TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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「まだ立ち上げたわけじゃないんですよ」

 

移動中の車内でスフェーンはぼぼまっさらな名刺を前にそう話す。

 

「正直どこかの業者に入るつもりもないですし、まだ個人で行けそうなんでやりたいんですよね〜」

「へぇ〜、良くやるわね」

 

サラは感心半分呆れ半分で目の前の急成長した運び屋の友人を見る。

何処となく自分と似た様な雰囲気を感じつつも、少し違和感を覚える…どちらかと言うと自分の兄に近い雰囲気を感じる目の前の女性。

クローン兵の個体かと思うと身振りが兵士のそれではない、人に育てられた振る舞い方をする。

 

「(しかし…)」

 

この女、野盗の襲撃程度なら追い返せると言う自信があって今の言葉が出たのだろう。

だから強がっている様子もなく、ただ純粋に『野盗なんて雑魚だ』と言う認識があった。

 

「(荷物も積んでいるのに大した余裕ね…)」

 

いや、元よりこの子は精神が図太い。じゃなければ会って早々にあの兄弟の送りつけた刺客を相手に応戦して、尚且つ倒し、また別所で襲撃を受けても倒してしまう。

確かにあの実力があれば自分の身を守る事くらいは出来るだろうし、何より顔がいいので今まで何度も襲われかけただろうし、実際対処もしていただろう。

 

「全部自分でやらないといけないですけど、その方が身軽だし楽なんですよね」

「ふふふっ、更新料の支払いとかで忙しいのに?」

「まぁ私は鉄道会社じゃないんで、鉄道使用料を払わなくて良いんですけどね」

 

運送業者・旅客鉄道会社などは使用料を払う事で鉄道管理局管轄下の鉄道路線を走る。

事務所は簡単に申請でき、更新料は使用料となって多少の割引になっている。ただし大人数の方が割引の度合いも大きくなるので、事務所を設立するのにちょうど良い人数というのが既に計算されている。

 

「ふぅ…終わった」

「お疲れ〜」

 

パソコンを叩き終え、前回までの仕事の集計を終えるとそこで軽く肩を回した後に立ち上がって部屋の冷蔵庫を開ける。

 

「(確かサラは前にレモネードは飲んでいたはずだから…)」

 

そこで彼女は以前の記憶を思い出しながら炭酸水と自家製レモネードの元を取り出し、冷やしたグラスの中に入れていく。

 

カシュッ

 

超強力なよく冷えた炭酸水を開け、黄色いレモネードの元をグラスに注ぎ入れ、1:4の分量で炭酸水で割って入れ、マドラーを入れてかき混ぜる。

 

「サラさん、レモネードって入ります?」

「えぇ…お願いするわ」

 

念の為彼女はサラに聞くと、彼女は少しゆっくりと答えたのでスフェーンは二人分のレモネードを作って振り返ったとき、

 

「…」

 

彼女は自分のパソコンをじっくりと眺めていた。

 

「ちょいちょい」

 

勝手に人のパソコン画面を覗くのは何事かと思うし、しかも見ていたのはあろうことかあの日記だ。

毎日欠かさずつけていた日記、最近は趣味の範疇に入っており、今日のことも書く予定だったのでタブを開きっぱなしにしていた。

 

「何人の日記を読み漁っている」

「あだっ」

 

そこで彼女の頭に漢方製剤の本を頭に軽く叩きつけた。すると彼女は弁明するようにスフェーンを見る。

 

「やぁね、たまたま開いてたら誰だって見たくなっちゃうじゃない?それに…」

 

そこでサラはパソコンの日記を見ながらスフェーンに提案を持ちかける。

 

「この日記?まるで私小説じゃない。他所様に見せても面白いと思うくらいには良い出来よ?」

「…生憎、随筆を出版するほど強い精神は持っていませんよ」

「えー、良いじゃないの。これは金になるわよ?」

 

目ざとく金の匂いを嗅いできたサラはスフェーンの日記を見て言う。

 

「どう?出すんだったら出版社まで使っても良いからさ〜」

「思い切りが良すぎるでしょう…第一、そこまで面白いですかね?」

「面白い。それに元々スフェーンの話は面白いし」

「…」

 

サラは至って真面目な目で見ており、スフェーンはそんな彼女を見て軽くため息を吐く。

この目の時の彼女は利益のことを考える経営者の目であり、こうなると相手が頷くまで動かないのを知っていた。

 

「はぁ…」

 

それを知っているが故にスフェーンは軽くため息を吐く。

 

「まぁ、前向きに考えておきますよ」

「ほほぅ、オッケー。分かったわ」

 

スフェーンの返答にサラは良い笑みを見せるとすぐに携帯を取り出した。

 

「ただし、いくつか条件を提示させてくださいね?」

「分かっているわよ」

 

なぜかやる気満々な彼女にスフェーンは諦めの吐息をすると部屋を出てガレージに向かう。

ガレージには自分が使う武器が用意されており、スフェーンはその整備を始める。

 

『よりにもよって行き先は明言されていないんですね』

「お陰で後が恐ろしいよ」

『ハッキングを行って目的地を洗い出しますか?』

「多分対策してるからやめとこう」

『…分かりました。確かにこのファイヤーウォールは罠だらけですね』

 

ルシエルとそんな話をしながら不安混じりの旅程を迎えるスフェーンは言いしれない恐怖を覚えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

サラは休暇をとり、その間にスフェーンが彼女を次の目的地まで運びながら途中でいくつかの地点を経由する。と言う約束になっていた。

サラの言う目的は途中にある理由で寄り道したいと言う理由で、見送りをしたメアリーが消えた直後にサラが予定を書き換えていた。

 

