカバーで覆われた蓋を叩き割ると、
バシュゥゥゥウウッ!
「うわぁぁぁああっ!?」
緊急脱出装置が働いてパイロットが天高く射出された。
「たーまやー」
パラシュートが展開したのを確認し、地面に降りたスフェーンはそこで再び光学迷彩を起動する。
「おっ、お助けぇ!!」
そして燃え盛るオートマトンや装甲車を前に生き残った野盗達は恐れ慄いて残った装甲車にしがみつくように乗り込んで逃亡をしていた。
「…ふぅ」
そんな景色を前にスフェーンは散弾銃のレバーを倒して装填を終えると、地面に着地した野盗の生き残りに銃口を向けた。
「お前…」
「さぁどうする。このまま頭吹っ飛ばされるか、大人しく豚箱に入るか」
「…後者でたのむ」
大人しく降参した野盗の男は両手をあげてそう答えた。
その後、大人しく拘束された野盗を、通報を受けて駆けつけた軍警に放り投げて、脱線した場所の閉塞を鉄道管理局に通報したり、救援車両を要請したりして必要な作業をしていたら時間は夜になってしまった。
「やれやれ、飛んだ災難ですなぁ」
「全くだよ。後で捕縛金が出されるらしいけどさぁ」
そう愚痴りながら自分の脱線した五両目を見るスフェーン。幸いにもこの車両以外で脱線はしていないので復旧作業もすぐに終わりそうであった。
「救援車両が来るのは明日になるってさ。だいたい半日くらいかしらね」
「なるほど、それまで私たちは動けないと言うわけですな」
トシゴローにスフェーンは頷くと、申し訳なくなりながら言う。
「すみません。目的地に着くのが遅れてしまいます」
「あぁ、構いませんよ。時間はたっぷりありますからね」
トシゴローはそう言い、気にしていない様子で脱線した列車の側に降りる。
「ふぅ…」
そこでトシゴローは空を見上げると、そこで相変わらずのエーテルで覆われた空を見上げるとスフェーンに提案をした。
「スフェーンさん、今夜は外で休憩しても構いませんか?」
「え?えぇ、まぁ…どうぞご自由に」
スフェーンはトシゴローに首を傾げながら返すと、トシゴローは列車近くの線路脇の大岩の前に座り込む。
「…」
そしてそのままトシゴローは持っていた数少ない荷物である工具箱を開くと、自分の足の整備をし始める。
「大丈夫?」
「えぇ、自分の体です。分からない不具合はありませんよ」
トシゴローはそう言い、剥き出しの足の油圧系を確認する。
「埃がつくわよ?」
「多少汚れてても動くと言う物ですよ」
そう返して雑な様子でトシゴローが整備をしている横で、スフェーンは外に出て久しぶりに野外飯の準備を始めていた。
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