世界の敵、サブラニエ。
それはこの南北戦争で散々喧伝されてきた言葉である。
世界中に放たれたエーテル・ボンバは多くの都市を破壊し、エーテル降雨と呼ばれる新たな災害を生み出していた。
このエーテル降雨は、空に上がったエーテルにエーテル・ボンバの爆発による衝撃波が波になって集約された事で発生したと言うのは、ネクィラム・ラボからの発表ですでに明らかになっている。
故に次第にエーテル降雨は治ると言うのが結論として出ていた。
軍警察の本格介入により、首都まで攻め込まれたサブラニエ。
途中、無防備都市宣言を行なって降伏を申し出た地域もあり、軍警察の占領地域は日に日に拡大するばかりであった。
『ステンバルクの戦い』で大敗北をしたパシリコ共和国は、以降大規模な戦闘を行うことはなく。バラバラとは言え、二正面作戦を取らざるを得ないサブラニエはジリジリと戦力を失っていた。
軍警察としても、すぐにでもこの戦争を終わらせたい。その為であればあらゆる方法を模索していた。
前線で捕え、生命維持装置が稼働していたことで利用して多数の将校から記憶情報を集め、捕虜からの尋問などでできる限り情報を収集。精査し、彼らはついにその日を迎えた。
八月五日
ブラックマン空軍基地
その基地の格納庫から七機の
漆黒の対レーダー塗装の施されたその機体は、牽引機が離脱し、そのまま誘導路に出る。
「管制塔、こちらピリオド1。滑走路02への誘導を求める」
『こちら管制塔。ピリオド1〜7、機首を北西方向に』
「了解」
七機の爆撃機は灯りを点灯して誘導路を移動すると、格納庫では先ほどまで整備していた整備兵達が一列に並んでいた。
『ピリオド1〜7。風向25、風速2ノット、滑走路02より離陸を許可する』
「滑走路02より離陸。了解」
角計器の確認を行い、機長は無線で答える。
そして滑走路に並んだ時、管制塔から続報が入る。
『管制塔よりピリオド全機』
「何か?」
『幸運を。我々も作戦成功を祈っている』
「あぁ」
数々の諜報活動、尋問による情報収集の結果で得たチャンス。
場所が場所なだけに、長距離誘導兵器が使えないという事で自分達は選ばれた。
「期待されていますね」
「あぁ、その分失敗は許されんというわけさ。さぁ、飛ぶぞ」
「了解」
そして確認を終えた機長は最後にスロットルを倒して、エーテル機関特有の虹色の光を微かに放ちながら滑走路で加速して離陸していく
その様子を静かに帽子を振って見送る兵士達。
これから起こる事態によっては、自分たちの運命も変わるこの作戦を前に、彼らは緊張した趣で離陸していった七機の
虹色のジェットエンジンの光が見えなくなるまで見送ると、次に着陸してきた
「いいか。この際再度作戦を確認する」
空に上がった後、機長はまだ味方の領空の間に乗組員達に言う。
「目標地点まで飛行した後、俺たちはまっすぐ大陸を横断する」
エーテル機関を搭載した本機は、その圧倒的な燃費の関係で燃料補給の問題を考える必要はない。
「目的地は大陸反対のパッシバル島。良いか、爆弾投下は一回だけだ。確実にそこで仕留めろ」
「了解です」
今回搭載した爆弾は、今回投下する場所にはうってつけの爆弾。
しかし時間と敵警戒網を考えると一回しか投下の機会はないと言うのが作戦司令部の出した結論だった。
また現在は高高度核爆発の影響で全体的に通信が不調であり、今回は機長・副機長の他爆撃手・航法士を載せていた。
航法士の仕事は天測を行い、座標を地図に記して計算機で現在地を示すこと。
通信が出来ず、こちらの居場所を知られる訳にはいかないが為にあえてはるか過去に使われなくなった方法で今回は飛行していた。
「航法士、進路間違えるなよ」
「任せてくださいって」
自信満々に彼は答えると、そこで爆撃手は自身の目を頼りに機体の天井の全天モニターを起動する。
「ヒュ〜、いい景色だぜ」
「あぁ…全くだ」
そこで見える満天の星空とオーロラ。その星の輝きは格別なものであった。
