TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#209

軍警察の宣戦布告により前線部隊にも多少の動揺があったが、それはすぐに沈静化された。

 

 

ーーこの隙にパシリコは攻めてくるに違いない。

 

 

この時、まだ政府首脳が全滅したという話を聞かされていなかった前線司令官達はそう思っていた。

 

「各員警戒を怠るな!」

「各砲台の残弾は?」

「現状の戦線の再編成の必要は?」

 

最前線では各軍団ごとに最近は攻勢に出ていないパシリコ共和国軍と前線の諜報を確認した上で部隊の再確認を行なっていた。

 

無論、既に仮想敵であり、いつ攻めてくるかもわからぬ軍警察の侵攻にも備えていた。

だが、

 

「軍警察はエーテル・ボンバの位置が分かるまでおそらく攻勢に出ない」

 

サブラニエ地上軍上層部はそのように考えていた。

北側諸国を狙って放たれた(公式見解ではそうなっており、発射記録もそう残されている)エーテル・ボンバは都市を消滅させられる破壊力を有しており、その破壊力は宇宙艦隊や陸上艦隊などを破壊していた。

 

「軍警はどう出てくると思うか?」

 

サブラニエ地上軍第二軍第三軍団軍団長、ウィリアム・アスコットは副官に問う。

 

「それは公式見解でしょうか?」

「貴様、分かってて聞くな?」

 

そんな軽口が言い合えるほどの仲、副官の島内アーレイは少し考える仕草を取ってから言う。

 

「おそらく大規模に戦略的な攻撃をしてくるでしょう」

「ほう…何故だね?」

 

アスコットの疑問に島内は言う。

 

『あまりにも我々はやりすぎたからでしょうな』

「…ほぉ』

『開戦直後、我々が放った弾道ミサイルは本来予定されていない地点まで命中しました』

 

そこで彼はエーテル・ボンバが命中し、パシリコとの戦争が終わると豪語していた当時の政府上層部を思い出す。

 

『被災した都市には軍警察直轄都市も含まれている。…宇宙艦隊や陸上艦、中立都市に駐留していた守備隊にも被害が出ている以上、彼等と対立せねばならないのは確実でしょう』

『…上層部が狙った可能性は?』

『さぁ?これ以上は政治将校の耳に入れたくありませんな』

『ふんっ、初めから個人通信に変換した時点で何を言うのやら…』

 

彼とはサイボーグ同士の通信で、傍聴対策も取られた暗号通信で話していた。だがそれを持ってしても政治将校には警戒せざるを得ない。

政治将校は文字通り政府から派遣された将校のことであり、政府中央委員会から派遣される、いわゆる督戦隊である。

 

彼らは政府中央委員会からの命令を忠実にこなそうと背中から銃を突きつける忠犬であり、文字通り政府の犬である。

 

企業連合と言う利益のみを追求する組織だった我が国の前身は、都市間連合が国家に変貌するにあたり各都市から抽出される地上軍部隊に対し、中央政府へと監督される立場であることを理解させる為に軍団司令部へと送られていた。

主な仕事は中央委員会からの命令を忠実に前線部隊がこなせる様に司令官や前線将兵を見張ること。

 

 

ーーパシリコのカルトに故郷を支配されるくらいなら、背中から政治将校に撃たれる方がマシだ。

 

 

後年、そう語るアスコット中将は反緑化連合の人間であった。

確かにこの星に緑を再創させることは一考する余地があるが、緑化連合のやり方は昔の霊感商法で悪徳するカルト集団を彷彿とさせており、かつてカルト宗教にハマって離婚するまでとなった前妻を思い出す事が理由だった。

陸軍大学の成績もまぁまぁであったので、中央委員会からも一目を置かれて今の立場にいた。

 

副官の島内も似た様な考えであり、彼の場合は緑化連合の『サイボーグ管理法』により、サイボーグ化手術が出来なかったことで二人目の子の出産後に彼の妻が死去したことから、強い反緑化連合主義者であった。

 

「しかし、私としてはこのまま戦争が終わってくれることを願うよ」

「ほぅ、貴方からその様な言葉が出るとは予想外です」

「阿呆、平和は何にも勝る生活だ。考えてもみろ、息子と毎日過ごせるのだぞ?」

「それは幸せですな…それなら、私も賛同いたします」

 

第三軍団の担当はパシリコ共和国戦線の西部方面。

この地域は比較的高地が多く、大規模部隊が通過するのには苦労する様な地形ばかりである。故に防衛も比較的容易であると思われている場所である。

 

「新型も設置が完了しました」

「あぁ、カルト共にあそこを通らせるつもりはさらさらないさ」

 

なので第二軍団はこの地に数多の兵器を隠匿、半地下化させた要塞をこの地に建築していた。

周りを分厚い鉄筋コンクリートで固め、敢えて旧国境線に沿うように設置していた。

 

「対人・対戦車地雷。各機関銃座の設置も完了しました」

「うむ。引き続き、最前線からの攻勢に備えて警戒。攻勢時はすぐさま退却を行なって同地に引き摺り込んで叩き潰すぞ」

「はっ!」

 

パシリコ共和国とサブラニエ人民共和国連邦の国力の差は二.五:一。あれほどの奇襲を行っておきながらこの差を残す現状にはもはや苦笑するしかない。

故に長年の仮想敵であった緑化連合に対し、企業連合側が取った戦略は内地戦略。

ある程度敵を引きつけ、戦力が集結次第、反転攻勢して叩く。

その際、侵攻部隊後方から侵入し、分断の後殲滅する。

 

『後退。集結。分断の後、攻勢』

 