絶対碌なことじゃないだろうと言う不安を感じながら、しかしスフェーンは多額の依頼料をもらった手前彼女に従うしかない。彼女の脳裏に刻まれた傭兵時代の『金払いの良い依頼主の指示に従う』の精神がここで働いてしまったのだ。

 

「じゃあ今日の夕食をちょっと作ってみても良い?」

「え?」

 

する唐突にサラの放った一言にスフェーンは首を傾げた。

 

「料理できるの?」

「勿論。私を誰だと思いで?」

「女狐系スッポンお嬢様」

 

即答したスフェーンにサラは良い笑みを浮かべる。

 

「あらやだ〜、死にたいなら直接言ってくれれば良いのに〜」

「もう何回死んだかわからないんでやめてもろて」

 

毒の吐き合いをする二人だが、サラは結構やる気だった。

 

「マジな話大丈夫?」

「安心なさい。これでも遥か昔はやった事あるんだから」

 

スラム生まれの彼女はやけに意気込んだ様子で台所に向かう。

 

「冷蔵庫の中身は自由にどうぞ」

「分かったわ」

「…食べられる料理でお願いしますよ?」

 

スフェーンは私服に着替えて台所に立つサラに少しの不安を覚えながら見ていた。

部屋の台所を借りたサラはそこで鍋に水を入れて湯を沸かし始める。

 

「何を作るの?」

「今日は簡単にパスタかな。トマトソースを使う奴でいい?」

「おぉ〜」

 

よかった、下手に凝った料理じゃなくて。

スフェーンはそう安堵して胸を撫で下ろす。

 

「いいよ全然それで」

 

簡単な料理を前にスフェーンは頷くと、そこでルシエルに言われてスフェーンは用事をふと思い出す。

 

『スフェーン、さっきガレージに行った時に片付けをしました?』

「あっしまった」

「ん?どうかしたの?」

 

そこで海水の濃さまで塩を入れているサラが聞くと、スフェーンはそこで立ってガレージの片付けに向かう。

 

「台所爆発させないでよ?」

「私をなんだと思ってんの?」

 

サラの反論にスフェーンはお嬢様だから一定の教育は受けているだろうという事で自分を納得させると、(それでも不足の事態が起こった場合のために部屋のドアを開けたまま)ガレージに移動する。

そしてスフェーンはガレージで先ほど使った銃の手入れ用具の整理をしていると、

 

「あぁっ!」

「っ!!」

 

台所から(案の定)悲鳴が聞こえたので何かと思って部屋に戻ると、

 

「いけない!もう茹であがっちゃった」

 

そこで大慌てでオリーブオイルとニンニクを取り出してトマトソースやらを取り出すサラ。

 

「え?まさかソース作ってなかったの?!」

 

パスタを茹でている間の時間に彼女は何をしていたのかと思いたくなったが、そこで反論される。

 

「仕方ないじゃない!こっちは久しぶりなのよ?!」

 

ワタワタと大慌てでオリーブオイルを振ったばかりのフライパンに火をかけるサラはいっそ滑稽とも言えた。

 

「取り敢えずボウルに上げといてくださいね?」

「わ、分かった!」

 

そこでサラは茹で上がったパスタをザルの上に置いてソースを作るように急かす。無論その間パスタは放置される。

 

『スフェーン!ガレージでグリーニングキットが崩れかけてます!」

「っ!!あぁもう!!」

 

ここに来て色々とバタバタと忙しくなり、スフェーンは早く新しい体が欲しいと思いながらガレージに駆け戻る。

ガレージと台所で大問題が発生している間もパスタは放置され、汁気をどんどん吸っていく、

 

 

 

そしてサラは慌ててソースを完成させ、鍋から上げたパスタの入ったザルをフライパンに戻した時、

 

「『!!』」

 

カゴからフライパンに移されたパスタの量を見て二人は驚愕した。

 

「何それ…えw?何それw?」

『何ですかw…それww』

 

やや震えた声でスフェーンはフライパンの上にこんもりと盛り上がるパスタを見る。

 

「てっ、手早く炒めるから…!!」

 

サラも流石にまずいと思ったのだろう、慌てて菜箸を使ってパスタを絡める。

 

「なんでそんなに増えたんだよぉ」

『焼きそばみたいになってますよ』

「絡めるから!今急いで絡めているから!!」

 

そう言うサラの手元は全然ソースが絡まっていない。

 

「何でそんな増えたのwww?これ…www」

 

あまりのパスタの膨らみ具合にスフェーンとルシエルは笑うしか無かった。

 

「早くしないとwまだ増えってってるからww」

「早くやってるからw!」

 

大慌ててドーム状に膨らんだパスタを二人分に盛り付ける。

 

「ふぅ…間に合った」

「いや間に合ってない!間に合ってないから!!」

 

明らかに二人前の量のような気がするパスタを前にスフェーンは直後に肩を落とす。

 

「で?これを食べると?」

「じゃなきゃ死ぬわよ?」

「…はぁ」

 

軽くため息をついて目の前のサラの料理を見る。もう二度と金輪際、彼女を台所に立たせるわけにはいかなくなった。

 

「いただきます」

「いただきます…」

 

そしてフォークで巻いて食べた一口目の感想は、

 

「…餅だな」

『餅ですね』

「ほんと、食感はお餅みたい」

 

あまりにもパスタが酷く、スフェーンの日記にもこのパスタに関してはソースの記述が一切なかった。




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