TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#194

「ん?おぉ、」

 

幌々駅にお世話になっているスフェーン。昼間の手伝いを終え、駅に戻った彼女はそこで見知らぬ人を見た。

 

「君が噂の運び屋か。やぁ綺麗なお方だ」

「?えっと…」

 

やや困惑するスフェーンに音松が言う。

 

「悪い。俺の友人だ」

「杉並仙蔵です。どうも」

「あぁ、どうも。お世話にならせて貰ってます。飯豊クサビです」

 

仙蔵を相手にスフェーンは答えると、彼は面白そうな目を向けた。

 

「何だ、しっかりしたお嬢さんじゃないか」

「そうですかね?」

 

事務所で胡座をかいて座る仙蔵はスフェーンとそんな話をしていると、

 

「今日はどの様な御用で?」

「ああ、久しぶりに友人に会いに来ただけさ。まぁ、ちょっと泊まらせてもらうかもしれん」

 

話を聞き、スフェーンは軽く頷く。

 

「(なるほど、今日はお客さんがいるのか…)」

 

となると、今日の夕食はあれが行ける。

 

「すみません。ちょっと取りに出ます」

「あぁわかった…気をつけろよ」

「はーい」

 

スフェーンは音松にそう返すと、彼女は戸を開けて列車の方に走って行った。

 

 

 

その後、列車に戻ったスフェーンは自分の部屋に入って片付けていたパントリーからあるものを取り出す。

 

『それを出すんですか?』

 

ルシエルはこの前メアリから郵便で受け取ったそれを前に聞くと、スフェーンは頷いた。

 

「そうね、人がいるしね〜」

 

そして彼女は箱に包まれたそれを持ち出すと走って駅まで戻る。

 

「戻りました」

「おう、大丈夫さ」

 

するとそこでは早速飲み交わしている音松たちの姿があった。

 

「できたら言ってくれ。俺たちゃあ先にやらせてもらうわ」

「あぁどうぞ」

 

そこでスフェーンは鍋を取り出して夕食の準備を整え始める。

その後ろでは音松たちは熱燗を猪口に注いで煽っていた。

 

「しかし、良いお嬢さんじゃあないか。お前さんが泊まらせるとはな」

「なぁに、寒さで死なれたら敵わんだけさ」

 

音松は仙蔵にそう返すと外で軽く降る雪を見る。これほどの気温で、彼は事故にあったスフェーンの列車をふと思い出す。

 

「あんな綺麗な顔の運び屋なんて珍しい」

「あぁ、あの顔立ちで色々と苦労したんじゃないのか?」

「だから運び屋に転職か?それはそれで面白い」

 

仙蔵とそんなスフェーンの話をしながら酒盛りをする音松。

事務所の奥では仏壇に線香があげられており、仙蔵はその仏壇を見て少し目尻を下げる。

 

「今夜は、早めに上がらせてもらうほうがいいかね?」

「いやぁ大丈夫だ。今日、飯豊さんは食堂の方に呼ばれているそうだ」

「…そうかい」

 

音松の一言で仙蔵は飯豊の消えた台所の方を見る。

 

「気が利くねぇ」

 

そしてスフェーンに向かって感心した様子で軽く頷く。

 

「さぁ、まだまだ夜は長いぞ」

「ははっ、お前さんには世話になるな…」

 

音松も隣駅の駅長に軽く笑って返すと、熱燗を持って仙蔵に傾ける。

すると微かに事務所に出しの香りが漂い始め、台所からスフェーンが現れるとその手にガスコンロを置いた。

 

「おっ?今日は鍋か?」

「えぇ、よく冷えていますからね。温かいものを準備してみました」

 

スフェーンはそれだけ言うと再び台所に消え、戻ってくるとその手には土鍋を持っていた。

グツグツと音をたて、土鍋の中に収まるそれをみて仙蔵は思わず声を漏らす。

 

「ほぉ〜、水炊きか」

 

しっかりと茹で上がった鶏肉を前にスフェーンは頷く。

 

「えぇ、知り合いからもらっていたんですけど…生憎と食べる機会がなくて」

 

