TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#184

『ーー司令部に通達』

 

完全防護されたヘルメットの下で一人の治安官が純白の分厚い服を身に纏って常闇の空間をケーブルに繋がれて移動していた。

 

計画名(オペレーション)プルート、計画は順調に進みつつあり。作戦日時の再確認を要す』

 

確認を行っているその男の周囲には、他にも何百人と同じ格好をした人々が泳ぐように移動しており、背部の小型スラスターを操作して移動するとその先で待機していたアンドロイドの手を取った。

 

『大丈夫か?』

『あぁ、問題ない』

 

胸に軍警察の識別マークを印刷され、人間を直射日光や無気圧から守るために開発された宇宙服を身に纏う一人の人間。

 

『計画は順調に進んでいる』

『了解した』

 

そしてそこで技術士官は言う。

 

『これで戦争は終わる…おそらくな』

『えぇ、我々も早く平和を享受したいものです』

『そのためのこれだ』

 

技術士官はそう言い、足元に広がる漆黒の非常に巨大な塊を一瞥する。

するとその時、彼らに強い日差しが差し込み、宇宙服が強く反射する。

 

『…』

 

その強い日差しを作り出している正体である人工太陽を見たその軍属の技術者は一言、

 

『眩しいな…』

『えぇ、お陰で我々も特殊装備を使用しての活動ですよ』

 

そこでアンドロイド兵は軽く苦笑を交えながら今の自分の純白の体を見る。

かつてトラオムが開拓期の頃に最初に設置された人工太陽。自分たちは本物の神が作った神秘を見たことは無く、また同じ原理で動いているこの人工太陽が本物であると信じて疑わなかった。

 

『流石にこの直射日光ではな…』

 

強い日差し、地上と違って紫外線や赤外線から体を守るものが無く、それ故に温度変化の少ない宇宙の白い装備品。

太陽を見た後に彼らは上を見上げると、

 

『ここから見る故郷も…また不思議な感覚だな』

『えぇ、同感です』

 

そこで僅かに全体が虹色がかった、宇宙から隔絶され、忘れ去られた惑星(トラオム)を見ていた。

 

 

 

 

 

場所は変わって赤道上に存在している、トラオムに存在している九つの大陸の内の一つである海野大陸。

 

ここは大災害以前よりステップ気候に分類される、非常に乾燥した大地が広がっていた場所である。

大地には時折乾燥した熱風が吹き、暑く乾燥したその大地にて赤道上に一箇所。明らかに人工的な建造物がそこにはあった。

 

「よぅ、調子は?」

「っ!これはこれは、司令長官」

 

軍属の技術士官が訪れた軍警察の少将にやや驚いた表情で持っていたパソコンを仕舞おうとした。

 

「あぁ、やりながらで良い。計画に遅れが出たら軍法会議じゃあ済まないからな」

「はっ!」

 

そこで技術士官は中央制御盤のシステム調整を行いながら少将と軽く話をする。

 

「さて、準備の方はどうかね?」

「概ね予定通りです。このままいけば予定通りに準備は完了するでしょう」

「おぉ、そうかそうか!」

 

順調な様子を前に少将は笑みを浮かべると、その技術士官も頷いた。

 

「えぇ、これで奴らに一矢報いることができます」

 

技術士官はそう言うと、少将はそんな彼に言う。

 

「でも良かったじゃないか」

「?」

 

すると少将はその技術士官がパソコンのホーム画面にもしている二人の親子の写真を見る。

 

「お前の嫁さんと娘さん。見つかったんだろう?」

「…えぇ」

 

彼の家族である妻と娘は、エーテル・ボンバによる攻撃で一年以上音信不通の状況が続いていた。

 

「本当に神に感謝するしかありません。フルシバリョークにエーテル・ボンバが落ちた時からずっと、私は絶望をしていました…正直、半年前に妻と娘が見つからなかったらクーデターに参加していたでしょう」

「はははっ…このヘリオスタットの管理責任者の君がクーデターに参加されたら、上層部も心底肝を冷やすだろうよ」

 

笑いにならない笑みを出しながら少将は眼下に広がる無数の鏡を見ていた。

その鏡は一枚一枚はそれほど大きくはないが、その数は数万枚。均等に円形状に配置され、その中央には一本の高い柱が立っていた。

 

「準備が整えば、必ず戦争を終わらせることができます」

「うむ、上と合わせて平和と秩序ある世界に必ず戻すのだ」

 

意気込む技術士官を前に少将も力強く頷いて返していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

軍警察の反乱部隊による岩前制圧から一日半が経過した頃、

 

「…」

 

岩前の営倉では一人の将校が用意された椅子とテーブルの上で戦闘糧食を口にしていた。

 

「ふぅ…」

 

陸軍基地の司令長官である斉藤は三食出る食事を今食べ終え、外にいた兵士を呼んだ。

 

「いやはや、営倉に入ったのは久しぶりだ」

「…ご苦労をかけます」

 

空になった皿を回収しながら言った言葉に

 

「はははっ、何。君たちに極秘通信を教えた時点で俺も同罪のようなものだ」

 

斉藤は笑いながら反乱部隊の兵士を見た後に一言。

 

「それに、あと少しの辛抱だ」

「…?」

 

彼の言葉に皿を受け取った反乱部隊の歩兵は首を傾げていた。

 

「ところで、私の部屋で交渉している若造達はどうしている?」

「…申し訳ありませんが、それはお答えできません」

 

兵士は斉藤にそう答えると、その表情から斉藤は芳しくない返事をもらったのだとすぐに理解する。

クーデター以降、彼ら反乱部隊に共同する部隊は今の所無い。一応同調しようとする同行はあるにはあるのだが、不思議なくらいクーデターに参画しようとする部隊はなかった。

 

