そもそも人の顔を描けない…。
廃墟となった遊園地を、一つの小さな影が走る。
「っ!」
スフェーンが、おおよそ人ではないような速度で走り抜けた後。後ろから砲声が響いて遊園地のモニュメントを破壊した。
『くそっ!また外した!!』
直後、彼女を追ってオートマトンが硝煙の昇る無反動砲を前に毒吐いた。すると、
「ふんっ!」バシューーーッ!!
ストックを肩に押し当て、右手で引き金を発射する無理やりの方法でロケット弾を放ち、発射された対戦車榴弾はオートマトンの自動小銃を持っていた右腕を吹き飛ばした。
『なっ!?』
その事実にオートマトンに乗っていたブランチ・バローは驚愕した。
「あの女め…!」
複座式オートマトンには多数の無反動砲が装備され、発射後は自動的に弾薬箱から装填が行われていた。
「大丈夫か!?」
クライドはそこで聞くと、ブランチは返した。
『問題ない!…けど、腕が持ってかれたわ』
「そうか…」
クライドは腕を破壊されたオートマトンを見てやや唖然となっていた。
オートマトンの腕を破壊し、そのまま走り続けるスフェーン。
『スフェーン、そろそろ体内エーテル値が危険域に達します』
「そう…」
そこで建物の隙間に入り込んで隠れた彼女は、そこで少し考える。
「今の敵は?」
『目下、指名手配中の容疑者であるボニータ・パーカー、同じくクライド・バロー、そしてブランチ・バローの三名です』
ルシエルは、先ほどのマーキングとともに行った画像検索で判明した敵の正体を伝える。
「倒したのは?」
『彼らと同じ指名手配犯のウィリアム・ジョーン。それからたった今、サラさんがバック・バローを倒しました』
「おぉ〜」
マーキングを施した全員がサイボーグ化。それもエーテル機関を主導機とするサイボーグを装備していたがためにスフェーンは対象の全てを感知できた。
「生命維持装置の起動を確認…か」
そこで彼女は持っているロケットランチャーの残弾を確認する。
「あと三発…」
バックパックに入れたロケットランチャーの弾数と弾種を確認する。
「対人榴弾二発、ウレタンフォームが一発か…」
すると遠くからズシンと重たい足取りで軽く地響きがすると、目の前をライトを照射して通過するオートマトンの姿があった。
「(ヒェ〜、怖っ)」
『さながら昔のロボット侵略映画です』
「(レバアク散弾銃をグリングリンしているが目に浮かぶよ)」
そこでスフェーンはオートマトンの近くに二人の姿が居ない事を把握すると、そこで対人榴弾を装填してモード・アザゼルを起動するとそのままふわりと音を一切立てる事なく建物の上に飛んだ。
「さて、やってみますか?」
『そうですね。新装備のテストにはおあつらえ向きでしょう』
スフェーンの問いかけにルシエルは頷くと、そこで彼女は安全確認を行う。
「…サラは?」
『背後の事務所ビルの屋上でこちらを見ています』
そこでスフェーンは振り返って事務所ビルの屋上に見える一人の人影を見つけた。
その影を見たスフェーンは首元に手を当てると、そこで立っているサラに連絡をとった。
「あー、サラ。聞こえている?」
すると少し雑音混じりに返事があった。
『えぇ、聞こえているわ』
「ちょっと危ないかもだから、建物の一階に避難した方がいいかも」
『え?ちょっと貴方、さっきの爆発と言い何を…』
何か聞きたかったようだが、スフェーンはそこで通信を切ってサラが下に移動を始めたのを確認してから前を見た。
「…」
空色の双眸、屋根の上でスフェーンは光学照準器で目標を確認して、照準を構えると持っていたロケットランチャーの引き金を引いた。
その音を聞いた時。ボニータとクライドは感知し、そのまま隠れようとしたが、
ドゴーンッ!!
目の前の地面にロケット弾が着弾、着圧信管に起爆。目の前で大爆発を起こした。
「きゃあっ!」
「うおっ!!」
その衝撃波で、サイボーグにも影響が出るほどの被害を被る。すでに爆発の衝撃で各種体内に危険値に達するアラートが表示される。
「ぐあぁあああっ!!」
腹部にスフェーン謹製のセムテックスを消火器にこれでもかとパンパンに詰めた改造対人榴弾、先端から伸びた四本の爪状の着圧信管。
万が一を考慮して地面に斜めに落ちても爆発し、信管が起動せずとも時限信管で爆発する悪辣極まる弾頭となっていた。
そんな炸裂した弾頭の破片が突き刺さり、クライドは悲鳴をあげて腹部から赤い血を流していた。
「クライド!クライド!?」
そんな彼にボニータが駆け寄ると、そこに再び追い打ちをかけるようにロケット弾が発射された音を耳にした。
「っ!!」
その音を前に、ボニータは咄嗟にクライドを覆い被さると、放たれたロケット弾は二人の上空で炸裂。そこから射出されたのは赤色の拘束用ポリウレタンフォームだった。
「あっ…」
即座に硬質化するウレタンフォームは二人を覆い尽くすと、地面ともピッタリとくっ付いて動かなくなり。その中で二人は生命維持装置が起動した。
「くそっ…」
榴弾の爆発を見たオートマトンに乗っていたブランチは舌打ちをしてその様を見た。
「どこだ…?」
ロケット弾を発射し、熱源探知でロケット弾を発射した人物を探そうとカメラを上げたが、
「い、居ない…?!」
少なくとも熱源探知では見つからず、サーモグラフィーに切り替えると、ロケット弾の軌道を辿ると建物の上で極めて低温度の人影を見つけた。
「いたっ!」
そこでブランチはすぐさま残った武装の肩の無反動砲とロケットポッドの照準を合わせた時、
「っ…?!」
建物の上で立っていたその人影は確かにクリルと方向を変えてこちらを確かに見た。
画面越しでもわかるその冷え切った気配にブランチは冷汗がどっと溢れた。
「にっ…」
逃げないと、心の奥底からその言葉が溢れ出てくる。
しかしここには仲間のクライドや、何より夫のバックが残っている。彼らを残して逃げるわけにはいかなかった。
「っ…!!」
逃げたい、しかし彼女が見逃してくれるのだろうか。
あの一対の角を有した獣人の女。聞くところによると、彼女は一人でオートマトンを一台行動不能にしたという話はすでに聞いていた。
「えっ!?」
そんな見えない恐怖に支配された時、突如視界から彼女が消えた。
「ど、どこ…?!」
慌てて周辺の様子をカメラで見まわした次の瞬間。
ッーーーー!!
