TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#181

岩前とその周辺地帯に軍警察の部隊が展開することとなった情報は、翌日には世界中に知れ渡ることとなった。

 

「えー、昨日勃発したクーデターの最新の情報ですが…」

 

画面ではキャスターが展開中の軍警察部隊と共に遠くに映る岩前の光景を映していた。

 

クーデター部隊は岩前の報道機関も既に制圧しており、通信もジャミング装置を展開して長距離通信が遮断された状態で、都市の様子は詳細に把握できなかった。

 

「クーデターに参加した部隊は陸海空からそれぞれ決起した模様で、クーデター部隊からの要求はーー」

 

斉藤達は、基地の司令長官室にて銃を持った歩兵に囲まれていた。

 

「君達、降伏をしたまえ」

 

斉藤はそこで話しかけるも、ワイラーは首を横に振った。

 

「閣下、我々はこの組織を守る為に決起した次第であります」

「組織を守る…か」

 

そこで斉藤はワイラーを見つめる。

 

「君達の気持ちは理解できなくもない」

 

そこで斉藤はワイラー達の決起部隊が自分の将校用に用意されている秘匿された通信回路を用いて送信した要求内容を思い返す。

 

「…」

「だが、我々はあくまでも世界最大の軍事組織として、世界に公平に武力を行使する警備会社なのだ。国家間の戦争に介入するのは、軍警察の信用に関わる」

 

そこで斉藤はキッパリと言う。

 

「君達の私怨の為に、三〇〇〇万の治安官の命を危険に晒すのか?君達は」

「いいえ、これはエーテル・ボンバの攻撃で叫ぶ間も無く失われた四億の人々の為です!私怨ではありません!」

 

覚悟を決めていたワイラーは斉藤から目線を外す事なく言う。

 

「戦争に本格介入をすれば大勢の治安官が死亡する。その責任は誰がどう取る?」

「全ては戦争を始めたサブラニエに責任があります。それに、人々は我々が戦争に介入し、早期に戦争が終結する事を望んでいます!」

 

ワイラーはそこで『未回収の軍警察』と報道機関で言われている自分の居場所を思い返す。

 

「今の戦争でも難民が発生して世界は混乱しています。我々が正義の代弁者として、戦争の早期解決をするのです」

 

そんな興奮するワイラーに斉藤は静かに返す。

 

「正義?戦争に正義はあると思っているのか?」

「…」

「ネットに正しい情報がないのと同様、戦争に正義なんてものはない。あるのは勝つか負けるかの選択肢のみだ」

 

淡々と斉藤は言うと、そこで手を机の上で組んだまま斉藤に言う。

 

「すまんが、テレビを付けてくれないか?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「やれやれ…」

『とんでもない事になりましたね』

 

岩前の貨物ターミナル。そこでスフェーンは軽く腕を組んで考え事をしていた。

 

「クーデターとはねぇ…」

 

そう言い戒厳令が敷かれた外を見ていた。

 

『現在旅客駅には大勢の人々が押し寄せているようです』

「列車も今は全部止まっているよ」

 

そこで嫌に静かな貨物ターミナルの中、道路に停車している歩兵戦闘車とオートマトンを見る。

 

「戒厳令が出てから、この区間の線路は全部封鎖されてるっての」

 

クーデターの一報を受け、鉄道管理局は軍警察からの要請に応える形で岩前に繋がる路線を全て封鎖しており、迂回路を他の列車は走っていた。

 

「おまけにジャミングが強すぎて通信もできないし」

 

そこで砂嵐状態の通信網を見る。報道機関も制圧されており、テレビやラジオは沈黙を続けている。

 

「あまりにも暇すぎる」

 

ベッドで横になりながらスフェーンは部屋の天井を見上げる。

昨夜のクーデター発生後から都市にいた住民全員は外出禁止令が出ており、時間外に外出をすれば拘束されると言うので大人しく列車に戻っていた。

 

『これからどうしますか?』

「どうすると言ってもねぇ」

 

現状、何も出来ないのでスフェーンは冷蔵庫を開ける。

 

「一応、一週間くらいは待つかな?」

 

そこで溜まっている備蓄品を見ると、ルシエルは言う。

 

『そもそも食事を必要としない体なのですが?』

「あのね、一ヶ月部屋から出ない人がいたら怪しいでしょう?」

『そもそもこんな非常事態でそこまで気にする人がいるかどうかも疑問なのですが』

 

ルシエルのマジレスにスフェーンは冷めた目線を送りながら倉庫に移動する。

 

「えーっと?今あるのは…」

 

倉庫にはかつて乾物の山があったが、とうの昔にそれは消えて無くなっていた。あの乾物を購入したあの青年は確実に恋心を向けられていたが、あえて無視していたな。まだ元気にしていると良いが…。

 

『缶詰めはコンビーフやツナ缶、スパムを含めて備蓄は十分にありますよ』

「あと米と乾燥パスタもね〜」

 

列車に箱買いで置かれているそれらの確認をしているスフェーン。

戒厳令が敷かれて明日が無事なのかもわからない不安が広まる中で、スフェーンはとても落ち着いていた。

 

「暫くはなんとかなりそうね」

 

そこで備蓄食料の確認をして、しばらくは問題なしと判断したスフェーンは部屋を眺める。

 

「んじゃあ、暇つぶしに掃除でもしますか」

『暇つぶしにやるような事ですか?』

 

スフェーンの言葉にルシエルも思わず首を傾げてしまった。

 

『掃除は常に毎日行うべきものだと思いますが?』

 

