TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#21

永遠の荒野とエーテルが生むオーロラの空が広がる世界、トラオム。

 

この大地の呼び名はトラオムだったり、トラォムだったり色々とあるのだが。大半はトラオムと呼んでいる。

 

そんな大地には当然の如く人が居て、それぞれの営みがある。

 

 

 

 

 

さてここで諸君に聞こう。

 

目の前に大量の金の入った凍結口座が残っている。

 

名義人は生死不明のまま一年近く取りに来ない。

 

その名義人はとある界隈では神の如く崇められていた人物の口座。

 

そしてあなたは銀行のそこそこ偉い地位にいて、これからの出世の為にこの口座の管理を行なっている人です。そしてその気になれば凍結口座を本人の同意無く簡単に開けることが可能です。

 

しかし、凍結口座に手を出すことは会社の信用低下につながり。バレた瞬間速攻で首を切られます。

 

そしてちょくちょくその口座の解除を確認してくる人間がいます。

 

これに一々対応しろと言われたらどう思いますか?

 

「もう勘弁してくれ……」

 

欲望と仕事の狭間に挟まれてすでに大きく溜息を吐くその銀行員は電話を切って疲れていた。

何せ週に最低一度は銀行に彼の口座の出し入れの確認のための電話を聞かれ、こちらから取引があったら連絡すると言っているにも関わらず聞いてくるので面倒この上なかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「あっ」

 

スフェーンはその時、思い出す。

 

「なぁ、凍結口座って解除できるのか?」

『唐突にどうしましたか?』

 

ウリヤナバートルのバーガーチェーン店でチーズバーガーを食べながらコーラを飲んでいたスフェーンの呟きにルシエルは首を傾げた。

 

「いやぁ、自分の凍った口座って。しばらく経つと銀行の物になるんだろう?」

『ええ、規則でそうなっていますが……まさかスフェーン?』

 

そこでルシエルはスフェーンの考えている事を察した。

 

「いやぁ、こうなったとは言え俺の金だろ?」

『引き出すつもりですか?だとすれば大変危険と判断します』

 

釘を刺すようにルシエルはスフェーンに言うと、彼女はそれでも粘った。

 

「だからって、せっかく稼いだ金が企業に吸われるのは看過できねぇよ」

『何のために貴方は運輸ギルドの証明書を取ったかお忘れですか?一応貴方は追われる身なのですよ?』

 

そう、自分はアイリーン社やかつての仲間から追われている身なのだ。もし正体が割れたら再び命が狙われる……

 

「ーーって、どっかの漫画で似たようなの読んだ事あるぞこのフレーズ」

『ええ、薬で小さくなってはいませんが。状況としてはそっくりです』

「私あそこまで頭回らないんだが……第一、高校生じゃないし」

 

なんて逸れた話をするが、実際問題自分の金が企業に持っていかれるのは気に食わない。

 

「どうにかして回収したんだけどなぁ……」

『取引状況は監視されていると思われます。レッドサンの凍結口座内の預金は大規模ですので、引き出しを行った暁には確実に追跡されるでしょう』

「アイリーン関係の銀行に入れてないんだけどなぁ……」

 

そこで培養肉のパテと合成チーズを挟んだ安いバーガーの味をコーラで消しながら飲み込む。

 

『また、小規模で数回の取引を行うとそれだけ居場所の特定が行われる確率が高まります。

スフェーン。狙っているのはアイリーン社のみならず、赤砂傭兵団も含まれているのもお忘れなく』

「どっちかって言うと、アイリーンよりそっちの方が怖ぇんだよな」

 

元々、傭兵の集まりで。一部から傭兵ギルドを作らないかと言う提案もあったほどの嘗ての居場所。

その実態は自分の名声に釣られたり、ブルーナイトの拾ってきた子供達の集いだ。まともな奴が居やしなかった。

 

「あいつらガチ勢も混ざっているから面倒なんだよなぁ」

 

自分が行方不明という扱いになってから色々と荒れているだろうと予想しながら最後の一口を口に入れて軽く噛むと、コーラをストローで吸ってズゾゾゾゾと空気を掻き入れる音が聞こえ。中身が空になっているのを確認してゴミ箱にバーガーを挟んだ紙と氷と別にしたコップを放り込む。

 

『監視体制も恐らくは厳重でしょう』

「どこまでグルだったのかも気になる話だがな……」

『少なくともブルーナイトとアイリーン社以外にも、彼によって引き取られた傭兵も対象に入れて構わないでしょう』

 

店を出ながら二人はそんな事を話す。スフェーンとしては預けた預金を一度に全て回収しておきたく、ルシエルとしては預金の事は今後の安全の為にも忘れて欲しいというのが本音だ。

 

「うーん、勿体無いんだよなぁ」

『どちらかと言うと回収した預金をそのまま列車の改造に使いたいのでは?』

「あら、バレたか」

『スフェーンの考えている事は手に取るように分かります』

 

自信気に語るルシエルに思考読んでるんだから当たり前だろとツッコミを入れると、スフェーンは街を歩いてあの車両基地まで行くバスを待つ。

明日には列車の全般検査が終わると言う事で、スフェーンは言われていたオマケの話も真面目に吟味していた。

 

「どうしたものかね……」

『貨車は増結しても構わないかと』

「そうだなぁ……」

 

今の資金を鑑みて、キッチンとベットの付くコンテナを想像しながらスフェーンは序でに貨車の増結を考えながら、同時に列車の武装に関して考える。

 

