TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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十両
#167


エーテル・ボンバは世界に壊滅的な被害を齎した。

 

世界中に宣戦布告と共に放たれたその爆弾は着弾した都市に壊滅的な被害を齎し、同時に爆発的にエーテル患者を発生させて様々なエーテルに関連した現象を生み出していた。

 

「ママ?」

「ん?ちょっと待っててね」

 

自分の傍で使い古した服の袖を掴んで見上げた娘は、痩せて久しい顔をしていた。

母親である彼女はそこで空を見上げると、そこでは青々とした蒼穹が広がっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

整備されていなくて久しい路線。その上を路線の復旧資材を山積みにした十両編成の列車が走る。

 

『間も無く目的地です』

「りょーかい」

 

今回運んでいるのは大量の軌道スラブ。戦争で破壊された路線の復旧工事の為に使われる。

 

『途中で寄り道ですか…』

「まぁまぁ、その方が私たちにとっちゃメイン行事だし」

 

そう言い、視界の先に見えてきた都市を見る。

 

『間も無く、フルシバリョークです』

「…」

 

サングラスをつけたまま帽子を被り直したスフェーンはその都市のドミノ倒しの様に倒れたハイパービルディングを見つめていた。

 

フルシバリョークはエーテル・ボンバの攻撃に遭い、早々に放棄された都市であった。

都市周辺に落着したエーテル・ボンバは全て起爆。都市の八割が壊滅的被害を受け、生存していた住民も早々に救援列車に乗り込んで逃げていた。

 

『かつてフルシバリョークは、運輸ギルドと軍警察管区本部が設置されていた大規模都市です』

「見ればわかるわよ」

 

そう言い速度を落として瓦礫や放棄された車両を眺める。

こんな都市に訪れたのにはもちろん理由があったが、今運んでいる荷物とは無関係であった。

 

『路線上に多数の障害物を確認。ホームへの進入は控えた方が良いかと』

「うん、そうね」

 

そこで進行方向の列車がホームに進入した瞬間に列車を停車させる。

 

「停止確認よしっ」

 

指差し確認を済ませると、そこでルシエルは一言。

 

『本当なら手前停車で反省文ものですね』

「うへ〜、そこまで厳しい会社には勤めたくないね」

 

そう言いながらWz.35を持って列車を降りるスフェーン。

自分の今の自重よりも圧倒的に大きなそれは圧倒的な火力を持っていた。

 

「さて、行きますか」

 

そこで彼女は瓦礫が崩落しているホームを見る。

電光掲示板も外れかかって吊り下がり、埃も大量舞い上がって溜まっていた。

 

「…」

 

階段を降り、下のコンコースを歩くスフェーンは窓ガラスが破られて中のものが家具以外何もない店を見る。

 

「あーらあら、略奪されてら」

『住民の退去は一年ほど前に完了していますからね』

 

事実、今も吊り下げている検測機は危険値を示す値を示しており、人が住める様な状態ではなかった。

 

「落着した場所は…」

『候補地は十箇所、都市を囲うように落着していると推定します』

「んじゃあ、まずは全景を確認してみますか」

 

スフェーンはそう言うと小銃を背中に担いだ状態で駅を歩いていく。

荒廃し切ったかつて栄華を誇った大都市の姿は見る影もなく、スフェーンの革ブーツも埃と砂を踏みつけていた。

 

「…」

 

駅の外のバスターミナルには大量の車両が乗り捨てられ、一部はボロボロの踏まれたぬいぐるみなども落ちていた。

乾いた風が吹き、枯れた木々が残され、地面の石タイルも割れ、アスファルトはあらゆる場所がヒビが入っていた。

 

『足場にはお気をつけください』

「こりゃガスマスクつけた方がいいわね」

 

流石の空間エーテル濃度の高さにスフェーンは持ち出したガスマスクを被り、レンズ越しに都市を区切るようにカーテン状に降り注ぐエーテルを見上げた。

 

「…」

 

そして駅から歩き出したスフェーンは、この都市で残っている中で最も高い場所を探す。

 

「水平…メートル、角度六十度、メートルだから…」

 

視界を合わせた先で簡単に測距を終えて、ルシエルがすぐに目の前の建物の高さを計測する。

 

『この建物の高さは一二〇メートルです』

「低いな…」

 

スフェーンはそう呟いて角を曲がった時、

 

「げっ…」

 

その先では泥水が溜まって冠水している道路があった。おそらく水道管が破裂したからだろう。かなり深そうだった。

 

「これじゃあ進めない…」

 

遠回りするかとため息を漏らした時、

 

「ん?」

 

道路の隅に擱座する一台の作業用オートマトンを見つけた。

 

「…」

 

スフェーンはそこで考えると、ルシエルは答えた。

 

「確かにあのオートマトンが動くのであれば、近道できるかもしれません」

「そうね〜」

 

そこでスフェーンは近づいてオートマトンのハッチを開けると、

 

「おっと…」

 

中には一人の遺体があり、ヘルメットを被っていたことからおそらく工事現場の作業中に被害にあったのだろう。

身体は完全に白骨化し、光を当てられたことで一気に沸いていた虫たちが飛び出してきた。

 

「…ご愁傷様です」

 

そんな遺体を前にスフェーンは両手を合わせて慰めた後、ルシエルに聞く。

 

「どうすれば良い?」

『目的を早急に達成したいのであれば、このまま放置でよろしいかと』

「いやぁ、流石に見つけちゃって放置はないでしょ」

 