早速航法士は古い天測を行い、現在位置を割り出す。
この星には地軸の南北の延長線上にそれぞれ一等星が存在し、この星は南地軸星と名付けられていた。
「現在はーーー」
「了解した。旋回する」
現在位置を確認し、進路を変更する三機の編隊。
「ちゃんと着いてきているな?」
「はいっ!大丈夫です!」
そこで確認を終えると、そこで味方の防空網から抜けた事を確認する。
これはサブラニエにも、パシリコにも通報させない為に味方でも極一部しか知らない。そして欺瞞のために前線基地に配備されていた
「まさか、俺の代で戦争を経験するとはな」
「全くです」
そこでアンドロイドの機長は少し感慨深く操縦桿を握る。
彼は軍警が製造したアンドロイドであり、その一生を爆撃機を操縦する事で終えることを目的に作られた個体だった。
機密保持の関係でアンドロイドは機体から降りたとしても、一生軍警察の監視下で生きることになる。
「成功すればまたとない名誉だ」
「えぇ、勲章ものでしょうな」
そこで副機長の人が答える。彼は内心、子供の頃にハマってやりこんだゲームの事を思い出す。
あれも確かこれをモデルにした全翼機で、その爆弾は敵の核貯蔵施設を航空爆撃し、それがきっかけで戦争が終わると言うものだった。
あの時、自分はただ楽しんで爆弾を目標地点に投下していた。
自分が落とした爆弾で目標が派手に吹き飛び、チートモードを使ってあり得ないほどの量の爆弾を落として、それが一気に爆ぜるのを見て楽しんでいた。
しかし今は違う。自分の操縦している機体が積んでいるものはハードモードと同じ量であり、投下には細心の注意を払う必要がある。
おまけにゲームのようにあらかじめポイントがマーキングされている訳でもないし、なにより今の自分は爆弾投下のボタンを握っていなかった。
爆弾投下は、この時のために訓練を積んだ専門の爆撃手が担うことになっていた。
これで本当に戦争が終わるかもしれないのだ、この緊張はおそらく人生でそう感じれないであろう。
飛行時間は約十二時間、爆撃地点まで約八時間あった。
「副機長、仮眠とっとけよ」
「分かりました」
そこで副機長は命令に従ってシートベルトを外すと後部の仮眠室に移動した。
「お先に失礼するよ」
「えぇ、時間になったら俺が叩き起こしますよ」
「はっ、酷いもんだよ」
待機して計算中の爆撃手に軽く返してから彼は仮眠をとった。
そして飛行すること八時間、その間に二回交代を入れて仮眠をとり。元々睡眠を必要としないアンドロイドの機長以外は準備万端になった。
機長も離陸前に機体のオーバーホールを終えた事で気分爽快、問題なしだった。
途中で何回が機体をレーダーが撫でて行き、バレたかと冷や汗を流していたが、対空ミサイルが発射されたり迎撃される気配は無かった。
「うしっ、そろそろ爆撃予定地点だ」
「了解」
機長はそこで爆撃手に声をかける。
「今頃、戦域全体で味方が攻勢に出ている筈だ。外すなよ!」
「はいっ!」
時刻は日の出直前。時差の関係もあり、三機の爆撃隊は未だ暗闇の中を飛んでいる。
そこで機長は寸分の違いなく飛行ルートを飛んでいることに航法士を軽く賞賛し、遠くに見える夜明け前の小さな集落を見つける。
「あれは…間違いない」
「えぇ、目標近くの村です」
目標を確認し、機長は横に座る副機長に聞く。
「方位は?」
「120、完璧です」
「よしっ、ハッチ解放」
進入角度の最終確認を終え、そこで機長は爆弾倉のハッチを開ける。
もうここまで来れば作戦完遂まで一歩手前である。
「爆弾倉解放確認」
最終確認を終え、機長は叫ぶ。
「
「投下よーい!」
そこで爆撃手は訓練通りに目標の山岳地帯を視認する。
相変わらず一面土色の寂しい景色だが、彼はこれで戦争が終わるかもしれないと言う期待と興奮を抑え込みながら爆弾投下のボタンを押した。
「投下っ!」
ガシャン
直後、音を立てて二発の爆弾が投下され、直後にまた二本、二本と一機辺り十本。計三〇発の爆弾が投下される。
ゴォーーーー!!
