TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#165

深夜、焚き火を前にトシゴローは言う。

 

「サブラニエはエーテル・ボンバという強大な力を前に勝利を確信し、短期決戦のために打ち込んだに過ぎません」

「おおぅ…」

 

いきなりの爆弾発言にスフェーンは思わず驚いてしまうが、ルシエルがそこで言う。

 

『トシゴロー氏の視点は経験に基づいた保守的な思考ですね』

「(いやぁ、どんな思想でもぶっちゃけすげぇよ。ここまで生きてんだから)」

 

そんな事を言いながらスフェーンはトシゴローの話を聞いていた。

 

「この戦争は確実にサブラニエが負けます」

「ほぅ、その根拠は?」

 

スフェーンははっきり言ったトシゴローに聞く。

 

「当初の予定が崩れた軍隊や歩調の合わない国家は必ず敗北しているからです」

 

そう言い、トシゴローは今まで人類が歩んできた歴史を前に言う。

 

「中世紀の頃、第二次世界大戦で敗北したナチス・ドイツや大日本帝国の主な敗因は準備不足と軍部の歩調を合わせられなかったからです」

「ふむふむ」

 

スフェーンは知識の山の中から今出てきた単語を羅列して頷く。

 

「まぁ…他にも憲法や独裁が悪かったりと様々敗因はありますが、後者は陸軍と海軍の歩調が合わせられなかった事で最後には二発の原子爆弾を落とされ、近隣の大国の参戦と言う四面楚歌となって終結しました」

 

トシゴローは自分もまだ生まれていない頃の歴史を語りながら地面に指を立てて絵を描く。

 

「基本的に入念な下準備と、各種組織の足並みをそろえた組織が戦争の勝敗を分ける事となります」

「ほぅ…」

 

そこでトシゴローは地面に二つの円のベン図を記す。

 

「今のサブラニエは、パシリコとの戦争をエーテル・ボンバを頼りにしていました」

 

そこで一つ円を描き加えて三つ円のベン図となる。

 

「確かに一発の弾道ミサイルで都市一つを破壊できる脅威的な威力を持っており、事前の作戦通り今の大統領を殺害できれば戦争はすぐに終わった事でしょう」

 

そして三つの円のベン図を前にトシゴローは言う。

 

「しかし結果としては、大統領は生存。戦争は長続きして戦線は伸び切っている。計画はまるで失敗している」

 

今のサブラニエとパシリコの国力差は一:二.五、あれほどの虐殺を行なってもそれくらいしか全体では変わらなかった。

 

「今、パシリコが積極的攻勢に出ていないのは…恐らくまだエーテル・ボンバが残っているからでしょう」

 

そこでベン図を前にトシゴローは中心のすべての事象が合わさる場所に指をたてる。

 

「国家の戦争勝利というのは幾多もの事象が重なり合って初めて大成されるというもの…エーテル・ボンバに依存して敵の補給線も直接叩けず。自軍の兵士の腹を満たすだけで一苦労している現状ではとても勝ち目はありませんよ」

 

トシゴローはそう言い、土鍋蒸しを食べ終えて酒を飲むスフェーンを一瞥した。

 

「まぁ前提として…」

 

そしてそこでトシゴローはベン図を掻き消しながら言う。

 

「軍警察を敵に回して生き残れるとも思えませんよ」

「…やっぱ異常だよ、あの組織」

 

そう言い全てのちゃぶ台返しができてしまう軍警察と言う巨大軍事組織にスフェーンは苦笑するしかなかった。

そしてトシゴローの戦争観の話が終わると、また話題を変えた。

 

「スフェーンさん」

「ん?」

「アンドロイドと人の差とはなんだと思いますか?」

 

トシゴローの問いかけにスフェーンは再び一考する。

 

「アンドロイドと人の相違…かぁ」

 

そこでスフェーンはパッと思い浮かんだ事を口にする。

 

「生まれが工場か人の子宮?」

「それもありますな」

 

トシゴローは頷くと、そこでもう一つの答えを出す。

 

「一番分かりづらい差異は、恐らく思想でしょう」

「思想…ほぉ」

 

するとトシゴローは言う。

 

「私達アンドロイドという存在は、インターネットと常時連結して生きています」

「うん」

「そして全ての情報を取捨選択する事で個性を見出しています」

「そうね」

 

スフェーンは頷くと、トシゴロー続ける。

 

「アンドロイドと言うのはそんな『過去の歴史』を見て育つ人間ですので、どうしても思考の根底は保守的なものとなります」

「…ほぅ」

 

トシゴローの独特な考えにスフェーンは焚き火で煙草に火をつけた後にトシゴローに近づいて話を聞く。

 

「事実、過去にアンドロイドが市長に当選した時。人々が求めていたのは保守的政策でした」

「…まじか」

 

そんな事を一回も気にした事なかったスフェーンは驚いていると、

 

「マジです。まぁこんなこと気にする人はほぼいませんけど」

 

トシゴローもスフェーンの反応には理解しており、軽く頷いていた。

 

「…歴史家として売り出たら儲かるんでね?」

「私にそこまでやる気力はありませんよ」

 

トシゴローは苦笑気味に言うと、スフェーンはわざわざ殺してくれと言ってくるようなアンドロイドがそんな事しないかと納得した。

 

「そしてそこが人と大きく違う点です」

 

そう言いトシゴローはそこで人の忘れると言う行為に憧れたと言う。

 

「忘れると言う人の防衛本能は、時として社会の発展も促す原動力であると考えているのです」

 

そう言いトシゴローは持論を話す。

 

