ねぇ、もうちょっと供給考えませんか運営さん?需要供給曲線が壊れますって!!
純白の雪原とも言うべき場所を列車は走る。
十両編成の列車は、依頼を受けて低等級の路線を時速一〇〇キロ程の低速運転で運行している。
「しかし、まさかネクィラム氏から提案されるとは予想外でした」
その車内、最後尾を進む列車唯一の旅客キャビンではルシエルが台所に立っていた。
『まぁ向こうとしてもそんな危ないものを手の内に収めたくなかったんじゃない?』
話しているのは、ネクィラムが渡してきた臨界エーテルに関してだった。
元々ユウナが持って来たものが臨界エーテルであることは恐らくネクィラム以外知らないだろう。
彼だけその異常性に気付いており、数あるエーテル・ボンバ爆心地の資料の中に埋もれている事を理由にその証拠品を持ち出させたに違いない。
『じゃなかったらいきなり連絡してこないよ』
ネクィラムが学会で著名になりつつある話はスフェーンの耳にも入っており。今のエーテル学会と、ネクィラムとジョンを含めた新しい派閥で揉めている事も聞いていた。
『まあ代わりにこっちからはあの林檎の解析を頼んだんだけどさ』
「そうですね。あれは私たちの知見からも理解が及ばないものですからね」
ルシエルは軽く頷きながらコンロの上で湯立つ出汁を眺めると、最初に冷凍うどんを入れ、その上から輪切りのネギ・蒲鉾・椎茸・生卵を投入する。
上から軽く胡椒を追加し、湯立ったまま火から外すとそのまま鍋敷の上に置く。
「さて」
そして完成した特製の鍋焼きうどんを啜る。
「ズズズズッ」
寒さで冷える体に湯気の立ち込める熱々のうどん。口の中で火傷しないように注意をしながら音を立てる。
「はむっ」
蒲鉾は芯までしっかりと温まり、柔らかくもやや硬めの食感を感じさせ、そこに少しすり身特有の香りを出汁と共に微かに鼻腔を通過する。
「もきゅっもきゅっ」
そして椎茸は出汁をしっかりと吸い込み、歯応えある食感と共に椎茸本来の香りが口を漂う。
「ズズッ」
土鍋で温めた事で出汁全体もよく温まっており、体を芯から温める。
「あぁ〜、温まりますね〜」
『いいよね〜、寒い時に鍋焼きうどん』
「温かい食べ物全般に言えますよね。それ」
ルシエルはスフェーンに言うと、彼女は最近は慣れた箸を使って最後に卵を頂く。
レンゲに茹でられてうどんや具材と絡まりながら固まった卵を掬い、まず初めに出汁とともに白身を一口。
「フーッ、熱々っ」
ここでも卵で火傷しないように軽く息を吹きかけてから一口噛む。
白身の硬い食感の中に僅かに出汁の香りが漂い、次第に全部出汁で味が覆われる。
次に固まった黄身と共に頂くと、ほろほろと崩れる黄身。
「ふむふむ…」
ルシエルは黄身を飲み込むと、その後残った卵を出汁を軽く含ませて一気に一口で食べた。
その後、食事を終えたスフェーンは冬用の紺色のコートを手に取って運転室に向かう。
「おぉ〜…」
そしてワイパーを左右に動かしながら、その先に見える景色は夜の吹雪の中を走っていた。
「よく冷えるねぇ〜」
『えぇ、ここら辺は豪雪地帯に入りますからね』
事実、列車のスノープラウは路線上に積もった雪を弾き飛ばしており、時折吹き溜まりを吹き飛ばすので雪が豪快に散らばっていた。
「しかしこんな田舎路線を走る事になるとはね…」
スフェーンは窓の外の単線区間を見ながらそんな事を言った。
今走っている路線は路線等級としては一番下の第五級路線であり、駅以外で複線区間が存在しないローカル線である。
「ローカル線の中でも下の方の路線よ。ここは…」
時折坂を登りながら列車は雪をかき分けて進んでいく。
現在積載している貨物はコンテナや
タタンタタン…タタンタタン…
列車はジョイント音を奏でながら進んでいく。
『周辺の空間エーテル濃度は要警戒。行動に制限が掛かります』
「うほ〜、そりゃ怖いね」
ルシエルとそんな話をしながらタブレットの運行予定表を確認する。
『この先の停車駅はマバマイ・両打・掬輪・幌々です』
「了解」
閉塞を確認しながら列車は雪の中を走っていく。
雪の中を走る一本の列車、ほかに対向列車が走った記憶は無く。本当にローカル路線なんだなと思ってしまう。
「よく廃線にならないわね」
『この路線は第三級路線が雪で閉鎖された場合に迂回路として用意された路線のようですね』
「あぁ〜、だから無くならないのね」
そこでスフェーンはなるほどと納得できた。
『それとこの先には軍警察のエーテル採掘施設があるようですね』
「ワーオ軍事機密」
そして直後にルシエルのバラした内容に軽く噴き出した。
なるほど、雪と軍系の施設があるから無くならないのかと納得しながら列車は単線のローカル線を走らせる。
「いやはや、お陰で助かりました」
「それは良かったです」
到着した駅で直接荷下ろしを行うと、駅長が出てきて荷物を運んだスフェーンに頭を下げていた。
「幾分この雪でいつもの気動車が使えなくて…」
「まぁ、警報が出ている雪ですからね」
今は小降りになった雪を見ながらスフェーンは駅長に頷く。
濃紫色の制服に袖を通す鉄道管理局の駅員、世間一般ではエリートの部類に入る仕事である。
