TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#177

「射撃用意!」

 

それは日常であった。

軍警察に入隊して、砲兵の一人として活躍をして、日々訓練に励んで、時折野盗討伐の為に出動して、誰かの為に生きる。それが誇りだった。

 

「発射っ!!」

 

隊長が腕を下ろして砲撃の指示を出し、砲手が引き金を引く。

 

ッー!!

「っ!?」

 

発射した砲弾の耳を劈く轟音。203mmの砲弾が砲身を突き抜けて音速を超えた時の衝撃波と音が伝わり、思わず体をビクリとさせて思わず倒れる。

 

「ぶははははっw」

「イーヒヒヒヒッ!w」

「お腹…お腹痛いwお腹痛いwww」

 

そして居眠りしていた自分を訓練の砲撃で叩き起こし、強烈な大砲目覚ましを受けて自分以外の砲兵が笑い転げる様。

 

「げほっげほっ。あー、駄目だこりゃw」

 

笑い過ぎて咳き込んでしまった同僚に自分は思わず言う。

 

「おいっ!なんだ今のは!?」

 

すると仲間は笑い過ぎて溢れた涙を拭った。

 

「居眠りしてたからそっとして置いてやったんだよ」

「何してんだよ!?お陰で耳がやばいわ!阿呆!」

 

そんなとんでもない目覚ましを喰らって思わず強く言ってしまうが、その顔は軽く笑みを浮かべていた。

 

そんな普通が、私は好きだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

開戦から二年が経過した。

相変わらずパシリコとサブラニエの国家間戦争は収まる事を知らず、戦線は今も膠着していた。

 

戦域に掘られた塹壕や陣地、制限された空の戦いの影響で長期戦と化したこの戦争。

 

戦前は国力に三倍の差があった国家のサブラニエが、対緑化連合必殺の策として作り上げたのがエーテル・ボンバであった。

 

製造された四四発の弾道ミサイルと、弾頭に搭載する小弾頭。計四四〇発のエーテル・ボンバが製造され、今まで使用されたのは四一〇発と言われている。

 

残る三〇発、弾道ミサイル三発分のエーテル・ボンバは今もサブラニエが保管しており、三発あれば三つの都市が破壊できる。パシリコも残されたエーテル・ボンバの所在地が掴めておらず、それ故に大規模攻勢に踏み出せない状況が続いていた。

 

対するサブラニエ側も、初期目的であった短期決戦が失敗に終わり、戦争が無闇に長期化したことで国内の工業生産能力を超えた物資が必要となり、一部は国外から輸入をする必要に迫られていた。

 

そして一番最初に被害に遭い、その後の『始まりの火』でも多大な損害を受けた軍警察は今も両陣営に対し不干渉の立場をとっており、一部情報機関からは『未回収の軍警察』と度々報道されていた。

 

この軍警察の対応には内外…特に内部からの反感を招いており。一部はすでに離職して、傭兵として対サブラニエ戦線に加わっている者も多くいた。

 

 

 

 

 

「ヤッベェ…!!」

 

人々がすっかり慣れた戦時下の中、とある都市でスフェーンは冷や汗をかきながら歩道を走っていた。

臨界エーテルを吸収した事で成長した体は、今まで以上に体力を有しており、その姿のおかげで大人として社会から見られるようになった。

 

『調子に乗って出歩くからですよ』

 

そこで呆れた様子でルシエルは、指名依頼があるにも関わらず到着した街で観光と言って遠出をしたスフェーンに言う。

今回の指名依頼は依頼主が直接会う事を求めており、時間がすでに指定されていた。

 

「まさか市電の最終便が六時に終わるなんて聞いてなかったもんっ!」

 

頭の上では花の生ける長い鹿角を揺らしながら走っていると、

 

「あっ!」

 

道路の路肩で停まっていた一台の白いタクシーを見る。

 

「…仕方ない」

 

タクシーは運転手がやばいと詐欺に遭ったりして色々と苦労するのだが、時間が無いので急いで車に近づいてドアをノックした。

 

「すみません。すぐに出せますか…!?」

 

スフェーンは白いセダン(プジョー・406)の運転手に聞くと、窓を開けて丸刈りの一人の青年が片手にハンバーガーを持ちながら顔を出してスフェーンを見た。

 

「ん?どうされましたか?」

「すぐに出すことってできますか?」

 

するとその運転手は言う。

 

「んー、お乗せしたいのは山々ですが…今忙しくて」

 

しかし時間がなく、他にタクシーも見当たらないのでスフェーンは財布を取り出すと、札を取り出した。

 

「直ぐに出せるなら、これくらいでどうですか?」

 

普通よりも割高な料金を提示され、最近発行された新しい貨幣を前にその運転手は軽く頷いた。

 

「んん〜、何かお急ぎで?」

 

金額を前に運転手は承諾すると、聞かれたのでスフェーンは要件を伝える。

 

「三〇分で運輸ギルドまで行けますか?」

「三〇分?じゃあ飯はその後だな。乗って」

 

そう言うと運転手はスフェーンを後ろに乗せる。

 

「ちょうどいいから新しい装備をテストしてみる。きっと貴方も気に入りますよ」

 

扉を閉め、後ろに座ったスフェーンは、そこでダッシュボードを開けてその中からスイッチやボタンが満載の変な制御盤を見た。

 

「?」

 

スイッチを入れると、その後に車が浮き上がり、その後にリアウィングやパンバー、屋根上の吸気口などが迫り出てくる。

 

『??』

 

この謎のギミックにはルシエルも首を傾げており、タイヤもモータースポーツ用の物に換装される。

 

「???」

 