「アンドロイドには全てを把握する能力が備わっており、インターネット上に広がっている情報を参考に行動をしますが、インターネットと完全に隔絶することのできる人という存在は、時に突拍子もない考えを生み出したりすることができます。恐怖を忘れ、危険であっても未知に一歩踏み出せる能力がある」

「…大体そういうのは戒めになる気がするけども」

「それでもです。前例を作るという偉大な功績を人は残せますからね」

 

トシゴローはそう言い、今までアンドロイドが歴史に名を刻むというのは『アンドロイド初』というものばかりで『人類初』はほぼ無い。すでに人が足跡を残した後を追っているに過ぎないと言った。

 

「我々アンドロイドの育成方法というのは、過去に他のアンドロイドがデータとして残した記録を元に己に改造を加える手法です。その際、見るのは未来ではなく過去のみ。未来を見ないが故に、我々の根底には過去を重要視する保守的思想で固定されてしまう」

 

故に人との線引きができたと、トシゴローは言った。

 

「人が踏み出した一歩を、我々は見届ける事しかしていなかったのです」

 

そう言い、トシゴローは焚き火を前にそう語った。

 

「アンドロイド…人に生み出された人工知能にとって、死の定義は己のデータが消えることと今の社会は言い、完璧なコピーを前に二つある同一の個性の認識は今のところ出来ていない。なぜなら互いにそれをエラーと判断して削除し合うからです」

 

そう言い、アンドロイドの死刑の一つであるブレインコピーを口にする。

 

「…そもそも人とアンドロイドで死生観はまるっきり違うでしょうに」

「ははっ、それもそうですな」

 

トシゴローの言わんとする事をスフェーンは察して先に言うと、トシゴローは軽く笑った。

 

「だからこそ、貴方は人であってアンドロイドではないと断言できます。貴方には未来を見る力がある。保守的思想に囚われることなく、歩き続けられる」

 

そう言いトシゴローはスフェーンを見つめる。

 

「私とはまた違った生き方をする事でしょう。私と違って忘れる事もできますから」

「忘れる…ねぇ」

 

そんなトシゴローの話にスフェーンは吸っていた煙草を一回大きめに吸って吐くと、

 

「忘れない事もまだ大事な事だと思うけど?」

「確かに、過去の愚行を繰り返さないといった戒めとしての意味合いで忘れないと言うのは重要です。しかしあくまでもそれはそれら悪行を具に見た当代の中で決められた約束であって、次代に引き継ぐ意味はあまりないと思います。事実、受け継がれた『戒め』は必ず『呪い』となって人々を拘束しています」

 

トシゴローにそう返されると、スフェーンは吸い殻となった煙草を焚き火に放り投げる。

 

「まあトシゴローさんの言っている意味も分からなくはないですけどね」

 

そう言い、彼女は土鍋やガスコンロを片付け始める。

 

「では貴方がトラオムに来たのはその保守的思想からですか?」

「…」

 

その一言でトシゴローは一瞬黙ってしまう。

 

「地球で生まれたアンドロイドで、保守的な思想を持っていると言うなら。どうしてトラオムなんかに足を運んだんですか?」

 

片手に空になった酒瓶を持ってスフェーンは言うと、トシゴローに言う。

 

「アンドロイドと人は違うと言っていますけど、ぶっちゃけ私はそこに差異はないと思っているんですよね〜」

 

そう言い彼女の瞼には傭兵時代に肩を並べて抗争に参加していたアンドロイド兵達を思い浮かべる。

戦闘を終えて勝利した暁に酒場で酒を酌み交わして馬鹿やって店を破壊して、店主に揃って賠償するまでがテンプレだった。

今となっては過去の記憶となってしまったが、良い思い出であった。

 

「…では私は人だと思いますか?」

 

トシゴローは恐る恐る聞くと、振り返ったスフェーンは言った。

 

「いいえ?トシゴローさんは限りなく人に近いアンドロイドだと思いますよ。強いて言うなら…

 

 

機械の人と言ったところでしょうか?」

 

彼女はそう言うと、ガレージを登って車内に戻って扉を閉じた。残ったトシゴローは焚き火を前に呆然と座り込んでいた。

 

 

 

 

 

その後、片付けをスフェーンは列車の運転室の方から降りてくると、トシゴローに近づいてくる。

 

「ふぃ〜、終わった終わった」

 

夕食を終え、救援列車が出てくるまで数時間。深夜のこの時間もまだ起きている彼女に、トシゴローは今更ながらな質問をした。

 

「ところで、こんな空間エーテル濃度の高い場所で良く平気で食事が取れましたな」

「いやぁ、ぶっちゃけエーテル病にはならないんでね。この体」

 

スフェーンはそう言い、焚き火に追加で木炭を投入した。

 

「…完全サイボーグですか?」

「にしちゃあ声綺麗すぎるでしょう?」

「…つくづくよく分からない人だ」

 

トシゴローはそんなスフェーンに思わず言ってしまうと、彼女はトシゴローの隣に座り込んだ。

今時は贅沢の一つともなったこの焚き火。トシゴローはこんな焚き火が贅沢にならない時代を知っている生き字引だ。

 

「貴方の記憶を是非とも見てみたいわ」

「はははっ、私の記憶を見る事ですか」

 

数百年の時を生きたトシゴローは笑った後に焚き火を見る。

 

「…到底、人の処理能力では焼き切れてしまう事でしょう。下手しなくとも死にますよ?」

 

そう言い、スフェーンがやろうとしている行為に苦言を呈した。

 

「共倒れになられては私も困ります」

 

トシゴローはそう言うも、スフェーンは自信ありげに返す。

 

「私、これでも自信はあるのよ?」

「…」

 

するとスフェーンは提案する。

 

 

「どう?トシゴローさん。貴方の蓄積した記憶を私にくれない?」

 

 




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