TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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軍警察の本格介入により、パシリコ共和国とサブラニエ人民共和国連邦の戦争は戦局が大きく動く事となった。

軍警察の介入により、戦争の勝利を確信したパシリコ共和国は戦後処理においてサブラニエ全土の()()を模索しており、そのままの決定的勝利のために大攻勢を行うことを閣議決定する。

 

『ステンバルクの戦い』

 

のちにそう呼ばれる事となる戦いは白魚上陸作戦の三ヶ月前に行われる事となった。

当時、軍警察による和平交渉は臨時政府の一蹴(パシリコの裏工作)によって継戦する事となり、この予想外の事態に軍警察も予め整えていた部隊を戦地に送るための準備に追われ、満足な戦闘行動ができずにいた。

 

一応、国境を接したアリアドール合州国からミサイルによる攻撃は随時行われており、一部は前線に爆撃を行っていた。

ただこの間、戦況は完全に膠着状態におり、軍警察もサブラニエも攻勢に乗り出す事はなかった。

 

 

 

「…」

 

第三軍団軍団長アスコットは3Dホログラムにリアルタイムで映し出される、赤いマーキングの施されたある部隊を見つめる。

 

「敵部隊、Aポイントを通過」

「敵陸上戦艦も視認」

「ふんっ、陸上戦艦まで持ち出してきたか…」

 

概ね、ここに要塞がある事は知っていたのだろう。故に大火力を持って要塞を丸ごと叩き潰す算段に違いない。

 

「軍警も、奴らと肩を並べるのは勘弁被るらしい」

「でしょうな。見上げた孤立主義です。寧ろ清々しい」

「あぁ、どれだけ内部に異物を入れたくないのだろうな」

 

そう言う彼等の顔は安堵混じりの笑みを浮かべていた。

 

軍警察は政教分離を基本に考える武装組織。

政教一致を掲げるパシリコ共和国とは思想の時点で相容れない存在なのだ。彼等にとって『敵の敵は所詮敵』なのだ。

 

「今も軍警察は彼等と共同で作戦にあたる様子は確認されていない」

「だろうな」

 

事の発端は五日ほど前、前線の守備隊より『敵部隊に攻勢発起の動きあり』と言う一報を受け、すぐさま前線から予備戦線に後退を開始していた。

 

戦前は偉大なる初代グリーンボウル市長の教えとやらを尊重し、戦争を忌避する事を生まれた頃から叩き込まれる。そして軍警察の庇護に擦り寄って街を守ってもらっていた。

そして戦争を忌避すると言う事は、軍隊に対しても冷ややかな目を向ける事にもつながった。事実、我々の『始まりの火』が無ければ彼等は戦争をする事すら拒んだだろうと言われていた。だが完全に軍警察に頼り切るのは危険という事で、都市守備隊という形で今の国軍の前身組織は組織されていた。

 

「しかし陸上戦艦か…」

 

彼等は仮称一等陸上戦艦、パシリコ側ではマスカット級陸上戦艦と名付けられた陸上艦は巨大な四本の履帯を回転させながら二基の主砲を備えていた。

 

「耐えれると思うか?」

「なんだ、今更になって怖気付いたか?」

 

アスコットの問いかけに島内が彼を見ると、

 

「いや?」

 

彼は嘲笑しながら敵部隊を見ていた。

その顔を前に、島内はそれがどういう意味なのかを察した。

 

 

 

『撃ち方始め!』

 

その頃、ステンバルク渓谷において最初に火蓋を切ったのはパシリコ軍第一軍団であった。

超強力なジャマーを展開し、敵味方双方で巡航ミサイルなどの長距離誘導兵器の攻撃ができないように戦場を作り替えた後、移動式司令部としての役割を持つ陸上戦艦。その主砲の914mm迫撃砲が砲撃を開始する。

前後三門、計六門の巨大迫撃砲は事前の諜報で手に入れていたステンバルク渓谷に容赦なく降り注ぐ。

 

山肌に巨大な土煙が上がり、土や木が舞い上がる。

戦前は植林されていた山々に攻撃が降り注ぐとあっという間に山は土色に染まり始める。

 

元々軍警察よりも数の多い兵士を持たない各国国軍は、ある程度質で補うために陸上戦艦などの武装が豪華になる傾向にあり、この陸上戦艦(マスカット級)も主砲に強力な迫撃砲を搭載していた。

 

ッーーー!!ッーーー!!ッーーー!!

