TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#216

『サブラニエ降伏!!』

 

そのニュースは一面を飾った。

この一方はあらゆるネットの掲示板を埋め尽くし、街は終戦を前に酒盛りをして盛り上がっていた。

一部では花火も打ち上がり、終戦を前に彼らは喜びを露わにしていた。

 

「…」

『終戦、ですか』

 

そのニュースを前にルシエルが呟く。

 

「いい事じゃない。戦争はこれで終わる」

 

南側陣営はもともと企業連合という利益のみを追求する集団だ。

自分たちが不利になってまで戦うのは不利益であると長年の習慣が遺伝子レベルで染み渡っており、軍警察がサブラニエのみの開戦を表明した段階で和平交渉に入った南側諸国もあった。

 

『しかし、軍事介入から時間がかかりましたね』

「そうね…」

 

軍警察の総力を持ってサブラニエを落とすのに一年掛かった。

参加した兵力は言わずもがな。そして死傷者の数は野盗討伐の比では無かった。

 

野盗のような非対象戦ではなく、正規軍との戦闘。

 

『どうやら軍警がエーテル・ボンバの貯蔵施設を破壊したのが、終戦のきっかけだったようですね』

「あぁ…なるほど」

 

運輸ギルドのカフェ、そこでスフェーンは大人の姿で優雅にコーヒーを飲んでいた。

 

「全く、ブラックで飲む人の気が知れないね…」

『そうですか?私は結構ブラックもいける口ですね』

「ほぉ〜、体を共有していても君とは好みが分かれるんだね」

『えぇ、実に興味深いです』

 

運輸ギルドでスフェーンは待ち人を待っていると、

 

「スフェーン…?」

「ん?」

 

後ろから声をかけられて振り向くと、そこではレディースーツを着たサラの姿があった。

完全に仕事人の格好をしており、キャリアウーマンを体現したような様相。頭にも髪飾りをして化粧も一級品で、見るからに『綺麗』だった。

 

「やぁ、久しぶり〜」

「えっ?えぇ…」

 

やや困惑気味にサラはスフェーンの反対の席に座る。

 

今の彼女は上に長く伸びた鹿角と成長した体。

運び屋としての制服の紺色のナッパ服、同色の略帽。

車輪と桃の葉のワッペンを縫い付けた帽子の傍から一対の角が生えていた。

 

「やぁ〜、二年振りですね。サラさん」

「…本当にスフェーンなの?」

「そりゃそうですよ。ほれ」

 

そこで彼女は付けていた色の濃いサングラスを少しずらすと、左右で灰と虹のオッドアイが姿を見せる。

灰色の左目の虹色の右目、間違いなく去年のあの幽霊屋敷の騒動で見た時と同じだ。

 

「そう…」

 

そこでとりあえずこの状況で色々と聞きたい事はあったが、彼女はそこでスフェーンに言う。

 

「あなたの列車は?」

「あぁ、今は留置線に留めてありますよ」

「じゃあ行きましょうか」

「分かりました」

 

そこでスフェーンは立ち上がってコーヒー代の支払いを済ませると、サラと共に運輸ギルドを出る。

 

「でかっ」

「まぁ身長はありますとも」

 

サラの身長が一六〇半ば、対するスフェーンは一七〇前半。サラが少し目線を上げるほどの身長差があった。

 

「さぁどうぞ。お嬢様」

「どうも」

 

運輸ギルドの駐車場に停めてあったサイドカーに乗り込み、スフェーンとサラは道路を走り出す。

 

「もう二年かぁ〜」

「時が経つのは早いですよね」

「本当ね〜」

 

獣人用のヘルメットを被り、貨物ターミナルの道路を走るスフェーンはサラと軽く話す。

 

「あれから調子は?」

「まぁボチボチってところですかね〜」

「戦争も終わったから、私としては安心だわ〜」

 

革製の旅行鞄をサイドカー後部に乗せ、休暇をとったサラは気分良さげにスフェーンに言う。

 

「まぁサラさんの場合はサービス業がメインですからね」

「そうよ〜、法律でPMCは全部編入されちゃったからもう大変よ」

「はははっ、なるほど。それは大変ですね〜」

 

国家が勃興したことで、今まで罷り通っていた様々な規則が法律へと変わった。銃の所持規制やら何やらでスフェーンも色々と困っていた。

そして国軍創設の為に政府は戦力をかき集めるために国内のPMCを解体するか接収を要求。

それによりサラの実家の保有していたPMCもアリアドール合州国軍に吸収されてしまったと言う。

 

「ウチはまだ他にも建設業とか色々なことに手を出してたおかげでほぼ問題なかったんだけどね…まぁ色々と会社が潰れてもう大騒ぎよ」

「あぁ〜…」

 

カジノを本業にしているサラの実家。ベガスシティ・サンズは国外のカジノ街の買収を行っており、そのカジノ買収のヴェルヌ大陸を担当するのがサラ・アンデルセンであった。

 

「この前もカジノ買収を提案した時は泣いて縋られてしまったわ」

「おおぅ、そりゃあ凄い」

 

サラの少し疲れた表情を見て、スフェーンはその心労を想像するしかないが、相当なものだったのだろうと思って思わず漏らす。

 

「もうやぁ〜!一々買収するために延々と話をするの面倒臭い〜!!」

「うーん、そりゃあ大変ですなぁ…」

 

日頃から彼女から連絡を貰い、散々仕事の愚痴を聞き。メアリーさんから謝礼をたまに受け取る日々。

 

「うい〜、到着〜」

「おぉ〜」

 

留置線に到着し、スフェーンの列車を見たサラは一言。

 

「色がまともになった!」

「なんちゅう事言うんだ!コルァ!!」

 

