エーテル・ボンバの爆発で誰の目にも留められなくなった都市、フルシバリョーク。
都市の中央を大河が挟んでおり、数本の橋がかけられていたかつての巨大な経済都市。
ここには植物も動物もなく、ただ灰色の景色が広がっていた。
「よっ、ほっ」
所々に車が放置され、一部道路が抜け落ちた吊り橋を歩くスフェーン。
エーテル・ボンバの爆心地にて臨界エーテルを回収している彼女は、移動し、行きに高濃度エーテル区域を走り抜け、臨界エーテルを回収し、帰りにモード・アザゼルで空気砲で穴を開けて戻る、という工程を繰り返していた。
行きに空気砲を撃たないのは、周囲がエーテルに覆われているからで、やはり誘爆の危険性があるためである。
『やはり爆心地から離れると安全ですね』
「えぇ、お陰で…」
そこで十メートルはある陥没した橋を見ると、空色の瞳を宿した彼女はそのまま空中に向かって一歩を進めると、空中をガラス板の上を歩くように平然と歩いていた。
彼女の足元をよく見るとエーテルが絡みつくように取り巻き、一歩踏むごとにエーテル光が反応してスフェーンを支えていた。
「こんな芸当できますし〜」
そう言い、陥没した穴を平然と通り過ぎたスフェーンは改めて振り返って自分が歩いた場所を見る。
「…うぅ〜っ!怖ぇ〜っ」
少なくとも二〇メートルはある高さに一瞬身震いをしたくなってしまった。
『約二八メートルの高さがありますね』
「ひえ〜、落ちたら死ぬで」
スフェーンはそんな事を言いながら橋を後にすると、対岸にあったフルシバリョークの都市を眺める。
「かつて繁栄を誇った都市もこの有り様とはね…」
『改めてエーテル・ボンバの威力を窺い知ることができます』
ルシエルもそう言い、エーテルで汚染されたフルシバリョークの水とエーテルで汚染された都市を見る。
橋の上から見える二つに分割された都市に上から太陽の光が差し込んでおり、雲の隙間から溢れる光のカーテンは幻想的に映る。
そして活性化したエーテルで汚染されたことで、エーテル光が煌めき続けている。
この大量のエーテルのおかげでこの都市は人が居なくなった後でも植物が生えてくることは無く、灰色の景色が続いていた。
そして時間の経過と共に建物は崩れ、次第に地面と同化していく。
『列車からはだいぶ離れてきましたね』
「まぁ爆心地は反対にもあるわけだしね」
そう言いポケットに詰め込まれた七球のパチンコ玉サイズの臨界エーテルを見る。
「でもあと一つでそれも終わり」
臨界エーテルの波動は強力なものであり、橋の上からでもその波動を観測することは可能であった。
『都市反対の爆心地は三つ。うち臨界エーテルがあるのは一つのみですからね』
「まぁ、全部の爆心地にある訳じゃないってのが知れたのが驚きだけど」
そう言いスフェーンの視界に映る矢印を見る。
これはルシエルがわかりやすいようにマッピングしてくれた賜物であった。
「さて、行きましょうかね…」
スフェーンは言うと、そのまま橋を渡って反対の都市に向かって再び歩き始めた。
フルシバリョークに落着したエーテル・ボンバ。都市には今も多くの遺体が残されており、通りで倒れていた白骨化した遺体は回収されていなかった。
「…」
そもそも遺体すら残らずに燃え尽きた者もここには多数いた。
全員の埋葬なんてできるわけもなく、それはのちに調査に来るであろう軍警に任せるしかない。
「ふぅ…」
目の前の壁とかしたエーテルを前に一旦息を整えた後、全速力で走り出す。
「ほっ!ほっ!ほおぉぉおおっ!」
この中では純粋に人の力で走り抜ける必要があり、毎度毎度行動不可能の危機に晒されるのだけはなんともいただけない話である。
「ぶはぁぁああっ!!」
そして身体中からエーテル結晶を露出させながら壁を突き抜けると、そこは相変わらずの廃墟群であったが。
「うおっ」
そこは多数の緑が建物に蔓延っており、同時に青々とした蒼穹も見える。
「ここはこんなに植物が生えているのか…」
その光景に少し唖然となりながらスフェーンは目の前の河のそばにできた爆心地のエーテルのクレーターを見る。
「…行きますか」
周囲にエーテルの反応はなく、そういう空間だからこそ建物などに鑑賞用として置かれていた植物がここまで育ったのだろう。
「人が自然様に勝てるわけもないか…」
スフェーンはそこで目の前のエーテルの池に入水すると、そこでこの都市最後の臨界エーテルを回収する。
「終わったぁ〜」
三日間かけて探索を終えた彼女はそこで両腕をあげて喜びの声を上げる。
「ひーふーみー…」
そしてナッパ服のポケットに入れていた臨界エーテルの数を数える。
「よしっ」
スフェーンはそこで瞳の色を空色に変化させると、足元にエーテルを絡ませて跳躍をし、一回で十メートルは体が浮き上がる。そして廃墟となって植物で覆われたビルの窓辺の柵で再び飛翔すると、簡単に屋上に辿り着く。
「んじゃあ、早速やってみますか?」
『えぇ、そうですね』
