サラから書籍出版の提案と、ドームパスタのお見舞いをされたスフェーン。
「あぁ〜」
散々な食事を終え、食器を片付け終えたスフェーンは一言。
「もう二度と一人で台所に立たせないから」
「…はい」
それはそれはしょぼくれた様子でサラも頷く。
慣れていないと言うのは分かっているので、今後彼女が何か作りたいと申したときは必ずスフェーンの監督のもと行う様に言明する。
まさかミートパスタだけであんなことになろうとは思ってもなかった…。
「しかし美味しいわね。この梅サイダー」
サラはそこで話題をスフェーンが持ち込んだ梅シロップに移す。
話を変えやがったと思いつつも、あれは嫌な記憶だったとスフェーンはそっと蓋を閉じるとサラの話題に乗る。
「えぇ、自家製の梅シロップですから」
「だから凄くフルーティーなのね」
彼女はそう言い、美味しそうに食後のサイダーを飲む。
お嬢様なのに、あまりこう言うのには慣れていないのだろうかと言う疑問を感じながらスフェーンにサラが作り方を聞いてきた。
「あのレモネードといい、どう言う分量で作っているの?」
「レモネードはレモンと氷砂糖を同じ量用意して、輪切りにした後に交互に重ねて一週間冷暗所に放置したら完成しますね。梅もほぼ同じ作り方でできますよ」
スフェーンはサラにそう答えると、そこで彼女は軽く息を吐いた後に聞いた。
「ふぅ…おかわりを所望ですか?」
「えぇ、よろしく。今度はレモネードが良いわ」
サラは笑みを浮かべて頷き、スフェーンはグラスを軽く洗い。冷蔵庫からレモネードの原液を取り出すとそのまま焼酎と炭酸水を割って入れる。
「あら、それは?」
「自家製レモネードサワーです。飲むでしょう?」
「そうね」
そこでスフェーンも自分の分も作り終えると、そこでグラスをマドラーでかき混ぜて完成したカクテルを提供する。
「ふぅ…」
部屋の中、煙草に火を付けて平気で吸っており。サラも同様に葉巻に火をつけて煙を吐く。
前々からスフェーンが平気で室内で煙草を吸っていたことで、部屋の中は煙草の匂いが蔓延していた。
「それで、今回の行き先は?」
「秘密」
「はぁ…面倒事に巻き込まれたくないですね」
前の嫌な記憶を思い出し、スフェーンは軽く方から息を吐いてしまう。
「あはははっ、大丈夫よ。今回は幽霊の噂も何もないただの廃墟だから」
そんなスフェーンにサラは軽く手を降って安心させるが、スフェーンは気が気ではなかった。
今回のサラの言う目的地はとある国家の都市郊外の山間部。
運送を終え、貨物ターミナルからスフェーン達はサイドカーに必要な荷物を乗せていく。
「荷物はこんな感じ?」
「えぇ、そうですね」
これから向かう先はサラから聞いて軽くため息を吐いてスピードローダーを腰に巻き、サプレッサーを付けた改造済散弾銃の側面に装備したホルダーにサボット弾を装填していく。
「わぁ準備万端」
「えぇ、これからいく場所は危ないですからね」
少々恨み目を向けながらスフェーンはサラを見ると、彼女はあえて気にしていない様子で自分の散弾銃の銃弾を確認する。
「いいじゃない、いつも野盗の襲撃に遭っているあなたならこれくらい慣れっこでしょう?」
「幽霊が出ないとはいえ…また廃墟巡りをするのかと思うと、俄然腹が立ってきますよ」
今回の目的地は廃墟となった遊園地。
そこまではスフェーンのサイドカーに乗って移動する。
「あら、ロケットランチャーは持って行かないの?」
そこでサラはガレージのガンラックに傾けられた
「いや、持っていくつもりですよ」
そこで彼女は赤と灰色の自分のイメージカラーに塗り替えたそれをサイドカーのラックに引っ掛ける。
「銃撃受けたら取り敢えず吹っ飛びますけどいいです?」
「いい訳ないでしょ。馬鹿なの?」
サラは真顔で共に積載されたロケット弾を見る。
彼女は背中のバックパックに四発のロケット弾を装備しており、ブースターも装備していた。
「ってか、それって回収対象品じゃないの?」
「はて、そうでしたかね?」
スフェーンはわざとらしく惚けると、サラは呆れてしまった。
ここ最近、世界的に銃規制に関する法整備が整い始め、戦争も終わったことで軍警察の本格介入の時期から、中立国では本格的に国内で拳銃・爆発物の回収を積極的に行っていた。この回収令は運輸ギルドでも行われているが、元より順法意識が低い運び屋。国毎に違う回収令を前に回収件数はとても低かった。
当時秘密裏に援助していた野盗は戦争が終わるのが近づくにつれ、行われなくなったのだろう。質の高かった野盗の有していた装備品は悉く低下していた。そのため自分たちの持っている武器でもある程度対処可能になったことも、この回収令無視に拍車がかかっていた。
「やれやれ…」
「さて、いきましょうか」
「そうね」
あまりにも大きすぎると言うことで対戦車ライフルはガレージに置いていく。
ロケットランチャーと散弾銃を持ち込むスフェーンは、それだけで平均の治安官並みの装備品を有していた。
「よっ…と」