「どうしてだ…?」

 

現在、岩前の反乱部隊は通信は遮断されているが。外に逃した報道機関関係者が散々テレビで騒ぎ立てているのにも関わらずのにも関わらず、それだけで今は終わっていた。

 

「他に参加しない部隊がいるのはなぜだ?」

「我々の主張に何か問題があるのか?」

 

すでに報道機関の通信に合わせて自分たちの軍警察への要求は、ジャミング装置を停止したときに行っていた。

テレビは岩前以外のニュースも交えつつ報道されており、その様子はワイラー達反乱部隊指揮官達も見ていた。

 

「閣下との交渉はどうなっている?」

 

そこで一人が接続された野戦電話に座る部下の兵士に聞くと、彼女は通信用のコードを刺したまま振り返って首を横に振った。

 

「ダメです。向こうの交渉係は我々の要求を理解しただけです」

「…」

 

報告を聞き、説得の為に岩前を囲んでいる軍警察の部隊を前にその士官は軽く畝る。

 

「どうする?」

「最悪陸上艦に乗ると言う方法も…」

 

彼らは停泊中の陸上艦を用いて囲んでいる鎮圧部隊に脅迫をする事を提案するが、

 

「まぁ一度待て」

「ワイラー少尉…」

 

ワイラーが待ったをかけた。すると彼は言う。

 

「我々は常に劣勢の下にあることを忘れるな。本来であれば鎮圧部隊が市街地で戦闘をしていてもおかしく無いのだ」

「「「…」」」

 

ワイラーはそこで感じている違和感を口にする。

 

「鎮圧部隊が交渉のみを行い、しきりにビラ投下とアドバルーン展開だけで終わっている現状を考えるのだ」

 

そして彼は言う。

 

「それに我々はまだ空中艦と陸上艦を手中に収めている。向こうも此れ等を失う事を恐れて動いていないのだろう」

 

それぞれの艦隊の司令官である斉藤と本居両大将の身柄も拘束していて、それぞれ別の離れた位置に配置させていた。

 

「…そうだな」

「そう言えばそうだったわね…」

 

そこでテレビの映像を見ながら反乱部隊は頷いて自分を納得させていた。

 

 

 

 

 

「あの爆発から生き残った俺たちは、初めは無差別に攻撃をしたサブラニエに怒りで当然震えたさ」

 

その頃、岩前のスーパーの駐車場の一角。

人目につきにくい喫煙所の縁石に一人の運び屋と治安官が座り込んでいた。

 

「それと同時に、本来守るべきである市民を相手に何もできなかった喪失感もあった」

「それは…苦労されましたね」

 

煙草を片手に二本目に入ったスフェーンはゆっくりと燃える煙草を一回吸う。

喉に溜まる煙から程よい刺激を受け、その後に吐き出す煙はほんのり暖かく脳にニコチン供給の多幸感を与えていた。

 

『彼は反乱に消極的だった様子ですね』

「(まぁ、ハブられちゃうくらいだからね。しょうがないよ)」

 

ルシエルは反乱部隊の中でも異質な存在である彼を見てスフェーンとそんな話をしていた。

 

「少尉はその後も治安官らしく、正義を信じて疑わなかった。これほどの事をして、仲間を虐殺したサブラニエに必ず一矢報いると」

 

しかしこの二年間、軍警察は動かなかった。

 

「戦争を傍観し、行っているのは変わらない治安維持行動と鉄路防衛。少尉の落胆していた時の顔は今も脳裏に焼き付いているよ」

 

マクシムはそう言い、エーテル・ボンバの攻撃で失われた命を前に次第に落胆が使命感に駆られた表情に忽ち変化していった上官を思い出す。

 

「軍警察は受けた恩は恩で、攻撃には攻撃を返す組織だと言うのが俺たちの常識だった」

 

そこでマクシムは煙草を一回吸う。

 

「だが、国を相手にすればその前提は容易く崩れる…少なくとも俺たちはそう感じた」

 

マクシム自身、今の軍警察上層部には不信感が他の反乱部隊と比べて少ないとはいえあった。

 

「そして着々と反乱の準備を始めて…その最後の決起集会を行った時に、俺はどこかまだ軍警を信じていたんだろうな。その時に言っちまったのさ」

 

ーーあと一ヶ月、計画を伸ばす事はできないか?

 

「それを言っちまった時、俺は皆から総スカンを喰らっちまってね」

 

この有様だと彼は苦笑した。

 

「どうして傭兵に転職しなかったんですか?」

 

スフェーンは聞くと、マクシムは軽く鼻で笑った。

 

「俺たちは『軍警察が』サブラニエに報復攻撃をすることを望んでいるのさ」

「それまたどうして?」

 

スフェーンは首を傾げいると、マクシムは言う。

 

「それがエーテル・ボンバの攻撃で失われた仲間や市民へに最大限の弔いになると思ったからさ。傭兵に転職して戦うのはただの個人の復讐で、それでは被害者全員が救えないと思っているんだよ」

「…」

 

ワイラー達の行動指針を知ったスフェーンは一瞬唖然となった。

 

「それはただ自分達の行動を自己正当化する為の、都合の良い言い訳じゃない…」

「…」

 

すぐに思わず吹き出たスフェーンの言葉にマクシムは反乱部隊の誰しもが心の奥底に抱えていた疑問を形容された気分になった。

そしてスフェーンはそのまま続けて言う。

 

「復讐で救われるのは自分だけなのよ。…まぁ確かに、サブラニエのやった事は明らかに過去の戦時条約違反にも抵触する行為ではあるけれども」

「…君は大人だな…本当に」

 

マクシムはズカズカと言い放った幼い運び屋の少女の言葉の全てが心に突き刺さっていた。




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