TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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戦争と言うものは複雑怪奇であり、我々一般人からすれば到底把握できる事は少ない。

特にそこに情報戦というものが入ってくるとさらに訳が分からなくなる。

誰が敵で誰が味方なのか、前線の兵士たちですら目の前の敵をただ倒す事はできない場合がある。

 

「まぁ、一般人は戦争に巻き込まれなきゃそれでいいんだから」

『戦闘に巻き込まれる側にもなって欲しいですがね…』

 

トラオムの特有の荒野、岩と砂でできた山々を前にスフェーンは運行中の列車の運転台から眺める。

 

『野盗団の襲撃を確認』

「了解」

 

視界を空に上がっているドローンに合わせ、スフェーンの瞼には上空を飛行する偵察ドローンの映像を確認する。

嘗ての大災害で遥か上空に打ち上がったエーテル。空に上がったエーテルは長年降り注いでおり、今作られた街は降り注いだエーテルから逃げるように作られていた。

 

「発射」

 

そして迫り出した砲塔からエーテル・カノンが発射される。

 

「よっと…」

 

スフェーンはバイポッドを展開し、車両横の窓を開けて銃口を覗かせる。

 

ッ!

 

強烈な反動を体で受け流し、ネジ留めしたスコープ越しに接近してくる襲撃者達を視認する。

そして発射された銃弾は敵の偵察ドローンを正確に撃ち落としていた。

 

「おぉ〜」

 

一般的な野盗、しかし装備は充実している様子の襲撃部隊は明らかに私掠部隊の様子である。

 

「やれやれ、やってらんないよ全く…」

 

この時点でまだ軍警察は、サブラニエ地上軍がエーテル・カノンを自国生産し、量産化まで漕ぎ着けていたという情報は公開しておらず、機密情報として秘匿されていた。

そしてサブラニエがエーテル・カノンを生産できたが故に、パシリコ共和国軍が歴史上に残る大敗北をした『ステンバルクの戦い』が起きてしまった。

 

それを考えるとやはり戦術E兵器というのがどれだけ危険なのかが理解できる。

発射された光線は襲撃部隊を薙ぎ払うように荒野を駆け抜け、襲撃してきた野盗団を破壊する。

 

『なんだっ!?』

『くそっ!』

 

襲撃者達は相変わらずそれが強力なレーザーの攻撃であると勘違いして撤退をする。

 

『撤退しろ!』

 

どこの誰の支援を受けたかも分からない野盗達は医薬品を積載した列車から逃げ出していった。

 

「やれやれ…」

 

スフェーンはそんな野盗達の無線を盗聴しており、ため息を吐く。

 

『私たちも戦況に関していちいち気にする必要があるとは…』

「やぁ〜、野盗が第三世代オートマトンに乗っている時点で十分やばいでしょう」

 

スフェーンはそこで今の主力である第三世代オートマトンで編成された野盗団を前に苦笑する。

今までの大半の野盗団が運用していたオートマトンというのは大半が旧式の第二世代ばかり。事実戦前の野盗は脱走した元PMC兵でもない限り第三世代オートマトンが襲撃に来ることは少なかった。

 

『開戦と共に増産されたことで、旧式のオートマトンが大量に民間に払い下げられたからでしょうか?』

「まぁそうだろうねぇ」

 

現在の戦争では、多くの国が第四世代オートマトンを製造しており、軍警察ですらも新造するオートマトンは基本的に第四世代である。

戦時増産に伴い、余剰となる第三世代オートマトンは背部スラスターの撤去やOSの書き換えなどで完全に非武装化された状態で民間業者に払い下げを行なっていた。

 

「一部は新興中立国にも流れているらしいけどね…」

『国軍設立のためですか…』

 

すると列車は新たな閉塞区間に入り、タブレットに示された事でスフェーンは確認のボタンをタップする。

 

『間も無く、シーシュポです』

「了解〜」

 

依頼品の医薬品を運送したスフェーンはそこで中高生ほどの身長で、頭の鹿角を軽く揺らした。

 

 

 

 

 

シーシュポはかつて炭鉱と不動産において繁栄した都市である。

その繁栄により、当時の市長が労働者に対する手厚い社会保険を施行したことで『労働者に最も優しい街』と呼ばれるようになった都市である。

それ故に今でもシーシュポはどの国家にも帰属しておらず、都市国家としての機能をまだ残している珍しい都市でもあった。

 

「はい、依頼完了を確認しました」

「ども」

 

貨物ターミナルの中にある運輸ギルド、そこでスフェーンは今回の依頼を完了させて街に繰り出す。

 

ブロロロロ…

 

赤いサイドカーに跨り、エンジン音を響かせて街を走る。

 

『少し寂れていますかね?』

「そうね…」

 

街は所々建物が古く、風が吹くと僅かに荒野の砂が飛んでくる。

 

「おっと…」

 

街の植物は枯れて久しい姿をしており、街を行き交う人々の顔はどこか疲れていた。

 

『ボロいですね』

「いやぁ、寂れてんなぁ…」

 

シーシュポは不動産バブルの崩壊後、緩やかに衰退の一途を辿っていた。

街にある炭鉱は採算が取れないとされ、年々生産量を減らしている。

 

「ふぅ…」

 

煙草に火を付けて信号を待つスフェーン。近くでは選挙カーが大音量を流して走り去っていく。

 

「選挙か…」

『生憎、スフェーンはこの街で選挙権を有していませんからね』

「はっ、そもそもウチらに選挙権なんて無かろうて」

 

