TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#208

「諸君。今日は緊急で集まってもらった事に感謝する」

 

ここはとある会議室。長机の周囲には複数の高級スーツで整えられた各閣僚達が集っていた。

 

その最も上座に座るのはパシリコ共和国の初代大統領に就任した男、モハメド・イル・パシリコヴァ。

この国がまだ都市間連合だった時、数多の政敵を謀略と暗殺により排除し、自ら生まれ育ったグリーンボウルの素晴らしき教えを世界に伝道しようと願った敬虔な信者。

後年そんな評価を受ける彼は、この場に招集した閣僚達に告げる。

 

「今日は火急の事態について話をする必要があった」

 

彼はは冷えた鉄の様な声で彼は言うと、環境大臣が聞く。

 

「火急の事態とは…?」

「うむ、まずはポーレ君の話から入ろうか」

「はっ!」

 

そこである男が立ち上がった。

彼の名はポーレ・イワンコフ。パシリコ共和国内務大臣を務める男である。

 

「先ほど、軍警察よりSMATOに対し、緊急連絡があると通達がありました」

「「「「っ!!」」」」

 

彼等は軍警察と言う言葉に誰よりも敏感に反応していた。

その為、彼等は軍警察内部にも当然の様に協力者がおり、内部の情勢について常に彼らは把握できる様になっていた。

 

「それはつまり…」

「あぁ、軍警察が本格的に動くのだろう」

 

今現在、軍警察は海を超えた向こうの大陸勃発したクーデターの事を盛んに報道に載せているが、彼らにしてみればそれがすぐに軍警察が何か軍事行動を行う上で南側陣営に諭されない様にするための行為であると分かっていた。

 

「どの様な方法かは我々も知り得ないが、これで戦局は大きく変わる」

「えぇ、我々への勝利が大きく近づく事でしょう」

「企業どもの好きにはさせずにすみます」

 

報告を前に閣僚たちは軽く沸く。

彼らは直接サブラニエに戦線を張っており、アリアドール合州国は厳正な中立を維持していた。

パシリコ共和国としてはエーテル・ボンバの攻撃を受けて『世界の敵、サブラニエ』と言う体制を作り上げるために様々な工作を行ってきていた。

彼等の脳内で軍警察がサブラニエ側につくという選択肢は消えていた。

 

「しかし、軍警察が介入して来る以上。新たな問題が出てくる」

「それは…?」

 

すると内務大臣が立ち上がった。

 

「ここからは私がお話しいたしましょう」

 

ポーレはそこで各閣僚たちに熱論をする。

 

「軍警察がSMATOに緊急連絡の通達を行った以上、本格的な軍事介入は確実のものと見て良い。よって戦争は我々の勝利で終わる事でしょう」

 

無論、パリシコ共和国軍の戦力を用いてもサブラニエ地上軍を擦り潰す事はできた。

しかし彼の国のエーテル製錬技術はずば抜けており、パシリコは遠く及ぶところでは無い。そしてそれら製錬技術を用いて作られたE兵器は世界中にエーテルの厄災を放ち、彼らにそこはかとない恐怖心を植えつけた。

 

「軍警察による攻勢は近く行われる。彼らは鉄の津波となってサブラニエに傾れ込む事となる。

そうすれば、彼らは容易にマクシヴェを榴弾砲の射程内に納めることも可能でしょう」

「…」

 

軍警察はパリシコやその他国家と違い、予算のほぼ全てを軍事費に回す事ができる世界最強の戦闘集団である。

それ故に強固で充実した装備、強力な戦闘力や空からの攻撃が可能となった。

 

「そして国際的関心という面でも、軍警察の本格介入と言うのは我々に不利益をもたらす可能性があります」

「ほぅ…軍警が我々に不利益とな?」

「えぇ」

 

ポーレはそこでモハメドに頷く。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()。…という点です。大統領閣下」

 

 

彼は言う。

 

「世界の敵、サブラニエ。…我々が喧伝してやまなかった世界にとっての悪夢。

エーテル・ボンバをはじめ、多くの勃興した国々の争いの元となった諸悪の源流。

 

 

ーーその首を討ち取るのは誰なのか。それは未来永劫、歴史に残る事となる」

 

 

「…なるほど、つまり我々がその獄門(大攻勢)を用意し、そこに討ち取った首を挿げる(首都にパシリコの旗を掲げる)べきである。と言う事だな?」

「左様であります。大統領閣下」

 

ポーレは淡々と、しかしその一言一言に非常に熱い熱を持って語る。

 

「連邦との戦いにおいて我々は数多の流血を戦闘で流しました。そして偉大なる初代グリーンボウル市長の教えを世界に波及するために、我々は後世の教科書に名を残す必要があると言う事です」

「うむ…」

 

慎重に考えるべき事案である。

我々はまだ建国して十年も経たない赤ん坊の様な国だ。

そんな国が世界に対し、グリーンボウルの超自然的教えを伝導する為には自分たちが()()()()()である事を世界に知らしめる必要がある。

 

「すでに(革命分子)は撒いております。あとはその種が発芽するための(大義)適切な気温(攻勢)空気(革命動機)を与える必要があるのです」

 

元が世界に緑を取り戻すための組織(緑化連合)であるパシリコ共和国。

かつての偉人の教えたるグリーンボウル規則書はこの国の憲法となり、教えとなっている。

後に『緑林教』と呼ばれる宗教の前身はこのモハメド政権下のパシリコ共和国政府であった。

 

