TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#175

深夜のシャンティ・タウン。

爆発時の残骸を使って作られたこの街は、深夜になると一斉に寝静まる。

 

街から灯りが消え、エーテル機関によって発電されていた人工の灯りは全て落とされ、月明かりのみが頼りであった。

 

夜はアンドロイド達が自警団として廃材から作った棍棒や盾を持って不審者の監視を行なっていた。

 

人口五〇名ほどの小さなコミュニティーではあるが、碌でもない奴は必ずいるので深夜も搭載したエーテル機関のおかげで独立して動けるアンドロイドは夜中の警備に重宝されていた。

 

「…」

 

そしてバラックの一つでいつも通り一人寝室で眠っているジュリア。

この家に住んでからは当たり前のように服一枚で寝ており、昔漫画で読んだ原始人みたいな生活にジュリアは少し楽しかった。

 

「すぅ…すぅ…」

 

静かに寝息を立て、母は壁で仕切った向こうの部屋でランプを灯してほつれた洋服を直していた。

 

「…」

 

今日は満月の月明かりが部屋の中に差し込んでおり、軽く風が吹く。

そしてその風に紛れ込むように黒く動くナニカがジュリアの視界を遮る。

 

「…?」

 

そしてここでの暮らしで、何度か泥棒に入って来たり、襲おうとして来た者達がいた事でジュリアはすぐに経験で目が覚めてしまった。

 

「誰…?」

「?ジュリア、どうかした?」

「…ううん」

 

その微かな音にすぐに母は気づいて声をかけたが、ジュリアは首を横に振った。

 

「何でもない」

「そう、なら早く寝なさい。明日も早いでしょう?」

「はーい」

 

ジュリアはそこで頷き、再び寝ようとした時。

 

「ユキノさん、居ますか?」

 

そこで玄関から近所の人の声がすると、すぐに母は立ち上がって近づいた。

 

「どうしたの?」

「さっきマジャさんが腹痛でやって来て…」

「分かった。すぐに行くわ」

 

そこで母は私に一言、

 

「ちゃんと寝なさいよ?ママちょっと行ってくるから」

「うん」

 

小さく頷くと、母は家の警護を近くにいたアンドロイドの人に任せて診療所に向かって行った。

 

「…」

 

ランプの灯りも消えて静かになった家の中、ジュリアは一人少し暇そうにしながら見ていた窓を見て外を覗く。

 

「…よしっ」

 

ジュリアは何となく胸騒ぎのようなものを感じて、確認して誰もない窓から外に出る。

その手には、自分を守る用に鉄筋コンクリート付きのメイスを持って。

 

「行こう」

 

非日常的な、質素で灰色に覆われた生活に少し飽き飽きしていたジュリアは、そんな生活に刺激を求めて郊外の廃墟に足を運ぶことが多かった。

 

死のカーテンで囲っている場所はとても大きいのにも関わらず、人が住んでいる場所はほんの少し。

ちょっと廃墟があるだけでそれ以外は一面の何もない平原が広がっていて、一部は反対の死のカーテンまで通して見えてしまうほどに何も無い。

 

「〜♪」

 

真夜中で何も見えないが、月明かりのおかげで瓦礫があっても簡単に歩くことができた。

そして深夜に家を抜け出して向かうのはあの廃墟である。

 

外から来たという女性の話をもっと聞いてみたいと思っていた。

 

「おいっ」

「っ!?」

 

しかしその時、瓦礫の影から声をかけられて猫のように非常に驚くジュリアは振り返ると、

 

「ヤ、ヤーン…」

 

学校に通っている二つ年上の熊の獣人の少年、ヤーンが腕を組んで仁王立ちしていた。

 

「どうしてここに…?」

「それはこっちのセリフだよ、ジュリア」

 

少々真面目な部分のある彼は、そこで真夜中に出歩くジュリアに問いただす。

 

「おばさんにどうせ言われてるだろ?」

「ちょっと、ちょっと見に行きたいだけだから…!!」

「…」

 