そう言いメアリから郵便で受け取った水炊きセットを前にスフェーンは軽く笑みを浮かべる。

鶏ガラスープに鶏肉や春菊、キャベツ、椎茸、ネギ、豆腐などの具材が湯気をたてて鍋の中に収まっていた。

 

「水炊きとは…これは美味そうだ」

 

音松も出てきた水炊きに箸や皿を取り出しに立つ。

ガスコンロに火をつけ、土鍋が冷えないようにし、食器や箸の準備を終える。

 

「菜箸は?」

「いらねぇさ。これだけ吹いてりゃあ煮沸消毒される」

 

仙蔵はそう言って気にしない様子で箸を持って鍋の中を掴む。

 

「はぁ〜、こりゃああったまるさ」

「あぁ、良い匂いだ」

 

音松と仙蔵はそう言い、早速出汁をたっぷりと吸った鶏肉を一口。スフェーンはネギを噛む。

噛んだ瞬間にたっぷりと吸い込んだ出汁が溢れ、スフェーン達の顔は立ち価値緩くなる。

 

「「「美味い…」」」

 

そしてほぼ同時に同じ言葉が漏れると、スフェーンは言う。

 

「これは日本酒が合いそうです」

「今熱燗があるぞ」

「あっ、ちょっといただいて良いですか?」

 

そこでスフェーンは猪口に少し日本酒を入れてもらうと、そこで酒を煽る。

 

「はぁ…」

 

この鍋を食べ終えればシメのラーメンが残っており、スフェーンはそれも楽しみの一つに入っていた。

 

「高いだけあってやっぱりいい出汁ですね」

「はははっ、これを送ってくれた知り合いに感謝しないとな」

「おいおい、まずは持ってきてくれたお嬢さんに言うべきだろう」

 

コタツを囲み、三人は鍋を前にそんな話をする。

用意した薬味と共に今度はシナシナのキャベツを薬味を包み込むようにして噛む。

暖かい出汁と、キャベツの柔らかい食感に薬味の味に引き締めを与える後味は抜群である。

 

「しかしサングラスで見えづらくないかい?」

 

仙蔵はそこで部屋の中でもサングラスをつけるスフェーンに聞くと、彼女は言う。

 

「いやぁ、正直慣れてしまっているんでね〜」

 

スフェーンのサングラスは特徴的なオッドアイを隠すためのもので、視界の色彩補正を行っているおかげでスフェーンの視界は違和感がなかった。

 

「目が悪いのか?」

「いえいえ、昔事故にあって片目が義眼なだけです」

「あぁ…」

 

その時、照明の光が反射して薄らと見えた虹色の左眼を見て仙蔵達は察した様子で頷いていた。

 

「サイボーグ手術を受けられたのか…」

「じゃなきゃやってられませんよ。生活と宗教を天秤にかけるなら特に」

 

スフェーンはそう言って出汁を小皿を傾けて出汁を飲む。

 

「「…」」

 

その話を聞き、音松たちは言い難い様子でお互いに顔を軽く合わせる。

運び屋という職を前に彼らは自分たちの脳裏に浮かぶ昔の、運転士として働いていた時のことを思い出す。

 

「まぁ食べましょう。シメのラーメンが固くなっちゃいます」

「…そうだな」

 

スフェーンの言葉に音松は静かに頷くと三人は鍋を突いた。

 

 

 

「ふぅ…」

 

そしてシメのラーメンまでしっかりと食した三人は満足げにこたつで足を伸ばす。

 

「はぁ〜、いい飯だった」

「美味かったな」

「お腹いっぱいです〜」

 

スフェーンも満足げにして音松達を見ると、ちょうどよく駅に食堂のおばちゃんが入ってくる。

 

「飯豊ちゃん」

「あぁ、今行きます」

 

スフェーンは呼ばれて鍋を片付けようとした時、

 

「あぁ大丈夫さ」

「え?」

 

仙蔵が言い、音松の方を見る。

 

「俺達ぁ、まだ雑炊って言う食い方があってな。片付けは俺たちの方でやっておくよ」

「…分かりました」

 

スフェーンは頷くと、そのまま事務所を出る。

 