そして投下され、地面と垂直になった爆弾は直後に後部のロケットエンジンに点火。加速を初め、重力に合わせてロケットの推進力が加わり、あっという間に音速の十数倍まで加速すると地面に突き刺さり、爆弾はそのまま地中奥深くのエーテル・ボンバ地下貯蔵施設に落ちて炸裂した。
次々と爆弾は貫通し、事前の情報通りに地下奥深くに彫られたエーテル・ボンバの貯蔵施設を破壊していく。
高空をエーテルの空で阻まれた事で、本来必要な大型地中貫通爆弾の投下高度まで行けないこの世界の爆撃機なので、ロケット推進で加速を補助する爆弾が一般的にこういった作戦では使われていた。
無論宇宙艦艇での攻撃も考えられたが、果たして荷電粒子砲が地中奥深くまで届くのかと言う疑問があり、おまけに下手に前に惑星間弾道ミサイルの攻撃でエーテルの空に負荷をかけたことがすでにエーテル研究所の報告で上がってきており。エーテル・ボンバの誘爆や二度目の大災害を考えると、エーテル・ボンバ所蔵施設への攻撃は空爆に限定するべきであると結論付けられた。
空中艦隊では足が遅いので誘爆に巻き込まれる危険性があり、かと言ってここはサブラニエの奥地も奥地であるため長距離誘導兵器のビーコン設置は時間がかかり過ぎ、おまけにそれで地下に掘られた貯蔵施設に届く可能性は低いという理由で却下。
その為、
「投下完了!」
「よしっ、引き上げるぞ」
投下を完了し、爆弾倉が空になった三機の爆撃機は離脱を開始する。と同時に日の出が訪れる。
ここからは最短距離でリーデンブロック海に進出し、洋上の総合基地のあるパッシバル島に着陸する予定であった。
全ての爆弾を投下し終え、三機の爆撃機は軽くなった機体で速度を上げる。
この時爆撃を受けたエーテル・ボンバは、後年になって一気に歴史から瞬時に消えていく事象が発生する。
ーーこの爆弾、突発的な衝撃にとても弱いのである。
加圧・圧縮し、精錬したエーテル・ボンバは突発的な衝撃において容易に誘爆し得るものであり、その危険を承知でサブラニエはこの事に留意するよう厳命していた。
それ故、これを積んだ弾道ミサイルの運行速度がわずか時速十キロという低速で運行していたのだから、振動にどれだけ注意していたのかが窺える。
簡単に製造可能で、威力も大きく、尚且つコストパフォーマンスも高い。
そんな外交手段としては強力な本兵器だが、この致命的欠陥が解決できないと言う理由でこれ以降使われることは無かった。
強力だが、あまりにも誘爆の危険性が高すぎたのだ。
維持費も核兵器に比べても圧倒的に低価格で行えるが、うっかり地面に落としただけで都市が吹き飛ぶ爆弾など、誰も怖くて保有できなかった。
そして今、そんな欠陥を抱えたE兵器に爆弾の衝撃波が加わった。地中貫通爆弾による突発的な衝撃波だ。
突発的で強烈な振動を受けたエーテル・ボンバはすぐに連鎖反応を起こし、あっという間に貯蔵されていた全ての爆弾に誘爆した。
ッーーーー!!
「うおっ!?」
その爆発の衝撃波は爆撃を敢行した三機にも到達し、機体全体が大きく揺れた。
その背後では虹色の光を伴った円形の爆発の後、巨大なキノコ雲が浮かぶ嘗ての貯蔵施設があった。
「今のは…」
「損傷報告!」
「大丈夫です!問題ありません!」
「よしっ!速度上げ!最大だ!」
「了解」
爆撃隊はステルス性を殺してでも音速域まで加速し、エーテルの空の限界まで上昇、離脱していく。
そしてそこからは爆発の混乱もあったのだろう、大した抵抗も無く彼らはサブラニエ領空を抜け、パッシバル島に着陸した瞬間、彼らは英雄として凱旋を受けた。
近くの村から爆撃機飛来の通報を受けて、慌てて逃げ出した貯蔵施設の管理をしていた研究者たちは、その爆発を呆然と眺めていた。
貯蔵されていたのは二〇発、弾道ミサイル二発分のエーテル・ボンバが一気に炸裂した。
爆発の後には直径約三キロに渡るクレーターが成形され、後に湖となった。
「…司令部に報告。貯蔵施設は吹き飛んだ、と」
「分かりました…」
その爆発の衝撃波で横転した車を復旧しながら、研究者たちは呆然と、愕然とした表情で臨時政府に通報をした。
八月六日
エーテル・ボンバ貯蔵施設への爆撃、通称『ヒロシマ作戦』の成功により軍警察は再度、サブラニエ臨時政府に対し降伏勧告を提示。十二時間以内の即時回答を要求する。
同日、サブラニエ臨時政府より回答。
『サブラニエ臨時政府は軍警察の提示するパグウォッシュ宣言を受諾する』
八月九日
サブラニエ臨時政府より発表。パグウォッシュ宣言受諾を布告。
パシリコ共和国・軍警察双方に休戦協定締結。
荷電粒子砲とエーテル・カノンは全くの別物として捉えてください。
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