TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#196

六日目、列車が事故にあってからそれほどの日数が経った。

明日にはレッカーが到着して列車の復旧作業を行う。

 

「やれやれ、明日には復旧作業か…」

「えぇ、さっきレッカーから連絡があって…明日には車両が来ると言う事です」

 

元々軽い事故ではあり、台車に目立った損傷が確認されないと言う事で復旧作業もすぐに終わる見込みである。

 

「もう一週間か…長いようで、短かったなぁ」

 

最終便を見送り、着替えた音松はしみじみと湯呑みを片手に呟く。

 

「本当ですね〜」

 

スフェーンも頷きながら炬燵に入って急須を手に取る。

 

「私なんて雪かきと小間使いでほぼほぼ時間溶けちゃいましたよ」

「はははっ、そりゃあ爺さんと婆さんばっかの場所だからな。若ぇお前さん達は駆り出されるだろうよ」

 

達と言うのは高校生の隼人も含まれている。

いつも朝早くに海人の列車に乗って学校に通っており、夜になって帰ってくる。

 

「学生の隼人君は昼間は戦力になりませんからね〜」

「そうするとこの街じゃあ珍しい若者になるわけさ」

 

音松は軽く笑ってスフェーンが働かされていたのを思い出す。

 

「若い時ってのは大事にしなさい。後から懐かしい記憶になるだけだ」

「そんなのはつくづく分かっておりますよ」

 

スフェーンは少々この一週間でこき使われたことに不満を示しながら彼女は炬燵から出る。

 

「さて、そろそろですかね…」

 

スフェーンはそのまま台所に移動すると、そこではフライパンの上でこんがりと焼けたたんぽがあり、鍋もガツガツと音を立てる。

 

『最近は鍋物ばかりですね』

「冬に炬燵を囲んで食べる鍋ほど美味いものもない」

 

スフェーンはそう断言すると、出来上がった土鍋を持ってきりたんぽ鍋を炬燵に運ぶ。

 

「できましたよ〜」

「あぁ、」

 

そこで音松は鍋を見て声を漏らすと、きりたんぼ鍋を前に彼は箸を持つ。

 

「「いただきます」」

 

二人は最後に投入されたたんぽを箸で取り、スープをたっぷり吸ったそれを口に頬張る。

 

「はふはふっ」

 

あえて直前に投入をし、たんぽの柔らかいうるち米の少し香ばしい食感に濃いスープの味が広がる。

 

「ズズッ」

 

スープは鶏ガラを元に濃口醤油、砂糖、日本酒で味を整えた後にごぼう、舞茸を投入して最後に鳥もも肉をぶつ切りにして煮込んだものである。

ごぼうのシャキッとした食感と舞茸のコリッとした食感が食事を楽しませる。

 

「っあぁ、美味い」

「ネットで調べたレシピですけど、上手く行ってよかった〜」

 

音松はきりたんぽ鍋に感動し、スフェーンは料理の出来具合に安堵していた。

 

「しかし、これでお前さんの飯も終わりかあ…」

「そうなっちゃいますね」

 

明日は朝から忙しくなるので、スフェーンは朝食を作る暇がない。そのためこれが音松に出す最後の料理となる。

 

「良い気持ちだ…。こんなに嬉しいと思うのは久しぶりだ…」

 

音松は少し酔いが回ってきたのか、スフェーンに遠慮もなく呟く。

 

「もう、死んでも良い…って、思っちまうなぁ」

「そんな…縁起でもない」

 

スフェーンは音松の呟きに少し目元を窄める。この一週間、彼は毎日欠かさず駅に立って列車を見送っていた。必ず列車が来る前に駅に立ち、列車の到着を確認して見送る。

事務所には簡易的な閉塞の確認を行なう機器があるのにも関わらずだ。

 

「ははは…まぁ長生きをしていると、色々と苦労するもんさ」

 

