TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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今回は『青年日本の歌』を聴きながら読む事をお勧めします。


#180

岩前は軍警察直轄都市と言うことも相まって、周辺は安全が保障されたようなものである。

特に開戦直前にNTCとSMATOから部隊を撤収させたことでリソースは鉄路と中立を宣言していた都市に割り当てられ、中立国家は今まで以上に軍警察による手厚い保護が受けられるようになっていた。

 

そして『都市』から『国家』に世界が変革したことにより、軍警察への治安税の支払いにも大きな変化が起こった。

国家に帰属する事となった多くの都市の治安税の支払いは中央政府が纏めて行う事となり、そのお陰で今までは小部隊のみ派遣されていた小規模都市にも十分な装備を持った軍警察の治安維持部隊が展開するようになり、相対的に治安維持の向上に繋がっていた。

 

この光景を前に多くの中規模・小規模都市は中立国家へと統合を繰り返す事で都市間における集団的自衛権を獲得していた。

そして中央政府の治安税一括支払いにより、今まで各都市が有していた自警団は国軍となって周辺国の侵攻に警戒する純粋な戦闘部隊として編成が行われていた。

 

軍警察はあくまでも国内の治安維持組織として駐留しており、国軍が行う領空侵犯による拿捕などには一切不干渉の立場をとっていた。

 

岩前は中連森林同盟に参画する都市であり、軍警察直轄都市として中連森林同盟の中でも軍警察の治外法権が適応される都市であった。

行政権は中連森林同盟が有しているが、立法権と司法権は軍警察が有していた。

 

「ふぅ〜…」

 

サイドカーを運転し、交差点で停車するスフェーンは新しく購入したヘルメットを被って岩前のビル群を見上げる。

中連森林同盟は国内の治安を軍警察に一任している中立国家であり、国境は東西の北側諸国と南側諸国の国家に挟まれていた。

 

「平和で良いわね」

『えぇ、全くです』

 

スフェーンの呟きにルシエルも頷くと、視線の先で行き交う人々を眺める。

中には貧相な身なりの者もおり、おそらくは難民なのだろう。

 

開戦以降、戦火を逃れようと多くの人々が設定された国境を超えて中立国家に流れ込んでいた。

そして難民申請を行い、たとえ認められなくとも不法移民と化した人々は都市外縁などにスラム街を建築していた。

 

無論、難民の大量流入による治安悪化も招いており、軍警察は中央政府の要請を受けて不法移民を拘束していた。

拘束された人々は中央政府の有する国軍を通じて故郷へ強制送還されていた。

 

「ほらっ、中に入った」

「ちょっと!何するのよ!!」

 

道路脇に停車した装甲兵員輸送車に手錠をかけられた不法移民が乗せられる様も日常となっており、誰も気に留めていなかった。

むしろ難民を追い出す事に歓迎する様子すら見てとれた。

 

「やれやれ…」

『難民も苦労をしていますね』

「何処だってそうよ」

 

世界中の中立都市で同様の光景が見られるに違いない。

しかし北側や南側ではどうなのだろうかとも思う。あそこには今、軍警察の部隊は居ない。

精々貨物ターミナルや鉄道管理局の運営する施設のみ駐屯をしている。

 

『軍警がいなくなった後の戦争当事国は、若干の治安の低下はあれど、ある程度安全なようですね』

「そりゃ国軍投入しているからね、元々軍警がいた場所に」

 

両陣営ともに今は膠着状態で、最近は大規模な攻勢がなかった。

戦線は既に世界中に拡大しており、戦闘の様子はスフェーンも眺めていた。

 

『このまま戦争は続くのでしょうか?』

「いや、それは無いでしょう」

 

ルシエルの問いにスフェーンは即答した。

 

「こんな被害受けて軍警が口を出さないはずがない」

『それはそうですが…』

 

ルシエルは納得しつつも、現状終わりの見えない戦況に不安を感じていた。

 

「それにどうせそろそろ動くって」

『なぜです?』

 

ルシエルは確信めいた様子で言ったスフェーンに首を傾げると、彼女は言った。

 

「軍警は世界で一番強い軍事組織であり続けたいからだよ」

『?』

 

ルシエルは彼女の返しにやや首を傾げたが、直後に納得する。

 

『…なるほど、そう言う事ですか』

「そうそう、昔から人のやることは変わらないってね」

 

そう言っていると目の前の信号が青に変わったのでスフェーンはサイドカーのスロットルを回す。

 

「さて、今日は飯を食って寝ましょうか」

『そうですね。序でに空っぽの第二武装区画の検討もしましょう』

 

ルシエルは言うと、スフェーンも頷いて飲み屋街に向かった。

岩前は治安官保養のために娯楽施設は充実しており、毎月の給料袋を狙って豪華な酒と料理を用意している。

 

「さぁ安いよ!割引やってるよ!」

「飲みセットいかがっすか〜」

 

店先で店員達が叫んでおり、看板片手に休暇に入った治安官などを店内に誘う。

 

「お姉さん」

「?」

 

そしてスフェーンもそんな飲み屋街で話しかけられた。

 

「どうですか?ウチで一杯」

「あぁ〜…」

 

看板を持って比較的整った容姿を持つ青年を出して来たあたり、明らかに狙っているのだろう。丸見えである。

 

「他の店見てから考えるわ」

 

スフェーンは丁重に断りを入れたが、

 

「大丈夫っすよ。今なら1ウィールで酔えますよ!飲み放題もついてます!」

 

やや興奮気味に話しかけるその若い店員だったが、

 

「おい馬鹿野郎、そいつはウチが狙ってたんだぞ!」

 

そう言いながらやってきたのは別の飲み屋の店員。少々腹の出た明るめの雰囲気の男の店員だ。

 

