エーテルが発見されたのは、大災害よりも百年以上昔の話。
トラオムをテラフォーミングをする際に調査を行った時に発見された未知の物質であり。体内に取り込んでも問題なく、嘗ての化石燃料のように燃焼してエネルギーを取り出す事が可能であることは最初期に発見されていた。
そして当時は一般的であった核融合炉と比べるとはるかに小型で安価、さらには安全で低燃費あったエーテルは燃料としての新たな可能性を見出された。
これは当時、開拓前で重水素やリチウムなどの資源を持ち込む必要があったトラオムに於いて爆発的にエーテル機関が普及する要因となった。
初期の頃より体内に含んだ際の記録があるエーテルだが、体内に残留する事なく排泄された事から人体には無害であると判断され、あくまでも燃料としての可能性としてのみ見られていたエーテル。
後年、『始まりの火』は『トラオムの始まり』と歴史家の間では呼ばれる事もある。
エーテル・ボンバの閃光は、大災害以降停滞していた時代を大きく変容させた引き金ともなったからだ。
事実、この出来事を境に世界中に『国家』が誕生していた。
今まで存在していた都市は次々と消滅していき、国家に帰属していく。
今までの支配階級であった企業が、自ら作り上げた大地の管理・維持を政府に委任する事で今までの苦労と諸問題を押し付けることに成功していた。
『市民』から『国民』となった人々は、自分達が支えて来た企業が自ら全てを統括する事を放棄した事実に驚いていた。
しかし、自ら政治を統括できると言う事実は人々に広く受け入れられる要因でもあった。
フルシバリョークの爆心地の中でシャンティ・タウンを発見したスフェーンは、郊外の瓦礫が積み上げられた山のスクラップ置き場で一夜を過ごした。
「ふんーーっ!!」
太陽の光を浴び、腕を大きく伸ばした彼女はそこで座り込んでいたスクラップの山を見上げる。
「痛たたたたっ…」
そして変な場所で一夜を過ごした事で軽く腰を痛めていた。
「こりゃいかんな…」
スフェーンはそう溢すと、そのまま銃を背負ってスクラップ置き場を離れて行く。
無論、余計な問題を引き寄せないために身体全体に光学迷彩を展開する。
『流石にこの場所で睡眠を選んだのは間違いですね』
「まぁ久々に雑魚寝したからね…昔は慣れてたんだけどなぁ…」
そう言いながらスフェーンは朝の光を浴びて活動を始める近くのシャンティ・タウンを見る。
『それで、スフェーンはこの後どうするんですか?』
「ん?うーん…」
ルシエルに聞かれ、スフェーンは少し考える。
昨日出会った少女は、これほど小規模な街であれば簡単に見つける事ができるだろう。
『昨日出会った少女達に、サイボーグ化手術の痕跡は無さそうです』
「んじゃあ、映像に残る事はないわけね…」
そこで巨大な銃を下げて街の少し外れの廃墟の上に登るスフェーン。
普通であれば上に登るだけで苦労するが、モードを使用する事で空色の瞳を浮かべながら容易に上がれた。
「うーん…」
そして片手にスコープを持って狭い街を見ながら監視をする。
「ほほーん…」
そこでは数十名の住人が、スクラップ置き場とは別の地域で畑作を行って食料品を生産する様子や、朝の市場らしき場所で料理を振る舞う様子、子供達が走っている様子などが見受けられた。
『人物をスキャニング。視界内の人々を検索いたします』
そしてそんな小さな集落を見て、ルシエルは早速生存者達の情報を探索する。
『…探索完了、検索対象のほぼ全員が行方不明扱いとなっています』
「そりゃそうでしょうよ…おっ?」
当たり前の回答にスフェーンは言った時、スコープの視界に知った顔があった。
「みっけた」
その姿を見てスフェーンは軽く笑みを見せると、ルシエルもすぐに画像検索をかけて判別する。
『昨日邂逅した少女ですね』
「確かジュリアって言ってたね〜」
スフェーンも記憶を頼りに頷くと、彼女はジュリアに示されたマーカーの色を変えた。
「接触するなら子供だけの方がいいわよね?」
『えぇ、アンドロイドなどもってのほかですし…大人も、サイボーグ化手術を受けた者も確認されています』
ルシエルもスフェーンの意見に頷くと、そこでスフェーンは座り込む。
「んじゃ、ジュリアちゃんには協力して貰いましょうか〜」
そこで片手に小型ドローンを取り出すと、プロペラが回転し、離昇してシャンティ・タウンに飛んでいく。
そして内蔵されたカメラから映像の撮影と、街のスキャニングを開始する。
『…街一帯のスキャニングを完了しました』
「おほ〜、仕事早いね〜」
『いえいえ、これくらいは簡単です』
そこでスフェーンは感心しながら完成したホログラムを見る。
自分達の姿を残したくないスフェーンは、映像記録として残らないサイボーグ化前の子供達と接触する事で人助けをしようと目論んでいた。
「さて、そろそろ気付いてくれる頃合いだといいけど…」
そんな事を口にしながら、角を曲がって消えて行くジュリアを見ていた。
「どう言う事だ…?」
その時、シャンティ・タウンで町長を務めていたある医師は首を傾げていた。
「本当に、これは外から来たものという事か?」
