フルシバリョークに寄り道をして散策を行ったスフェーンはそこで本来の目的であるあるものを探しに都市を歩く。
「…」
背中に背負っているのは長い銃身長の対戦車ライフル。元々今の自分の身長よりも長いその銃はスフェーンの頭の二十数センチは長かった。
「うわぁ…」
そして目の前の活性化エーテルによって見えない壁が生まれているのを前に絶句していた。
「『こりゃひどい』」
思わず二人して言ってしまうほどひどい有様。周囲の空間エーテル濃度は防護服必須の超高濃度汚染地域であり、これでは防護服を着ていても活動可能時間が制限される。そんなような状態だ。
今まで野盗の一人も見かけなかったことから、ここの都市は野盗ですら近づかない完全な放棄都市であった。
「…行きますか」
『そうですね、流石にこの状況下ではスフェーンの体内保有エーテルが限界点に達する可能性がありますので、ガスマスクの着用を推奨します』
「ほ〜い」
そこでスフェーンは今まで外していたガスマスクをつけると、そのままエーテル光によって壁となっていた場所に触れる。
空間に塊となっていたそれは液体のようにスフェーンの腕を飲み込むと、そのまま臆する事なく彼女は奥に進んだ。
「…」
その壁となっていたエーテルの中は外の世界と変わらず、しかし致死量の活性化エーテルが空中に飛散しており、アンドロイドにも影響してくるほどである。
ピシッ「ちっ…」
軽く舌打ちをし、スフェーンは首元に生えてきた虹色に輝くエーテル結晶を見る。
『体内エーテル容量、88%』
「くそっ、走るしかない!!」
スフェーンは周囲が人体に害のある核燃料まみれのような状態の場所を走る。
「こうなると思って中身空っぽにしたっちゅうのに…!!」
そうぼやきながら見た目さながらの子供の走りで虹色に輝く通りを走り抜ける。
その間もスフェーンの皮膚を突き破って結晶は突き出ており、彼女は体力のある限り走り続ける。
『目標まで、残り十二メートル』
「ねぇ!ほんとに中身空いていると思う?!」
スフェーンはそう叫ぶと、ルシエルは言った。
『時間計測は行なっています。最悪見つからなくともスフェーンが無事に戻れる時間計算は行なっています』
「くそぉ、回収する時間考慮しているでしょうね!」
そう言い瓦礫の山を乗り越える。
周囲がこんな状態なので今まで使ってきたサマエルやらのモードを使えば忽ちエーテル爆発である。この量で自分と反応すればまず間違いなく都市が潰れてクレーターが生まれる。そして多分ワシも死ぬ。こんな爆発じゃあ臨界エーテルだって無色界に帰還するだろうよ。
「うぉぉぉおおおっ!!」
銃を背負って全力疾走するスフェーンは、そこでエーテルのプールにいるような感覚だったのが一気に消えた感覚になった。
「っだぁ…!!あぁっ!」
そこで汗をどっしり書いて肩から息をするスフェーン。
「っ!」
そして周囲を見ると、そこはとても静かな空間であった。
「…はあぁぁぁあっ!」
その景色を前にスフェーンは大きく息を吐いて地面に座り込んでしまう。
「あ〜らららら」
そこで瞼が強制的に開いて眼球がずり落ちてしまった。
「やべっ、目落ちちゃった」
スフェーンは側から見れば恐怖映像でしかない状況で非常に落ち着いた様子で迫り出した眼球に手をやって押し込むと、
グシュ
目の奥から生えていたエーテル結晶と接触して血が溢れた。
「やべっ、片目潰しちゃった…」
『ちょっと、それ元々私の目なのですが?』
それには思わずルシエルが突っ込んでしまうと、スフェーンは言う。
「仕方ないじゃん。どっちに生えるのか私にも分からんのにさぁ」
そう言い身体中に生え散らかした無数のエーテル結晶を見る。皮膚を突き破って生えるエーテル結晶、その姿はまるでモード使用時である。
「はぁ〜、疲れた」
『久しぶりにあれだけ走りましたからね。相変わらず走る体力はありませんね』
「しょうがねっだろが〜、このやろ〜」
スフェーンはそう言って文句を溢すと、そこでルシエルに聞く。
「…ちなみに外の通信は?」
『問題ありません。列車とは今も継続して接続しています』
「おけ、通信は繋がるのね…」
これほど高濃度の空間エーテル濃度は流石のスフェーン達も、今までの知見に存在しておらず。こうやってほぼ手探りで試す必要があった。
『とりあえず今は休憩をしましょうか』
「えぇ、是非ともそうさせてもらうわ。あぁ〜、疲れた」
そう返しスフェーンは自分の身体中に生えたエーテル結晶を眺めた。
「おまけに片目潰れたし」
『それは自己責任では?』
「そう?勝手に生えてくる結晶サイドに問題があると思うのですが」
そう言いながらスフェーンは瓦礫の上に腰をかける。
「うっわぁ…」
そしてそこから見下ろす爆心地にスフェーンとルシエルは絶句した。
「エーテルの池じゃん」
『爆心地には大量のエーテルが滞留していますが…これ程とは』
そこでは爆心地のクレーターに大量に貯まるエーテルがあり、その大きさは一〇〇メートルはありそうだ。しかも、
「あっ、空」
『え?おぉ…』
爆心地の空はとても青々としており、『本物の空』が見えていた。