ルシエルは洗濯カゴに下着と服を放り込んでいるスフェーンに言う。

 

「まぁね〜、できる時にやってはいるんだけどね〜」

 

移動する自分の家でもあるこの旅客キャビン。カタログ落ち仕掛けていた物を安く購入して使っていた。

 

「そう言えばノル達は元気にしているかな〜」

『連絡は取れましたので、生存はしていますよ』

 

ルシエルはそう言って『始まりの火』の際にエーテル・ボンバが落着した後に連絡を取った時に繋がって安堵した時のことを思い出す。

弾頭はウリヤナバートルにも落着をしており、市街地は一部地区に甚大な被害を齎していた。

 

『ウリヤナバートルには一発が落着し、北部地区一帯が立ち入り禁止エリアとなっています』

「んで、そこに反応は?」

『今の所、ウリヤナバートルに着弾したエーテル・ボンバからは臨界エーテルの波動は感じ取られません』

「ふむふむ…」

 

そこでスフェーンは部屋に仕舞われた金庫を見る。あの中にはポリ袋に入れられた臨界エーテルが収容されている。

 

「今まで回収した臨界エーテルは二四個…」

『訪れた落着地点は八四ヶ所です』

 

洗濯物を片付け、自動清掃機を起動させて床一面のマットを掃除し始める様を眺めながらスフェーンは少し息を吸う。

 

「ふぅ…」

 

するとスフェーンの女性的だった体は縮小を始めると、頭上の角に生える林檎の花はみるみる成長していき、花弁が萎れて消えると中の果実が成長を開始し、大きく実った緑色の林檎は忽ち青く透明に輝くと中心部に虹色の煌めきを持つ。

そして体が収縮して行くたびに頭上の角から数個の同じ青い林檎が成長していた。

 

「…重っ」

 

そしてずっしりと感じる重量にスフェーンは角がもげそうだと思った。

 

『春でもないのに角がもげたら面白いですね』

「笑い事ちゃうわ。阿呆」

 

そこでスフェーンは摘果鋏を手に取ると、そこで出来上がった林檎を根本から切っていく。

 

「全く変な話だよ。どうして自分の体から果物を切り落とす事になるのかね」

『体内に余分なエーテルが結晶体となって突き出るよりはマシなのでは?』

「動けなくなるよりかは良いの…かな?」

 

そもそも人から果物が生えてくる事案でも十分問題だが、高濃度の活性化エーテルを内包した青い林檎という見た目も中身もおかしい果実が角から出てくる、科学者からしてみれば発狂モノの事案にスフェーンは苦笑する。

そして採果した林檎はテーブルの上に置くと、そこでルシエルが聞いた。

 

『しかしどうしてまた子供の容姿に?』

「なんとなく。こっちの方が見逃してくれそうじゃない」

『私は逆に完全サイボーグと思われてみっちり尋問を受けるかと思います』

「おっ?ならやってみようか〜」

 

スフェーンはルシエルとそう言いながらベッドの上に散らかっていたぬいぐるみを一度退け、布団とシーツを剥がす。

 

「洗濯物が多い事で…」

 

そして洗濯カゴを抱えてサイドカーの荷台に乗せると、ガレージの扉を開ける。

通信で開閉可能な扉はルシエルが開閉を担当し、バイクのエンジンをかけてクラッチを操作するとそのままスロープを伝って外に出る。

 

ブロロロロ…

 

クラッチを回し、大量の洗濯物を乗せたサイドカーをコインランドリーまで向かわせる。

 

「よしっ」

 

スフェーンはそこでサイドカーを走らせる。しかしノーヘルで。

体質的に鹿角が生えるようになってしまったことでヘルメットも鹿の獣人が使う分解式の穴の空いたヘルメットを購入せざるを得なかった。

今の時代、ノーヘルでバイクを走らせようものなら軍警に青切符を切られてしまう。

 

「しゅっぱーつ」

 

ボディカメラがあるので明らかに違法な取り締まりは認められる事はないが、そう言った違反者を取り締まる事は交通課に配属された治安官などでは点数稼ぎと呼ばれ、出世が早くなると言う噂があった。

 

「…ん?」

 

留置線には今も多くの鉄道車両が停まっており、運び屋達もここで足止めを受けていた。

何せ鉄道管理局からここに繋がる路線すべての区間が封鎖されてしまったので、移動する方法が無かった。

 

「止まれ!」

 

すると留置線の一角で警戒していた一人のクーデター部隊が出て行こうとしたサイドカーに向かって叫んだ。

後ろにはオートマトンが警戒しており、その手に30mm自動小銃を持っていた。

 

「な、何ですか…」

 

スフェーンは少々面倒そうな顔を浮かべながら叛乱兵を見ると、彼は聞いた。

 

「身分証を見せろ」

「…はい」

 

そこでスフェーンは持っていた運輸ギルドの会員証を見せると、叛乱兵は確認を終えた後に会員証を返した。

 

「行っていいぞ」

「どうも」

 

そこでスフェーンは内心安堵しながらサイドカーを走らせて行った。

 

「怖い事…」

『操車場でもこの警戒度合いですか…』

「早く終わってくれないかな。こっちだって仕事があるのに…」

 

そう言いながら停まっている歩兵戦闘車を見る。

オートマトンの狙撃銃と同じ長砲身の30mmの銃身を装備した軍警察の装甲戦闘車両は静かにエンジン音を響かせていた。

 

「…」

 

その横をスフェーンは走っていくと、運輸ギルドのコインランドリーに向かった。




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