TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#191

翌朝、幌々駅長の佐藤音松はいつもの始発列車の到着に間に合うように目を覚ます。

 

「…」

 

ここ何十年と続けてきた生活。すっかり慣れたものであったが…

 

「?」

 

この日は少し違った。

微かに鼻に味噌と出汁の香りが漂っており、音松はその異変に首を傾げていると

 

「あっ、おはようございます」

 

そこでは台所で鍋に火をかけているスフェーンの姿があった。

 

「あぁ…何をしているんだ?」

「朝食を作っています」

 

音松はそこで湯気を立てる鍋を見て首を傾げると、彼女は言う。

 

「いやぁ、夜中泊めさせて貰っちゃった上にこれからお世話にもなっちゃいますので…もしかしてお邪魔でしたか?」

「…」

 

音松はスフェーンを見ながらやや唖然となってスフェーンを寝かせた場所を見ると、そこでは丁寧に畳まれた敷布団があった。

 

「…いや、大丈夫だ」

 

音松はスフェーンにやや驚きながらも制服に着替える準備をする。

 

「朝食、ここに置いておきますね」

「あぁ…すまない」

 

そこで音松は着替える前にスフェーンの用意した朝食をみる。

 

「これは…」

 

その朝食の内容はとてもシンプルで、大根と豆腐を入れた味噌汁に白米。大根おろしの付いただし巻き卵だった。

 

「すみません。冷蔵庫を少しお借りしました」

「悪いな…」

「いえいえ、泊まらせて貰っている身ですので」

 

彼女は音松に言うと台所に視線を戻す。

 

「頂きます」

 

そこで音松は箸を持って手を合わせると、そこでまず初めに味噌汁を一口。

 

「ズズッ」

 

鰹出汁ベースに合わせ味噌のほんのり優しめの塩味。そこに大根の出汁を少し吸った硬めの食感に豆腐の食感。

 

「あぁ…」

 

白米も少し硬めに炊いてあり、立ち上る湯気は味噌汁とよく合う。

だし巻き卵は箸で掴みやすいほどの大きさに切り分けられ、落としたての大根おろしの辛味と合わさってとても食べやすくなっている。

 

「美味い」

「それは良かったです」

 

スフェーンもそんな音松の反応に少し嬉しそうにすると彼女は外のまだ暗い幌々の街を見た後にコートを着る。

 

「どこに行くんだ?」

「ちょっと列車の方に…雪で埋もれると困りますから」

 

彼女はナッパ服の上にコートを羽織り、頭には紺色の略帽を被っていた。

 

「大丈夫か?」

「あぁ、全然大丈夫ですよ」

 

夜遅くまで酒を飲んでいたとは思えないほど彼女は平気な様子で駅舎を出る。

 

「…」

 

そして外に出たスフェーンを音松は静かに見送ると、残った朝食を摂るとその後に制服に着替えた。

 

 

 

濃紫の制服に着替え、ホームに登った彼は雪も降らず。日が登り始めの、一日で一番気温の下がる時間帯に出て行ったスフェーンを気にかけていた。

 

「…」

 

スフェーンの乗っていた脱線した列車は駅からでも確認でき、よく見ると先頭車がやや傾いているのが確認できた。

 

「(難儀だな…運び屋というのも)」

 

元々この路線に存在する村々を周回するように走っていたのは掬輪に本拠地を構える海人と言う男の運転する貨客列車である。

 

「一週間の足止めか…」

 

自分は昔から鉄道管理局に勤めていたので運び屋のことはよく知らないが、一週間の足止めを喰らうと多大な損害が出ると言うのは容易に想像ができた。

 

「…」

 

その時、列車から小さな人影が見えると、ゆっくりと影から近づいてきて高く伸びる特徴的な角を見た。

その灰色の髪は雪と同化しており、見えずらい物だったが彼女につけているサングラスとコートのおかげで視認できた。

 

「そろそろ列車が来るぞ!」

「は〜い、わっかりましたぁ」

 

始発列車を前に音松は叫ぶと、彼女は手を振った後に線路脇に退避してホームに片手で登ってきた。

 

「どうも」

 

背中には彼女の身長ほどの大きさの小銃(Wz.35)を背負っており、巨大なマズルブレーキをみて音松は一瞬息を呑んだ。

 

「お前さん、それは?」

「え?あぁ、自衛用ですよ。ここら辺は安全ですけど、獣とかそっち用に」

「あぁ…」

 

音松はそこでスフェーンの意図を察していると、

 

ッーーー!!

 

スフェーンのいた方向から汽笛が鳴ると、遠くからハイビームを照射しながら接近してくる朱色4号に塗装された二両編成のキハ22が駅に進入してくる。

 

「あれは?」

「今日の一番列車だ」

 

列車の後部にはコンテナ貨車が連結され、脱線したスフェーンの列車に注意しながらホームで停車すると、

 

「いやぁ、悪いね」

 

列車からやや痩せた様子の水灰色の作業着を着た男が降りてきて音松に話しかける。

 

「礼ならこの子に言え。あそこで事故ってまで運んだんだ」

 

そんな彼に音松は横に立っていた灰髪長身の女性を見て唖然となった。

 

「こりゃあまぁ…」

「どうも。運び屋を生業にする飯豊クサビです」

「ああどうも。ここら辺で運送業をしている海人尺彦です。よろしく」

 

海人もスフェーンを前に帽子を取って頭を下げる。

 

「いやぁ、ありがとうございます。お恥ずかしながら牡蠣の生食に当たってしまって…」

「はははっ、気持ちはわかります。それは残念でしたね」

 

スフェーンは海人とそんな話をしていると、

 