彼は年に見合わぬ老け方をしており、まだ七〇代なのに一〇〇歳のような老け方をしていた。

一般的に鉄道管理局の定年は七五であり、この前ここを訪れた仙蔵と同じ年で入社していた彼は定年後の天下りを勧められている話を耳にしていた。

 

「長生きって…音松さんはまだまだ若いでしょうに」

 

スフェーンは彼がここまで老けた理由を察し、彼の妻子の仏壇を一瞥する。

 

「いやぁ、大昔は俺みたいな歳は長生きって言われていたんだぞ」

「どれだけ昔の話ですか」

 

スフェーンはそんな音松と鍋を食べる。しなったネギをスープと共に吸い込むように食し、残ったたんぽを全て投入する。

 

「はぁ…」

 

ロング缶を片手に一気飲みするスフェーン。酒はそれほど強くないので音松は飲んでいないが、スフェーンの飲む量に絶句していた。

 

「よくそれだけ飲んで倒れんもんだ」

「え?いやぁ、アルコールは強いんですよ」

 

実際は体内に入った瞬間にエーテルに変換が始まっており、酔うと言う行為は脳にアルコールを流すことで人為的に起こす必要があった。

 

「そうなのか…羨ましいな」

「いやいや、しょっちゅう勝負ふっかけられて大変ですよ〜」

 

スフェーンはそこで夜の食堂で倒したおっちゃん達を思い出した。

 

「面倒か?」

「いやぁ、楽しいですよ。人と酒を飲んで騒ぐのは好きな部類です」

「そうか?お前さんの場合は静かに飲む派だろう」

「…何で分かるんですか」

 

傭兵時代のスフェーンは静かに酒を飲む場合が多く、報酬を受け取った後は拠点で飲んだ後に大抵はヴォンゴラに飛んでいた。

下手な治安官将校よりも荒稼ぎをしていたあの時の自分は、とにかく人前に顔を出したくなかったから、酒の席に行くことはなかったしブルーナイトの前でも被っていたフルフェイスヘルメットを外すことは無かった。

 

「そう言う顔をしているからな。お前さん、結構感情が表に出るタイプだろう?」

「…」

 

否定はしなかった。実際、傭兵時代の頃からフルフェイスヘルメットを被って顔を隠していたのが習慣であったので感情を顔に出しても言われることが無かったのだ。

 

「「…」」

 

二人の前ではコトコトと音を立てる空になった鍋があり、スフェーンはそこで音松に聞く。

 

「シメ、入れますか?」

「あぁ、頼んだ」

 

そこでスフェーンは既に茹でていたうどんを投入すると、上から塩胡椒で軽く味付けをした後に煮る。

 

「…よし」

 

そしてスフェーンはすぐに茹でられたうどんを菜箸で掴んで音松の小皿に乗せると、彼の前に置く。

 

「ありがとう…ズズッ」

 

音松は受け取った後にうどんを啜ると、彼はスープの絡むうどんを前に口福になる。

 

「あぁ…」

「美味いですね〜」

 

これではシメもすぐに食べ終えてしまうだろうし、実際うどんもそれほど用意していなかった。

しかし腹はいっぱいなので、音松は満足していた。

 

「はぁ〜、悪いな。一週間も世話になっちまって」

「いえいえ、私も食事をする相手がいて嬉しい限りですよ」

 

スフェーンはそう言い、飲み切ったビールの次にグラスとウイスキーの瓶を取り出す。

 

「ほぉ〜、上物か」

 

運び屋が持つにしては少々値の張る代物を前にスフェーンは軽く笑う。

 

「私のとっておきです」

「俺にも一つくれないか?」

「どうぞ」

 

そこでスフェーンは音松の猪口にウイスキーを注ぎ入れると、彼はそれを一気に煽った。

 

「っ…!!結構、香ばしいな」

「まぁスコッチ・ウイスキーですからね」

 

スフェーンは平然とそのウイスキーを飲んでいるが、音松はその濃い酒に頭が一気にふらついた。

 

「…」

 

そして顔を赤く染め上げたまま机に倒れてしまう。その様子を見てスフェーンは軽く安堵のため息を吐いた後に鍋の片付けを始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーーーーい」