突如オートマトン全体に激しい衝撃が加わり、思わず悲鳴を上げる。
まるであらゆる方向から銃撃を受けているようだった。
「何!?何!?」
その衝撃がしばらくして収まった時、
「うごっ!?」
突如背後から超強力な一撃を受けると、コックピットの全ての機能が失われ、電源が落ちた事で視界が真っ黒になった。緊急脱出装置を起動し、コックピットを恐る恐る開けてブランチは地面に転がる。
「ヒッ!」
そして転がった先では一人の女が仁王立ちしており、その姿を見たブランチは思わず悲鳴が上がる。
「さて、貴様は…」
そこでスフェーンは仁王立ちのままブランチの顎に触れると、スフェーンの顔を見つめさせられる。
「なるほど、ブランチ・バロー…指名手配犯か」
「っ!!」
背後のオートマトンは至る所から煙が上がっており、火花が散っていた。
「なっ、何をするの!?」
「え?」
すっかり怯えているブランチにスフェーンは何を今さらといった表情を浮かべる。
そして彼女は煙草の箱を取り出して火をつける。
勝者の余裕を見せつけるように。
「貴様らは私の備品を綺麗に吹っ飛ばしてくれたんだ。…それなりの覚悟をしてもらわないとなぁ?」
「っ…!!」
ブランチはそこで逃げ出したい感情が爆発し、咄嗟に走り出そうとしたが、
「おい待てや」
その瞬間に足払いをされて、足のサイボーグを簡単に木っ端に破壊すると循環液が流れながら彼女は地面に倒れた。
「あぁぁぁあぁぁあぁあっ!?!?」
その瞬間、破壊された足を見て幻肢痛を引き起こし、悲鳴を上げる彼女。
「まだ話は終わってねぇんだわ」
スフェーンはそこでブランチを見ると、彼女は咥えていた煙草をブランチの目の前に差し出す。
「ヒィッ!!」
頭をガッチリ抑えられ、眼球の前に煙草の赤い火が突き出され、うっかりで眼球を焼かれる位置に煙草があった。
「ちょーっと大人しくしててくれ。な?」
「っ…!!」
スフェーンの脅しに、ブランチは刻々と身体を小刻みに震わせて頷くしか許されなかった。
制圧を完了し、遊園地に再び静寂が訪れた。
「ふぅ〜…」
軽く手を叩き、目隠しと猿轡を行い紐で縛った事で一種のプレイのようになったブランチ・バロー。
後に駆けつけた治安官が首を傾げ、思わず声を漏らしたほど綺麗な亀甲縛りで建物に縛られた彼女を前にスフェーンは空を見上げた。
「流石だね〜」
『えぇ、スフェーンの応用力にも舌を巻くばかりです』
ルシエルはその発想をしたスフェーンに感嘆した様子でそれを見る。
「またまた〜」
『いえ、今回ばかりは流石に予想外ですよ』
そう言い、スフェーンは空から手元にゆっくりと落ちてくる大きな影を見た。
「まさかまたこの武器を見るとはね…」
『オートマトン用30mm自動小銃ですね』
かつて迫撃砲を格納し、ある時は人を隠したあの場所に新しく乗せた武装。
オートマトンが使用する自動小銃、その銃身下部に取り付けられた120mmキャニスター弾発射器。二丁のブルパップ式自動小銃、それが先ほどブランチを襲った攻撃の正体であった。
発射されたキャニスター弾が止めとなって背部を穴だらけにされたオートマトンは擱座して機能を停止した。
『しかしこれを飛ばそうと考えたスフェーンも流石ですね』
「やぁ、ただの思いつきよ」
もしこの世界でエーテルが空に打ち上がり、空間エーテルの概念が無かったら、スフェーンも思い付きはしなかっただろう。
列車の武器格納庫から展開し、スフェーンの近くを自在に空間中のエーテルを使ってバケツリレーのような容量で武器を操作した事で彼女は新しい戦い方を編み出していた。
「サラは?」
『彼女はどうやらバック・バローを運んでいるようです』
「オッケ」
そこで再び自動小銃を空に上げると、そこで彼女は煙の上がる廃遊園地の中を走っていった。
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