軍警察が宣戦布告した情報は瞬く間に世界に広がった。
軍警察が宣戦布告を行ったのはサブラニエのみで、攻撃理由は
『軍警察への無差別攻撃。並びに中立都市への攻撃による連名での行政機構からの要請を受け、ここにサブラニエ人民共和国連邦に対し宣戦布告を行うものとする』
と言ったものであった。軍警察はこれによりサブラニエ人民共和国連邦と戦争状態に突入したことを受け、全部隊に対し非常事態宣言を発令。
陸海空すべての部隊に対し現時点で即応可能な予備治安官の招集も開始した。
そして宣戦布告から約一時間後にサブラニエの政治的・経済的中枢であった首都と副都に対し軍警察の放った弾道ミサイルが着弾。確実に政府中枢を叩いていた。
「でも戦争は終わらない…と」
湯気の立ちこめる足湯の一角、女性姿のスフェーンは言う。
『えぇ、まさか首都と副都を破壊されても継戦するとは思いませんでした』
ルシエルも驚いた様子で頷くと、今の戦況を眺める。
あの後、降伏勧告を何と暫定サブラニエ人民共和国連邦政府…今は軍閥派と呼ばれる政権は拒否したのだ。
おかげで一瞬でかたが付くと思われた戦争は半年を経過した今でも継続していた。
「まあ首都と副都をやられても戦線自体に攻撃があったわけじゃ無いからじゃ無い?」
『そうでしょうか…?』
あの後、岩前のクーデター部隊はすぐに武装解除を行い、あの事件はあっさりと終結を迎えた。
宇宙から飛来した弾道ミサイルの攻撃で焼け野原になった双方の都市、恐ろしいのは郊外に存在していた鉄道駅には影響が少なかったことにある。
未だ軍警察の管轄下にある鉄道管理局関連の設備には、あの弾道ミサイルの影響は小さかったのだ。
あくまでも破壊したのはサブラニエの政治的中枢である人民宮殿と経済的中枢であるサンブラーキ中央管理取引所であった。
それ以外の都市機能は一応保っており、半年をたった今でも都市には人が住んでいた。
「軍人の考えることはわかりませんな…」
『えぇ、全くです』
ルシエルもスフェーンの意見に賛同していると、
「お、お久しぶりです…?」
話しかけられ、その方の顔を向けると。
「あっ、良かった…」
「おぉ、久しぶり〜。ユウナちゃん」
そこには私服姿のユウナの姿があった。
カシュッ
「かぁ〜っ!!」
王冠を栓抜きで開け、
「うめぇ〜!!」
昔から、それこそ傭兵時代から愛飲してきたビールを前にスフェーンはご満悦な顔を見せた。
「どう一本?」
「え?えぇ〜…」
ビールを片手に聞いてきたスフェーンにユウナは少し考える。
確かに自分は酒が飲める年齢ではあるが、まだビールは飲んでいなかった。何せ研究所で二人の世話係として、今までの二倍の心労を感じているからそんな休憩する暇すらなかった。
今回だってネクィラムに言われて出張という形でこの場所を訪れていた。
「じゃ、じゃあ一本だけ」
しかしビールというものに前から興味があったので自分も近くの売店で売られていたビール瓶を一つ手に取った。
「かぁ〜、貴方のせいでこちとら大惨事じゃけぇ!」
ハマった。それも盛大に。
今まで解けなかった数学の問題が解けたような爽快感。いやぁ、マジ堪んねぇ。
「はははっ、そりゃあ心外よ」
顔を真っ赤っかにして机に突っ伏しているユウナはそこで日頃の不満をぶきまけた。
「あんな変態二人の世話なんかできるかぁ!!」
「まぁ…それは…うん。せやな」
スフェーンは不満タラタラなユウナに憐れみの目線を向ける。
あんな
「お疲れ様」
「そもそもあそこに送り込んだのは貴方じゃ無いですか!バカーッ!!」
言っていることも散乱しながらユウナはスフェーンに怒鳴ると、フードコートで食事を持っていた客達が一斉に視線を向けた。
「ここで怒鳴るなや」
「ムキュッ」
スフェーンは少しカンシャク顔を見せながらユウナの口元を手で摘むと、卓上に並んだ酒瓶を片付けながら肩を貸す。
「やれやれ…」
ユウナの将来に不安を感じながらスフェーンは運輸ギルドを後にする。
こうして酒で潰れかけたジェロをよく運んだものだとふと思い出す。
彼も彼でまた泣き上戸なのだ。酒がある以上入ると途端に孤児院のことで泣き出す。
やれ孤児が反抗期に入って自分の事を嫌ってしまったのか。或いは誰か好きな子ができたのかなど、そんな事を言っては俺はそれだけ孤児達がジェロのことを父親として見ているのだと、彼を少し暖かい目で見ていた。
「(いかんな…)」
今でこそ傭兵ギルド創設の英雄として祀り上げられているレッドサン。その名前は歴史上に永遠に残される事となった。
「(ふぅ…)」
できるなら本音を聞いて見たいものだ。確かに手切れ金として渡した金で傭兵支援組織を作れとは言ったが、あんな馬鹿でかい銅像を作った覚えはなかった。
『まさか会う気ですか?』
「(いやぁ、向こうは今裁判中だ。会うことは出来ないだろう?)」
スフェーンはルシエルに言うが、少し気になることもあった。
『私との約束を忘れましたか?』
「(いやぁ、忘れたわけじゃあないよ。…ただね)」
