TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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廃遊園地に訪れたスフェーンとサラ。

深夜の時間帯にこんな廃墟に訪れる物好きだが、二人は古びた遊具を前にスフェーンは煙草に火を付けていた。

 

「ふぅ、昔を思い出すわ…」

「?」

 

古びたメリーゴーランドの前、サラは呟く。

 

「まだあのスラム街から出たばかりの頃、ベガスに来た時にメリーゴーランドを見て驚いちゃってね。興奮しながら何回も乗ったのよ」

「…なるほど」

 

今ではそのメリーゴーランドを運営する人間にまで上り詰めている彼女。

ただカジノ王の血を半分注いでいるという理由でスラム街から引っ張り上げられ、教育を施された彼女。

彼女の立場は本来、家に入れるだけでもありがたいと思われるような状態だ。

 

ただ、彼女はカジノ王の心の弱さと安らぎを求めて生まれた存在であり、カジノ王自身もそれを認めた上で才能を活かすことで彼女に存在意義を与えた。

無論、そのためであれば彼女について来たグレイと言った名前の少女の面倒も見る約束をした。

 

エーテル過敏症ですでにこの世界から消えた命、しかしカジノ王は妾の子の意思を優先させた。

おかげで彼女は比較的心の平穏を保っていた。運がいい人生とも言える、運も実力の内といったものなのだろう。

彼女はカジノ王に対し多くのカジノの買収を成功させると言う結果をもたらしたことで奉仕している。

 

彼女曰く、一切家督を継ぐつもりはなく。下の兄弟とも事を構えることはしないらしいが、向こうから仕掛けられる場合は、ある一定のラインを超えたら然るべき対処をするらしい。

 

「(運がいいと言えば私もか…)」

 

人生、何が起こるかはわからないとはよく言ったものだ。

まさか相棒に裏切りで殺され、その後に女になってエーテルの申し子に生まれ変わって運び屋をするなんて、誰も想像できないだろう。

 

「(今頃、アイツは何をしているのかね…)」

 

自分を殺した犯人は、今は軍警察に逮捕され、最高裁判所で裁判を受けている。

基本的にこの裁判所に送られるような重大事件では年単位で裁判が行われ、判決が出るまで最長で五年かかったという記録が残されている。

しかし最近は幾多もの公判が行われ、そろそろ判決の時が近いとも言われていた。

 

『スフェーン?』

「(ん?)」

『過去のことは考えないんじゃなかったのですか?』

 

ルシエルは今でもブルーナイトに関する懸念をしており、実際彼は逮捕されるまでスフェーンに再三その事を言っていた。

 

「(ルシエルや。最大の懸念を排除したし、少しくらいは昔の仲間の事を考えさせてくれよ)」

『しかし…どのような理由があれど、彼はあなたを裏切ったのですよ?』

「(まぁ…実際そうだけどね)」

 

しかしアイリーン社が、なぜ自分を殺しに来たのか。その理由はある程度予測できるし、むしろそれ以外であれほど躍起になって自分を殺しにかかるなんてないだろう。

 

「(どうしても一番長く付き合ってきた相棒だからね。彼なりに葛藤があったと思うんだよね)」

『…はぁ』

 

ルシエルはスフェーンの思考を読み、軽くため息を吐いた。

 

『また危険を犯すんですか?』

「(何事も直接しないと解決しない。それが傭兵の会話さ)」

 

サラと共に遊園地を散策していると、

 

「「ん?」」

 

遊園地の昔はお化け屋敷として運営がされていたその場所。そこから何かヒソヒソ声が聞こえ、何かとスフェーン達が息を呑んだ時、

 

「「?」」

 

その角からにゅっと顔が合わさり、鉢合わせた四人はしばし沈黙。

 

「「「「…」」」」

 

そして驚愕。

 

「「「「?!?!」」」」

 

そして、悲鳴。

 

「「「「ぎゃぁああああああっ!!!!」」」」

 

お互いのペアがそれぞれ抱き合って目に涙を浮かべた。

 

 

 

「いやぁ、すみませんでした」

 

火をつけた焚き火の前でアウトドアジャケットを羽織っていた男女を前にスフェーンとサラも頭を下げる。

 

「いやいや、こちらこそすみません」

 

二人はそこで鉢合わせた二人に頭を下げる。キャンパーで、今日はハイキングをしていたという二人。

しかしハイキング中に遭難をしてしまい、先ほど運良く自分達と鉢合わせたと言う。

 

「でも良かったです。まさか遭難してしまうとは思ってもいませんでしたので…」

「本当ですね」

 

二人のカップルの名はボニータ・パーカーとクライド・バロー、来月には婚約予定のカップルだという。

 

「しかしおめでたい話もあったものですね」

「はははっ、ありがとうございます」

 

サラはそこでクライドを見ると、彼は少し恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに頭に手を当てて軽く擦っていた。

 

「お二人はどこから?」

「ビッグ・ディーから、今日は観光にね」

「へぇ〜、かなり遠い場所から来たんですね」

「えぇ」

 

二人は婚約記念に遠出をしてハイキングに来ていたと言う。

 

「もう、貴方が途中から山に行きたいって言うからよ?」

「やぁ、悪かったよ。ごめん」

 

そんな和気藹々とした雰囲気の二人を前にスフェーンとサラはお互いに顔を見合わせた後に二人に話しかける。

 

「じゃあ、そろそろ私たちは帰りますね」

「あらそうなの?」

 

ボニータが少し首を傾げたので、スフェーンは

 

「いやぁ、ここで廃墟巡りしてるってバレたら怒られちゃいますから」

「じゃあこれで。お二人もすぐに下山したほうがいいですよ」

 