ジュリアは弁明を図るが、

 

「やめとけよ。前にそれで死ぬほど怒られたじゃん」

「うぐっ…」

 

言われジュリアは顔をやや顰めた。あれは二ヶ月くらい前のことだっただろう。

いつも通り夜中に出歩いたら母に見つかって町中大騒ぎになって、その時は郊外のスクラップ置き場に居たのが見つかってその後に死ぬほど叱られてしまった。

 

「だ、大丈夫だよ…!」

「どこがだよ」

 

ヤーンは真顔で突っ込むと、ジュリアは言う。

 

「ほ、ほら…ママや町長さんとかその人探していたりするじゃん?」

「…」

 

しかし少し睨んだ目つきで見下ろす彼にジュリアは肩を落とした。

 

「…分かったよ、帰るって」

 

そこで諦めて家に戻ろうとしたが、

 

「…ん?」

 

ふとジュリアは思った。

 

「ってか、ヤーンも夜中に家出ているじゃん」

「むっ…」

 

ヤーンは指摘されると、一瞬言葉に詰まっており。その隙をジュリアはすかさず突く。

 

「あ〜、いけないんだ〜。おじさん達に言ってないんだ〜」

「っ!うるさいなぁ!」

 

やや顔を赤くしながらヤーンは反論すると、図星だったのだろう。彼女は笑みを浮かべると彼の手を取った。

 

「じゃあ行きましょ〜!」

「お、おいっ。どっ、何処行くんだよ…?!」

「お姉さんが前にいた廃墟だよ」

「おいおい、あそこはお父さん達が探しても…」

 

ヤーンはそこで昼間に街の大人達が探しても一切痕跡がなく、空振りに終わったと軽く愚痴を言っていたのを思い出す。

 

「ううん…多分違う」

「…」

 

しかしジュリアは半ば確信めいた様子で言うと、ヤーンはそんな彼女のよく当たる直感に思わず息を呑んだ。

 

ジュリアを含め、シャンティ・タウンであの爆発から生き残った人たちにはある共通点があった。

それは必ず生き残ったグループの誰かはエーテル肺炎に罹患していたと言う事実だ。

 

理由は定かではないが、確かにエーテル肺炎患者の近くにいた人たちはあの閃光と爆発を前に生存しており。町長の医師は首を傾げていた。

 

そしてジュリアもエーテル肺炎患者であり、彼女の勘というのはよく当たっていた。

街の水源を見つけたのも街を歩いていたジュリアであり、廃墟の建物から生き残っていた食料や植物の種子を見つけたのも彼女。

 

故にジュリアの外出を無闇にやめさせることはできなかった。

 

「今日は、行ったほうがいい気がする」

「…」

 

そんな彼女にヤーンは軽くため息を吐く。

 

「はぁ…分かったよ」

「ふふっ、ありがとっ」

 

ジュリアはそこで軽く笑うと、二人は噂の廃墟に向かう。

 

 

 

廃墟には今ではすっかり蔦製の植物などが生えており、死のカーテンも目の前にあった。

そして死のカーテンが近くにあるからと言うことで、かなり形が残っているにも関わらずこの廃墟は誰も住んでいなかった。

 

「大丈夫?」

「うん」

 

所々床の抜けた階段を登りながら二人はその廃ビルを登っていく。

 

「本当にいるのか?」

「気がするだけ〜」

 

ヤーンの問いにジュリアはそう返すと、階段を登り切って屋上に続く扉を開けた。

 

「ここか?」

「うん」

 

深夜、廃ビルの屋上に入った二人はそこで辺りを見回す。

 

「「…」」

 

昼間とは違い、月明かりだけが頼りの状況で二人はゆっくりと慎重に外に出る。

 

「居た?」

「いや…何処にも…」

 

二人の子供はそこで首を傾げた。

 

「居ないのか?」

「あれ〜?おっかしいなぁ〜」

 