そして換装を終えた車は地面に降りると、後部座席でスフェーンは首を傾げる。

 

「音楽掛けてもいいかな?」

「えっ?えぇ…なるべく急いで貰えますか?」

 

慌てている様子もなく、運転手は直ぐにアクセルを踏まなかったのでスフェーンの顔も少し焦り始める。

 

そして車内に『Misirlou』を掛けると、準備を終えた運転手は腕時計のタイマーを起動する。

 

「では出発っ!」

「ふおっ!?」

 

そしてアクセルを踏み込むと、前輪タイヤが高速で回転を始め、白煙を巻きながら急発進を始める。

 

その勢いは凄まじく、スフェーンは背中を叩き付けられて頭を打った。

 

「『!!??』」

 

そして恐ろしい勢いで発進したタクシーは他に走っていたあらゆる車両を通り抜けて走り出し、スフェーンも恐怖のあまりアシストグリップを掴んでしまう。

 

「ひっ!!」

 

車が左右に動く度に体も大きく動かされ、この時ほどシートベルトを絞めなかった事を後悔した事はなかった。

 

「ぬおっ?!」

 

カーブを曲がると強い遠心力が掛かり、スフェーンの体は車の外に飛んで行きそうだった。

 

『なっ、なんですかこの速度!?』

 

先ほどの急発進と言い、この速度と言い、タクシーとは思えないくらい酷い速度で公道を走っている事にルシエルは困惑する。

 

「この時間帯は道も空いてる。お客さんいいタイミングだったよ」

「そっ、そうですか…」

 

飯を食ってきたばかりのスフェーンはそれどころではなかった。

真横をもう何台抜いたか分からないくらいの速度で抜き去り、市内を明らかに法定速度の数倍は越しているだろう速度で疾走する。

 

「こんなにチンタラ走ってたら間に合わねぇや。悪いけどシートベルト閉めてくれ。スピード上げるから」

「『(これのどこがチンタラだ…!!)』」

 

それどころかこれ以上上がるスピードと聞いてスフェーンの顔は青くなる。

そして言われたので苦労しながらシートベルトを引っ張るが、

 

「ふぬっ!?」

 

車内はこの速度なので激しく揺れており、締めるだけでも一苦労だった。

 

「しっ…締めました」

 

なんとかシートベルトを閉めると、運転手はそのまま高速道路に入って行く。

 

ッーーー!!

 

超高速で料金所を通過して行き、その速度を前に料金所の職員も唖然となって走り去っていった車を見ていた。

 

 

 

そして高速に入った事でタクシーの速度はさらに増して行き、F1カーも真っ青になりそうな速度で高速道路を走って行く。

 

「…」

 

座席に戦闘機になっているようなGを感じ、更にシートベルトで締め付けられた事でボンレスハムになった気分のスフェーンは土気色に変わりつつある表情で運転手に聞く。

 

「まっ…間に合いますか…?」

 

掠れた声で聞いたその問いに運転手はこの速度に慣れている様子で答えた。

 

「間に合いますよ。ちょっともたついたけど、高速に入ったので速度を出せるから」

 

そう言うと彼は更にアクセルを踏んだ。

 

『…』

 

この速度を前にルシエルもダウンしてしまい、何も反応を示さなくなってしまった。

 

 

 

「…」

 

そして高速道路の一角で速度計を置いて取締りをしていた軍警察の治安官は、通り過ぎて行く車を眺めていた。

 

「暇だな〜…」

 

片手に脱硫燃料を持ったアンドロイドの治安官が一台の車を見送った時に呟くと、遠くから劈くような音が聞こえ、超高速で目の前を一台の車が走り去っていった。

 

「「っ!?」」

 

走り去って行った白い車を前に二人の治安官は驚愕して車を見送った後に計測した速度を見た。

 

「凄いな、時速四三二キロだってよ!」

 

見ていた獣人の治安官は驚いた様子で無線を手に取った。

 

「緊急連絡、白のタクシーが四三二キロを出して通過!繰り返す、四三二キロだ!」

『ナンバーは見たか?』

「あぁくそっ、見えなかった…!!」

 

あまりの速度に治安官は言うと、先で待っていた別の治安官が言った。

 

「しっかり目を開けとけ。それが仕事だろうが」

 

そう言った時、目の前を轟音と共に一台の白いタクシーが高速であっという間に走り去って行った。

 

「…」

 

その速度を見て先で待っていた治安官はしばらく唖然となった後に無線に手をやると、

 

「悪かった…何でもない…」

 

あまりにも異次元な速度に、思わず見なかった事にしてしまった。

 

 

 

 

 

そして高速をその速度をほぼ殺さずに降りて運輸ギルドに向かうタクシーは角をいくつか通過。近くに貨物ターミナルが確認できると、運輸ギルド前のロータリーで白煙を上げながら急ブレーキをかけて停車する。

 

「うぼっ…」

 

シートベルトで肉が千切れそうな感覚で前に乗り出すと、停まったタクシーの中で運転手はタイマーを止めた。

 

「十六分二二秒で着きました!これならコーヒーを買って休憩もできます」

 

そう言って笑顔で振り返ると、冷や汗や土気色のスフェーンを見た。

 

「またの機会を!」

「どっ、どうも…」

 

スフェーンはシートベルトを外して運転手に言うとそのままドアを開ける。

 

ブオォーン…

 

そしてタクシーは颯爽と走り出して行くと、運輸ギルドの前でスフェーンは土気色の顔色からどんどん耳がシワシワに寄っていくと、

 

「…うぷっ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ただいま映像が乱れております。

しばらくお待ちください

 

 

 

 

 




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