元々臨界エーテルを核にルシエルの体を作るのが目的となった今の旅だが、最初に自分自身でどのくらい臨界エーテルが強力なものなのかを試すために今回回収した臨界エーテルを全て吸収することにしていた。
『一つずつやりましょうか』
「おけ」
スフェーンは頷くと、回収した臨界エーテルのパチンコを一つとって口から舌を出すと、錠剤の要領で舌に入れて呑み込む。
「…?」
一つ吸収したが、変化がなく首を傾げる。確かに吸収したことで一粒で露出していたエーテル結晶は消えていたが、逆に言うとそれだけだった。
「変わった?」
『えぇ、許容可能エーテル容量に若干の変化がありました』
しかしルシエル曰く一気に言っても問題はなさそうだと言う。
「ちょっと怖ぇから一個ずつ行くか…」
『ですね、下手に暴走しても叶いませんし』
そう言い片手に下げていたコーン茶と共に臨界エーテルを飲み込んで行くスフェーン。
そして植物蔓延る建物の上でエーテルのない世界を見下ろしながらふと思う。
「エーテルのない世界か…」
『?どうしましたか』
ルシエルはスフェーンの呟きに首を傾げると、彼女は言う。
「いやぁ、ちょっと考えられなくってね」
『エーテルのない生活ですか…確かに、もしこの世界でエーテルがなくなれば忽ち人は生活がままならなくなりそうです』
「本当にね〜」
スフェーンはそこで頷くと、最後の一粒を飲み込んだ。
そしてその臨界テーエルが吸収されて、一瞬スフェーンの体が熱くなった。そして彼女は本能的にエーテルが足りないと感じた。
『有していた臨界エーテルの統合を終えました』
「…うしっ、ちょっと試してみますか」
そこで彼女は廃墟のビルの活性化エーテルの壁に手を触れると、そこで彼女の体に大きな変化があった。
「うごっ!?」
骨格が変形する時のゴリッと言った重たい音が体に響くと、直後に激痛が走った。
「ぎゃぁぁぁあああっ!?!?」
背中を中心に体全体が成長を始め、思わずスフェーンはその激痛からのたうち回ってしまう。
「いだだだだだだっ!?」
『これは…少々応えるものがありますね』
「応えるどころの話じゃないでしょう!?」
スフェーンはそう叫びながら周りにあった肉体の材料たる活性化エーテルを吸収する。
「いたたたたたたっ…!!」
思わず痛む腰に手をやりながら活性化エーテルに触れると、体の成長と共に頭の上が段々と重くなって来た。
「は?」
身体の成長と共に生えて来たそれにスフェーンは慌てる。
「ちょっ…!!」
しかし時既に遅く、必要な分の活性化エーテルを回収した肉体は頭上に長く尖った鋭利な角を育て、その角からは数輪の林檎の花が数輪咲いていた。
「うーそーでーしょー」
肉体は前に見せた170前半の身長のボンッキュッボンッの女性としては理想肉体のそれだが、頭上に生えた角は身長のかさましをする事となった。
「なんで生えた?」
『臨界エーテルの作用としか…』
その角を触るととても硬く、咲いた花も蕾も全て本物の手触り。
「やらかした…」
スフェーンはそこで思わず項垂れる。臨界エーテルのおかげでちびっこから脱却したと思ったら、今度は別の問題が生まれてしまった。
試しに手鏡を開いて確認すると、自分の頭上には立派な鹿角が生えていた。しかもニホンシカのような鋭い枝のような角である。
「だいたい何で鹿角が生えてくるのよ…普通そこは
そう言いスフェーンは既に感じなくなった角の重量を前に呟くと、ルシエルは言う。
『良いではありませんか。鹿は死と再生の象徴、スフェーンにぴったりですよ?』
「そりゃ確かにそうかも知れないけどさ…」
スフェーンはそこで屋上に座り込んで言うと、そこで空を見上げる。
「これは厄介なことになるでー」
彼女はそう言うと、胡座をかいて横に銃を置く。
確かに鹿の獣人といえば通るだろうが、名前的に少し不満な自分がいた。
『でも念願の胸ですよ』
「わーい\(^o^)/って?」
スフェーンはそう言い、膨らんだ自分の胸部の追加装甲に触れる。
「この年代の女は胸のデカさが魅力のデカさだからね〜」
そう言い、その後に軽く笑う彼女にルシエルはジト目で言う。
『…どうやらスフェーンの精神面に異常があるようですね』
「阿呆、昔男だからよく知ってるんだよ」
スフェーンはルシエルにそう突っ込むと、そこで銃を手に取って立ち上がる。
この都市での仕事は終わったので、あとは帰って仕事を再開するに限る。
「一旦臨界エーテルを吸収した手前、どうにもならないのがね…」
新しく改造を施した自分の手を見ながら彼女は苦笑気味に言うと、
『その分、身体の色々な部分が成長しました。これから余分な手間が省けるでしょう』
ルシエルはフォローするように言ったが、スフェーンは
「その分いろんな問題発生だよ」
そう言った時、スフェーンは持っていたガスマスクを顔につけると拳銃を取り出し、後ろに向かって振り向きながら銃口を合わせた。
「誰だ君は?」
それは直前に感じた視線であり、銃口を向けた先では
「?」
一人の幼い子供が首を傾げて自分を見ていた。
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