そんなルシエルの返答に顔を引き攣らせたスフェーンは、そこで

 

「よいしょっと…」

 

遺体に登って状態を確認した後に顎のないその頭蓋骨を持って地面に置く。

 

『どうするのですか?』

「せめて墓くらいは作っておいた方がいいでしょ?」

 

そう言い、彼女は穴の空いた地面に骨を入れておくと上から土をかぶせた後に石を積んで、近くに自生していた花を摘んで簡単な墓を作った。

 

「なんか…思い出しちゃったな」

『?』

 

そこでスフェーンは言う。

 

「葬式って…生者が死んだ人達に別れを告げて区切りをつけるための行事だって言う話」

『そのような意味合いがあるのですか?』

「まぁ、死んだ人間に固執して壊れた人間はいくらでも見てきたよ」

 

そう言い、スフェーンは傭兵時代のことを思い出す。

長年付き合いのあった相棒が戦死し、うまく別れを告げられなかったが為に嘆きまくった後に持っていた拳銃で一発頭にズドンッ。そう言う例は今までよく見ていた。

 

『別れは重要な行為ですね』

「まぁ、トシゴローさん的に言うなら『別れすら楽しむ事が人生』ってとこかな?」

 

そう言うと、そこでルシエルは思い出す。

 

『その後の整備工場では大変でしたね』

「いやぁ、まさかエンジン売ってくれって泣いてせがまれた時はしまったって思ったよね」

 

そう言い、あの後にレッカーされて修理工場でオーバーホールをしてもらった時に、機関部に積んでいたエーテル機関の正体を知った修理主任の人から高値で売ってくれと言われて困惑してしまった。

 

『このような珍しいエーテル機関を壊すまで動かすなんて勿体無い!ぜひ我が社で買い取らせてください!!』

 

そう言い、破格とも言える値段を提示してきた修理主任。もちろんお断りさせてもらうも、泣き出して縋るその人。

鬱陶しいのでノルが前に引いてくれた設計図のデータとどうかと取引を持ちかけたところ渋々承諾。そこで取引をして得た金で台車の総取替と車両購入を依頼。設計図複製するだけでこれほど儲かるのだから無償でやってくれたノルには感謝しかない。

 

「と言うより、よくノルのような人が最初に見た時に言わなかったのかと思うわ」

『初めから分かっていたのではないでしょうか?このエーテル機関の特性を』

「うーん…?」

 

目の前の大きめな水溜まりを前にスフェーンは一考すると、そこでルシエルに提案する。

 

「ねぇ、やってみない?」

 

そんな彼女にルシエルは返す。

 

『まぁ、用意はすぐにできますが…』

「よし、じゃあやってみよう」

『盛大にどろんこになっても知りませんよ』

「大丈夫大丈夫!」

 

軽く言う彼女は瞳が空色に変化すると、そのまま軽く助走をつけて勢いよく飛んだ。

 

「ほっと」

 

すると彼女の足回りに突風が巻き起こり、そのまま一っ飛びで池となった水溜まりを飛び越えた。

 

「うしっ」

 

そして空色の双眸が振り返ると、そこで思わず言う。

 

「おぉ、すげっ」

 

するとルシエルは言う。

 

『モード・アザゼルの効果です。操作はお手のものといったところでしょう』

「まぁそれも仮称なんだけどさ〜」

 

そんなことを言いながらスフェーンは銃を背負って都市を散策する。

背中に背負った対戦車ライフルの巨大なマズルブレーキや銃弾を入れた巨大な弾倉の収納されたジャケット。

 

「よっ、ほっ」

 

ドミノ倒しで倒れたビルを、再び空色の瞳に変化して易々と登っていく。

 

「とぅっ」

 

そしてガラス張りだったビルの最上層に到着すると、そこは最早呼吸をするだけでフィルターにエーテルが溜まるほど濃い場所となっていた。

 

『周囲の空間エーテル濃度は感染域を超えています』

「ヒュ〜、そりゃすげぇ」

 

ビルの屋上に飛んだスフェーンは言うと、そこで吹いた強い風で髪が舞った。

ドミノ倒しのように倒れたビルの上に立つ小さな影、そこで彼女はエーテルに侵された都市の全景を見た。

 

「おぉ…」

 

そこから見えた景色は、太陽の光が隙間から差し込み、エーテルの煌めくカーテンが都市の通りを覆い、雲が眼下を流れていた。

エーテル・ボンバの爆発でできた巨大なクレーターが都市を囲うように地面を円形にくり抜いており、そこにはエーテルが溜まっていた。

 

「すげぇ」

 

ガスマスクを外し、その景色を見下ろす彼女は思わずそう呟いてしまう。

滝のように降り注ぐエーテルは、当然人体にとってエーテル病の原因となる厄介な代物であり。真っ当な人間であればこれほどの場所で生命線となるガスマスクを外しはしない。

 

『放棄された都市とはいえ、さすがに壮観な眺めですね』

「全くよ」

 

フルシバリョークは都市の中央に大河が流れており、南北に都市が分割されていた。

河に掛かる巨大な吊り橋は途中で崩落しており、人の姿は一切なかった。

 

『反応は八つ、スフェーンの視界に座標を映します』

 

するとルシエルの眺めていたエーテル池にマーカーが記される。

周囲を見渡し、それぞれにマーカーが打たれ、八箇所のエーテル池が見ていた地図に記された。

 

「んじゃ、行ってみますか」

 

そこで彼女は立っていた傾いたビルの屋上から飛び降りた。




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