TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#178

「大丈夫か?」

 

運輸ギルドのカフェで依頼主の男性が少々不安げな様子で反対に座るスフェーンを見ると、彼女は未だに少し青い顔で答える。

 

「大丈夫です…ご心配なく…」

「なら良いんだが…」

 

スフェーンはあのアホみたいなタクシーを降りた後、公衆の面前でそれはもう盛大にキラキラを吐き出して倒れた。

完全に油断していた。まさか思うまい、タクシーに乗っただけで吐いてしまうとは。

 

『あれは酷いタクシーでした』

「(二度と乗りたくないタクシーだよ)」

 

スフェーンもルシエルも先ほどのタクシーを前に色々と後悔していた。

そもそもこの体になってゲロったのなんて初めてだし、酒以外の理由でゲロったのもとても久しぶりな気がした。

他人のキラキラを見届けることはよくあったが、自らキラキラを放出したのは本当に久しぶりであった。

 

「それで、今回の依頼品ですね?」

「あぁ、一週間以内に岩前まで頼む」

 

運送品の明細を載せたリストを手渡しながら依頼主は言うと、それをパラパラと一瞥したスフェーンは軽く頷く。

 

「了解しました。運送品は、武器弾薬ですか…」

「そうだ」

 

今回の依頼主は新興の小さな傭兵団、運ぶ物はオートマトンと武器弾薬。いわゆる戦闘用物資の運送依頼であった。

 

「必ず一週間以内に届けてくれ」

「分かりました」

 

依頼主からの要望を聞き、視界に映るリストに依頼主の要望を書き連ねる。

指名依頼で事前に依頼主が面会を希望することは今までも何度かあり、その度に前の見た目では何かと訝しがられていた。

しかし素体核を改造したおかげで最近はそのような事も減っていた。

 

そして無論、運ぶものが危険物である事は火を見るより明らかであり、故に取り扱いには十分注意する必要もあった。依頼主はスフェーンの分かりきった様子に特段言う事はなかった。

 

そして指名依頼を受けた後、依頼主はカフェを後にし。スフェーンは注文したウインナーコーヒーを飲み終えると、その後に会計を済ませて席を立つ。

 

「さて、行きますか」

『えぇ、今回の報酬は比較的高めです。張り切っていきましょう』

 

そう言うわけで、スフェーンはいつも通り紺色のナッパ服に帽子、色の濃いサングラスといつも通りの格好で運輸ギルドを後にする。

頭の上には長めの鹿角を生やし、数輪の林檎の花が咲くという異常現象が起こっているわけだが、もう深く考えない事にしていた。

 

 

 

 

 

開戦以降、様々な国家が建国されたトラオムの大地。

 

建国と共に自ら独立した経済活動圏を有した国家に帰属する都市では、独自に通貨が発行されていた。

今までは都市という小さな経済範囲であったが、国家に昇格した事で独自の経済圏を有する様になった各国では、今まで制限されていた金融政策の手段を増やす目的で国毎に独自の通貨が発行され、共通電子通貨との兌換を積極的に推奨していた。

 

今まで使われて来た共通電子通貨は世界中に広く使用されていた通貨ではあったが、元より広まっていたとはいえ、ハッキングなどの可能性から信用は低かった電子通貨。多くの家庭や組織では稼いだ瞬間に電子通貨は貴金属に換金して保管しており、独自通貨の発行により共通電子通貨は急速に使用されなくなっていく。

 

それは鉄道管理局が運営する鉄道路線関係でも同じであり、元々軍警察が担っていた通貨発行を、新たに通貨発行権を有する造幣局を設置する事で新通貨である不換紙幣が新たに発行され、他国と違って共通電子通貨とは1:1の割合で交換可能となっていた。

 

「やれやれ、こうなるなら初めから現金を作ればよかったのに…」

 

そう言いながら運輸ギルドで交換した新しい『ウィール通貨』を指で弾いて遊ぶスフェーン。

スポーク動輪やボックス動輪などの各種鉄道車輪を模した新貨幣は、製造に大量の金属を使用していた。

 

『通貨を製造するにしても大量のプレス機や資材を使用します。それら苦労を考えると電子通貨の方が楽だったのでしょう』

「でも信用低かったよ?すぐに換金した方が安心したもん」

 

共通電子通貨は広く使えるからほぼ通例で使っていた様なものであり、見ての通り新しく発行された通貨への兌換が積極的に行われていた。

 

『ですが鉄道造幣局が新たに発行した通貨は元々共通電子通貨だったもの。それを1:1で交換可能にした事で、ウィール通貨は基軸通貨としての地位を確立しつつあります』

「そりゃあ世界中の鉄道管理局関連の施設で使えるならね」

 

鉄道路線が一種の領土となっている鉄道管理局、世界中に張り巡らされた鉄道路線や関連施設である駅や貨物ターミナル。その中で使うことが出来る新たな貨幣は、世界中で使えるというある程度の安定した信用を有していた。

事実スフェーンも、交換可能な金額を全て交換していた。

 

『硬貨は一定量の金属を手の内にとどめておく上で簡単な方法ですね』

「じゃなかったらこんな銅とかの戦略物資になる金属資源で通貨作らないって」

 

新しく発行されたウィール通貨は硬貨とポリマー紙幣が発行され、通貨単位はウィールと輪。1000輪で1ウィールとされ、鉄道管理局の運営する施設には新たに両替所が設けられ、早速レートが表示されていた。

 

