フルシバリョークで最後の臨界エーテルを回収し、自ら肉体の改造を済ませた訳だが、頭に林檎の花の咲く鹿角が生えて来て別の問題が生まれていた。
「…」
そして今、さらに頭を抱えたくなる問題が起こる。
「…」
持っていた拳銃を向けた先では一人の少女が自分を覗き込んでおり、お互いに無言の時間が続く。
「誰だ?」
銃を向けながらスフェーンが聞くと、少女は興味深そうに出てくる。
「おねーさん、誰?」
「私か?」
少女の身なりは何回も着ていたような古着であり、袖はほつれていた。
彼女は銃を前にしてもよく分からない様子でスフェーンに近づいてきた。
「私はしがない旅人だ」
「旅人?」
よく分かっていない様子の少女を前にスフェーンは軽くため息を吐くと、銃を仕舞った。
「いろいろな場所を巡る人だ」
「場所?いろいろな?」
少女はスフェーンの隣に座り込むと、首を傾げた様子で聞いた。
「そうだ」
スフェーンは内心、先ほどの改造を見られていないかどうかが不安で仕方なかったが、彼女は言う。
「お家の近くのお店とか公園とか?」
「恐らくそんな小さな範囲じゃないさ」
「え?」
少女はそこで首を傾げると、彼女は少女の瞳を見る。
「じゃ、じゃあ…おねーさんは外の世界から来た人なの?!」
「外の世界…?」
少女の言った一言に首を傾げると、彼女は目を輝かせた。
「どうやって入ってきたの?!」
「え?そりゃあ単純に…」
困惑するスフェーンはそこで言い止まる。自分がこのエーテルの壁を突破した方法はあまりにも人外であるからだ。
「ガスマスクつけて入ってきただけよ」
そう答えた時、
「すごい!外から来た人って初めて見た!」
少女はスフェーンに興味津々で言うと、馴れ馴れしい彼女にスフェーンは浮かんださまざまな疑問を投げかけた。
「外って、このエーテルの向こうの?」
「うん!昔…一年くらい前かな?大きな光がした後にね…」
そこで少女はその時の話をしてくれた。
「…んっ」
その時、私は母に強く抱きしめられたまま体に痛みが走った。
「ママ…」
「っ…!!」
その時、母は私の声を聞いて驚いた様子で私を見た。
「ジュリア…?」
「どうしたの、ママ?」
そこで母は私を見た後に周囲を見回すと、それを見て私も思わず息を呑んでしまった。
「「…」」
そこは先ほどまで交差点やビルのあったいつもの場所だったはずだ。
私と母の足元はほぼ唯一と言っていいほど無事な歩道のレンガが残っており、それ以外は全てが変わっていた。
「ママ…」
「大丈夫…大丈夫だから…」
その景色を前に不安になってしまい、思わず母のスカートを握ってしまうと、母はただそれだけを言って私を抱きしめてくれた。
「な…何が起こったんだ…?!」
すると隣で腰を抜かして地面にへたり込んでいる一人のスーツ姿の小太りしたおじさんが叫ぶ。
周囲には大量の瓦礫で溢れ、先ほどまでいっぱい人がいた場所がほとんどいなくなっていた。
「…ねぇママ」
「?」
そこでふと私は空に向かって指をさした。
「何か来る」
「え?」
その時、空に浮かんでいた灰色の黒い雲から一気に雨が降ってきた。
その雨は黒くて虹色に輝いた美しい雨だった。
「っ!エーテル…!!」
その正体を知った母はすぐに私を抱えると、近くにあった屋根のある場所に移動すると、そこで他にも数十人の人たちが雨の中降られて入ってきた。
ほとんどが知らない人ばかりで、アンドロイドや獣人の人達が雨宿りをしていた。
「なんだこの雨は…?」
さっきのスーツを着ていたおじさんが聞くと、側にいた一人のアンドロイドが答えた。
「この雨は、黒い雨に様相は酷似しています」
「黒い雨?」
「核兵器が爆発した後などに起こる塵や煤を含んだ雨です。放射性物質を含んだものですが…」
そこでそのアンドロイドは目の前の降り続けている雨を前に言う。
「現時点で目の前の雨からは放射性物質の類は発見されていません」
「?」
核兵器というとうの昔に技術が失われた兵器を前に男は首を傾げていると、徐々に残っていた廃墟に雨から逃れてきた人達が集まってきた。
この雨はのちに虹の雨と呼ばれるエーテル・ボンバが爆発した後に起こるエーテルが一帯に降り注ぐ現象であった。
「いつになったら雨は止むんだ?」
「それは私に聞かれても…」
瓦礫となったビルの下、男の問いにアンドロイドは困っていた。
その後、雨は一時間ほどで止み。風が吹くと次第に雲も晴れて私たちの全景が露わになった。
「痛い…痛いよぉ…」
「大丈夫だ!」
瓦礫の山の中で生きていた人たちや壊れたアンドロイド達を救助していた。
そして火傷を負った人たちも救助した後に母が看護師の資格があったので、同じく生き残っていたというあるお医者さんと共に瓦礫の中を探して見つけた機材などを使って治療をしていた。
「これは…」
「どう言うことだ?」
そして街の周囲は今まで見たことがないと大人達が口を揃えて言っていたその壁を見る。
それは液体のように柔らかく、それでいてキラキラと煌めきを持った透明な壁だった。触ると波紋が現れ、見えているはずの景色が歪んでいた。
「これは…活性化エーテルで構成された物のようです」
すると修理を終えて戻ってきたアンドロイドの人が言うと、それを見ていた大人達は深く考えた。