そしてその部屋には他にも数人の人物が集まっており、その中にはジュリアの母親もいた。
「えぇ、ジュリアが昨日持って来たのですが…」
「しかし、この死のカーテンはどこにも穴なんて…」
その視線の先には一つの包装紙が置かれていた。
「もしかすると、外からなら入れるのかも…」
場所はシャンティ・タウンの診療所、その時そこで街の重役達が集まって会議を開いていた。
「ママー?」
すると、そんな場所に一つの幼い声が聞こえ、そこではジュリアが集まっていた人々を前に首を傾げていた。
「おぉ、悪いなジュリアちゃん。学校から呼び出して」
「ううん!大丈夫だよ」
彼女としては体良く学校をサボれるのでありがたかった。故に聞かれた事に素直に答えていた。
「これを貰った人はどんな姿をしていた?」
「分かんない。でもおっきなツノがあったよ!」
「角?」
そこで彼女の話を聞き、大人たちは脳裏に獣人の姿を思い浮かべた。角のある獣人なんてパッと思い浮かぶだけでも数種類おり、この街にも獣人は暮らしていた。
「うん!あとおっきな銃と小さな銃も持ってた!」
「銃か…」
そして粗方の容姿を聞いた後、ジュリアにその人物を見かけたと言う場所に向かわせる。
「銃を持っているのか…」
「大丈夫だろう。事情を説明さえすれば…」
ジュリアを先頭に数名の大人達は街を出て行く。
そんな大人達の会話によく知らないジュリアは首を傾げながらも、あの人と出会った郊外の廃ビルに向かった。
「ここなの?」
「うん、ここの屋上で見たの」
そして郊外の死のカーテンに近い廃ビルの屋上を指差すと、大人達は警戒しながら中に入っていった。
私は母と共に一回で待っていると、屋上から先ほど入っていった大人達が顔を覗かせて首と腕を横に振っていた。
「ここは誰もいねぇな」
「そう…」
その声に母は少し残念そうにしており、私はお姉さんから貰った飴を皮切りに大人達が騒がしくしていた。
娘が貰ってきた飴の包装紙は明らかに劣化しておらず、最近作られたものだとアンドロイドは言っていた。
それが事実とするなら、通信もできず。完全に外界と隔離されたこの場所で、外からやってきた人がいると言うことになる。
「一体どうやって入ってきたの…」
それが幻ではないことは、自分が口に入れ、娘が持ってきたあの飴から分かりきっている。
「ママ?」
「ん?どうかした?」
すると不思議そうな顔を浮かべてジュリアが見上げており、その中に少し不安げな表情が混ざっている事をすぐに理解する。
「大丈夫よ」
「…うん」
非日常だったこの景色も、一年以上続けばすっかり慣れてしまった。
非文明的な生活であるが、ここでは小さなコミュニティー…あの爆発から生き残った者同士の、同じ境遇の仲間が慎ましく生きている。
残された物資はとても少なく、最初期の頃は火傷を前に生きられなかった者は大勢いた。
そしてその後も、残された物資をめぐった喧嘩で死んだ者もいた。
水は爆発の衝撃で湧き出た水源があり、それを使って建物から回収した植物を育てていた。
この街には五十名ほどの住人が暮らしており、前までは死のカーテンに向かって調査をしに向かったアンドロイドもいた。
最初に調査に向かった部隊が帰ってこなかった事から二回目は即席で紐を作って、何か問題があれば全員で引っ張って引き上げていた。
しかしこの死のカーテンはアンドロイドにすら干渉をしており、引き上げた時に関節から固体化したエーテルが生えてきていたのを思い返す。
故に、外から人が入ってきたことが信じられなかった。
「本当に、ここで人を見たの?」
そんな私の問いに娘は大きく頷いて答えた。
「うん、ここの上でね」
娘はそう言って自信満々に言うと、私は娘と共にその不思議な獣人がいたと言うビルの屋上を同じく見上げてしまった。
その後、結局噂の獣人は見つかる事なく。その獣人は街にいる住人だったのではないか、或いは夢だったのではないかと空振りの結果に街の大人達は口々に言う。
「違うもん!絶対外から来たんだもん!!」
ジュリアのその叫びに大人達は話半分に聞いており、あの包装紙も誰かが隠し持っていた物だろうと結論づけた。事実私も、そうだと思った。
「帰るわよ」
「むぅ…私嘘ついてないもん!!」
「そうね…」
ジュリアの不満げな顔に私は何とも言えず、娘の手を引いて家に帰るしかできなかった。
そして話は元々なかったかのように大人達は一度掴んだ望みを手放す。
「しかし君達の部品をどうするべきか…」
そう言い、町長である医者が言うと、アンドロイド達は軽く笑いながら言う。
「大丈夫です。しばらくはスクラップの中から予備パーツを持ってこればいいですから」
「すまない…君たちには苦労をかけてしまう」
誰にでも優しかったその医師は自然と頼られる存在となり、いつの間にか町長という形でこの街の指揮を取っていた。
「先生のお手伝いになれるだけでも私は十分ですよ」
アンドロイド達はそう言い、医師はそんなアンドロイドの心使いにただただ申し訳なさだけが残った。
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