「武装強化はまた見送りかなぁ……」

『今の支出歳入を考えると、それが妥当かと思われます』

「あぁ〜、どっかから金が降って来ねぇかなぁ」

 

そんな妄想を働かせていると、目の前にいつも見てきたバルーンが到着する。もう慣れたもので、目の前の観音開きの扉が開くと発車までスフェーンは車内で過ごす。そして窓枠に腕を置いて顎を手で支えながら外の景色を見る。

 

「……」

 

時折風が吹いて砂が巻き上がる様を見て物思いに耽る。

 

嘗て、自分が居た場所は。今や企業と業務提携という形を取って体裁を保っている。恐らく、これからゆっくり企業に組み込まれていくのだろう。

しかしそんな状況を他の企業が見逃すはずがない。元々、赤砂傭兵団と言うのはどこの企業にも属さない傭兵の集まりであってそこが最大の売りだった。

 

何度も企業から運輸ギルドのような組織を作らないかと言われたが、自費でやれと言われたので丁重にお断りさせてもらっていた。相変わらず企業というのはケチだよ、本当に。

 

加えて赤砂傭兵団にはオートマトンの傭兵ばかりだった事も問題だった。何せ自分がオートマトンで名を馳せた男故に、集まってくる者共もオートマトン使いが多かったのだ。サイボーグから転向してきた奴もいた位だ。

 

「これからどうする気なんだろうな」

 

念願の赤砂傭兵団のトップになったブルーナイトに少し疑問を持ちながら、スフェーンはバルーンが動き出したのを感じながら街の外の景色を眺めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「っ……」

 

目が覚める。

 

「……」

 

シーツや体が汗まみれでしっとりとしており、最近では当たり前となった気味の悪い目覚めだ。

 

「はぁ…はぁ……」

 

そこで息を少し整えると、部屋を見回す。そして誰も居ない事に安堵の息を漏らした。

 

「……ふぅ…」

 

そしてそのままシャワーを浴びにベッドから降りる。

 

「……」

 

天井から降り注ぐ湯を被りながら、世間ではブルーナイトと呼ばれる男は寝汗で汚れた体を整える。

 

そしてそのまま鏡に手を当てて自分の顔を見ると、その表情はとても悪かった。

 

理由は明白だった。

 

「また出てきたか……」

 

夢で、レッドサンが自分を見ている夢だった。ただ、静かに自分を見ているレッドサンは何も語る事なく。ただ座り込んで自分を見ていた。

しかと自分を見つめるその目は憐んでいたようにも、温かいようにも見えた。

 

そして何か事が起こるわけでもなく、時間だけが過ぎていた。

 

「……」

 

そして一通り汗を洗い流してシャワー室を出ると、そこでは一人のサイボーグの腕を持つ女が顔色の悪いブルーナイトを見て一言。

 

「酷い顔色ね」

「…アンジョラか……」

 

ブルーナイトは下着一枚姿でそのまま気にする事なくベッドに座り込むと、アンジョラは彼の横に座って問いかける。

 

「疲れているのね。何かあったの?」

「…君には関係のない話だ」

「そう……」

 

アンジョラはその答えを聞き、軽く溜め息も交えながら部屋に置かれた錠剤を見る。

 

「これ以上の睡眠剤の摂取は身体に支障をきたすわよ」

 

彼女は医者だった。

かつて、彼女はPMCの医療兵だったが。所属していた会社が倒産し、路頭に迷っていたところを赤砂傭兵団の勧誘を受けて闇医者になったのだ。そして、彼女はブルーナイト達が拾ってきた子を預かる役割もしていた。

今では数多くの傭兵を診察してきたベテランの医者だった。

 

「ああ、分かっている」

 

ベットに置かれた薬瓶を見ているアンジョラはそこで聞く。

 

「ねぇ、ブルー……レッドが居なくなってから、色々とどうしたの?」

 

確かに動揺する気持ちもわかるけど、と言い明らかに憔悴しているブルーナイトを見ていた。

 

 

 

ここまで来ればわかるが、彼女はあの事件の詳細を知らない。

 

タルタロス鉱山での()()()()はレッドサンが活性化エーテルの崩落に巻き込まれて生死不明と言う状態だった。

直前まで共に行動していたブルーナイトは逃げるのに精一杯で彼のその後の動向を知らなかった。あの時見ていた生き残りもおらず、詳細を知っているのはブルーナイトだけだった。

 

当然、他の傭兵達からレッドサンに関する事は問い詰められた。

元々、レッドサンの名声に寄って出来た集団だ。そんな彼の行方がわからないとなれば動揺するのは自明の理だ。

 

「無理は禁物よ?あなた達傭兵はいつも無茶ばかりするんだから……」

「ああ、分かっている」

 

ブルーナイトはそう答えると、アンジョラは部屋を後にしていた。

残ったブルーナイトは部屋の窓を覗くと、そこには眩い都市の姿があった。

その光景が、ブルーナイトには忌々しくて仕方が無かった。

 

 

 

赤砂傭兵団の代理トップとして仕事をしているからこそ改めて知ったレッドサンと言う名前の大きさ。

彼が悩んでいた苦労を見ていたからこそわかると思っていたが、それ以上だった。

 

「レッド……」

 

そして彼を最も衰弱させている要因。それは、

 

「俺は…お前が生きていると思えてならない……」

 

レッドサンの遺体を直接見れていない事だった。




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