そこで彼女は軽く鼻で笑うと、
「(昔の少し弱い心の弱い友人がどうしても気になっちゃうのさ)」
『…』
そして酔ったユウナを自分の乗ってきたサイドカーに乗せる。
「おーい」
「…」
酒瓶を片手に眠りこけるユウナを前に軽く溜息を吐くと、
「ふがっ!?」
鼻をつまみ、直後に驚いた様子でユウナは辺りを見回した。
「な、何が…?」
「大丈夫?」
そこでスフェーンは隣に座ってサイドカーのエンジンをかける。立派な飲酒運転であるが、スフェーンはまだまだ平気で真っ直ぐ運転できた。
「あっ…」
そこでユウナはすぐに今までの記憶と、途中で途切れた自分の記憶を繋ぎ合わせて、持ち前の頭でここまでのことを推測した。
「す、すみません…」
「あぁ大丈夫大丈夫。勧めた私も悪いし」
スロットルを回し、クラッチを操作して駐車場から走り出すと二人は留置線に向かう。
「それで、態々今回派遣されたんでしょう?」
「あっ、はい。そうですね」
ここの場所は大陸北方のとる場所。時折雪が降っており、今日も曇天の空模様であった。
「ネクィラム博士から、貴方にお渡しするものがあると言う話で…」
「うん、おけおけ。私もある程度話は聞いていると」
スフェーンはそう言うと留置線に到着する。
「着いたよ〜」
「分かりました」
そこで
「(…ねぇ)」
『何ですか?塗装なら治しませんよ?』
ルシエルは即答すると、スフェーンはこの前の改修時にした塗装に少し考える。
「(前の方がいいんじゃないの?)」
『いやいや、あんなド派手なカラーで走ってたらあそこじゃあ目立ちますって』
ルシエルは前の塗装に難色を示しており、今回の塗装変更もジャンケンでルシエルが勝った事で前の塗装に塗り直していた。
「(次は勝つから)」
『…分かりました。私は負けませんので』
ルシエルは少し自信ありげに答えていたが、ルシエルは忘れていた。スフェーンと精神が結合しており、スフェーンの思考も読める。
しかしそれはスフェーンも然りで、彼女は
「(なるほど、私がグーを出す時は右足が後ろに少し下がるのか)」
『なっ…!!』
ルシエルは驚きながらサイドカーを停めたスフェーンを見ていた。
「これが、今回博士からお渡しするようにと…」
そして車内でユウナは持っていた鞄から小さな小箱を手渡す。
「中身は…」
「うん、確かに」
箱を開けると、中には数球のパチンコ玉が入っていた。
それは今まで軍警が調査を行ったエーテル・ボンバの爆心地跡から発見した数多の現物資料の一つだった。
「んじゃあ私からは…」
そこでスフェーンは紙袋を差し出す。その中には青い林檎が入っていた。
「これの解析を頼んだわ」
「分かりました。博士の方にもそう言っておきます」
ユウナは穴を見て一瞬驚くも、直ぐに鞄の中にしまってスフェーンを見た。
「しかし随分と容姿が変わりましたね。一瞬スフェーンさんなのかと怪しんじゃいました」
「はははっ、まぁあの時は生え変わりの時期だったからね〜」
自室の椅子に座り、スフェーンはユウナに軽く笑う。
まあ嘘を混ぜているのだが、鹿の獣人で角の生え替わりがあることはよく知られた話であり、ユウナも違和感を感じていなかった。
「ただまぁ、片目は事故って新しいのをつけたんだけどさ…」
「事故ですか…学園都市に来た時も事故ってましたよね?」
「ははははっ、まぁ運が悪かったよ」
そんなことを話しながらスフェーンはつまみで買ったサラミを一つ口に入れる。
「所で、最近は働き甲斐があっていいんじゃない?」
「…えぇ、本当に…働き甲斐がありますよ…」
ユウナはやや震えながら返すと、彼女は直後に酔いが残っていたようだった。
「あぁ〜!もうやってらんないですよ!!私は家政婦かよ!!」
ドンッ!と音を立てながら拳を机に叩きつける彼女はそのまま捲し立てる。
「研究室の人数は増えたのにあの二人の世話は私だけに押し付けやがって馬鹿野郎〜!!」
直後、彼女はスフェーンを軽く恨むような目線でそのまま机に項垂れる。
「これなら貴方の話にのるんじゃなかった〜!!」
「じゃあ軍警にとっ捕まってムショ入る?」
「もっとやだ〜!!」
まるで子供のように駄々を捏ねる彼女に、スフェーンは軽く笑って冷蔵庫から
「今日この後用事ある?」
スフェーンは聞くと、ユウナは自分のタブレットを取り出した。
「…いえ、帰る予定でしたが、どうやら列車が運休してしまったようですので」
「あら、ソレハ大変ダワ〜」
突然のハプニングに棒読みでスフェーンは返すと、
「ナラ、今日ハ泊マッテイク必要ガ有リソウネ」
「えぇ、今日スフェーンさんは?」
「私は運び屋だからいつでも空いているわよ」
缶ビールを渡すと、ユウナはプルタブを開けてプシュッと音を立てる。
「乾杯」
「かんぱ〜い」
そこで軽く音頭をとった後にユウナは一気にビールを傾けて飲んだ。
「後で何か奢りますね」
「あっ、ありがと〜」
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