ヴェルヌ大陸で一部治安官によるクーデターが勃発した情報はすぐに情報部所属の治安官にも届いていた。
「反乱部隊からの要求は?」
司法局最高裁判所の休憩室でロトは隣に座るライルに聞いた。
軍警察の管轄下にある司法局。その中でも最も重大な犯罪などについての判決が行われる最高裁判所は、北極大陸内陸部に存在しているドーム型都市、テミス・シティに存在している。
「軍警察の今次戦争への本格的な軍事介入。それだけだ」
「…」
叛乱部隊の要求を聞き、顎を手を当てて考えるロト。
「やはり待ちきれない連中が出てきたな」
「むしろよく二年ももったと思うべきか…だがタイミングというものがあるだろう」
ロトは思わず呟きながら天を仰ぐ。
「一応、上層部は岩前近辺の路線を封鎖。周囲を囲んでいる」
「説得は?」
「向こうが強力なジャミング装置を使っていて、直接的な通信はできていない」
ライルから聞いた情報をまとめて、ロトはため息を吐いた。
「将校を捕らえたのはそれが目的か…」
頭を軽く掻いてロトはため息を漏らす。
将校にはあらかじめ、ジャミング装置を起動しても通信が可能な人工衛星を介したレーザー通信のコードを持っており、反乱部隊は報道機関を制圧し、ジャミング装置を起動したことで余計な情報をこちらに齎さないようにしていた。
「岩前には今も多くの民間人が残されている。本来であれば交渉をして、市議会と基地以外の経済を動かす必要があるが…」
「やり方が強引だな。実質都市を人質に取ったようなものだ」
既に岩前に繋がる鉄道路線が封鎖された事で都市ではいずれ物不足が深刻化する事となる。
「おまけに、今の岩前は空中艦と陸上艦が集中整備中だ」
「…だから狙ったんだろうな」
岩前には空中艦と陸上艦の整備ドックを有しており、それらも戦術上の切り札として今は向こうの手にあった。
「上からの写真だと、両方ともに整備は続けられている可能性が高いらしい」
「…本格的に脅しに使う可能性は?」
「分からん。陸軍主導とはいえ、海軍と空軍からも叛乱部隊は出ている」
「…」
ロトの所属している情報部は、対外的な情報収集を目的とした場所であり、内部情報を管轄するのは情報部四課であった。
「四課は見逃していたのか?」
「いや、兆候はあったようだが、目を瞑れと上から言われたようだ」
「上からだと?」
二年間沈黙を続けてきた軍警察。直轄都市にも攻撃が加わり、陸上艦や宇宙艦隊も被害に遭っていた。
「なぜ止める。クーデターで兵力が裂かれるぞ?」
「あぁ、早めに収束をさせる事は上もそうだ。叛乱部隊も、軍警察が本格的に戦争介入をすればすぐに帰隊すると言っている」
ライルはロトに情報を一通り渡すと、彼は少し考えた。
「…上は下士官の暴走を囮に使うのか…」
「だろうな。だから暫くは平行線となるだろう」
ライルは明日に背を預けると、ロトは言う。
「ただ不思議だ」
「ん?」
そこでロトは抱えた疑問をライルに言う。
「今回の反乱部隊の動機はエーテル・ボンバの攻撃後に生存していた被害者達だ。復讐をしたい多くは今の軍警を前に傭兵に転身したが、残った連中は普通、味方を増やすために積極的に情報発信をしないか?」
そう言ってロトは今の岩前の封鎖された報道機関の様に首を傾げていた。
「ふむ…確かにそうだな」
そんなロトの疑問にライルも頷いた。
「支援者がいる可能性がある…と?」
「或いは周りが勝手に報道を掻き立ててくれるからと思っているのか…」
「それを考えれるならクーデターなんかするかよ」
ライルはロトの意見を一蹴すると、立ち上がってロトに言う。
「まぁまずは市民の解放が最優先だ。議員様と同僚には悪いが、暫く待ってもらうさ」
彼はそう言うと休憩室から去って行った。
反乱部隊の占拠する岩前の周囲に展開した軍警察の三軍。それぞれが地上戦に特化した部隊である陸軍・海軍陸戦隊・空軍強襲隊を派遣していた。
陸軍艦隊と空軍艦隊にも出動準備が下命され、周囲には陣地が築かれていた。
「叛乱か…」
包囲した岩前を双眼鏡で眺めながら陸軍指揮官の上宮ユエ陸軍上級大将は呟く。
「悲しいものだな…生き急ぐと言うのも」
彼女は包囲した岩前を前に双眼鏡を下ろすと、部下がテントに入ってきた。
「閣下、反乱部隊との通信が可能となりました」
「そうか…」
少々哀れみも含めた表情で彼女は用意された野戦電話の受話器をとった。
この電話は、勇気ある部隊が岩前に赴き、直接電線を通して接続したホットラインであった。
「私は陸軍第七方面軍司令長官の上宮ユエだ。既に君たちの部隊は反乱部隊と認定され、岩前を包囲している。今帰隊すれば、私から司法局に減刑を要求しよう」
彼女は最初に反乱部隊に向かって話すと、
『上級大将殿の心遣いには感謝いたします。ですが、我々はこの軍警察と言う組織が今次戦争へ介入した事が認められれば、すぐに帰隊する所存であります』
「…」
彼らは不動の構えを示した。あくまでも彼達は『軍警察が』戦争に介入する事を望んでいた。
するとテントに灰色と紺色の軍服に袖を通した二人の士官が入って来た。
二人を一瞥した上宮は一言変わると告げた後に受話器を手渡した。