「貴方の列車を見ましたが、貴方もまた災難ですなぁ」

「はははっ、まぁ本線の事故に比べたらまだマシですよ」

「あぁ〜、あれもなかなか災難ですよね〜」

 

海人は頷きながら立ち話をしていると、

 

「どのくらいで救援が来るんですか?」

「それがあの事故の影響で一週間後のようで…」

「うわぁ、そりゃ大変だ」

 

海人はそこでスフェーンの先頭車だけ脱線した列車を見る。

 

「しかし長い貨物列車ですなぁ」

「まぁ十両ですからね」

 

そんな事を話していると駅にポツポツと人が現れる。

 

「やぁ海人さん」

「今日から出勤かい?」

「やぁやぁ、今回は悪かったよ」

 

そこでこれから仕事場に向かう彼らに海人は軽く挨拶を済ませると、彼らの持っていた定期券や切符の確認を行う。

 

「いやぁ、海人さんが倒れたおかげで飯豊さんが来たんだ」

「俺たちにしちゃあもっと倒れてて良かったんだぞ?仕事を休めるからな」

「そりゃあ酷い。俺が上から怒られちまうよ」

 

ここの路線唯一の定期列車をしている海人にそんな事を言いながら列車に乗り込んだ彼ら。

 

「そうだ飯豊さん」

 

するとそこで海人はスフェーンに提案してくる。

 

「どうだい、俺の列車に乗ってくれんか?」

「え?それまたどうして…」

 

聞くと海人はスフェーンの持っている銃を一瞥した後に顔を見た。

 

「いやぁ、あんたも運転士なんだろう?ほら、一週間動けないって言うし、その間働けないってのも色々と不安だろう?」

「それは…」

 

スフェーンは納得する。レッカー(IRF)を呼ぶ時にかかる費用を払うことはできるが、運び屋としての仕事を一週間できないと言うのは精神的に不安が残るところではあった。

幸運な事に金庫に入って来るウィールや金塊に関しては増えている一方なので、緊急事態の貯蓄に問題はなかった。

 

「それに俺の列車でたまに無賃乗車しようとする奴もいるしさ。バイト代も出すって方向でどう?」

「…」

 

そんな海人の提案にスフェーンは一考する。

 

「(どう思う?)」

『やって損はないかと』

「(ならやろう)」

 

と言うことでルシエルと軽く相談をした後に、スフェーンはそのまま列車の中に乗り込んだ。

 

「おや?飯豊さん?」

「今からバイトで乗る事になりました〜、よろしくです」

 

スフェーンは軽く挨拶を済ませると、海人から言われ反対の運転台に入る。

 

「ふぅ〜…」

 

そして運転席に座って列車は音松の鳴らした笛に合わせて扉が閉まり、汽笛を鳴らすと加速を始め。ホームに立つ音松はスフェーンを見つめると、彼女は軽く手を振って返した。

 

『これから列車はどうしますか?』

「埋もれないように時々雪かきかなぁ…後は現状維持になっちゃうだろうし」

 

列車が動けるようになるまで一週間。それまでスフェーンは列車の防衛の事を考えながら繋がれたコンテナ貨車を見る。

 

『帰りに君の郵便コンテナを回収するから』

「了解です」

 

通信で海人は連絡を入れると、スフェーンも頷いて自分の列車が過ぎていくのを見る。

 

『これで分岐点に被っていたらもう少し早く救援が来るんでしょうね…』

「これっ、不謹慎な事を言うでない」

 

スフェーンはルシエルに軽く注意すると、二両のキハ22の車内を次に見て呟く。

 

「しかし人少ないねぇ」

『始発ですからね。これからもっと増えますよ』

 

石炭の鉱山街と聞き、スフェーンの脳裏には生意気だったガキンチョの居た鉄鉱石の街を思い出す。

 

「今頃はどうしているのかね…」

『さぁ、少なくとも彼らは十代に突入していますよ』

「…アイツもティーンエイジャーかぁ〜」

 

少しは大人になっているかな、などと思いながらスフェーンはローカル線を走る列車の中で車掌のバイトをする。

 

「今から車内検札しまーす」

 

そう言いスフェーンは銃を背負ったまま車内の乗客に切符の提示を求める。

まだ朝の早い時間帯、乗っている乗客も少ないので車内検札はすぐに終わる。

 

「全員切符確認しました」

「おう、ご苦労さん」

 

そして進行方向の運転台でスフェーンは雇用主の海人に報告を入れる。

二両編成の列車は後部にコンテナ貨車を六両繋いでおり、この路線の先で列車を繋ぎかえるという。

 

「飯豊さんは貨物だけを取り扱っているんだね」

「えぇ、生憎。人を運ぶのはそれほど得意じゃあありませんからね」

 

スフェーンの列車はまず人を運ぶ事を想定していない、完全な貨物専用の列車であった。

 

「はははっ、法人?個人?」

「多いのは個人ですかねぇ…まぁ指名依頼を受けて運ぶことは前までは多かったですけど」

 

スフェーンは言うと、運転室で海人はやや驚く。

 

「ほぇ〜、指名依頼よく受けるの?」

「そうですね〜」

「すげぇ、俺なんてほぼ指名依頼なんて受けなかったわ」

「幹線で死ぬほど走ってれば指名依頼がバンバンきますよ。特に戦争が始まった時なんて…」

 

スフェーンはそこでその時にやたらめったらに発行された指名依頼に疲労が溜まりまくっていたの時期をふと思い出してしまった。

 

「ん?どうかしたか?」

「…いえ、なんでも」

 

海人はその時、スフェーンの目から光が消えたような気がした。

 

「そ、そうか…」

 

そしてなんとなく聞いてはいけないような気がして彼はそのまま口を噤んだ。




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