ジュリアは首を傾げ、ヤーンは彼女に聞く。

 

「本当に合っているの?」

「うーん…」

 

そこで悩んでいるジュリアを見てヤーンは言う。

 

「誰も居ないんなら帰ろう」

「えぇ〜、ちょっと待ってよ〜」

 

そこでヤーンを引き止めようとした時、

 

「よぅ」

「「っ!?」」

 

知らない声が割り込んできて二人は驚愕しながら声のした方を見ると、

 

「っ!お姉さん!」

 

自分達が出てきた扉の上で長い銃を肩に傾けて胡座をかいて座っていた一人の女性。

 

「ふむ…見たことのない顔もいるな」

 

その顔はガスマスクで覆われ、頭には長く大きな尖った角…鹿角を一対有した人が座っていた。

 

「っ!ジュリアッ!」

 

咄嗟にヤーンはジュリアを背中に回すと、その女性は軽く笑った。

 

「はははっ、良いねぇ。護衛対象を真っ先に守る…いや、この場合は彼女と呼ぶべきか?」

「…お前は、ジュリアが言ってた外から来た人か?」

 

ヤーンはやや警戒しながら聞くと、その女性は軽く頷いた。

 

「うむ、確かに私は外から来た人間だね」

 

彼女は頷くと、後ろに回されたジュリアが顔を覗かした。

 

「お姉さん。あの飴、美味しかったです」

「ほぅ、そりゃよかった」

「ジュリッ!」

 

軽くジュリアを叱ると、ヤーンは改めて女性を見上げる。

 

「それで、何か聞きたいことでもあるかな?少年」

 

そこで地面に降りると、二人の前に女性は立つ。

着ている服や体型から女性であることは間違いなく、身長は一七〇前半、角も含めれば二メートルはありそうな体。

 

「っ…」

 

そして感じ取れる異様。思わず少年は息を呑んだ。

 

「…ふむ」

 

すると女性はヤーンを見てガスマスクを被っているのにも関わらず、はっきりとした声で話しかける。

 

「まぁ何だ。まずは大人の前に姿を現さない理由でも言っておこうか」

 

そう言うと、彼女は二人にポケットからあの飴を取り出す。

 

「いる?」

「わぁ!やった〜!!」

 

それを見たジュリアは早速一つ手に取ると、

 

「君はいらないのかい?」

「…貰います」

 

少し遅れてヤーンもそれを手に取る。そして三人は廃ビルの屋上で座ってヤーンは突然現れた女性を見ていた。

 

「まず、私の事は旅人とでも呼ぶといい」

「旅人さん…ですか?」

「そうね」

 

ガスマスクを被り、あくまでも顔を見せない彼女は自らを旅人と名乗った。

 

「昼間は何処にいたんですか?」

「ん?ちょっと別の場所にね〜」

 

旅人は軽い口調でヤーンの問いに答え、彼はもらった飴を両手に持ってジロジロと眺める。

 

「…どうやってここまで入ってきたんですか?」

「うーん、走ってきた」

「活性化エーテルでできたこの壁をですか?」

「そうね〜」

 

嘘を言っている様子はなく、彼女は本当に外からここまで走ってきたと言う事なのだろう。

 

「どうしてまたここに?」

「調査。エーテル・ボンバの爆心地のね」

 

聞き慣れない言葉にヤーンは思わず首を傾げた。

 

「エーテル…ボンバ?」

「君たちが見たであろう、あの爆発さ」

「あぁ…」

 

一年以上隔絶された世界なので、あの爆発の正体はいまだによく分かっていなかったが、ヤーンはそこで軽く頷いた。

 

「まぁ私も驚いたよ。まさかあの爆発の後で生き残っている人がいたとは…それも爆心地で」

「…僕たちも、なぜ生き残ったのかはよく分かっていないんです」

 

そしてヤーンは、自然と目の前の女性に少し警戒を解いて呟いた。




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