TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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軍警察によるパグウォッシュ宣言をサブラニエ臨時政府が受諾した三日後に休戦協定が結ばれ、戦争は終結した。

 

南北戦争と呼ばれたこの戦争において、戦後処理のために進駐した四〇万の軍警察大陸進駐軍。

そこで彼らはサブラニエ臨時政府と交渉の為に零士諸島のハーロック島において条約交渉を行った。

 

ただそこにパシリコ共和国の全権委任団はいなかった。

サブラニエ国内では全面講和を行うか、一部講和を行うのかで紛糾した。

 

しかし臨時政府が選んだのは後者で、パシリコとの講和会議は軍警察との交渉を終えた後で行われる事がすでに決められていた。これにより、誰が戦争を終わらせたのかと言うことは一目瞭然であった。

 

そもそも終戦時、サブラニエ・パシリコ戦線。通称北東戦線において戦況はサブラニエ優勢で終結しており、サブラニエ降伏により国境線は戦前にサブラニエが定めた場所まで戻されることで一旦の合意となった。

しかしパシリコ側としては厭戦気運の蔓延による早期講和を求める国内世論が強く、さっさと戦争を終わらせたいが、多大な犠牲を受けて三年間行われた戦争の対価を欲していた。

 

当時、そして今も世界随一のエーテル精錬技術を有し、自国でE兵器開発に成功した事は彼らも承知しており、その技術をパシリコを含めた北側諸国は欲した。

後に公開された講和文書の原案の中にエーテル技術の情報提供を行うこととする文言が記されていた事からも、彼らがどれほど欲していたのかが窺い知る事ができた。

 

しかし偉大なるグリーン・ボウル建設記の中に記された自然主義の中に記された『E兵器を持たず・作らず』のエーテル兵器利用の制限により、パシリコ軍部は困窮していた。しかしそこで待ったをかけたのが政府、モハメド政権であった。

 

『我らはE兵器を持たず、新たな世界秩序を作り出す事が最も重要である』

 

後に緑林教の開祖となる彼の命令により、軍部は戦後処理の段階でE兵器に関する文言が削除されることとなり、これが政府がパシリコ軍部との軋轢を産むきっかけとなっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

戦争が終わり、軍警察や傭兵による野盗討伐が進んだ事で線路上の治安は日に日に回復していた。

スフェーンは今回、雪の降る大陸北部で列車を走らせていた。

 

「さっむ!」

 

ここは大陸北方、近くに北極大陸に繋がる海底トンネルに繋がる路線が建造されている場所だ。

この地域は全体的に乾燥機構であり、この地域に雪はほぼ降らない。代わりに北極大陸に向けて風が北側に吹いており、空っ風が常に吹き付けていた。

 

『現在の外気温はマイナス三三度です』

「寒過ぎるでしょ」

 

今回の依頼主は鉄路・運輸支援施設建設機構、あの鉄道管理局傘下にある建設組織である。

運送品はプレキャストコンクリート。線路の地盤に敷くコンクリートの板であり、高速運転を行う路線では必須の装備である。

平均時速三〇〇キロ運転が当たり前の今日、昔ながらのバラストのみの地盤はバラストが列車通過時の風速で吹っ飛んでしまうので低等級路線以外ではまず見なかった。

 

『前の場所から随分北に上がりましたからね。そりゃあ寒いですよ』

 

駅に降りて軽く鼻を啜るスフェーンにルシエルが答えると、寒すぎるのでスフェーンは体内から熱を放出する。

 

『スフェーン?』

「凍え死ぬよりはマシ」

 

移動中にスフェーンは外の雪と密閉されていないが故にとても寒い運転室で立ちながら言う。

 

『…ここは北極大陸に近いです。おまけにエーテル空間濃度もそれほど高くありません』

「だから初めから小さくなれと?」

『そう言う事です』

 

察しの良いスフェーンにルシエルは頷くと、スフェーンも軽くため息を吐いてから意識を集中させると鹿角に生えていた林檎の中がみるみる成長を始め、青い林檎が出来上がる。そしてそれを鋏で切って角から収穫をする。

 

「相変わらずだけど、まあまあやばいよねこれ」

『元々この肉体がやばくない事ないでしょう?』

 

ルシエルは何を今更と言った様子で林檎が出来上がるたびに身長が縮んでいくスフェーンを見る。

 

「角が無いとこう言う事ができないのがまた面倒よね」

『そうですね、どうしても春から夏にかけての期間は鹿角が落ちてしまいますからね』

 

スフェーンの鹿角は鹿の獣人らしく角は一年サイクルで生え替わりをしており、新しい角が生えてくるまで構造的に自分の体の調整が効かないと言う欠陥があった。

 

「そろそろ生え変わりの時期だから、暫くはこれでいくしか無いかなぁ…」

 

そんな事を思いながらスフェーンは『始まりの火』で破壊された線路復旧のための資材を運んでいた。

あの日から三年以上が経過した現在でも鉄道や被災都市の復興は終わっておらず、被災都市の復興は急務であった。

 

敗戦となったサブラニエはこれら被災都市への復興支援を行う事を軍警察との講和条約であるハーロック協定で取り決められた。

元が企業の集まりである彼らは、こう言ってはなんだが金はある。

国際中央銀行に預けられ、戦時中に交換されたウィール通貨や保有金塊は大量にあり、サブラニエ国内でも破壊された市街地の復興作業でサブラニエ政府…特にその主軸となって繁栄したアイリーン社の財産を積極的に絞り出させていた。