「外は寒いぞ」

「わかってますよ〜」

 

音松にそう返してスフェーンはトレンチコートを羽織ると、そのままブーツを履いて事務所を出ていく。

 

「じゃっ、あとは頼みま〜す」

 

スフェーンは言うと事務所を後にし、駅舎は一旦静寂に包まれた。

 

「…」

 

そしてスフェーンのいなくなった事務所で、音松と仙蔵の二人はスフェーンを思い出しながら仙蔵が音松に言う。

 

「よくできた子だなぁ」

「あぁ、そうだな…」

 

スフェーンは陽気だが、どこか鋭さを持って感受性の高い女性だ。

 

「静江さんとは違うか…」

「阿呆、あいつと同じにすんじゃねぇ」

「でもよぉ、お前さんとお似合いじゃねぇか?飯豊さん」

 

仙蔵はやや茶化すように音松に言うと、彼は猪口を傾けて言う。

 

「…俺は一生。静江以外に興味が持てねぇんだ」

「…そうか」

 

仙蔵は少し懐かしげに、それで少し強張った表情の音松を見て薄く笑みを見せる。

彼はかつて、職場の紅一点と言われた女性と結婚をし、運転士として長く活躍した後に幌々駅の駅長に配属された。

 

「(そう言う所が、アイツが惚れた理由なんだもんな…)」

 

少々失礼な事をしたかなと思いながら仙蔵は最後の熱燗を注ぎ入れる。

 

「おっと…」

 

すると持ってきた熱燗が空になり、思わず仙蔵は言う。

 

「いかん、熱燗を切らしてしまった」

「あぁそうか…」

 

熱燗が無くなったことを知って、音松は傍から徳利を取り出す。

 

「さっき飯豊さんが用意しておいて行ったものがあるぞ」

「…はははっ!」

 

音松の取り出した徳利を前に仙蔵は思わず吹き出してしまう。

 

ーーあぁ、本当に気の利くお嬢さんなことだ。

 

仙蔵はスフェーンの作法になぜか違和感を覚えるが、その疑問は聞くこともなく。軽く首を横に振った後に話題を変える。

 

「あぁ…世間じゃあ戦争をしているっちゅうのに…俺たちはこうやって酒を飲みながら、顔の良いお嬢さんと鍋を囲んでいる…」

「不思議なものだな。この前なんか、軍警が上陸作戦をしたと言うじゃないか…」

 

音松はそう言い、三ヶ月前にサブラニエ本土に上陸作戦を敢行した軍警察の話をする。そのニュースはネットや毎日放送される『軍警ニュース』などで音松達もよく知るところであった。

 

「あぁ、ちょうど今の時間じゃないか?」

 

そこで仙蔵はリモコンを取ってテレビをつけると、そこではちょうど夜のニュースが始まっていた。

 

『本日、軍警察第六方面軍はサブラニエ南東のパトリチェウ郊外に展開し…』

 

そこでは市街地を進行する軍警察の戦車やオートマトンが市街地に侵攻し、市議会議事堂のてっぺんに軍警察の軍旗である旭日旗を高々と掲げている映像が映されていた。

そんな統制された映像を前に音松は言う。

 

「やれやれ、戦争なんて遠い昔の話だと思っていたのが懐かしい…」

「ここら辺は野盗すら出ないど田舎だからなぁ」

 

音松と仙蔵はそんな話をしながら改めてこのローカル路線に苦笑する。

 

「なぁに、それだけ平和って証さ。俺達にぁ、ありがたい話よ」

 

二人は野盗に襲われ、列車強盗をされた後にどんな目に遭うかを、話伝手で色々と聞いていた身である。故に言う事すら憚られるその惨劇が無い事に二人は改めて『平穏』と言う言葉のありがたみを感じる。

 

「音さん」

「ん?」

 

そこで仙蔵は音松に言う。

 

「できれば、俺たちはこのまま…無事に年老いて死にたいもんだなぁ」

 

仙蔵のそんな言葉に音松はゆっくりと頷いた。

 

「…そうだな」

 

彼はその時、自分の胸に手を当ててそのことを噛み締めるように再び頷いていた。




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