「…」

 

知っている誰かに声をかけられているような気がした。

 

「ーーてますか?」

「…」

 

聞き覚えのある声、その声の主に勘づくのに時間はかからなかった。

 

「静江…っ?!」

 

酔いは一瞬で覚め、目をぱっちりと開けて体を起こそうとする。

すると音松の額にやわらかく冷たい手が軽く乗せられ、それを前に彼は横たわる。

敷布団に入った自分は、事務所の中にいるようだった。

 

「…」

「…相変わらず、お仕事一本なのですね」

 

その姿はスフェーンだった。しかし仕草や話し方、声まで彼女だった。

 

「どうして…」

「どうして、か…そうですね…」

 

驚愕する音松を前に彼女は少し目を閉じて考えた後に、側で寝ている音松を見る。

 

「『門番さん』にお願いしてもらった…と言うのが正しいでしょうか?」

「門番…?」

 

混乱する音松はスフェーンの姿で話しかけてくる亡き妻を前に今度はゆっくりと体を起こす。

 

「静江…」

「お久しぶりですね。貴方」

「っ…」

 

音松は共白髪まで添い遂げたがった相手を前に自然と涙が溢れる。

 

「静江…」

「毎日食事は摂っていますか?きちんと眠れていますか?」

 

音松は手を伸ばして、涙をボロボロと流す。

いまだに頭は理解しきれていないが、ただそこにいるのは彼女で間違いないと言う事実が混乱を全て押し流す。

 

「すまない…本当に…っ!!」

 

咄嗟に音松から出たのは謝罪の言葉だった。

静江に抱きついて彼は彼女を前にとっ散らかる興奮を抑える。

 

「…」

「俺は…君に、会いに行くことさえしなかった…」

 

これは夢なのだろう、きっとそうだ。

 

「っ…俺は、娘の時もそうだった。…駅に立って、列車を見送ったんだ……」

 

彼はそこで、彼女の訃報を受けた時。雪の降る駅のホームで列車を見送った時を思い出す。

 

「俺は、とんだ馬鹿野郎だ…あの時、駅を出て君の元に行っておけばよかったんだ…」

 

懺悔をするように、後悔をするように音松は裾を掴んで静江に漏らす。

そんな彼に静江は音松の頭を軽く撫でる。

 

「駄目ですよ、仕事を放り出しては」

「だが、俺は君と…」

「それで困る人がいるんですから。それに、貴方は鉄道員(ぽっぽや)なんでしょう?」

 

静江は優しく音松に触れながら言う。

 

「だったら、貴方は貴方らしく…仕事に一生懸命向き合ってくれたのなら、私も本意です」

 

静江はその後、音松の子供のように弱々しくなった顔を見る。

 

「でも…ありがとう」

「…」

 

その時の静江は昔と同じ微笑みを見せた。姿は変われど、その微笑みが変わることは無かった。

 

「由紀子にも、私の方から伝えておきますね。お父さんは元気にやっているよと」

「っ!由紀子…!?」

 

音松は驚いて静江を見る。すると彼女は軽く頷いた。

 

「えぇ、あの子とも会いました。今は元気にやっていますよ」

「っ!会えるのか…!?」

 

音松が聞くと、静江は軽く首を横に降る。そんな彼女に音松は気を落とすと、

 

「私達はあくまでも門番さんを通して顔を合わせているだけなの。だからごめんなさいね」

「その…門番と言うのは…?」

「そうね…不思議な人だわ」

 

静江はそこで何かを一瞥するような仕草を取ると、音松に言う。

 

「もう時間ね…」

 

すると彼女は音松の額に軽く触れると、音松は強い眠気に襲われた。

 

「あっ…」

 

眠ったらいけないと何かが囁くような気がしたが、

 

「ありがとう貴方」

 

彼女を前に自分は叶わない。

 

「…そうか」

 

彼女との夢も醒めるのかと、少しの心残りを残しながら音松は布団に倒れて目を瞑った。




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