TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#163

本線上の路肩に停車したスフェーンの列車。

野盗の襲撃で脱線をしてしまったスフェーンの列車は、救援列車が到着するまでの間、荒野の一角で待ち続けるしかできなかった。

 

「〜♪」

 

エーテルた降り注ぐ空の下、久しぶりに取り出したガスコンロの横で、辛うじて生きていたエーテル機関のおかげで冷蔵庫の中身を慌てて消費する必要もなかった。

ガスコンロの上には一人用の大きさの土鍋が置かれ。その中にスフェーンは水を張って昆布を投入していた。

 

カチッ

 

火を付けて中火にてしばらく放置、沸騰して昆布の滑りが出る前に菜箸で掴んで昆布を取り出すと、次に煮立つまで待機。次に鰹節を投入。

一煮立ちをしたら火を止めてアクを掬い、ある程度煮出した後にボウルに網とキッチンペーパーを敷いた上に土鍋を傾ける。

これで出汁ができあがれば、次に薄口醤油と酒を投入。だし汁を整える。

 

そして次に冷蔵庫からパック詰めの松茸を取り出す。

遥か昔は高級品だったそうだが、最近はそこら辺の八百屋でお手頃価格で販売されていた。

 

「…」

 

一本ずつ手に取って濡らしたキッチンペーパーで汚れを拭き取った後にナイフで切る。

 

そしてナイフで切ったものをそのまま土鍋に投入し、あらかじめ軽く炒っていた銀杏を投入。これ意外は何も入れない。

その上から先ほど作っただし汁を戻して再び火をつけてそこに蓋を落とす。

 

そして土鍋の穴から蒸気が噴き出るのを待った後に最後に三つ葉を加えて再び蓋を閉じで数分待機。

その間に食器棚から猪口を茶碗を持ってきてお玉を用意する。

 

「これでは土瓶蒸しではなく、土鍋蒸しですな」

 

その料理の正体に整備を終えて焚き火をしていたトシゴローが言った。

 

「ぶっちゃけ横着しまくってますよ」

 

そう言い、おおよそ原型の料理とはかけ離れたその見た目にスフェーンは美味ければ良いの暴論で鍋蓋を取って火を止めた。

そして中身の出汁をお玉に掬って茶碗に流した後、銀杏と松茸、三つ葉を箸で掴んで茶碗に入れた。

 

「いただきます」

 

そして今日の夕食に手を合わせた後にだし汁を一口。

 

「っ、かぁ〜…」

 

そして出汁でとった鰹と昆布の奥から現れる醤油と、圧倒的な松茸の香り。

後から銀杏の独特な風味が抜けた後にスフェーンは一言。

 

「美味ぇ〜」

 

そして次に松茸を箸で掴んでかけらを一口で、

 

「…」

 

松茸のコリッとした少し硬めの食感。そしてまだ残っていた松茸特有の芳醇な香りが漂う。

 

「ふぅ」

 

そして一息吐いた後に次に銀杏を一つ。

 

「…」

 

銀杏を噛むと、とこで特有の銀杏の豆や芋とも違う水気のある食感。

 

「塩〜」

 

そして柔らかい塩味が程よく茹でられた銀杏とマッチしていた。

 

「あぁ〜、最高」

 

思わずそう呟いてしまうと、スフェーンは片手に清酒の入った小さい酒瓶を取り出して一本傾けていた。

 

「ぷは〜!」

 

軽く息を吐いて満足げに頬を緩ませていると、

 

「幸せそうですなぁ」

 

そんな彼女にトシゴローも微笑ましげに見ていると、

 

「あっ、トシゴローさん。こいつ要ります?」

 

そう言って彼女は清酒の入った酒瓶を見せるが、

 

「はははっ、生憎。私は酒が飲めなくてですね」

「へぇ〜、アンドロイドに下戸ってあるの?」

「いえ、構造上の問題ですよ」

 

そう言い、トシゴローはスフェーンの隣に座る。

 

「私の体はキンバレー宣言以前に作られた機体ですのでね。娯楽品であるアルコールは頂けないのです」

「…へぇ」

 

そこでスフェーンは改めてトシゴローの過去が少し気になった。

 

「どんだけ古い機体使ってんですか」

「はははっ、それこそ数百年単位でですかね」

「は…?」

 

さらりと言った彼の言葉にスフェーンは一瞬固まった。

 

「数百…年?」

「えぇ、私の本名は三菱重工業製1型アンドロイド。製造ナンバー000056です」

「…」

 

そう言い、トシゴローはスフェーンに言う。

 

「スフェーンさん、一つ依頼をしてもよろしいでしょうか?」

「ほぇ?」

 

そこで彼は言った。

 

「私を殺してもらえませんか?」

 

直後、焚き火の薪がパチンと弾ける音が聞こえた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…」

 

拘置所の一つ、時折治安官のアンドロイドが巡回の為に柵越しにこちらを見てくる。

 

カツン…カツン…

 

ここは軍警察管区本部、ここら辺では最大の大きさを誇る施設である。

日の出も直近のこの時間、徹底管理された空調の一定に保たれた快適温度の拘置所では多くの逮捕者が勾留されていた。

 

大半はすぐに司法局の検察官に引き渡してそっちの方で起訴するかどうかの判断になっており、一週間以上の勾留は原則禁じられていた。

 

「…」

 

そして一番奥の部屋に到着すると、そこで治安官は覗き窓を開いて中を見る。

この部屋は所謂企業の役員や重要人物を勾留する際に用いされる特別室であり、一般的な牢屋よりも充実した設備が整えられていた。

 

そして充実した部屋であるが故に長期間滞在する事も可能であり、窓は狙撃を防ぐ目的で光学迷彩を用いたデジタル式の窓である。

 