 

軍警察の高高度核爆発は今も継続して行われており、その影響でパシリコ軍も長距離兵器は使えなくなっていた。故に本来は後方で指揮を取るはずの陸上戦艦が前線まで出る羽目になっているのだが…。

 

「「「「「っーーーー!!」」」」」

 

その砲撃支援を受けながら渓谷を機械化師団が前進する。パシリコ軍の青灰色系の迷彩服。車両も迷彩を施された大部隊である。

 

 

 

『連中は腐った納屋だ!蹴り壊せ!』

 

 

 

侵攻を始めたパシリコ第一軍団司令官が「マスカット」のCICでそう叫んだと言われている。

 

パシリコ共和国軍第一軍団・第二軍団、総兵力四二万の大軍は八月十七日の攻勢発起より押されていた最前線を突破し、次々と都市を制圧していく。

一度戦線を突破され、予備戦線も陸上戦艦とミサイルによる飽和攻撃を受け壊滅。ステンバルク渓谷に進撃を行う。

 

ここは一〇〇メートル級の丘陵地帯が広がっており、微妙に陸上戦艦の艦橋では全景を収めにくい場所であった。しかしこの渓谷はパシリコとサブラニエの間で陸上戦艦が通行可能な数少ない要所である。

 

快進撃を続けるパシリコ共和国軍は圧倒的物量でサブラニエ軍の全戦を突破し、二〇日にはパシリコ共和国が定めた旧国境線まで都市を奪還しており、軍団内部には余裕と興奮があった。

 

元々この攻勢は、軍警察の参戦により戦争に勝利することを確信したパシリコ共和国政府が戦後調停で有利に、あわよくばサブラニエ全土の併合を行うために始めた大攻勢であった。

 

「各戦域において我々は順調に進撃を開始しております!」

 

「マスカット」CICで上機嫌に作戦参謀の一人が言う。

彼等は連日の戦勝を前に興奮していた。戦線を陸上戦艦で強引に突破し、後方に回り込む。前線を挟撃した後、軍警が参加する前に臨時首都となった十慶に傾れ込む。

元々押され気味であり、厭戦気分のあった国内世論を払拭せしめるこの戦果に誰もが浮かれていた。

 

実に簡単な作戦であったが、効果は抜群であった。

しかし彼等はまだ建国されたばかりの国家。サブラニエの防衛戦略の研究が完了する前に開戦してしまっており、十分なサブラニエ軍の行動に目がいっていなかった。

 

「よし。このまま前進をして敵後方から戦線を脅かすぞ」

「はっ!」

 

そして彼等の最大の誤算は、

 

「っ!?熱源探知!狙いはーーー」

 

 

ここにはエーテル・カノンが配備されていた事だろう。

 

 

「発射!」

「撃ぇっ!!」

 

その数は一二門。

三ヶ月後に行われた白魚上陸作戦で強襲揚陸艦と航空団を蒸発させ、たった八門であの鉄の津波を一時的に食い止めた悪魔のような兵器が、それ以上の数で渓谷を進んでいたパシリコ軍に襲いかかった。

 

しかも運が悪い事に、陸上戦艦はステンバルク渓谷ではどうしても行動が制限され、最初の砲撃で「マスカット」の艦橋とCICにエーテル・カノンの攻撃が通った事で作戦指揮を行う指揮官がごっそり消えてしまった。

 

「襲撃だ!」

「隠れろ!」

 