「開戦から二年でこれほど変わるとはね〜」

『二年もあれば世の中は変わることができますよ』

 

後に世界大戦と呼ばれる事となるこの戦争は、二年も経過すれば戦争が日常となり、地面に掘られた塹壕が棲家となって空にはミサイルや監視ドローンが交差する。

 

ピーッピーッピーッ

 

すると展開していた偵察ドローンが撃墜された事を知らせる警報が耳に入る。

 

「あーあー、来ちゃったよ」

『軍警察に通報して逃げましょう』

 

今回の野盗襲撃を前に軽くため息をしながら彼女は運転台から手を離す。

開戦以降、初年度の野盗襲撃の回数は前年比二三〇%増という軍警の報告があり、いかに治安が一気に悪くなったか分かるだろう。

 

「やれやれ、馬鹿どもの相手はしたく無いね」

 

そう言いながらPSRL-1を手に取る彼女はそこにC4をたっぷり詰め込んだ改造弾頭を手に取る。

射程距離は短くなるが、一度オートマトンに命中すれば確実に損傷を与えられる威力を持っていた。

 

『CIWS、射撃開始します』

 

直後、車両の武装区画から発射されるCIWSの30mmガトリング砲の射撃。

ミサイルも発射され、襲撃をして来た野盗団に向かって飛んでいく。

 

「よっと…」

 

そして足元に発射薬付きの弾頭を転がしながら運転台上のハッチを開けるスフェーン。

発射直前にピンを抜いて信管を作動させると、発射器に装弾をして照準を合わせる。

 

「視界良好…」

 

そこで自分の視界の先に光学倍率で拡大した突撃してくる野盗に向かって引き金を弾く。

 

バシューーーッ!!

 

しかし初弾は外れて地面に落ちると、そこで時限信管が作動して地面に爆発が起こる。

 

バシューーーッ!!

バシューーーッ!!

バシューーーッ!!

 

連続して次弾を装填して引き金を弾くと、発射された弾頭の一つが軌道を描いて出撃してくる野盗のテクニカルに命中すると、中のC4爆薬に点火。爆発を起こすと、消火器の外郭が弾けて散弾の容量でテクニカルのドアを貫通する。

 

「うん、大当たり」

 

しかし空にはドローンが展開しており、腹には爆弾を抱えていた。

 

「…仕方ないか」

 

そこで彼女はPSRL-1から散弾銃に持ち変えると、引き金を引いた。

 

ッ!!

 

そして放たれた散弾は空中でスチール製小球が霧散し、飛行していたドローンを撃退する。

 

こちらのドローンが落とされ、双方ジャミング装置を起動させた状態で向こうのドローンが生きているという事は、確実に相手は光ファイバー通信で動かしているわけで、物理的に排除するのが一番手っ取り早かった。

 

「でっかいの頼んだよ」

『お任せを』

 

そこで車両から30mmガトリング砲の発射時の衝撃波を感じながらスフェーンは散弾銃のレバーを倒す。

 

ジャコンッ

 

そして新しい散弾を装填すると、接近してくるドローンに照準を合わせて引き金を弾く。

 

途中、対向列車からも射撃が加わり、強襲をかけてきた野盗団は停滞を余儀なくされる。すると遠くからローター音が聞こえ始め、遠くから軍警の攻撃ジャイロダインが飛来すると、野盗達は逃走を開始して行った。

空飛ぶパトカーである軍警察の攻撃ジャイロダインは武装を最大限積載していた。

 

「やれやれ、真昼間に襲いにくるんじゃ無いの」

 

スフェーンは逃げていく野盗を前に吐き捨てると、逃走を図った野盗団は装甲車に搭載していたロケット弾をさらに展開していた攻撃ジャイロダインに向けてはなった。

 

放たれたロケット弾を攻撃ジャイロダインは軽々避けて反撃で装備していたロケット弾を発射する。

 

「…あっ」

 

そして発射された無誘導ロケット弾を見上げたスフェーンは溢す。

 

『っ!げ、迎撃します!』

 

その光景の後に起こる事を容易に予測できたので、ルシエルはCIWSを空に向かって放ち始めた。

空に向かって加速をしていたロケット弾は、燃料を使い果たすと自由落下を開始。他の列車も運行している本線上にまばらに落着を始める。

 

ドゴーンッ!!ドゴーンッ!!ドゴーンッ!!

 

周囲をロケット弾が落着を始め、その中を走る列車。

逃げるには速度を上げて区域を脱するしか無い状況で、スフェーンは当たらない事を願ったが、

 

ボーンッ!!

 

列車の武装区画の一つ、迫撃砲をしまっていたあの場所に一発が落着して爆発した。

爆発の衝撃で車両全体が大きく揺れた。

 

「っ!被害は!?」

 

反射的に積荷への誘爆を危惧してすぐに脱出できる準備をすると、

 

『第二武装区画に直撃弾。消火剤射出。今の所、積載物への誘爆はありません』

「…そう」

 

途端、スフェーンは安堵した。流石に運び屋をやっていて、そのまま積荷に引火して大爆発なんてオチは望んでいなかった。この身体になってから長いこと付き合って来た相棒とこんな理由でお別れになるのも悲しい部分があった。

 

「良かったぁ〜…」

 

胸を撫で下ろしたスフェーンは、そこで他にも被害を受けただろう同方向を走る列車を見ると、その列車は被害がなさそうだったので少し恨めしかった。




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  • 難民に揺れる街
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