ガレージのスロープを降ろし、サイドカーを地面に降ろしてエンジンをかけると、自動でスロープが収納されてドアが閉まる。
「今回の遊園地はね?昔のバブル期に市が作った娯楽施設なの」
「でもバブルが弾けて放棄されたと?」
「大当たり。中には軍警察や残骸から作った大災害以前の兵器のモニュメントも置かれていたらしいわ」
「へぇ〜、それはすごい」
大災害が起こったのは今から百年以上前の大昔、そんな時代の残骸は今も探せば見つかる。かく言うこの車両だって大災害以前に作られたものだ。
エーテルの津波が世界を覆い尽くした後、生き残った人類は残されたクローンなどを用いて失った数を確保した。
アンドロイドなどが残した知識などのお陰で技術が失われたこともほぼ無く、世界は以前より衰退しつつも復興を始めた。
「ん?」
深夜の街に入り、そこでスフェーンは街の電子掲示板に人探しが多くされている事に首を傾げた。
「人探し…」
「行方不明者が多いのかしら?」
「まぁそう言う事なんでしょう」
調べたところによると、この街の郊外には自殺の名所として名高い崖があるらしい。
きっと人生に疲れた人々が楽になるために集うのだろう。なるほど、現実は厳しいものだ。
「さぁ、さっさと終わらせますよ」
「えぇ〜、廃墟巡りよ?ゆっくり行きましょうよ〜」
サラのそんな言葉にスフェーンはフル無視を決め込んでスロットルを回した。
都市郊外の廃遊園地。かつての都市開発の一環で開発されたその場所は、バブル崩壊による資金難から閉園されて久しい場所だった。
最近では戦後の需要を見越したこの地域の再整備が考えられていると言う話だ。
「うわぁ…」
そこは地面のアスファルトが至る所でひび割れ、乾いた土が風に乗って堆積しており。柵も錆びてボロボロに壊れていた。
「すごい…」
遠くに見える、元はジェットコースターだったのだろうその残骸がよく見える。
サイドカーから降車し、今回は廃墟巡りということで動きやすいラフな格好のサラはそこで遊園地を見上げる。
「昔は繁栄していたみたいですね〜」
スフェーンはボロボロでハズレかけの遊園地の看板を軽く見上げ、そこでかつての繁栄を想像している。
そしてラックに引っ掛けていたロケットランチャーを手に取って背負った。
「行きましょうか」
「うん」
そして二人はそのまま夜の廃遊園地に向かって歩き始めた。
園内入り口近くには見上げる位置にモノレールの駅があり、これまた錆びた階段を一段ずつ登って駅舎に入る。
「「…」」
駅には五両一編成の跨座式の小さなモノレールが残されており、中も埃まみれだった。
「エンジンはもう抜き取られちゃってますね」
「盗難か…」
ごっそりと抜け落ちたように消えているエンジン。おそらくエーテル機関を盗んで売ったのだろう。
この施設は他にも盗難にあったケースが多々確認され、見るからに金属スクラップで持って行かれた証があった。それを見てスフェーンは苦笑する。
「私たちみたいな物好きが多くいるようで…」
静かな遊園地、ここはエーテル濃度も薄い場所だ。だから再整備計画の一つに入っているのだろう。
「ここも更地にしちゃうのかしらね?」
「まぁ最近は難民も増えて人口増加が激しいとか言いますしね」
戦争の影響は至る所に出ており、主な例では中立国に移民する人間が増えた事だろう。
一定枠の難民申請をゆうに超えた難民が押し寄せており、溢れた難民は出稼ぎ労働者や不法移民となって国内の治安悪化を招いていた。
「遊園地も大きいわね〜」
「本当ですね」
廃墟の遊園地、そこで二人は銃を背中に降ろして歩き。古びた廃墟を散策する。
「しかしわざわざ夜中に来る必要あります?」
「その方が楽しいじゃない?」
サラの返答にスフェーンはダメだこいつ、と思った。一回この人をどこかの教育養成所に叩き込んだ方が良いのではないかとも思ってしまうほど、今のスフェーンの内心は荒んでいた。
「それに夜中に廃墟巡りって、懐かしいのよ。昔よくやってたから」
「…」
少し懐かしげに呟いた彼女にスフェーンは、彼女の言うかつての妹の姿を
「…ところで一つ聞きたいんだけど」
「?」
そこでサラはスフェーンの頭を見ながら聞いた。
「あなた、何を食ったらそんなデカくなったの?」
前にあった時とは比べ物にならないほどスリーサイズと身長が変化したスフェーンに首を傾げていると、スフェーンは少し勝ち誇ったような表情で返す。
「Do you know 二次成長?」
「にしては変わりすぎでしょうがバカーッ!!」
サラは軽く叫んででかくなったスフェーンの胸に頭突きをした。
「いった?!」
「ずるい!羨ましい!望んでもないのに良い物を受け取りやがって!!」
比較的普通の大きさのサラはスフェーンの胸を叩き、反応したスフェーンは両腕でサラの頭をサンドする。
「何する!い、いでででででっ!!」
そして拳でグリグリ攻撃をかますと、廃墟の遊園地に悲鳴が聞こえた。
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