TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#179

損傷を受けて緊急で近くの街の修理工場に向かう。

 

「この後どうされますか?」

 

移動中の車内でルシエルが聞いて来た。

 

『指名依頼で時間制限あるから、側だけ直して後で考えよう』

「了解しました」

 

ルシエルが体を動かしている現状、スフェーンはネットの海に潜って検索をかけていた。

 

『今回の目的地は岩前かぁ…』

「軍警察の管区本部がある都市ですね」

 

目的地である都市を前にスフェーンは言う。

 

「今回の損害の本格的な修理は、岩前で行う方向でよろしいでしょうか?」

『そうね、壊れた場所は側だけこの後の街で直してもらいましょう』

 

スフェーンも同意すると、列車は新しい閉塞区間に入ってスフェーンの列車は緊急で途中の都市の貨物ターミナルに進入すると、事前に予約を取っていた修理工場に向かった。

 

 

 

その後、修理工場に緊急入線したスフェーンの列車は、損害を受けた部分を切り取って破壊された迫撃砲の残骸や残っていた迫撃砲弾を回収して貰い、残骸はスクラップとして売却を済ませた。

 

「やれやれ、早急に終わらせたいからってちょっと割高になっちまったよ…」

 

一日の突貫工事で修理を終え、工場から出るスフェーン。その際、時間に間に合わせる為に少々割高のコースを選んでいた。

 

「誘爆しなかったのが不思議でならないわ」

『本当ですね。あれだけ迫撃砲弾も剥き出しの状態だったのに…』

 

ぐちゃぐちゃになって悲惨な状態だった自動迫撃砲を積載していた武装区画は、車両の設計図を渡して修理を行ってもらい。翌日には出庫し、本線上に復帰していた。

幸いにも積載しているエーテル機関には傷もなかったので修理も早く完了していた。

修復した武装区画の中身は空っぽであり、この後に何を載せるかはまだ考えていなかった。

 

「おかげでちょっと遅れちゃうよ」

『まぁ時間内に届けられなかった事は過去に何度もありましたし…大丈夫ですよ』

 

ルシエルはそこで今までのスフェーンの運輸ギルドでの完璧な成績を思い返す。

基本的に指名依頼の達成率は九九%、時間内の依頼達成率も八五%。社会的に見てもとても優秀な運び屋である。

 

オートマトンを手放して早数年であるが、オートマトンが無くとも彼女は強かった。

 

「はぁ…」

『また次頑張ればいいですよ』

 

軽く落ち込むスフェーンにルシエルは優しく声をかけていた。

 

「まぁね〜、岩前についたら腹ごしらえでもしよっかな〜」

『それがいいです』

 

ルシエルはスフェーンを軽く励ますと、列車を本線に繋がる分岐点まで移動させていた。

 

 

 

岩前は軍警察の空軍・陸軍の基地が置かれた拠点の一つである。

軍警察の管区本部が設置され、陸上巡洋艦や空中艦隊の補給基地が置かれており、郊外には長大な滑走路を有していた。

 

『間も無く岩前です』

「…んっ」

 

ルシエルの報告とともに目を覚すスフェーン。

ベッドの上には前よりも小さくなったヨレヨレのジンベイザメのぬいぐるみがあり、今日もそれに抱きついて睡眠をとっていた。

 

人間らしい生活を送りたいと言う理由で最近はガッツリとした睡眠のために意識のシャットダウンを行っているスフェーン。

 

「予定から何時何遅れた?」

『五時間三八分二二秒です』

「おぉ、思ったより早く着いたね」

 

軽く腕を伸ばし、落としていたカーテンを上げると、外は日の入りも近い時間帯だった。

 

「今何時?」

『午後六時三八分です』

 

時間を確認すると、スフェーンは体を起こして下着姿でベッドから出る。

キャビンの中は一年中一定の温度に保たれる密閉構造であり、部屋も狭いので冷暖房がすぐに効くのがありがたかった。

 

