深夜、食堂で飲み屋の手伝いをしたスフェーンは最後の客を解放する。
「や〜ぁ〜、俺はまだまだのむぞぉ〜!!」
「はいはい、続きは家でやってくださいね」
昼は食堂、夜は飲み屋と化す幌々の食堂。そこで最後の出来上がった客達をスフェーンは
「悪いね。家まで送っててくれ」
「りょーかいです」
おばちゃんに軽く頷いてスフェーンは運転席に乗り込むと、荷台に乗せた数名の寝ている客の上に幌を被せて走り出す。
「ぬ〜すんだ軽トラでは〜しりだす〜」
『盗んでないでしょうに。そこまで人生拗らせてもいないでしょう?』
「いやそうだけどさ〜」
スフェーンは酔っ払った主人達を配達しながら街を回る。
「失礼〜」
「あら飯豊ちゃんじゃないの」
「ちーっす、酔っ払いを配達に来ました〜」
「あぁ…今日は貴方が運んでくれるのね」
そうして家々を走って顔を赤くする人たちをお届けし、時折雷が落ちる瞬間を目の当たりにしながらスフェーンは最後の酔っ払いを送り届ける。
「お届け物でーす」
インターホンを鳴らしてスフェーンは言うと、家の戸が開いて見知った顔が出てきた。
「おや、隼人くんじゃないか」
「どうも。飯豊さん」
家から出てきたのは高校生で、この前酔い潰してしまったこの村唯一の青年である。
「珍しいですね。今日は飯豊さんが配達ですか?」
「はははっ、今日はね。バイト代もらっちゃったから」
「なるほど…」
隼人はそこで、軽トラの荷台に載せられた死に体の彼の父親をみる。
「やれやれ…飯豊さんに勝負でも吹っかけました?」
「ははは、大当たり」
スフェーンは軽く笑うが、つまり今の彼女は酒を飲んだ後ということになる。
「飲酒運転で一回しばかれたらどうです?」
「ごめん被るよ」
スフェーンは隼人にそう返してこの村にいる駐在さんを思い出す。
駐在さんは年老いた治安官で、老練さを持った優しい雰囲気のある人だった。田舎特有の雑さを持ち合わせて人で、基本的に事故らなければ酒気帯び運転くらいであれば叱るだけで終わる。
『でもスフェーンは飲み過ぎかと』
「(え〜、たかがロング缶五本じゃん)」
『それは普通じゃないと言うことをお忘れなく』
少なくとも数日前にウイスキーのバケツ飲みを敢行して住民を絶句させた女らしく、鉄でできた肝臓を前に少々誇るように胸を張る。
「とりあえず、荷物受け取ってね〜」
「わかりました。送ってくださってありがとうございます」
隼人は逞しい体で荷台に乗せた父親を簡単に背負うと、家の中に消えていく。
「おやすみなさい」
「えぇ、おやすみ〜」
そこで隼人が家の中に入ったのを確認すると、スフェーンは軽トラに乗って食堂に戻った。
「戻りました〜」
食堂では片付け終えたおばちゃんがスフェーンを待っていた。
「お疲れさん」
「じゃっ、お疲れでした〜」
そこでスフェーンは帰ろうとした時、
「ちょっとお待ち」
おばちゃんは彼女を呼び止めた後、店に入れてスフェーンにおでんを出す。
「余っちまったんだ。どうだい?」
「おぉ〜!頂きますぅ」
スフェーンはおでんにつられて席に座りそこでこんにゃくを頂くと、おばちゃんは聞く。
「飯豊ちゃん、ここに残る気は無いのかい?」
そんなおばちゃんの問いかけにスフェーンは軽く笑って言う。
「いやぁすみません、私は旅したくて運び屋やっているんですよ」
スフェーンの返答におばちゃんはなるほどと軽く納得した様子で頷いた。
「そうかいそうかい…もし残るんだったら、私が住まわせてあげようと思ったんだけどねぇ」
「いやぁ、いい人たちばかりで。私も運び屋を止めたら、ここに住むかもしれません」
「そう〜、その時に街が残ってたら良いわね〜」
「そんな縁起の悪い〜」
おばちゃんとそんな話をしていると、時間は午前三時を回る。
「おっと、もうこんな時間ですか…」
スフェーンが言うと、おばちゃんは座敷席に敷布団を二つ取り出し、寝ていいと言うことでスフェーンはありがたく食堂で寝させてもらう事にした。
翌朝、仙蔵は朝一番の列車に乗り込んで仕事場の美依駅に向かう。
「あれ、飯豊さんは?」
「あぁ、アイツなら…」
列車が来る直前、スフェーンの居場所が気になった仙蔵は着替えた音松に聞くと、彼は駅のホームの反対を見た。
「オラオラオラオラオラ!!」
そこではスフェーンが雪かきスコップを両手にホームに積もった雪を吹っ飛ばしていた。
彼女は略帽を被り、ナッパ服の上に前を開けたコートを羽織っていた。
「ははぁ〜、元気な事で…」
「実際上手いぞ。アイツは」
音松はそう言ってホームの雪を一箇所にまとめているスフェーンを見て言う。
「若いってのは良い事だ」
「全くだ…」
仙蔵に音松も頷いていると、遠くから汽笛と共にハイビームを照らす二両編成のキハ22が駅に進入してくる。
列車は二人の前に停車をすると、列車の扉が開いて仙蔵が乗り込む。
「元気にやれよ?」
「あぁ、お前さんもな」
列車に乗った仙蔵は音松に軽く鼻で笑うと、列車の扉が閉まって仙蔵は笑みを見せながら右手で敬礼をする。
ピーィッ!
