軍警察が参戦した事で戦況に大きな変化があれど、運び屋の仕事は変わらない。
運輸ギルドに赴き、仕事を探し、依頼を受注して荷物を目的地まで運送する。
「…」
外は吹雪くほどではないが雪が永遠と降っており、線路の上を走る列車も雪かき機に積もった雪を押し退けて走る。
「雪すげ〜」
『今日は一日中降雪予報が出ています』
今いるヴェルヌ大陸は北側の大半が寒帯気候である。故にこの地域はちょうど永久凍土があるかないかの境目の地点。
「絶対テラフォーミングした時に人工太陽の場所間違えたって…」
『それはトラォムの地軸に合わせて設置しているので変更できるわけありませんよ』
スフェーンはそんな事をぼやきながら運転台に立って前方の景色を見る。
格好もナッパ服の上にコートを羽織り、冬用装備は万全を期していた。
『しかし、流石にこの地域ともなるとよく冷えますね』
「ウィンタースポーツが盛んな地域だからね」
熱燗かホットワインが飲みたいと言うと、列車は運輸ギルドで受注した幾つかの依頼をこなす為に幹線を走る。
幾つか他列車も通過しており、ライトをハイビームで照射していた。
「こりゃどこかで雪落とさないとなぁ…」
車体にこびりつく雪を想像しながらスフェーンは列車を走らせる。
砂漠地帯を走らせる時と違い、こっちでは雪がこびりつき、氷柱となって台車から車体下に潜り込んで中で弾けて床下機器が傷つくのを警戒する必要があった。
『次の操車場に到着した時に検査しましょう』
「…金槌ってどこにあったっけ?」
スフェーンはそこで工具箱の位置を思い出しながら開いていた本を閉じていた。
「スフェーン・シュエット様ですね。お届け物を一件、お預かりしております」
そして到着した先の運輸ギルドでスフェーンは事前に受けていた連絡の通り、受付から荷物を受け取る。
「どうも〜」
鉄道管理局は傘下に多くの組織を抱えており、近頃は名前を変えようかなどと話し合われている巨大組織である。
今いる鉄道郵便局も傘下に加わる組織の一つ。これは世間にも広く知られた郵便業務である。空路は知らないが、こと鉄路に関しては個人郵便のシェアは九九%を誇る巨大郵便事業社である。
「今日もまた高いんやろな〜」
そんな事を言いながらスフェーンは受け取った荷物を片手に銀行に向かう。
銀行ではローン返済を行い、いまだにちまちまと払い続けている列車の大幅改修費の支払いをしていた。
「ふぅ〜」
『支払い主が生存をしていて安心ですね』
「えぇ、本当にね〜」
そこでスフェーンは軽く頷きながらATMの通帳を片手にウィール通貨になった資金の一部を支払っていた。
こう言う類の支払いは組織の信用の問題から自分たちで支払う必要があり、少し面倒だと思っていた。
現金で支払われた通貨を、これたま新調されたATMに投入して音を立てて計算をする。
そして金額の支払いを確認した音が聞こえると通帳が出てきて減額したローン額を確認する。
「よしっ、これで後やるのは…」
『列車のつらら確認と、メアリさんからの荷物の確認ですね』
「オッケー」
冬装備の彼女はそのまま運輸ギルドの外に出ると、
「おっ、晴れた晴れた」
そこで曇天の中、雪が降っていない空模様を見た。
「良かった〜」
『えぇ、この様子ですと氷柱落としも早めにできそうです』
ルシエルとそんな話をしながらスフェーンはサイドカーに乗った。
カンカン…カンカン…
その後、留置線に停めている列車の台車を一つずつ見ながら比較的大きめの氷柱を見つけたら金槌で叩いて落としていた。
「やれやれ…」
『まだまだ台車はあります。頑張っていきましょう』
後ろからルシエルは声援を送るが、スフェーンは彼女にジト目を向けた。
「…だったから変わってよ」
『私は体力仕事は向きませんので』
「…」
その返しに少し腹が立った彼女は強制的にルシエルに体を託す。
「ちょっ!?」
『ほれ、練習じゃ練習。ルシエルも体を動かしんさい』
「なっ、これは新たな嫌がらせですか!?」
体を交換されたルシエルはスフェーンに反論の意を込めながら抗議をする。
『んなわけ』
しかしスフェーンは素知らぬ顔でルシエルを見ており、発破をかける。
『ほれほれ、早くやらんとまた氷柱ができるよ』
「…あとで恨みますから」
『おー怖っ。www』
恨み節を募らせながらルシエルは金槌片手に氷柱落としを再開した。
その後、氷柱落としを終え。ルシエルはコートについた氷を叩いて落とした後に車内に戻る。
「さて、これからどうしますか?」
『うーん、そうねぇ…』
そこでしばし考えるスフェーン。今の所、指名依頼もないが金には少々困る頃合い。
「確かユウナさんからバイトに誘われていましたよね?」
『えぇ、速攻お断りさせてもらったけど』
外でスフェーンはユウナの勧誘をお断りしたのを思い出す。
『スフェーンさん!このままでは私の胃がもたないので一緒に軍警でバイトしましょう!!』
『やだ』
前にユウナと話していた時、彼女は懇願してきたがスフェーンは即答していた。
『即答!?どうして!?』
『考えれば分かるでしょう?』
スフェーンはユウナに呆れながら聞くと、
『大体ね、あの馬鹿共からわざわざ距離を置いているのに、なんで自分から地獄の釜の蓋を開けなきゃならないのよ』