「確かに我が国はサブラニエの猛攻を防ぎました。しかし最もエーテル・ボンバの破壊を受けたのは我が国。我が同胞です」

 

放たれたエーテル・ボンバは約30%がパシリコ共和国に落着し、その他は北側諸国・中立国に向けてミサイルを(一応サブラニエも北側連合の国々に対し放った記録がある)放っていた。

 

「我々は数多の罪なき市民の多くを失い、それでも企業の侵攻を防いだ。当然、()()は我が国が最も多く貰い受けるべきなのです」

 

この戦争で誰が最も血を流したのか、それは紛れもなくパリシコ共和国だ。

世界の敵に最も近い位置に属し、企業の魔の手から世界を守る防壁の音頭を取ったのは誰なのか。

しかし戦争が軍警察の登場によって覆られてしまうのなら、

 

 

ーーそれは軍警察の勝利であって、我々の勝利ではない。

 

 

「故に積極的攻勢に打ち出る必要があります」

 

我々パリシコ共和国が戦争を終結に近づけたのだと言う証拠が。

 

「国防大臣、検討している反攻作戦はどうかね?」

「準備はこちらに。大統領閣下」

 

国防大臣はそこで全ての統帥権を有する大統領に作戦改革を上進していた。

 

 

 

 

 

事態が動いたのはここから約一三時間後。

再び召集された閣僚会議においてモハメドは言う。

 

「まさかここまで派手に仕掛けてくるとは…」

「現在、首都と副都にいましたハトからの通信も途絶しています」

「なんと…」

 

世界中にパリシコが派遣していた諜報員であるハト。その人員にも被害が出るほどの威力と奇襲。

軍警察は遥か高みの宇宙から攻撃をしてきた事実に彼等は驚愕した。

 

「軍警察の宇宙艦隊は壊滅したのではないのか?」

「はっ…事前の報告ではその様でしたが、どうやら『始まりの火』の混乱に乗じて予め宇宙に上がっていた艦隊達も戦没したことにされていたようです」

 

少ししおらしくなって情報大臣が報告をする。

作戦名はプルート、冥府を司る神の名を冠したその作戦は宇宙空間から通常弾頭のミサイルをサブラニエの首都と副都に投下する大胆な作戦。

文字通り国の(政府)心臓(中央証券取引市場)を破壊した戦略攻撃であった。

 

「なるほど…」

「軍警はその時から反攻作戦を立てていたと言うのか…」

「今回投下された兵器は開戦後一年で準備が完了していたとの話です」

「ならなぜ二年も待ったのだ?」

 

後年、時間経過ととともに公表された情報において、軍警察が二年間戦争に不介入だったのは『残ったエーテル・ボンバの所在が不明である』から。

 

開戦直前、軍警察はエーテル・ボンバの開発者とその研究所を抑えていた。そこで得た聴取により、何発のエーテル・ボンバが製造されたのかを把握していた。

そして放たれたエーテル・ボンバの数を計測し、すぐさままだサブラニエはエーテル・ボンバを保有していると分かった。

 

そこで二年間、残されたエーテル・ボンバの所在を捜索していたが、ついにこの日まで見つかることはなく、軍警察上層部はこれ以上不干渉による捜索は不可能と判断して開戦を決断していた。

そして本来はエーテル・ボンバ貯蔵施設破壊用に準備をしていた惑星間弾道ミサイルを首都と副都に落とした。

 

この様な事情があるとは知らず、パシリコ共和国は軍警察がサブラニエ政府に通告した例の文書を思い出す。

 

「首を刈った後に無条件降伏を突きつけるとは…」

「我々にも提案がありました。無条件降伏が受諾された場合の共同対応についての…」

 

その時、モハメドは叫んだ。

 

「それはならん!」

 

机を拳で叩き、その音に一瞬閣僚達は驚愕した。

 

「我々の戦線は押されているのだぞ!?この状況で講和条約に臨むだと!?」

「…大統領閣下。既に市井にも軍警察の無条件降伏の文書は流されております。これ以上の継戦は…それに、」

 

財務大臣がそこで軍警察から提示された文書を前に渋い顔を浮かべつつも、悪くないものだと思っていた。

 

「この文書には、我々が定めた国境線までの領土が提示されております。一考の余地があるものかと…」

 

しかしが財務大臣の意見にもモハメドは耳を貸さなかった。

 

「ハトを使え。なんとしても戦争を継続させるのだ」

「閣下、それは…」

 

モハメドの意向に閣僚達は驚愕する。

 

「我々は歴史に名を残さねばならないのだ。それくらいの事はせねばならぬ」

「左様です大統領閣下」

「ポーレ君は分かってくれて何よりだ…」

 

モハメドはそこで情報大臣に言う。

 

「アイール君。至急その方向で調整を頼むよ」

「はっ!」

「イーゴフ君、君は至急攻勢計画を実行に移してくれ。情報大臣とともにタイミングを合わせてサブラニエに攻勢をかけるのだ」

「了解しました」

 

このパシリコ側での動きを前に閣僚達は行動を始める中、

 

「ワグナレフ君」

「はっ…!!」

 

外務大臣はモハメドに話しかけかれ、顔を土気色にしながら答える。

 

「君の言わんとする事は分かっている。だがな、我々にも面子というものがあるのだよ」

「…」

「君はとても優秀だ。私も前と違って、この政権では比較的平穏に行政権を行使したいのだよ…。分かってくれるかね?」

 

そこで彼は軽く肩を二度叩くと会議室を後にする。

残された財務大臣は床にストンと膝を落として今までで一番の冷や汗を吹き出していた。




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