攻撃を確認したパシリコ軍はその直後に渓谷に隠匿されていたサブラニエ軍の砲撃に晒される。

たとえ砲撃に晒されようと、分厚い鉄筋コンクリートと地形を生かして徹底的に隠匿された砲台の中で必死にやり過ごしていたサブラニエ兵は、今までの借りを返す勢いでパシリコ軍第一軍団に襲いかかる。

 

「撃て撃て!」

「奴らを轢き潰せ!!」

 

機関銃、榴弾砲、迫撃砲、ロケット弾。

ありとあらゆる武装が隠匿されていた渓谷の地下要塞から飛び出すと、攻撃を行う。

 

ッーーー!!

 

中でもエーテル・カノンの砲撃は常軌を逸しており、第一射で「マスカット」を穴だらけにして沈黙させた。

流石の陸上戦艦と言えど、八箇所にエーテル・カノンが命中すればひとたまりもなかった。

 

ましてや渓谷全体を地下要塞化させたステンバルク渓谷は、文字通りここまで侵攻してきた敵を一掃できる為に作られており、そのあまりにも分厚すぎる鉄筋コンクリート製のトーチカは航空爆弾が弾き返されるほど頑丈に仕上がっており。戦後、爆破で解体できなかったことからそのまま放置される事態になるほどであった。

 

「第四射、照準良し!」

「加圧エーテル装填完了!」

「発射!!」

 

ッーーー!!

 

渓谷をくり抜いて作られた砲台から発射されるエーテル・カノンの光線。

ここにあるエーテル・カノンは全て戦前に残されていた大災害以前に作られた遺物である。

長年騙し騙し使われてきたそれらをサブラニエはこのステンバルク渓谷に集約していた。

 

この事は徹底的に隠匿され、ついにはパシリコでさえここの所在は掴めていなかった。

 

当時、世界一のエーテル精錬技術を有した彼等とて、大災害以前のエーテル・カノンの威力に届くエーテル・カノンを製造する事は叶わなかった。

 

しかし大災害以前に製造されたエーテル・カノンと対峙しなければならなくなったパシリコ共和国軍は自慢の陸上戦艦の破壊に加え、十字砲火で攻撃を受けた事。最初の攻撃で司令塔を失ったことなどが理由で文字通り『あり得ない』死傷者を出すこととなる。

 

「て、撤退だ!」

 

周りを砲撃やエーテル・カノンで猛攻に晒されたパシリコ軍は二日目に撤退を開始する。

 

「し、師団長!」

「何だ!?」

 

しかし撤退を開始するパシリコ軍であったが、そこで彼等は目を疑った。

 

「何故…サブラニエ軍が後ろにいる!?」

 

一度戦線を突破したパシリコ軍第一・第二軍団は快進撃を続けていたが、その進撃速度は戦線全体ではコブのように腫れ上がっていた。

そしてステンバルクの攻勢開始とともにコブの根本にサブラニエ軍が攻撃を開始、逆にサブラニエの陸上戦艦二台が戦線を突破すると囲んだ第一軍団を挟撃態勢に移っていた。

 

「そんな…」

 

前方をサブラニエの地下要塞に撃たれ、後方からは反転攻勢に出たサブラニエ軍の機甲師団の攻撃。

前後を挟み撃ちにあった彼等は絶望の顔を見せていた。

 

 

 

後に『ステンバルクの戦い』と呼ばれる、このパシリコ軍の歴史的大敗北はパシリコ軍第一軍団の壊滅という形で終結した。

この大敗北により、パシリコ共和国国内では厭戦気運が高まる事となり、またパシリコ軍も長期間に渡り作戦活動に影響する程の損害を出した。

 

モハメド政権は、この大敗北は政府が支持率獲得の為に行われた無益な戦闘であったと議会で糾弾され、支持率を大きく落とす事となった。

 

またこの損害により、パシリコ軍は終戦まで同じような大規模攻勢を行う事はなかった。




ちなみにステンバルクはドイツ語でタンネンベルクと呼ぶそうです。


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