「後で依頼主に言っとかないとなぁ〜」

『まだ襲撃で奪われなかっただけましでは?』

 

ルシエルは運んでいる荷物の危険性を考えた場合の事を言うと、スフェーンもそれもそうかと納得させると列車は自動運転で岩前の貨物ターミナルに到着する。

 

 

 

「困りますよ。こっちはただでさえ急いでいるのに…」

「申し訳ありません」

 

依頼を完了し、積載していたコンテナを下ろしている最中、スフェーンは運送品を取りに来たこちら側の依頼主を前に頭を下げていた。

 

今回の運送品は火器弾薬。依頼主は新興の小さな傭兵団で、岩前に訪れていた理由は不明だ。

報酬の調整を行い、遅れた事で少しだけ減ってしまい軽くゲンナリする。

 

「さぁて、飯食って気分晴らしますか〜」

 

スフェーンはサイドカーに跨りながら言うとエンジンをかけて街に繰り出した。

 

 

 

その頃、スフェーンが運んだ物資をトレーラーに積載しながら無線を起動して受取人の女性は言う。

 

「物資到着。現在積載中」

『了解、α・cの移動も完了。bは移動中。送れ』

「了解。最終便の荷物を届ける」

 

昔ながらの無線機を使用しての通信を終えると、目の前の自走式無人トレーラーに積載されるコンテナを見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

岩前の陸軍基地には現在、陸上巡洋艦と空中艦隊が停泊して集中整備を受けていた。

 

エーテル・ボンバの攻撃で三軍全てにおいて多大な損害を被った軍警察は『②急計画』により損失分の船舶や陸上兵器の製造を開始。

軍警察の保有する各造船所・造兵廠に対し増産を命令し、損失分の艦艇・各種兵器の補填を行っていた。

その数は戦前よりも増えており、艦艇も新たに『戦艦』と『陸上戦艦』が建造されていた。

 

「やれやれ…」

 

ここは岩前陸軍基地の司令長官室。そこでは基地司令の斉藤道長陸軍大将が片手にコーヒーを淹れていた。

 

「我々も難儀な立場になった物だな」

 

二つ目のカップを持って一つを差し出しながら彼は言うと、ソファに座っていた本居誠司空軍大将がコーヒーを受け取りながら軽く頷く。

 

「仕方あるまい。我々は原則として世界に対し中立を宣言する、所詮は顧客が都市の民間警備会社だ」

 

空軍と陸軍の基地は隣接しており、互いに行き来することも可能となっており。陸軍の草色の戦闘服と、空軍の灰色の飛行服が基地の食堂では入り混じっていた。

 

「民間警備会社か…」

「事実そうだろう?開戦直前に我々はパシリコとサブラニエから逃げ出したんだ」

「おまけにリストラもな」

 

軍警察は開戦後、機密情報の観点から両陣営出身の兵士に対し部隊配属の転換及びリストラを行っていた。

 

「リストラしたのは二個師団。陸軍は既にこの戦争で一個方面軍の損害を出している」

「その後の自主退職者も含めれば二個方面軍は出ているか?」

 

やや苦笑気味に本居は言うと、斉藤は軽く言う。

 

「笑い事ではあるまい」

「そうだな…お陰で傭兵ギルドは目の敵とも言える」

 

『始まりの火』の攻撃は最初から中立を宣言していた都市にも及び、多くの兵士はこれほどの惨事を前にしても報復攻撃に動かない、そんな状況に正義心に溢れる治安官は軍警察を見限って傭兵に転職していた。

 

「傭兵ギルドも、設立早々に苦労しているだろうに」

「はっ、そりゃそうだ」

 

今の傭兵ギルドはパシリコ・サブラニエ双方から兵力増強のための募集が多く。こちらも軍警察と同じく中立を維持していた。

 

「可哀想だと思うのは。傭兵という仕事、双方に同じく接する必要があるという事だ」

「それこそ非干渉なんて行ったら石を投げられるに決まっている。舵取りには苦労しているだろうよ」

 

