TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#176

深夜に二人の子供と接触をしたスフェーンは、そこでヤーンと言う少年から話を聞いていた。

 

「まぁ、君たちの事情は大方把握しているつもりよ。あの爆発で生き残った人たちで集まって、集落を作ったのでしょう?」

「そう…なりますね」

 

ヤーンはそこで思い返しながら軽く頷く。

 

「生き残った理由は…」

「分かりません。なにせ気づいた時にはこの有様でしたので…」

 

そう言いビルの外に目線を向けると、そこには一面の平原が広がっていた。

 

「…なるほど」

 

そこでスフェーンは頷くと、ヤーンは聞いた。

 

「旅人さん。うちの親父達…街の大人たちはあなたを探していましたが、どうして隠れているんですか?」

 

その問いに彼女は答える。

 

「姿を見せたくないから」

「…答えになっていない気がします」

「さぁ、どうかしらねぇ」

 

ヤーンは呆れた目を向けると、スフェーンはそこで横で座るジュリアを見た。

 

「〜♪」

 

彼女はスフェーンからもらった飴を手に嬉しげにしており、スフェーンはそんな彼女を見てガスマスクの下で軽く微笑んだ。

 

「…まぁ、色々と理由はあるわよ。大人と顔を合わせたくない理由は」

「今ここで叫んだら人が飛んできますよ?」

 

ヤーンはスフェーンに言うと、彼女は恐れていない様子だった。

 

「あら、その前に逃げるから良いわよ」

「…」

 

スフェーンはあっさりと答えるとそこでヤーンとジュリアの二人を見る。

 

「取り敢えず、私から君たちに一つこれを」

「「?」」

 

するとスフェーンはその手に一つの果実を持っていた。

 

「っ!うわぁ…」

 

その果実は文字通り青く、ガラスのような透明度を保ちながら、中に独特の虹色の煌めきを持った小さな林檎の果実だった。

 

「…」

 

それはまるで宇宙を内包したようなもので、スフェーンは少し長く伸びたヘタを掴んでおり。それをジュリアに手渡した。

 

「お姉さん、これは?」

「君たちがこの世界を出たくなった時に使うといい」

「「?」」

 

少々意味深に語る彼女にジュリア達は首を傾げる。

 

「君がこれを持ってこのエーテルの壁に近づけば、外に繋がる道ができる」

「え?」

「ただし、使えるのは一回だけ。どう扱うかは君たちに任せるとするよ」

 

彼女はそう言うと、徐に立ち上がってビルの柵に手をかける。

 

「旅人さん、それってどう言う…」

「じゃあね。もう会う事はないだろうけど」

 

困惑するヤーンを前に彼女は柵を飛び越える。彼女は全く話を聞いている様子はなく、一方的だった。

 

「あっ、ちょっと…」

 

そして聞こうとした事を聞く前に彼女はビルから飛び降りると、それに驚いてジュリア達は柵に近づいて下を見てしまうが、そこに彼女の姿はなかった。

 

「えっ…お姉さん…?」

「消えちゃった…」

 

気配すらも消失した事に二人は、彼女から受け取った摩訶不思議な林檎を改めて見ていた。

 

 

 

 

 

数日後。

 

エーテルの壁を前に数十名の人々が待機しており、それぞれ必要な荷物などを持っていた。

 

「本当にいけるのか?」

 

少々訝しむ様子で一人の中年の男が聞くと、その横で別の住人が言う。

 

「やってみるしかないでしょう」

「ジュリアちゃんに託すしかないのか…」

 

その視線の先ではジュリアが両手で包むように青い林檎を持っていた。

あの後、林檎を持って街に戻って一通りの話を町長にしたのがきっかけで見たことのないこの林檎を前に、街の住人はここを出ようかどうかの話し合いが行われた。

そして話し合いの結果、全員がエーテルの壁を抜けるためにこの不思議な林檎を使って穴が空いた場合のことを考えて準備を行なっていた。

 

「大丈夫?」

「うんっ」

 

ジュリアは母に頷き、彼女は目の前のエーテルの壁に近づくと、

 

「っ!?」

 

持っていた林檎は一瞬浮いたかと思うと、無数の青く光る粒子に変貌するとジュリアを含め全員が驚きに包まれた次の瞬間、

 

ドォンッ!

「うわっ」

 

高圧の空気砲が勝手に発射され、その風圧で後ろに飛んでヤーンを巻き込んで地面に倒れた。

 

「大丈夫?」

「う、うん…」

 

ヤーンは聞くと、そこで誰かが声を上げた。

 

「おいっ!見ろよ!」

 

そこでその景色を見て誰もが驚いた。

 

「マジで道ができてるぞ…!!」

 

それは死のカーテンに開いた、人が通れるほどの穴が遠くまで繋がっている景色だった。

そしてアンドロイドが開いた通路を確認すると、

 

「反対まで繋がっています。外部への通信が可能です」

「そ、そうか…!!」

 

町長は興奮まじりにエーテルの壁に空いた穴を見ると、次々と荷物を持った住人達を通させる。

 

「軍警察に救援信号は出せるか?」

「えぇ、すでに出しておきました」

 

通路を出た先ではエーテル空間濃度が高かった為、アンドロイド以外の全員が口や鼻に簡易的に布を当てて防護をしており。数十名の住人はいつ閉じるかも分からない通路を順序よく通っていく。

 

「ジュリア?」

 

そんな中、一番最後に並んでいたジュリアに彼女の母が聞くと、ジュリアは後ろを振り返っていた。

 

「…今行く」

 

彼女は脳裏に消滅したあの林檎を手渡したあの女性を思い返す。

あの林檎はもう無いが、それを渡してきた人は今でも覚えていた。

 