音松は笛を鳴らした後、同じように笑みを浮かべ、返すように敬礼をする。
走り出した列車は顔に雪化粧をしながら走り去っていった。
「行っちゃいましたか…」
「あぁ…」
するとそこで雪かきの上に肘を置いて横にスフェーンが立って話しかける。
「…ふふっ」
「?何を笑っているんだ」
不意に笑い出したスフェーンに音松は首を傾げると、彼女はそんな音松に言う。
「いやぁ…音松さん、結構厳つい顔だからお友達がいたのに驚いてしまってね」
「おいおい…お前さんなぁ」
スフェーンが笑っていた理由を知って呆れて音松は雪のチラつく屋根のないホームで、走り去った列車を見送って駅舎に戻ろうとした時。
カシャッ
突如シャッター音が聞こえ、音松はそれに首を傾げて音の下した方を見ると、
「ふふふっ」
そこではその手にインスタントカメラを持つスフェーンが立っていた。
「ほほぉ〜、良い写真ですなぁ」
「…」
そしてスフェーンは早速現像された写真を見て感想を言う。
すると彼女は撮った写真を見せると、そこでは先ほどの音松の姿が映し出されていた。
「やっぱり音松さんは写真映えしますねぇ〜」
「おいやめろよ…」
その写真を前に音松は少し恥ずかしげにスフェーンの不意打ちで撮られた写真にケチをつける。
彼女は一体どこにそんなインスタントカメラを下げていたのだろうか。
「一枚くらい良いじゃないですか〜」
「あのなぁ…」
呆れながら音松は茶化すスフェーンに言う。
「撮るなら一言言ってくれ。俺が驚く」
音松はスフェーンに言うと、彼女はじゃあと言わんばかりに彼に言った。
「じゃあ二人で撮りましょう」
「…」
音松はそんなスフェーンに驚いて一瞬言葉を失った。
「ねっ?ウチらで写真撮りましょう?」
「…」
スフェーンに言われ、音松はため息をついた。
「一回だけだぞ」
「ありがと」
そこでスフェーンはインスタントカメラを持ってホームの上で二人は並んで、スフェーンがシャッターを切った。
カシャカシャッ
「っ!」
連射したスフェーンに背筋を伸ばしていた音松は驚くと、スフェーンは笑って音松を見た。
「連射しちゃダメって聞いていませんでしたからね〜」
「…はぁ」
スフェーンの悪知恵を前に、音松は本日何度目かわからないため息を吐く。
「まぁまぁ、二枚写真出ますから。一枚あげますよ」
スフェーンは慰めるように言うと、連射したインスタントカメラから二枚の現像された写真が出てくる。
「…」
その写真は駅舎を背景にスフェーンと音松が並んで立っており、写真に映る音松は姿勢を伸ばしていた。
「はい、どうぞ」
「…」
スフェーンは現像された同じ構図の二枚の写真の一枚を音松に渡した。写真写りはとても良く、音松はそれを受け取ると胸ポケットに丁寧にしまった。
「悪いな」
「どういたしまして」
スフェーンは音松にそう返すと、彼女はホームの端に積み上がった雪山を前に言う。
「じゃあ私、これから列車の雪かきしてきますので」
「あぁ…列車には気をつけろよ」
「分かってまーす」
スフェーンは音松の忠告を片手を軽く振りあげて返すと、ホームから降りていった。
雪が降る中、スフェーンは雪かきを片手に自分の列車の前に立つ。
「すっかり雪化粧に包まれちゃってまぁ…」
スフェーンは顔が雪塗れとなった自分の列車を前に呟くと、彼女はルシエルに聞く。
「行ける?」
『そうですね…付近に人の生体反応も通信関係の電波も確認されません』
「オッケー」
確認をしてスフェーンは目の色を空色に変えると、彼女は左手をさらに上げた後に列車に向かって振り下ろすと、
ドゴーンッ!!
爆風が吹き荒れ、その風は列車の周りに溜まっていた雪を一気に吹き飛ばした。
「うほー、すげっ」
圧縮空気の圧力にスフェーンは軽く絶句すると、その後も続けて列車周りの雪かきをダイナミックに行う。
「あらよっと」ドコーンッ!!
スフェーンは手慣れた様子で雪かきをするが、
「おっと」
爆風で舞い上がった雪が自分に降りかかってきて思わず体を逸らす。
この辺は雪が降ったりやんだりするので定期的に除雪をしに来ているが、
「相変わらず酷い有様なことで…」
車内に入ってスフェーンは列車のエーテル機関が動くのを確認すると後ろの扉を開けて外に出る。
『列車のその他武装は今も動きますね』
「オケ、脱線した方もほぼ無事みたいね」
列車は先頭が脱線したのみで、そのほかに損傷はなく。これからの運行に支障をきたすことはなかった。
『除雪は全車やりますか?』
「そうね〜台車の方の雪も落としていきましょうか」
スフェーンは列車を降りてスフェーンは右手から風を起こして雪を飛ばす。その様子は高圧洗浄機を吹きかけているようであった。
遠くでは巣を作る鹿がその様子を眺めており、作業をするスフェーンを見つめていた。
「〜♪」
貨車の上に積もった雪を吹き飛ばしながら彼女は鼻歌を歌う。
途中、気動車の音が聞こえるとスフェーンはスコップを持ち、横を海人の運転する列車が通過するのを確認する。
『平和ですね…』
「静かなのは良いことよ」
ルシエルにそう返すと、彼女は海人の列車を見送った。
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