「すげっ…」
思わずそう言ってしまうほどにはスフェーンは空を見上げ続けていた。
『エーテルのない空が…』
「多分、ここが吹っ飛んだ時に溜まってたエーテルが落ちて来たんでしょうね」
『…あぁ、だから周囲には漏斗状にエーテルの壁が出来たと?』
「可能性としてはね〜」
エーテルで星全体が覆われ、宇宙への脱出が不可能となったトラオム。しかしエーテル・ボンバの爆発でその殻に穴が空いていた。
「しかし扉が開いたか…」
死の大地と化した濃いエーテルの壁を超えた先にある円形に開いた青々とした空、その景色を前にスフェーンは言う。
『この情報は売らない方が良さそうですね』
「そうね、軍警がたちまち突っ込んでくるわよ」
そう言って彼女は金をせびる目的でネクィラムにエーテル・ボンバ落着のデータを記していたが、この青々とした空を前に頷いていた。
もしこの報告をすれば忽ち、軍警察の部隊が落着した都市を占有して詳しい調査が行われることになる。そうすれば目的を果たすことも難しくなってしまう。
『宇宙から観測もできる可能性があります』
「でもあの汚染区域を抜けられないだろうから、どうせそのまま放置よ」
スフェーンは軍警の動きを予想すると、そこで煙草に火をつける。
ここら辺に溜まっていたエーテルは全て目の前のクレーターに溜まっている。故に空に穴の空いたこの場所では空間エーテルは存在していなかった。
「ふぅ…まっ、私らの目的は変わらないけどね」
『そうですね』
二人は言うと、目の前のエーテルの溜まったクレーターを見る。
「…」
煙草を片手に咥えて休憩していたスフェーン、体内に溜まったエーテルの処理が落ち着くまでの休息を考えていた。それと片目の視界回復。
「取り敢えず爆心地を巡るとして…」
『世界中を回る必要がありますね。放たれたエーテル・ボンバは四〇〇あります』
「うーん、地獄かな?」
思わずそう言ってしまうほど長い作業。いくら時間あるとはいえ、気が遠くなりそうだった。
「ふぅ…」
そして一本吸い終えてフィルターギリギリまで吸った彼女はそれを地面に捨てる。
体内に吸収されたエーテルは適切な処理を受け、突き出ていたエーテル結晶は見えなかった。
「んじゃあ、行ってみますか…」
銃を地面に置いて少し助走をつけて走ると、彼女はそのままエーテルの池に飛び込んだ。
ザバーンッ!!
溜まっていたただのエーテルの池に入水し、そのまま彼女は目を開けたまま辺りを見回す。口や鼻からエーテルが入っても問題なく泳いでおり、
太陽の光で虹色に反射する透明な液体を平泳ぎで泳ぐ。
「…あった」
そして池の底の方で光るそれを見つけると、スフェーンはそれを目掛けて深く潜る。
「あれか…」
そして深く潜ってその光る正体を手に取る。それはパチンコ玉ほどの大きさの球体で、それを掴んだスフェーンはそのまま再び浮上する。
「プハーッ」
そして水面に上がると、片手にそれを取った彼女はそのまま岸辺に上がる。
エーテル池から岸辺に上がったスフェーンの体はエーテルで濡れており、地面に滴り落ちたエーテルは池に向かって滑るように落ちていく。
「…これか」
そして髪の毛を縛って余分なエーテルを落とすと、スフェーンの体はそもそも濡れていなかった。
そして彼女の手で掴んだそれを天に向けると、それ自身が光を放つ豆電球のようであった。
『えぇ、臨界エーテルです』
「…」
ルシエルは言い、今回の来訪の主目的を眺めていた。
スフェーン達は落着したエーテル・ボンバの爆心地に発生した臨界エーテルを回収する為にこの都市を訪れていた。
球形というのはあらゆる圧力を均等に分散する役割があり、この臨界エーテルもエーテルによって保護されていた。
「この爆発でこれくらいしか取れないのかよ…」
スフェーンはそんなこの世界に漏れ出した臨界エーテルを見て思わず呟く。
『臨界エーテルは万物を変換する作用があります。今のエーテルによる被膜も無用な反応を防止するためですよ』
「そりゃあ知ってますけどもね〜」
スフェーンはそう言いながら回収した小さな臨界エーテルをポケットに突っ込むと、置いていた銃を手に取る。
「んじゃあ、さっさと次行きますか…」
『えぇ、序でに実験もしましょう』
「あいよ」
そこで彼女は虹と灰のオッドアイから空色の瞳に変わり、左手で銃の形を作ると、
「ばぁん」
直後、スフェーンの周囲に、彼女から溢れた余分だったエーテルが強力な圧縮空気を射出する。
ドォォンッ!!
射出された圧縮空気は高濃度のエーテルの壁に大穴を開ける。その威力は平気で人の内臓を破壊できるほどの威力である。
「行きは怖い帰りはよいよいってか?」
『普通は逆ですけどね』
ルシエルはスフェーンに言うと、彼女はそのまま自分が開けたトンネルを閉じる前に走って抜けていく。
「さーて、これをあと何個だって?」
『あと七回です』
「うへ〜、数が多いよぉ〜」
スフェーンは軽くゲンナリしながら最初の爆心地を後にしていた。
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