「(ありがとう。お姉ちゃん…)」

 

今まで暮らしていた小さな箱庭を前に彼女は言うと、そのまま青々とした空を背に歩き出した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…」

 

その時、軍警察のとある研究室でジョンはある検査結果を見ていた。

 

「エーテルの副産物か…」

「えぇ、人にこのような作用を齎すとは…」

「まだ確実に決まったわけではないが…」

 

それは軍警察に少し前に保護されたとある都市のエーテル肺炎患者のレポートだった。

ネクィラムとジョンはそこで上がった報告書を読み上げて聞いていた。

 

「まさか爆心地にまだ生存者がいたとは」

 

一年半以上、エーテル・ボンバ爆心地の中で暮らしていた人たちがいたのも驚きだったが、そのような人達が分厚いエーテルの壁をこえて戻ってきたと言う事実も、彼らを驚かせていた。

 

「エーテル・ボンバの被害者達への救済もすでに始まっているそうですね」

「らしいな」

 

そして大量の乱雑につまれた科学雑誌や研究データ、付箋を前にユウナはキーボードを叩いていた。

 

「今のところ、エーテル病に罹患している患者のみ現れている現象のようです」

「なるほど…」

「しかし興味深い」

 

そこでジョンは複数のエーテル病患者から確認されたその現象に考える。

 

「まるで魔法だな」

「えぇ、少なくともあれほどの爆発を前に生存者がいたのですから…」

 

ネクィラムはエーテル・ボンバの閃光を見た時、目が焼け付くような感覚に陥っており。思わず悲鳴を上げてしまっていた。

しかしそこから一年以上経過したこの頃、世界中で立て続けに起こっている異常現象のおかげでこの研究室、公的には『エーテル解析研究所』。通称を『ネクィラム・ラボ』と呼ばれるこの部署はあらゆる場所に引っ張り凧であり、予算と人員もこの一年で倍は増えていた。

 

「エーテル降雨に、エーテル病患者の不可思議な現象の発現…」

「災転じて福となす…と言えば良いか?」

「お好きにどうぞ。博士」

 

今回の騒動の発端の一翼を担ったエーテル・ボンバの開発者は苦笑気味にネクィラムを見る。

見えない代わりにエーテルを感じ取れる彼の目もまた、これまで観測された患者達の不可思議な現象の一つなのかもしれない。

 

 

 

 

 

世界で戦争が起こっている中。この頃、人々の間に見慣れない現象が様々な場所で数多く確認されていた。

 

ある者は突然何もない場所から水を作り出し、

ある者は指先から電撃を発射し、

ある者は手から火花を出せたり、

ある者は自分の身を守る透明な壁が発生できたりと、

 

その効果は様々であったが、ともかく普通では考えられないような現象が多く確認されていた。

 

通常の人間では到底説明不可能な現象を人は『異能』や『魔法』と表現した。

 

この現象はエーテル過敏症やエーテル肺炎と言ったエーテル病に罹患した患者のみ発現しており、その種類も疎らであった。

後に彼らは『異能者』と呼ばれ、歴史を動かす一翼を担う存在となっていく。

 

最初にこの異常現象を認知した軍警察では早速この能力の解析を行い、この力に新たな可能性を見出していた。

無論この情報を入手したNTC・SMATO陣営双方だったが、戦時下の真っ最中で最前線の兵力に限界があったためにこれらの解析・研究は後回しにされ、それよりも現実的に高威力で戦線を左右させる事のできるE兵器の開発を優先させていた。

 

 

 

 

 

そして、この頃の有名な伝承の一つに『青い林檎』と呼ばれるものがある。

 

これはエーテル・ボンバによって荒廃した都市の中で、特に爆心地の中に開いたエーテルの開口部に取り残された人々の間では当たり前のように話されている子供好きの神の伝承。

 

真夜中に子供の元に現れては、青い林檎を手渡して消えて行く存在。

時折子供達と楽しげに会話をしては颯爽と去り、大人を極端に嫌う存在。

 

大人嫌いは徹底しており、たとえ子供を前にしても大人が現れると颯爽と姿を消してしまうと言う。

 

大人を嫌う理由は諸説あり、純粋な心の子供の方が接しやすいからとか、或いは大人の汚れた心に飽き飽きしているとか。

色々とあるが、どれも推測の域を出ていない。

 

身長に関しては子供の姿や大人や老婆の姿と多様ではあるが、鹿角にガスマスクを被った女という身姿は共通しており、手渡した青い林檎は自分の角の一部を切って渡してきたと言う話もある。

 

青い林檎とは、早熟の林檎ではなく。文字通り真っ青な林檎であり、青いガラスのような透明感と中心が虹色に煌めくヘタのついた林檎である。

これは一部アンドロイドやサイボーグの残した記録にもあり、後年に再現が試みられているが成功した例は一つもなかった。

 

この青い林檎には異能を封じ込める作用があるとされ、実際この青い林檎は近くの異能者の力を借りてエーテルのカーテンに風穴を開けていた。

そうして爆心地の青々とした空から帰還してきた人々の間で、自分達をトラオムの世界に戻したその人物に敬愛を込めて『シカガミ』と名付けていた。

 

後にエーテル・ボンバで被災した地域の復興と、その際行われた空間エーテル除染の影響で空に開いたとされるエーテルの穴も塞がってしまい、世界は再びエーテルの薄殻に覆われる事となった。

 

 

 

この人物は歴史家やエーテル研究者の間では、最初期の頃に異能の存在に勘づいた人物であるとされ。彼女は『伝道者』とも言われていた。

 

 

 




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