サラが去り際にそう話すと、クライドが軽く頷いた。

 

「ありがとう。君たちの言うとおりにしておくよ」

「ご忠告どうも」

 

そこで二人はこの熱い雰囲気を壊さないうちに遊園地を後にする選択をした。

 

 

 

「やれやれ、ハイキング客と鉢合わせるとはね」

「運がないわね」

 

廃遊園地を歩き、サラとスフェーンは先ほど出会したハイキング客を前に話す。

 

「まぁ仕方ないでしょ」

「そうね、下手に通報されるくらいならすぐに帰ったほうがいいわね」

 

サラはこれ以上散策ができないと言うことに少し残念に思いながら廃遊園地を出た時、

 

「ん?」

 

ふとスフェーンが気配を感じた。エーテルの気配…これは近くに動いているエーテル機関があるという事だ。

方角は自分達の斜め前の森の中の茂み。おかしい、そんな場所にエーテル機関で動くようなものがあるはずがなかった。

 

「どうかした?」

 

いきなり立ち止まったスフェーンに、サラはどうしたのかと疑問に思って振り返った瞬間。

 

 

バシューーー!!

 

 

その茂みの奥からロケット推進音が聞こえると、スフェーン達の乗ってきたサイドカーにロケット弾が命中して吹き飛んだ。

 

「「?!」」

 

二人が驚愕した直後、その茂みから一台の大きな影が現れた。

 

「っ!!」

「うっそだろ…!?」

 

その遠赤外線の光学センサーが自分達を見つめ、見慣れた二本足で立つ人型機械。

 

「オートマトン?!」

 

そこには民間の汎用型オートマトンにロケットランチャーと無反動砲を装備させた機体が立っていた。

 

「っ!やばっ!」

 

その姿を見た二人は、即座に振り返って逃げようとしたが、

 

「動くな」

 

そこでは散弾銃(レミントンM11)自動小銃(M1918 BAR)を構えたボニータとクライドが立っていた。

 

「チッ、まさかこいつら…」

「噂の下手人のご様子で…」

 

スフェーンがサラに言うと、そこでボニータはニタリと笑みを見せる。

 

「サラ・アンデルセン…まさか私たちもここまで運が良いとはねぇ」

「…」

 

向こうはサラの事を知っていた。と言うことはつまり…

 

「誘拐する気か?」

「じゃなかったら何するって言うのよ?」

 

つまり賽は投げられた後だった、と言うことだ。この場合、どう足掻いても彼らが見逃すことはない。

後ろにオートマトン、前にはボニータ達。状況は極めて悪かった。

 

「さぁ、持っている銃を下ろしな」

「なるべく穏便に行かせてくれよ」

 

サラとスフェーンはボニータ達を見ながらほんの一瞬だけ目配せをした後に散弾銃を地面に下ろした。

そしてスフェーンはさらにロケットランチャーも地面に降ろさせられた。

 

「あんた達からどれだけ搾り取れるかねぇ」

 

舌なめずりをして一歩ずつ近づきながら皮算用を始めるボニータにスフェーンは言う。

 

「仕方ありませんね…」

 

そこでサングラスを取ったスフェーンはそこで二人を見た。

 

「分かりました…

 

 

よっ!」

 

 

 

「「?!」」

 

そして直後、スフェーンの虹色の右目から二人の視界が真っ白になるほどの閃光が放たれた。

一秒にも満たない速度でオートマトンにも事前にハッキングしたことで、オートマトンも操作系が動かなくなって画面が真っ黒に落ちた。

至近距離からこの閃光を受けたことで今まで深夜の真っ暗闇で視界が慣れていた二人は思わず目を覆った。

 

「っ!」

ッ!ッ!

 

すかさず拳銃(MP-412)を取り出して発砲をし、牽制をしたスフェーンは地面に下ろした武器を拾って走り、サラも同様に武器を持って廃遊園地に走り出す。

 

「ちっ」

「くそっ!」

 

目をつぶされ、サイボーグ化していなかったが故に目を覆ったままの二人は恨めし目で廃遊園地を見た。

 

「追え追え!」

「あの女は殺せ!」

 

そして目を潰したスフェーンの逃げた先を睨んだ。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

「ふぅ〜…」

 

ボニータ達の襲撃から逃げた二人は、廃遊園地のある遊具の中に逃げ込んだ。

 

「まさかあの二人の他に共犯者がいたなんて…」

 

肩から息をしてサラは近くに敵がいないかどうかを確認する。

両腕を最高級のオーダーメイドのサイボーグ化手術を施された彼女は、その見た目に反して強力な出力で、パンチ一発でゴリラを気絶させられるくらいには頑丈であった。

 

「スフェーン、この後どうする?」

「決まってますよ」

 

そこでサラは聞くと、横でスフェーンは銃を持って答える。

 

「奴らをここでぶっ殺してやる…!!」

 

その時のスフェーンの目は殺意に満ちており、相当怒り心頭であった。

 

「私のサイドカーぶっ壊したんだ…許せるものか…」

「お、おぅ…そうね…」

 

その殺意の波動を感じ取り、サラはそれもそうかと納得できた。あのサイドカーはスフェーンが購入した一台。それに今まで旅をした思い出付きと言うかけがえのない物。

そんなものを木っ端微塵にされてはこうなるのも道理と言えるだろう。

 

「せ、せめて捕まえて治安官に突き出しましょう?ね?」

 

この状態のスフェーンを止められる手段をサラは知らなかったのでとりあえず宥める方向で彼女を落ち着かせた。




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