軍警察と違い、傭兵ギルドは真正面からこの戦争に協力せざるを得ない状況に加え、

 

「それに設立者がまた問題だ」

「あぁ、嘗てアイリーンに協力して…その上裏切った男だからな。とんだ詐欺師だ」

「今は殺人未遂容疑で司法局だ。確か第四公判を終えたばかりだったはずだ」

 

そこでチョコレートを手に取って口に放り込む斉藤。

 

「難儀だな。ギルド設立の指導者はアイリーンの元協力者で、今は嘗ての相棒の殺人容疑とは…」

「レッドサンとブルーナイト…二つ名は子供らしい名前だが、実力は本物だ」

「だろうな、でなければ今も伝説にならない」

 

本居も軽く頷いてオートマトン乗り最強の傭兵として今も語り継がれる二人を思い浮かべる。

 

「方や傭兵ギルド創設の礎を築いた英雄。一方はその相棒の殺人未遂容疑で拘留か…」

「司法局も微妙な舵取りを取らされているのは可哀想な話だ」

 

すると遠くで軍警の戦闘機四機が夕焼けに照らされて、轟音と共に離陸していく様を眺める。

 

「今の修理が終われば、海賊対策は空軍に委任される」

「これから我々も忙しくなるな」

 

二人は司令官室で与太話をしていた時、

 

パンッ!

 

一発の銃声がかすかに聞こえた後、基地全体に警報が鳴った。

 

「何だ」

「敵が侵入したかもしれんな」

 

すると司令官室にアンドロイド兵が突入してくると、

 

「閣下!」

「襲撃か?」

 

斉藤が的確に言い当てると、護衛のアンドロイド兵は頷いた。

 

「はいっ!至急退避を…っ!!」

 

すると銃声が聞こえ、直後に煙を引いた擲弾が部屋の前の廊下で弾けると、

 

「くそっ!」

 

士官服を着ているアンドロイド兵は軽く毒吐くと、直後にその兵士は持っていた拳銃を抜くが、

 

「ぐあっ…!!」

 

複数の銃弾が貫通していき、そのまま部屋の前で倒れてしまった。

 

「「…」」

 

そんな光景を前に二人の大将はとても落ち着いた様子でコーヒーの入ったカップを傾けると、本居は一言。

 

「お手つきか?」

「阿呆、早とちりの間違いだろう」

 

部屋に若干、暴徒鎮圧用の催涙弾の煙が流入する中言うと、その奥から緑の腕章を付けたガスマスクと6.5mm小銃を装備した歩兵が現れた。

 

「斉藤陸軍大将と本居空軍大将ですね?」

 

先頭に立った歩兵は聞くと、斉藤達は彼らを一瞥することすらせずに聞く。

 

「誰だね君たちは?」

「名前と所属、階級を言いたまえ」

 

二人は言うと、周辺では爆発音が聞こえる。基地内で戦闘が起こっている合図だった。

 

「はっ!第一〇四砲兵師団所属、ワイラー・マクリーン少尉であります!」

 

すると司令官室には他にも数名の歩兵が現れ、司令部を占拠していた。

 

「お二方にはまず戦闘の中止命令を下して頂きたい。我々も無用な死者を生み出すことは本意ではありません」

 

この現状を前に二人の大将は状況を把握する。

 

ーーなるほど、クーデターか。

 

治安官の大半が軍警察に入隊する理由である世界の平和の維持と世界を守る正義心。

 

ーー平和には平和を。武力には武力を。

 

そこで二人は脳裏に軍警察の基本理念を思い返す。

 

軍警察活動規則 第一節第一条

『軍警察は契約を行った地域への如何なる侵略行為を認めず。国際紛争を解決する手段として武力による攻撃の権利を有する』

 

これはこの二年、沈黙を貫き続けていた軍警察への内部の反抗であった。




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