これが今の所の我が軍の防衛方針である。

国力の差をどうしても埋められなかった企業連合は防衛戦に回ることで都市間連合の防衛を行っていた。

そして第三軍団はこの中では攻勢の任を受ける部隊となっていた。

 

「閣下!」

 

すると要塞地下の司令部に一人の伝令兵がやって来る。

ここは通信保護と司令部露見防止を目的に、外部からの通信はできないよう設計されていた。そのため古臭い伝令兵がこの場所にはいた。

 

「マクシヴェが…!!」

「…何があった?」

 

その尋常ならざる顔を前にアスコット達は顔を少し険しくさせると、その報告を聞いた。

 

「何だと…!?」

「まさか、そんな事が…?」

 

そこで彼等が聞いたのは、

 

『首都、並びに副都に軍警察の攻撃あり』

 

自分たちの想像を超える攻撃であった。

 

「はっ…?」

「首都と副都に攻撃…?!」

 

軍警察が出て来ることは予想していたが、まさか宣戦布告直後に国の中枢を攻撃すると言うのは予想外だった。

 

「首都攻撃か…」

「しかしこれは少し…予想外すぎるぞ」

「あぁ、全くだ」

 

報告を聞いて二人は少し考える。

首都と副都に奇襲攻撃を受け、政府閣僚との通信途絶。副都も中央証券取引市場が吹き飛んだと言う守備隊の報告が入ってきた。

 

「どう言うことだ!?」

 

すると司令部に驚愕の声で突撃してきた人物が一人。彼はバスコダ・ハワード大尉、猫科の獣人。

 

「中将、どう言うことだ?」

 

慌てた様子でアスコットに聞く彼に、二人は軽く宥めながら答える。

 

「我々もいまその報を受けたばかりです」

「なぜ、首都が攻撃されたのだ?!」

「軍警察が動いたと言うのがその答えでしょう」

「っ…!!」

 

一時間前に彼等が聞いたその報告に、それを知らなかった政治将校殿は驚愕していた。

 

「軍警が…」

「ハワード大尉、至急司令部会議を行います。ご同行を」

「あっ、あぁ…」

 

まだ話の分かる政治将校は震えながら頷くと彼等の後を追って会議室に向かった。

 

 

 

 

 

「まさか軍警がここまで行うとは…」

 

第三軍団司令部、その会議室で将校たちが集っていた。

 

「第四軍団に連絡は?」

「はっ!今少しお待ちを…」

 

第三軍団司令部は混乱していたが、他軍団司令部よりは平穏が場を支配していた。

 

「鎮まれ!!」

 

初めこそ他軍団と同様、将官たちは混乱の兆しを見せていたが、軍団長の叩き上げの一喝は彼らの注意を引かせることに十分であった。

 

「他軍団の通信は?」

「はっ!現在、第四軍団。並びに第二軍司令部に通信が繋がっています」

「そうか…至急、第四軍団の司令官を出してくれ」

「はっ」

 

そこで会議室のホログラムに一人の男が現れる。

 

『何事か!こんな時に!!』

 

接続早々に怒鳴ったのは第四軍団軍団長カール・ハーバー中将。アスコットと同じ階級のサブラニエ地上軍の一将校であり、東隣の戦域を担当する第二軍隷下の組織である。

 

「悪い、私が呼んだ」

『ん?おぉ、アスコット中将か』

 

すると彼は会議室に呼ばれたことを把握すると、そこですぐにアスコットはハーバーに聞いた。

 

「ハーバー中将、現在のそちらの状況はどうなっています?」

『あ、あぁ…現在第四軍団の戦域において、パシリコ軍の動きは確認されていない。ただ、首都と副都の守備隊が悲鳴交じりの救難信号を入れてきて大騒ぎだ』

「それは我々も同じだな…」

『ただ第一親衛隊、第十五騎兵師団が救援を求めてきている』

「わかりました」

 

報告を聞き、アスコットは双方ともに首都・副都の警備部隊であることを直ぐに把握する。

 

「政府閣僚と連絡がつかない今、存命中の政府官僚の捜索。並びに、臨時政府の創設に動く必要がありそうですな」

『あぁ、だが首都も副都もやられた。畜生、軍警め…』

 

一時間前に軍警察より宣戦布告があり、サブラニエ地上軍が一瞬の驚愕を行い、戦力の再編を行なっている最中での攻撃。

確かに国際慣習法に基づいていれば、この攻撃は正当性がある。しかし…

 

「(政府と市場を纏めて潰したのはやりすぎだ!!)」

 

なりふり構ってられないのかもしれなかったが、それでも一言文句を言わざるを得ない。

 

「臨時政府創設には、誰が指揮を?」

『あぁ…一応、私の方からも軍司令に問い合わせを行なってみる。…最悪、俺たちでなんとかせねばならんかもしれんな』

「最前線のパシリコ軍の動向には、我々も目を光らせておきましょう」

『我々第四軍団も戦力の再編と、前線の動向には注意する』

「他の部隊にも、第一軍司令部と連絡を取り、前線維持に務めるように上進しておきます」

 

最低限の方針を決め、彼は直ぐに軍事行動を起こした。

 

実際、この後二日後にパシリコ軍の小規模攻勢の『バズーカ作戦』において第四軍団はその攻勢を見事に防ぎ切っていた。

 

 

 

 

 

しかし、

 

「何だと?!」

 

政府を攻撃されて行政機能を失い、中央証券取引市場を破壊されて経済機能を失い、軍警察から和平案を持ち出されたサブラニエ臨時政府は以下の文書を発表した。

 

『サブラニエ政府は軍警察より通達された文書に対し、回答する必要は無い』

 

軍主導でまとめ上げられた臨時政府は何故か戦争継続を訴えていた。




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