「活性化エーテルだと?」
「危ないじゃないか!」
そう言い大人達は周囲を見回すと、そこでは大きく円形に同じような壁が広がっていた。
「大丈夫です。活性化エーテルは粘膜から体内に侵入します。しかし周囲のエーテル空間濃度は、計測した限りではゼロ。極めて安全です」
前はエーテル技術に関連した職に勤めていたと言うアンドロイド、ステンさんはそう言うと大人達は話し合いをしていた。
「どうする?」
「これでは外に出られないと言うことか?」
「分からない…」
そう言っていた大人達の会話を盗み聞きしていた私は、そのまま離れると母のいる診療所に向かった。
残った瓦礫で建てたバラックだったが、生き残っていた人達が怪我した人たちの為に建てており、私と母の家でもあった。
「ママ〜」
「…あぁ、ジュリア?」
そこで母は酷く疲れた顔で私を見ており、母は言った。
「今忙しいんだけど、どうした?」
「…」
その時の酷く冷たい声はとても悲しかった。
「話すなら早くして」
私はそんな冷たく言った母が少し怖くなってさっき大人達が言っていた事が怖くなって言い出せ無かった。
その後、生き残った人達が集まってバラックを立てて街を作り、今でも外に繋がる場所はまだ見つからなかった。
「だからこの先に街があるんだよ?」
「そう…なのね」
聞けばそこでは自給自足の生活が行われていると言う。植物が育つ環境なので畑を耕し、コミュニティーが形成されていると言う。
「だからおねーさんを案内してあげる」
「あら、見ず知らずの人なのに?」
スフェーンはそこで少女に聞くと、彼女は頷く。
「うん、だったおねーちゃんは初めて見る人だから。それに、外に繋がる道を大人の人たちはずっと探しているからね」
「なるほどね…」
ジュリアはそう言うと、スフェーンは軽く笑みを見せた後にポケットから袋に入った飴を手渡した。
「?何これ?」
「君の言う外の世界の土産物」
「へぇ〜…」
そこで少女はもらった飴を持って光を当てる。
「飴って、食べたことあるでしょ?」
「っ!うんっ!!」
中に入った二つの色の違うサイコロ状の飴を口に入れると、コロコロと転がして満足げな顔を浮かべていた。
「懐かしいなぁ〜、最近はこう言う甘いやつを食べたこと無かったや」
「そう…苦労したのね」
そこでスフェーンも少し優しい目を浮かべながらジュリアを見ていると、
「ジュリ〜?」
彼女を呼ぶ声が聞こえ、廃墟のビルを一人の同じ年頃の少年が登って来た。
「ジュリア〜?」
そして屋上に出ると、そこで少年は屋上で座っていた少女を見た。
「あっ、ヤーン。どうしたの?」
ジュリアは同い年の少年に陽気に話しかけると、彼は言った。
「お前の母さんが呼んでたぞ〜」
「うんっ、分かった!すぐ行く!」
そこで彼女は横を見た時、
「あれ?」
そこにいたはずのスフェーンが居なくなっていたことに首を傾げた。
「おねーさん、どこ行ったのかな?」
「おねーさん?」
少年が聞くと、ジュリアは頷いた。
「うんっ、さっきまで隣にいて、外から来た人だって言ってたんだけど…」
「ん?そんな人いねぇぞ?」
「どこ行ったんだろう…?」
「お前が見た夢とかじゃないのか?」
「夢じゃないよ。実際に見たもん!」
ジュリアの疑問に少年も首を傾げていると、二人は取り敢えずそのままビルを後にしていた。
「…悪いわね」
そしてその様子をビルの上から光学迷彩を展開して見ていたスフェーンはその後を追いかけた。
「ーーむっ」
その時、とある研究室で一人の男が勘付いたように声を上げる。
「どうかされましたか?博士」
そこでそんな彼に反応して声をかけるジョン。
ここは軍警察のとある研究室、所長をネクィラムが務める場所であった。
「いやっ、私の助手一号がまた素晴らしい発見をしたような気がする」
「あぁ、博士の助手一号ですか…」
ジョンはそのあだ名を聞き、そこで自分をここに斡旋したある運び屋を思い出す。あれ以降自分はエーテル・ボンバを発明した悪魔の発明家という汚名を着せられていた。
「彼女は実に優秀だよ。おかげで私は毎日が楽しみで仕方がない」
「確かに、あの人は話を聞く限りでは特別ですからね」
ユウナと共に移籍した彼は、そこでエーテルの研究をネクィラム共に進めていた。そしてその過程でネクィラムの口から遠回しに彼女の特異性を聞いていた。
ユウナは目が見えないネクィラムの為に、論文の代筆や身の回りの世話までやり始める次第だった。
「ですが、エーテルの特性は未だ未知数です」
「そうだな、我々の知見ではエーテルの全てを知ることはできない。故にエーテルを見るのではなく感じる必要がある」
「はい、分かっています博士」
研究室でやや興奮気味に熱論を展開する二人、
「(胃が…胃が痛い…!!)」
そんな悪魔のよう話を耳にしたユウナは途端にキリキリと痛む自分の腹をさすってしまった。
お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。
新たな依頼をピックアップ致しました。
-
荒野の開拓団
-
難民に揺れる街
-
酒が禁止の街
-
廃墟の遊園地
-
抵抗する者達