世界を股にかける鉄道管理局は、当然雇う人数の規模も大きく。傘下に納める組織に所属する人数も考えると一〇〇〇万の職員はいるのではないだろうかと思えるほどである。
「この先にも向かわれるのですね?」
「えぇ、雪が深くなる前には届け終えたいと思っていますよ」
駅に基本的に時刻表はないが、この駅にはお手製の時刻表が画鋲で掲示板に張り出されていた。
「では、私はこれで」
スフェーンは荷下ろしを終えたので出発しようとした時、
「あぁ、ちょっとお待ちを…」
駅長は少し後ろを確認した後にスフェーンをホームに待たせると、駅長は駅舎に一旦移動した後に戻ってくると
「どうぞ」
「あっ!」
その手に温めた瓶詰めコーヒーを手渡した。
「どうぞ、寒いですし、時間もあれですから」
「これはこれは、ありがとうございます」
スフェーンはありがたくそれを受け取ると、そのまま列車の運転室に戻って汽笛を鳴らす。
「信号良し、閉塞良し」
指差し確認で青信号なのを確認すると、マスコンを操作して汽笛を軽く鳴らして列車を走らせる。
『ここの列車は気動車が貨車を引いて走るのが普通なんですね』
「そうらしいね」
片手によく温まったコーヒーを飲みながらスフェーンは前方を見る。
「あぁ〜、あったけぇ〜」
コーヒーの苦味とカフェインが目を覚させ、列車を運行する上で程よく警戒を促してくれる。
『こんな天候でも走るんですから、この列車はタフですね』
「まぁ元々試作型の貨物列車だったぽいけどね」
そんな話をしながら列車は少し重量の減った荷物を積載して雪道を進む。
「なんか…どうして車輸送が流行らないのか理解できる気がする」
『えぇ、この調子だと確実に雪原で迷子になりますね』
スフェーンと共に永遠とも思える純白の景色を前に軽く頷き合う。
「ふぅ…」
そして運転台に灰皿を置き、煙草に火をつけるスフェーン。
「しかし、この後に数カ所に停車する必要があるのか〜」
『忙しいですね』
「全くよ」
スフェーンは頷き、残った灰を指で軽く弾いて落とす。
「でもまぁ、依頼を受注した分。しっかりと働かないとね…」
『えぇ、そうですね』
運び屋として活動を始めてもう何年経ったか、不思議なことにオートマトンを駆って傭兵をしている頃よりも伸び伸びとしてやっていける気がしていた。
「傭兵って…昔から変わらないなぁ」
『そりゃそうですよ。特に戦争が始まってからは需要は増える一方ですし』
ルシエルはそう返し、現時点で戦争に参戦した軍警察に再就職する傭兵も多くいる現状を見ていた。
「やれやれ、世界では戦争が起こっていると言うけど…」
『ここは平和ですよ。まるで戦争が元々ないかのようです』
ルシエルはスフェーンにそう語ると、野盗の襲撃も無い今の状況に少し安堵していた。
『戦争が終わっても、私たちはずっとこのままなんでしょうか』
「さぁね〜。そうかも知れないし、そうじゃ無いかも知れない」
スフェーンは呑気に椅子に深く座り直して前方の確認を行い、遠くに映る青信号と今の運行状況を確認していた。
マバマイ・両打・掬輪・幌々。ど田舎のローカル線だが、この先の途中の分岐点で軍警の施設に繋がるが故に残されていると言う路線。
順調に荷物を届け、荷下ろしを行って全ての駅で郵便物の回収も行う。本来であればこれは鉄道郵便局の仕事だが、信用率が高ければ偶に運び屋に依頼することがあった。そのため、今列車には郵便用コンテナが積載されていた。
「よしっ、これで後は幌々だけだ〜」
掬輪にて最後の荷下ろしと郵便回収を終えると、スフェーンは両腕をあげて仕事の完了を目前に声を上げる。
「はっはっはっ、やっぱり長時間運転は体にくるものがあるよね」
「ははっ、わかりますか?」
掬輪駅長に聞くと、そのアンドロイドは軽く頷いた。
「えぇ、これでも昔は運転士をしておりましたからね」
懐かしげに言うと、スフェーンもそれに頷きながら帽子を被り直す。
「それで、次で最後ですかな?」
「はい幌々駅に向かえば最後ですね」
「ほほほっ、そうですか…では道中お気をつけて」
「ありがとうございます」
スフェーンは一礼をした後に列車に乗り込んで最後の駅に向かう。
『幌々駅はこの路線最後の駅です。その先は幹線に接続しており、この郵便物も接続駅が目的地となっています』
「了解〜」
速度を少しあげて列車は最後の駅に向かう。
「いやはや、時間はかかったけど満足感がやばいわ〜」
『途中の駅で労いの言葉や土産物をもらったからじゃ無いですか?』
「はははっ、そうかもね〜」
そんな話をした時だった。
ガコンッ
「ん?」
列車全体に異音と振動が聞こえ、即座に列車にブレーキをかけると運転室から飛び出して列車を確認する。
「あぁ〜…」
そして音のした先頭を見ると、
「軽く脱線しちゃったよ…」
『最近脱線多いですね…』
視線の先では何かに引っかかったのか、線路から少しずれた台車を確認する。
「…仕方ない。救援呼ばないと」
『幸い、近くに幌々駅がありますよ』
「おっ、ホントだ」
視線の先に見えた駅舎を見てスフェーンは軽く安堵してそのまま駅舎の方に向かって走って行った。
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