「諸君、私は空軍第十二艦隊司令長官ジャック・バルゼー空軍中将だ。我々からは岩前に住む民間人の解放と経済活動の再開を求める。君達が同意してくれるのであれば、現在封鎖中の路線を通行可能にできる」
現在、岩前はクーデター発生の報を受けて路線を全面封鎖しており、列車の運行は一時停止していた。
するとバルゼーの要求に少し間を置いて反乱部隊は返答する。
『…了解しました。我々も市民の安全を脅かす行為はしたくありません』
「ありがとう少尉。これから君たちと有意義な話し合いをする事を望む」
するとバルゼーは最後に紺色の士官服を纏う海軍のアラン・サモナー海軍中将を見る。
「すまんが、次に似非海賊が話したがっているようだ。すまないが変わるぞ」
言われ、左目に眼帯をしていたアランは少し顔を顰めつつもバルゼーから受話器を受け取った。
「変わった。海軍中将のアラン・サモナーだ。我々海軍からはジャミング装置の停止と、報道機関の機能回復を求める」
『それは難しい要望であります。今の状況にて我々の行動を正しく報道をされない可能性があります』
「通信機能を回復させるだけで構わない。報道機関が稼働しているかどうかは問題ではない」
そこでアランは集まった他二人の将校を見る。
「無論、我々は君たちとの戦闘を望む所ではない。通信もこの電話以外で行う事はないと約束する」
反乱部隊の情報はすぐに軍警察の中央データセンターから齎されており、決起した治安官の共通点としてエーテル・ボンバの攻撃で被害に遭ったと言うことも把握していた。
『…分かりました。報道機関の受信アンテナは復帰させます』
「すまない。苦労をかける」
そこでアランは受話器を上宮に電話を返すと、彼女はそのまま野戦電話の受話器を置いた。
そして経済活動を再開させるための準備のために会話を聞いていた下士官達が仕事を始める。
一気に騒がしくなった前線指揮所、そこでバルゼーは開口一番。
「なぜ突撃をしない?」
と不満げに上宮を見る。
「我々の強襲隊はすでに準備を整えている。我々が突撃を敢行すればすぐに事は片付く」
そこですでに荒野に降り立っている多数のティルトローターやティルトジェット、オートマトンや戦車部隊を前に彼は言った。
「海軍陸戦隊も準備は完了している。ここでの指揮官は陸軍に一任することはすでに我々も承知しているが…」
アランもバルゼーと共同する形で目の前の上級大将を見る。
「そもそもこの事件は陸軍が主導で起こした事件だ。この決起に参画する可能性はないのか?」
「それを言うならお二方の所からも海兵隊と航空団が参加している時点で地上戦部隊が下手に暴走しないか不安ですよ」
「「…」」
そう三軍全てから決起部隊が出ており、それ故に今回のクーデターは今まで軍警察が内に抱えていた爆弾が起爆したような雰囲気であった。
「それに向こうの決起部隊の言い分も理解できないわけではあるまい?バルゼー中将」
「…」
そこで岩前の言葉にバルゼーは色々と詰まった表情で見る。彼は軍警察内部でも強い強硬派であり、サブラニエへの徹底した報復攻撃を行うべきであると軍警察の議会でも叫んでいた。
「アラン中将、君の所の部隊はどうなっている?」
沈黙をしたバルゼーを見ながら次に海軍に問うと、彼は仕事を全うしていると言った。
「はっ!ティルトローター部隊は既に配置を完了させています」
「了解だ。戦闘となった場合、上からのヘリボーンは君たちが一番槍となると言っておいてくれたまえ」
「はっ!」
アランはそこで返すと下士官にあらためて通達をする。
「バルゼー中将、航空機部隊の用意は?」
「すでに完了させています。我々はいつでも出撃可能です!」
そこで彼は自信満々に答えると、上宮は軽く頷いた後に岩前を改めて見ながら聞いた。
「所で、次の日食はいつだったかな?」
ーー午後五時二三分。岩前中央駅にクーデター後最初の旅客列車が到着する。
当時の岩前駐在記者のメモより抜粋
『運行再開の一報を受け、駅には市民が多く殺到。反乱部隊はすでに岩前市議会議事堂を制壓しており、市民の動揺の具合が窺い知れる。
市民は岩前を囲んでいる軍警察の部隊を前に恐れ慄き。我先にと切符購入し、抱えられる荷物を全て最初に訪れた荷物列車に入れる』
ーー午後九時十八分。岩前の報道機関のアンテナの送受信を確認。
岩前より避難してきた住民達へのインタビュー
『もう恐ろしくてたまりませんでした。夕方に買い物から帰っていた時。いきなり目の前に軍警の装甲車が現れて、あっという間に議事堂に入っていってしまったんです』
『銃声が響いていてね。それでしばらくすると嫁と連絡が取れなくなってしまって…戒厳令が出てからは外に出るのが怖くて…』
『私は、基地で働いていたのですが…攻撃は始まった時は、どうしてこんな場所に攻撃してきたのかと思いました。なにせ中では軍警がサブラニエに攻撃したって噂がありましたから…』
ようやく岩前の経済活動が再開した事で多くの情報が報道機関にも舞い込んでいた。
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