そしてその部屋では一人の男が今も勾留されていた。

 

「…」

 

治安官は付けていた腕時計を確認すると、そこで留置所に数名の治安官が現れた。

 

「早いな」

 

その治安官は言うと、虎の獣人の治安官は言った。

 

「あぁ、上層部からせっつかれたようだ」

「難儀だな」

「俺たちの仕事じゃないからまだ良いけどな」

 

そう言うと、アンドロイドの治安官は鍵を持ってその部屋の扉を開けた。

 

「っ…何かね?」

 

その音にすぐに勘付いた部屋の主であるジェローム・サックス。

世間一般ではブルーナイトと言う名で知れ渡っている男であった。

 

「早朝に申し訳ありません。至急、再度の事情聴取を行わせていただきます」

「…悪いが、話せることは話したはずだぞ」

 

ブルーナイトはそう言い、ベッドから起き上がる。

今の彼はパジャマを着ており、治安官の監視の元でスーツに着替えるとそこで治安官に囲まれたまま留置所を歩く。

 

「…」

 

その途中、留置所にいて、ブルーナイトを知っている者達が早朝の治安官達の動きで静かに連行されていく彼を見ていた。

 

「おい!」

 

するとそこで一人の逮捕された、恐らく傭兵であるだろうその男がニタニタと薄汚い笑みを見せながら聞いた。

 

「相棒殺しは本当なのか?えぇ?」

「…」

 

しかし済ました顔で何も返さないブルーナイト。

 

「貴様っ!」

 

すると一人の治安官がその傭兵を怒鳴ると、彼はそのまま悪びれた様子もなく牢の奥に戻って行った。

 

「行きましょう」

「えぇ」

 

そこで澄ました顔をしていたブルーナイトにその傭兵は面白くない表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「早朝にお呼び出しして申し訳ありません」

 

そう言い、取調室にてブルーナイトにロトは開口一番言った。

 

「いえ、私は全てなされるがままに動くだけですよ。マルツ大尉」

 

そう言い、今はマルツ・ヨシュカと名乗っているロトに言うと、彼は薄く笑みを作って鼻で笑った。

 

ロト・フランツェは、アンジョラの経営する孤児院で育った元スラム街の孤児である。

フランツェ孤児院はブルーナイトとレッドサンの資金提供の後に作られた民間の孤児院である。

主に暮らしているのはブルーナイトや赤砂傭兵団がスラム街から拾って来た子供達であった。

 

そしてそんな孤児院で育ったロトは、この事件の担当治安官には成りずらかった。

理由は簡単で、自分の育った孤児院はブルーナイトも協力しているから。彼に対しどこかしらで甘えが出る事を警戒するのは当然の話であり、のちに捜査資料が公開された場合の事を考えると好ましくなかった。

 

しかしこの事件には特段やる気を見せていたロトとライルは新たに一人の治安官の登録情報を作っていた。

無論、これがバレれば減給と降格処分となるが、軍警察が誇る情報部の行動に身内でさえもその詳しいからくりを解明するのは難しいと言えた。

 

「…参ったな」

 

資料を片手にライルは少し頭を抱えていた。

ブルーナイト、本名ジェローム・サックスの逮捕に踏み切った要因は、逮捕状を請求したロトに聞かなければ分からない。

 

「本人は殺人を認めちまった…」

 

資料には今まで長時間行ってきたブルーナイトとロトの事情聴取のレポートもあり、そこには彼がアイリーンからの依頼を受け、自分がレッドサンに銃口を向けた事を話した事が綴られていた。

 

「幾分、証拠も出揃っちまったな…」

 

そう言い、大穴の空いたロート・フォッカーと破壊されたアイリーン所属のオートマトンとターレット。

そして彼の証言があれば事件として起訴は確実となってしまった。

 

「黙秘権を行使してくれれば良かったものを…」

 

そうぼやき、ライルは情報統制に奔走している日々に文句を大声で叫びたくなる。

 

「これでは傭兵ギルドの信頼が落ちるぞ…」

 

相棒殺しの犯罪者として司法局で判決が下されれば、彼の創設した傭兵ギルドの信用はガタ落ちとなる。

そうすれば、せっかく線引きのされた傭兵と犯罪者がまた混ざり合ってしまう。傭兵業が産業として成り立たなくなってしまう。

特に戦時下である今、そのような事態が起こって仕舞えば今の混沌とした状況がより地獄の様相を呈してしまうことになる。

 

「ちっ…余計な事してくれやがって」

 

彼はコイーバを一本取り出して火を付ける。

 

「はぁ…ロトは任せろと言っていたが、何を奴と取引するつもりだ?」

 

上層部と何度も話し合いをしているライルは、そこで上層部からせっつかれた命令を受けてロトと話し合いをしていた。

世間はブルーナイトの逮捕よりも連日の戦争に注目が入っているが、一部の大手はネタを掴もうと今も懸命にこの管区本部の前に張り付いていた。

 

「少なくとも今の傭兵業は大きな問題がなくて良さそうだったが…」

 

そう言いライルは退任直後に逮捕されたにも関わらず、今日も平常通りに営業を行っている傭兵ギルドに安堵の息を漏らしていた。

そこで一旦大きく煙を吐くライルはそのまま天井を見上げる。

 

「しかし戦争か…」

 

そこで開戦直後に行われたエーテル・ボンバの集中運用の事を思い出す。

 

「製造されたエーテル・ボンバは四四発…。使われたのは四一発…か」

 

少し険しい顔を浮かべてライルは呟く。

 

「成果出せよ、ロト。…お前の引き出した条件次第で戦争は動くぞ」




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