『あぁっ!今馬鹿って言った!あの二人エーテル学の最先端走ってる偉い人になったのに!!』
『馬鹿と天才は紙一重って言うだろうガッ!!』
酒に酔ってた事もあり、スフェーンがユウナの両頬をつねると、彼女はスフェーンの胸を鷲掴んだ。
『こんなデカい乳持ちやがって!このっ!!』
『イダダダダダッ!乳もげるわ阿呆!!』
『イデデデデッ!ぽっぺ千切れる!!』
『五月蝿ぇ!勝手に人の乳を掴みやがって!!』
直後、醜い争いに発展して二人はそのまま酒で潰れるまで愚痴を言い合っていた。
「今思えば酷い争いだった…」
『そうですね。とても元男だった人がやる所業とは思えませんね』
「それ言うの禁止。OK?」
依頼を終え、留置線にて列車を待機させているスフェーンは言うと、
『所で、少し良さげな依頼があったのですが如何でしょう?』
「ほうほう、どんな依頼?」
スフェーンはそこでルシエルが持ってきた依頼を確認する。
『まぁただの運送依頼ですが…』
「へぇ〜、低等級路線の運行指示が出ているの…」
鉄道管理局の運営する路線では、各路線に区分が設けられており、それぞれ制限速度が設けられていた。無論低い等級の路線は速度制限も厳しかった。
「面白そう。やってみようか」
『分かりました。依頼物のコンテナの数も比較的多いのですぐに移動しましょう』
「りょーかい」
そこでルシエルの手で依頼受注申請を行うと、すぐに返答があって列車は留置線から積卸線に移動する。
すると待機していた車両にクレーンがコンテナの積載を始め、列車に重量物が乗せられる。
「おっと」
そこでスフェーンは今回の依頼内容の確認を行う。
「低等級路線を通って食料品と燃料の輸送ね…」
『路線は山間部を通る坂の多い路線です。空転には十分注意しましょう』
「了解」
スフェーンは軽く頷いて確認を終えると、鉄道管理局に運行プランを提出して認可と発進許可が出るのを待つ。
『運行プラン認証を確認しました』
「よしっ、んじゃあ出発線に移動しますか…」
貨物列車は、旅客列車と違って駅から出るわけではないので一々停車時間が長い傾向にある。
その為本線に進入する際も旅客列車との調整が必要となって、そこに鉄道管理局の有する量子コンピューターが圧倒的な計算を使って円滑に運行を管理していた。
『…』
そして積卸線から出発線に移動すると、そこで列車は鉄道管理局から出発許可が降りる。
『発進許可を確認しました』
「了解…出発進行!」
軽く汽笛を鳴らし、再び降り始めた雪を前に前照灯を点灯しながら列車は汽笛を鳴らしてゆっくりと列車はエーテル機関の音を鳴らしながら走り出す。
「しかし冷える」
『本線に進入したら部屋に戻りましょうか』
「ええ、今度こたつでも買いたい気分だわ」
『どこに置くんですか…』
スフェーンの提案にルシエルは呆れながら通販でこたつのページを見ていた。
その頃、更に極地。世界最北の地にあるテミス・シティの司法局最高裁判所ではある裁判が非公開で行われていた。
「ーーでは、貴方は事件当日…」
裁判官が捜査資料を参考に証言台に立つ被告人に向けて問いかける。
「…」
その様子を座席から見ているのは法廷画家と数名の治安官だった。
今回の裁判は非公開とされ、本格的な判決が近づくこの頃。これで判決が決まるのではないかと言う司法権の独立の懸念が各報道機関から寄せられていた。
「はい、確かに私は事件当日。タルタロス鉱山にて…」
そして証言台の上で被告人であるジェローム・サックスは裁判官に聞かれた事を淡々と答えていた。
軍警の司法局には主に三つの仕事があり、民事裁判・刑事裁判・軍事裁判の三つである。
『今回は非公開裁判だったか…』
最高裁判所の広場で、ロトはライルと通信をしていた。無論、一級の防護を施された暗号通信である。
最高裁判所は、重大事件や企業間の紛争。並びに重篤な紛争犯罪に関する事件と認定された事案などに対し裁判を行う場所である。
本来であれば、タルタロス鉱山で発生した殺人未遂事件については高等裁判所などで行われるような内容である。しかし逮捕されたのが有名人である事や、裁判には今は国家となったアイリーンが関わってくる可能性が高いことから、高度に政治的な介入があると推定されるとされ、最高裁判所での裁判が行われる運びとなった。
「あぁ。政治的にも、世間的にも今の軍警は立ち位置が曖昧な状態だ」
『当たり前だ。今の俺たちの相手はあくまでもサブラニエのみだ』
現在、サブラニエに対し宣戦布告を行い、本格的な軍事介入を行った軍警察。ただし、あくまでも軍警察の敵はサブラニエのみであり、ほかのSMATO加盟国には宣戦布告を行わなかった。
『真っ向から北側についたら、組織の平等性は失われる』
「だろうな…」
そこでロトは片手にサイダーを持ってドーム型都市の天井を見上げる。
『そっちは大丈夫か?』
「取引は済んでいる。安心しろ、これからあの人は殺人犯から悲劇の主人公さ」
ロトは軽く鼻で笑って小さな泡の弾けるサイダーを眺めていた。
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