「どうだい姉ちゃん?うちの方がツマミが多いよ?」

「え?まじ?」

 

その目線は青年を見ており、喧嘩を売っているように見えた。

 

「あのさぁ、毎回ウチから客持ってかないでくれる?」

「なんだあ?ケチつけようってか?」

 

そこで客の取り合いで火花を散らしていると、

 

「コラ〜ッ!」

 

すると遠くから怒鳴りながら治安官が走って来ていたので客引きをしていた店員達は慌てて逃げ出す。

岩前では悪質な客引きは禁止されており、飲み屋街では治安官が目を光らせていた。

 

『治安官は相変わらずですね』

「お陰でこんな状況でも安心して暮らせるってものよ」

 

そう思うと改めて軍警察にありがたみが増してくる。世界中が混乱しているのにも関わらず、僅か半年である程度の混乱を落ち着かせることに成功したのだから。

 

「さて、今日はどこで飲むかね…」

 

そんな事を呟いた時だった。

 

ドコーンッ!!

 

遠くから聞きなれない爆発音が聞こえた。

 

「?」

 

その爆発音を前に、スフェーンや周囲にいた人間の誰もが首を傾げた。

 

「爆発?」

「どう言う事?」

 

困惑する市民を前にスフェーンも同じように呆然と立っていた。

 

『爆発は軍警察の基地から聞こえて来ました』

「え?軍警が襲われた?」

 

スフェーンが呟くと近くにいて聞き耳を立てていた他の民衆も同様に煙が立ち上り始めた基地の方角を見ていた。

 

 

 

 

 

軍警察の基地は大量の物資が行き交い、コンテナも山積みになって置かれる。故に基地の道路にコンテナが停まっていても注意を引くことはなかった。

 

「…」

 

自走式無人トレーラーの近く、横を一般車両などが通る中。一人の戦闘服を見に纏った男が袖を捲って腕時計を一瞥した。

 

「そろそろか…」

 

そう呟くと彼は後ろのコンテナの扉を開けた。

 

「そろそろ時間だ」

「了解しました」

 

コンテナの中には十数名の武装した歩兵が待機しており、左腕には緑色の腕章を付けていた。

 

「…」

 

そして彼等は最後の確認を終えると、部隊長の男は腕時計を再度確認する。

 

「五…四…三…二…」

 

直後、別の地点から発射された120mm迫撃砲の砲声が響いた。

 

ッーーー!!

 

そして聞こえる爆発。

 

「「「っ!?」」」

 

周辺にいた兵士たちに驚愕の色が浮かぶと、

 

「行くぞ!」

「「「「っ!!」」」」

 

コンテナから一斉に兵士たちが飛び出した。

彼等が目指すのは陸軍の司令部。司令官室に二人の基地司令がいる事は既に内通者から聞いていた。

 

「何だ貴様らっ!」

 

周辺では待機していたオートマトン部隊が司令部まで繋がる道を作っており、協力してくれる歩兵部隊が歩兵戦闘車や装甲兵員輸送車を派遣した。

 

「うわっ!?」

「ぎゃあっ!!」

 

司令部に突入して、抵抗する治安官に持っていた小銃の引き金を弾く。

そして基地内に警報が響き渡る中、自分達は真っ直ぐ基地司令のいる部屋まで走る。

 

「撃て」

「了解」

 

飛び出した後に廊下にいたアンドロイド兵を倒しながら擲弾を発射する。

 

「催涙弾だ!」

「ゲホッゲホッ!」

 

煙幕も同時に発射し、その間に一気に司令官室に突入をした。

 

「斉藤陸軍大将と本居空軍大将ですね?」

 

そして部屋にいた大将の階級章を下げた草色と灰色の士官服の二人。

彼等はコーヒーを飲みながら聞いて来た。

 

「誰だね君たちは?」

「名前と所属、階級を言いたまえ」

 

あまりにも堂々とした振る舞いで落ち着いており、一瞬驚いてしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ーー軍警察、現地時刻午前二時二六分発表。

 

ーー岩前空軍・陸軍基地においてクーデター発生。

 

ーー首謀者は第一〇四砲兵師団所属、ワイラー・マクリーン少尉以下十二名。

 

ーークーデター参加部隊は以下の通り。

陸軍

第一二二歩兵師団

第二二八空挺師団

第五一五機動師団

第二二戦車大隊

第二一砲兵旅団

 

海軍

第五二二海兵旅団

 

空軍

第十四航空師団

 

以上、計一九三六名をクーデター部隊と認定する。

 

ーー午後七時〇三分、クーデター部隊は岩前基地司令部を襲撃。

 

ーー午後七時十四分、クーデター部隊は会期中の岩前市議会議事堂を占拠。

 

ーー午後八時二二分、岩前市に戒厳令発令。

 

ーー午後八時五二分、クーデター部隊の声明発表。

 

ーー午後九時二三分、岩前周辺地域の軍警察陸軍部隊に非常事態宣言発令。

 

ーー午後九時三〇分、空軍第十二艦隊・陸軍第八艦隊に非常事態宣言を発令。

 

ーーなおクーデター部隊により、岩前空軍基地司令長官本居誠司空軍大将、同陸軍基地司令長官斉藤道長陸軍大将は拘束された模様。

 

ーークーデター部隊の目的は今時大戦への軍警察の軍事介入であると推定。

 

ーー軍警察治安部隊は岩前市外縁に展開を命令。またクーデター部隊への参画を警戒し、海軍陸戦隊、空軍強襲隊にも協力を要請する。

 

ーーヴェルヌ大陸に展開中の軍警察治安部隊へ通達。非常準備宣言より非常警戒宣言へのレベル引き上げを行う。




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