赤と灰色のツートンカラーの貨物列車十一両。その先頭車の旅客キャビンに乗り込んだスフェーンはそこでガレージにバイクを停めると、サラはそこでサイドカーを降りて履いていた靴を脱いでスフェーンの部屋に入る。

 

「入るわよ?」

「どうぞ〜」

 

サラは休暇をとった一ヶ月間スフェーンの元に遊びに来て、スフェーンは彼女の指定した順路を巡る依頼を受けていた。

 

「夜は美味しいもの食べに行くから。きちんとした服でね?」

「今日ははごちになります。お嬢様」

 

そして初日からスフェーンはサラの奢りで鉄板焼きに行く事になっており、彼女はサラに頭が上がらなかった。

そんなスフェーンの食に簡単に釣られる反応にサラも相変わらずだと少し笑ってしまった。

 

 

 

 

 

その日の夜、とあるビルの屋上に上がったサラとスフェーン。

深緑色のパーティードレスに身を包んだサラと、濃紺のディナージャケットに身を包んだスフェーン。

長いエレベーターから降りた時、やや不満げな顔でサラは横に立つスフェーンに言う。

 

「どうせならドレスにすればいいのに」

「却下で。私はこっちの方が似合うと自負していますよ」

「勿体無い…」

 

そこでサラはスフェーンの常に外さないサングラスの下に見える整った容姿の顔、一対の長い鹿角。

最近は散々言ったから覚えたのか、イヤリングもしており、胸からはサラが渡したネックレスもしていた。

 

「ん?」

「いや…なんでもないわ」

 

聞こえていなかった事に少し安堵したサラは、内心でいつかスフェーンにドレスを着せる機会を作ろうと考えた。

 

今回サラが誘った鉄板焼き屋はビルの屋上にあり、店に入ると窓の外からは街の煌びやかな景色を映していた。

 

「いらっしゃいませ」

 

ウェイターが出迎え、二人は掘り炬燵式の座席に案内される。そしてそこで二人はワインと日本酒を注文。

目の前にコックが出てくると軽く挨拶を済ませて最初にプレートに乗った前菜を提供してくる。

じゅんさいの酢の物、鮎の塩焼きを小さく切ったそれを箸で掴んで一口。

 

じゅんさいは透明な膜のようなもので包まれ、軽い酢の味と合わさってとても食べやすい。

透明な膜の奥でシャキッとした水草本来の食感が感じて少し面白い。

 

鮎もしっかりと皮までカリカリに焼かれており、僅かな塩味が川魚の風味を引き立てている。

 

前菜を終えた次に出てきたのは蛤のスープ。

鉄板の上に乗せられて開いていないままの大粒の蛤は、銅製の小さな器に入れられて鉄板の上で熱せられ、蛤の出汁を抽出する。

目の前で調理を行い、貝柱が外れて貝が開いたのを確認する。

 

『ちなみに、貝が開くときは貝の身は上に張り付いているそうですよ?』

「(へぇ〜、そうなんだ)」

 

ルシエルから豆知識を教えてもらいながらスフェーンは最後に刻み葱を振り掛けられて出てきたスープを飲む。

たっぷりと詰まった純粋な蛤のスープはなめらなか舌触りで、少しクリーミーな風味を感じさせる。

そこにネギが少し引き締めるように味を整えてくれる。

 

「あら、美味しい」

「えぇ、全く」

 

横でサラも気に入った様子でスープをいただいていると、コックも満足げな様子で次の料理を作り始める。

次は魚とフォアグラの焼き物で、音を立てて鉄板の上で出てきた立派なフォアグラとクエの切り身を焼いていく。

塩胡椒で味を整えた後に蓋と水を用意し、水を鉄板の上にかけてその上から蓋をすることで蒸し焼きにした後にヘラで軽く上から押さえつけて焼き目をつける。

 

焼き終わり、食べやすい大きさに切り分けて塩とレモンを置く。

そして最後にバルサミコ酢を鉄板の上で熱した物を上から振りかけて肉と野菜料理が出てくる。

 

このフォアグラも脂っこくなく、程よいトロッとした少し甘みを感じるほどに食べやすかった。

バルサミコ酢の特徴的な香りがフォアグラの脂とうまく調和しているようにも感じ、クエもよく皮まで焼き上げられ、まずは塩で一口。次にレモンをかけて一口と箸は止まらなくなる。

頼んだ日本酒との相性もよく、ガラス製の猪口に注いだ酒も進んだ。

 

そして直ぐに食べ終えると、口直しとしてサラダが提供され、ほんのりと甘みを感じるオニオンソースのかけられた新鮮な葉物を中心としたサラダはシャキッとした食感で中にはオレンジも入っていたが、オレンジの酸味と甘味が程よくマッチしていた。

 

サラダを食べたことで口の中の脂が綺麗に洗い流されると、次にヒレステーキが提供される。

鉄板で皿も温めており、ミディアムで焼かれたステーキの切り口の中は綺麗な赤色をしていた。

 

薬味に塩・わさび・おろしポン酢が用意されており、ニンニクチップも用意されていた。

 

「はふっ」

 

ナイフとフォークを手に取って小さく切り分けてそれぞれ別々別につけて頂く。

 

まずは普通に何もつけないで一口、口の中に程よく脂が広がり、柔らかい肉質で簡単に口の中で崩れる。

次におろしポン酢。これはポン酢の酸味の中にすりおろした大根の食感があって食べやすくなる。

次にわさび。これは噛んだ瞬間に肉の脂がわさびの辛味で引き締められる。

最後は王道の塩。これは言わずもがなで、肉に塩のしょっぱさが特有の食べやすさを提供した。

 

ニンニクチップはそれ単体でもサクサクとしており、あえて単体で食べたのは正解だったと思った。




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