協定はアイリーン社、特に社長に就任してそのまま初代総書記を務めたパッチランド・リヒトフォーフェンにあるとし、サブラニエ政府は一切の責任を負わないという事で取り決めがなされていた。

 

「オーラーイ、オーラーイ…」

 

クレーンでプレキャストコンクリートを敷いたばかりのモルタルの上に降ろしながら作業員達が誘導する。

鉄道クレーンによって吊り下げられ、現在行われている鉄道敷設工事はほぼ予定通りに進行していた。

 

「悪いね、若いの」

 

ここの工事区間の責任者である男はそう言ってスフェーンを見る。

若いと言われてまぁ少し不満げに男の馬耳を見つめる。

 

「確かに若いですけど…」

 

工事現場は作業型オートマトンが自分の列車に積載していたコンクリートを両端で掴んで荷下ろしを行い、そのままモルタルの上に乗せる。

別では背中にミキサーを装備したオートマトンがモルタルを地面の金型に流し込んでおり、その下で作業員がモルタルを平す作業をしている。

工事区画はいくつもに分かれており、遠くではまた別の工事現場が見えた。

 

「だからっていきなり渾名ですか?」

「悪いな。ここの工事現場ではそう言うやり方なのさ」

 

場所は復旧作業中の都市の一角、片手は環状線が走っていたとの事で周りは建物の復興が急ピッチで行われていた。

クレーンを搭載した多脚車両が線路上に大量の犬釘を下ろしており、その奥では騒音防止のためのバラストを撒いていた。

 

「んじゃあ、また明日も頼んだぜ」

「はぁ…分かりましたよ」

 

公共の鉄道関連団体が一介の運び屋に依頼を出さなければならなほど、今の鉄道復旧網は拡大している。

今回の仕事も契約した量のコンクリートとレールを運ぶ必要があり、片方の路線の復旧が終わったこの環状線をゆっくりと一周しながら各工事区間に資材を送る必要があった。ちなみに遅れる毎に工事区間の工事責任者からどつかれるおまけ付き。

いくら前の区画で遅れていようと、制限速度があろうと、女で、子供であろうと関係なかった。

 

「出発、進行〜」

 

警笛を鳴らしてゆっくりと前進を始めるスフェーン。今回は人が平気でいる路線を走る上にまだ閉塞設備が整っていない。なので列車の閉塞は昔懐かしいタブレット方式である。

 

『他にも数名の運び屋が周回をしているようですね』

「この街も被災した数多くの街の一つだからね…」

 

そこで復旧作業と合わせて建設されている地下シェルターの建設現場を環状線の高架の上から見る。

残念ながらこの街に臨界エーテルの反応はなく、エーテルの湖となった爆心地はエーテルをポンプで吸い上げ、除染作業を行なった上でその場所をシェルターなどの地下施設に改造を加えながら蓋を閉める。

 

「変わっていくねぇ…」

『昔からそう言うものですよ。特に一度歴史が崩壊したこの星ではなおさら…』

 

あるアンドロイドから受け継いだ膨大な時間の記憶は、人類誕生の星から宇宙に出た人々の歴史を紡いできていた。

戦争・復興・発展・革命、世界は大きく様変わりをしており、かつての人が見ればありえないような事が当たり前となっていた。

 

この星に降り立ち、エーテルを見つけた彼らはそれを燃料にした新しい発明を行い、今ではそれがなければまともな生活ができないほどに自分たちはそれにしがみついている。

 

大災害によって全てが洗い流され、文明を一からスタートさせたトラオムの住人たち。

アンドロイドが生き残っていた事や、多くの資材を再利用した復興により、何百年と時間をかけてここまで持ってきていた。

 

『ここまで行う原動力とはいったい何なのでしょうか…』

「さぁね、でも今よりも楽をしたいっていう感情は必ずどこかにあるんだと思うよ」

 

運転席で健気に復興のための労働に喘ぐ人達を見ながらスフェーンはルシエルとそんな話をしていた。

スフェーンは頭にウシャンカや分厚い外套を身につけており、暖かい格好で運転台で操縦をしている。とてもじゃないがこんな場所でナッパのままで出たら凍死してしまう。

故にナッパ服の上からこの冬用の分厚い外套を羽織り、よく冷えた運転台の上に淹れたての紅茶を入れた魔法瓶を置いていた。

淹れたのはロシアン・キャラバン、少しウイスキーとも違うスモーキーな香りがこの寒い大地によく合う紅茶であった。

 

「ふぅ…」

 

スフェーンはコーヒーと茶ならどちらが良いかと問われると、茶と答える。

日本茶・中国茶・紅茶…コーヒーと違って個人的に飲みやすく、また淹れ方も様々あり、昔から知っていたのでお茶は好きだった。

 

「あったけぇ〜」

『外気温のことも考えると、あまり外には出ない方がいいでしょうね』

「あっ、次の工事現場見えた」

 

黄色い警告灯が伏線に敷設され、その先ではタブレットを持った係員が待っており、窓を開けてスフェーンは持っていたタブレットを外に放った後に新しいタブレットを受け取った。徐行していたのでほぼ手渡しのような状態だった。

 

「ふぅ…」

 

これが後何日続くのか、スフェーンは少し気が遠くなりそうだとぼやいていた。




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