スフェーンは軽く吹き出して横切る選挙カーを見る。

スフェーンのような常に移動をしている運び屋などは、生まれ故郷からだいぶ離れている場合もある。その場合、選挙制度にもよるが大半は投票に行かない。

ギルド証を持っていれば、運輸ギルドの役員投票に参加可能であった。

 

これは組織構造を見習った傭兵ギルドでも似たような方式であり、四年に一回の更新を必須とし、更新がなければ自動的に傭兵ギルドから名前を抹消される事になっていた。

 

「五月蝿いなぁ…」

 

爆音を奏でて永遠と自動放送の演説を行う選挙カーを前に思わずスフェーンは顔を顰める。

 

『よくあんなお金のかかる選挙活動をしますね』

「上が馬鹿なんでしょ?だからこんな古臭い方法で広報するんだって」

 

今時、インターネットを使う広告の方が圧倒的に安上がりで効果的である。

選挙カーなどは古い広報活動であり、街頭演説以外で使用しているのを見たことが無かった。

 

『馬鹿って…』

 

スフェーンの遠慮の無い言い方にルシエルはやや苦笑してしまう。

 

「いやぁ、実際金の無駄使いでしょ…選挙カーなんて」

 

スフェーンはそこで選挙カーに写る今度の市議会選の立候補者の顔を前に

 

「うわぁ、胡散臭い顔」

 

好き勝手な事を話していた。自分にはこの街での選挙権を有していないのでいくら侮辱をしたところでとやかく言われる筋合いではない。

 

『ちょっとスフェーン?』

「やぁさ、写真って人の本性表すじゃん」

『それはそうかも知れませんが…人の顔写真を見ていきなり胡散臭いと言うのはどうかと』

 

そこでスフェーンは今度行われるシーシュポの市議会選を前に街頭に貼り付けられた候補者達の顔を眺める。

 

「やれやれ…」

 

候補者達の顔ぶれや公約の書かれたポスターを見ると、そこでは更なる労働者への待遇改善を記したものが書かれていた。

 

「すげぇ…」

『シーシュポは労働者に最も優しい街とも言われている都市です』

 

そこでルシエルはスフェーンの視界にこの街の情報をまとめたサイトを見せた。

 

「へぇ〜、三〇年前にバブルで儲かった時にできたの」

『えぇ、手厚い社会保険のお陰で住人でなくとも手厚い医療保証があると人気だそうですよ』

「うおすごっ、クビになっても一〇年間は解雇保険で食っていけるぞ」

 

スフェーンはシーシュポの手厚い社会保障を前に驚いていると、ルシエルが言う。

 

『今回の医薬品も、市立病院から発注されたものばかりでしたしね』

「あぁ〜、なんか時間厳守ですごかったよね」

 

先ほど運んだ医薬品はどれも高い医薬品ばかり。難病の為の治療薬も用意されており、それ故に野盗団も狙ってきたのだろう。医薬品は闇市場でも高く売れる。

 

『どれも冷却が必要で、難病を治療する為のマイクロマシンなども積まれていました』

「うわっ、今どきマイクロマシン治療なんて高いでしょうに」

 

そんな事を話していると、今行われている市議会選挙を眺めながら一言。

 

「やれやれ、呆れたものだね〜。選挙なんてほぼ人気投票みたいなものでしょうに」

『スフェーン…』

 

呆れるルシエルにスフェーンは言う。

 

「やぁね、プラトンやアリストテレスは民主制を悪と捉えていたのよ?」

『確かにプラトンは民主政治を堕落しやすい多数支配と言ってはいますが…』

「じゃなかったら哲人政治なんて考え方しないでしょう。普通」

 

そんな話をしていると、旅客用ターミナルの敵前で街頭演説が行われていた。

 

『我々は、この都市の素晴らしい社会保険を維持しーー』

 

そこではでっぷりと太った脂塗れの禿ジイが演説をしており、調子良く演説をしている。

話を聞いているのも高齢者が多く、現役の労働者達はほぼいなかった。

 

「羽振りは良いの?」

『いえ、シーシュポは長年の手厚い社会保険が祟って財政難の筈ですが…』

 

聞くところによると、シーシュポは不動産事業のバブルがはじけてから三〇年ほどが経過しており、以降は衰退の一途を辿っていると言う。

 

『しかし手厚い社会保障制度からの脱却はうまく行っていないようですね』

「やぁ〜、そりゃそうでしょうよ」

 

スフェーンは駅前の交差点で長い信号待ちをしていると、

 

『このままではいけないのです!』

 

拡声器を片手にある青年がロータリーで演説をしている。

 

『現在、シーシュポでは多くの赤字を抱えています!』

 

その周りでは他にも若い年代、労働者階級の人間がポスターを配っており、熱心な選挙活動をしていた。

 

『もしこの状態が続けば、この街は経済破綻をしてしまうのです!!』

 

犬の獣人で、垂れ耳に青い目が特徴的なその青年は街行く人に訴える。

 

「よろしくお願いしまーす」

「稲岡をよろしくお願いします」

 

ポスターを配る人々に住人は一瞥を送るだけでほとんど受け取る事はなく、受け取ったとしても直ぐに捨てられていた。

その様子を見ていたスフェーンはルシエルに聞いた。

 

「誰あれ?」

『今回の市議会選挙に立候補している稲岡マムルと言う人ですね』

「ほーん…」

 

スフェーンはそこで先ほどの禿ジイと違って殆ど見向きもされない若い立候補者を軽く眺めた後に信号が変わったのを確認してスロットルを回した。




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