TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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大陸北方であるにも関わらず、年間降雪量は砂漠とほぼ変わらないと言う独特の気候を有しているこの地。

乾き切った風が北に吹きつけ、この環境が極寒の荒野の大地という特殊な自然を生んでいた。

 

しかし最近はケーウ運河開通などの土地改造より大地全体に水が染み渡り始め、白樺ですら育つ大地へと変貌を遂げつつある。

 

そんな特殊な環境において、建設資材運搬を担当するスフェーンはコンテナに積載された大量のボルトや板ばねを運送していた。

 

「オーラーイ…」

 

貨物ターミナルでこの前全てが鉄道管理局に移管されたネフィリム(複々線専用貨物列車)の運んできたコンテナを積載していく。

四本の線路を使って運ぶが故に積載量は船舶に匹敵している。組成車両数は一〇〇両、前後に専用の機関車をつける動力分散方式。中央の二両に強力なレーザー砲やクラスターミサイル、榴弾砲を装備していた。どれも襲撃者対策のためである。

 

そしてスフェーンの列車はコンテナ輸送が得意分野であり、今回の依頼ではホッパー車の牽引などは別の運び屋が行うことになっていた。

 

「ふぅ〜…」

 

白い息を吐き出し、寒がりながらスフェーンは貨物ターミナルで積載される荷物が載せ終わるのを待つ。

 

「冷える〜」

『中に入ればよろしいのでは?』

 

貨物ターミナルで積卸線から次々と列車が走っていくのを眺めていると、ルシエルが聞いてきた。

現在列車は積み込み作業中であり、この工区でコンクリートブロックとコンテナを運んで数日。彼女は復興途中の環状線を今日も朝から周遊する日々を送る事になる。

 

「やぁね、コンテナ積み込み中に乗り込むのも危ないでしょ?」

『それはそうですが…』

 

この時期の都市環状線の特徴として、完全な一周になることが多い。

戦争により破壊された市街地、身元不明の土地を鉄道管理局や政府は国有化。同時に一度破壊された線路などを使用して新たに路線を敷設、市街地を大きく囲うように建設がされていた。

 

『それなら運輸ギルドの施設に入れば良いのでは?』

「どうせすぐ出るし、ちょっと我慢すれば良いかなって」

 

この再開発により、被災都市の多くは環状線の中と外で新市街と旧市街と言う風に区分けされ、後の都市の再開発のモデルケースが完成していた。

都市がある程度成長すればさらにその外側に環状線の建設を行う。

 

環状線は市内の周遊高架道路と交互に敷設され、市内の大通りは最低でも片側五本が当たり前となっていた。

街中を横断するように市電やトロリーバスが運行され、路線バスも再設定されていく。

 

そしてエーテル・ボンバによる被害から、復興した都市では対空火器を装備した都市防空用の高射塔やレーダー設備が等間隔で建築されていた。

 

『まぁ、お好きにどうぞ』

 

ルシエルはスフェーンの謎行動に疑問を感じながらも、どちらかと言うと感覚で生きているスフェーンに特段言う事は無かった。

そんなこんなで十一両編成の貨物列車をぼんやりと眺めていると、

 

「やぁ、幼い運び屋」

 

そこでスフェーンに声をかけるのが一人、振り返ると一人の初老の女性がスフェーンを見た。

 

「あっ、どうも」

 

スフェーンはその女性を見て軽く会釈で返す。

彼女の名はエカチェリーナ・フョードロヴィッチ、何十年と運び屋を行ってきた老練な運び屋である。今回の仕事を同じにする女傑だ。その見た目と名前から同じ運び屋の間ではカチューシャばあちゃんと呼ばれていた。

 

「ひひひっ、これから仕事かい?」

「えぇ、行ってきます」

「健気だねぇ。若い子だよ」

 

彼女は頼もしい様子でスフェーンを見ており、荷物の積載を終えた列車を見る。

 

「カーゴスプリンターとはねぇ…」

「今時は珍しいですかね?」

 

かつてはたったの四両だったこの列車も、随分と数を増やしたものである。

 

「そうだねぇ、こう言うタイプの列車は基本的に運送屋の払い下げだろう?」

「そうですねぇ〜」

 

動力分散方式になることが多く、動力車が多い事から維持費でもかなり高額、載せられる運送品も限られてしまう。しかし加速度は高く、動力が分散しているので、どこかしらの機関が止まっても動ける利点があった。

 

「私もこの列車は貰い受けたものです」

「ははははっ!こんなちびっ子に渡すとはね…」

 

正確には長い間放置されていたものなのだが…まぁ使わないよりはと言った具合で持ち出して長い時間が過ぎたものだ。

 

『流石に脱出した時に半年が経過したと知った時は驚いていましたが…』

「(そりゃそうだ)」

 

それを考えると、あの時からもう十年が経過したと言う事実に至った。その時、何か末恐ろしいものを感じた。

 

「おや、体調を崩したかい?」

 

青ざめた顔を前にカチューシャばあちゃんが声をかけてくれた。

 

「あぁいえ…ちょっと昔のことを思い出して…」

 

考えてはいけないことだ。うんきっとそうに違いないと思いながら、今の思考を脳のシュレッダー送りにした。

 

「ケケケッ、あんたと話しているとなんだかお前さんが若いもんに思えてくるねぇ」

 

カチューシャばあちゃんはケタケタと笑った後に自分を見た。まぁこう見えても実年齢は(傭兵時代含めて)アラサー入った人間だけど。

 

「実際私は若いでしょう?」

「さぁ、どうだかね…」

 

カチューシャばあちゃんは軽く吹き出すように軽く笑った後に軽くスフェーンの肩を叩いた。

 

「まっ、仕事頑張りな」

「…どうも」

 

そこでスフェーンは頷いて積み込みを終えた列車に乗り込んで行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

戦争が終わり、サブラニエ人民共和国連邦はパグウォッシュ宣言受諾。

その後のハーロック条約により、サブラニエ人民共和国連邦は解体。四つの国に分割されることとなり、サブラニエはオロシャ連邦として再出発することとなった。

 

戦争責任の是非を問う問題について、軍警察ではハーロック条約に基づき、当時の旧政府閣僚に全責任を向けることでサインをした。

 

戦時中、宇宙艦艇による強襲揚陸で旧首都であるマシクヴェ、旧副都サンブラーキを三日で制圧した軍警察。彼らはそこで多数の政府資料を焼却前に確保する事に成功していた。

 

インターネットによる情報化社会が進んでいる現在、最も強いハッキング対策は全てアナログの紙資料で管理を行う事。

故に機密資料焼却の前に迅速に首都制圧を行うことで、今までにサブラニエ…もといその前身であるアイリーン社の情報を集めるために彼らは戦線が届かない場合でも宇宙から降り立っていた。

 

当時、すでにE兵器に関する技術を自国生産できると言う事実は、軍警察に取っては悪夢に等しい情報であり、世界で唯一E兵器を運用していた軍警察としては見逃せない事態であった。

 

 

ーーもし世界中にE兵器が広まって仕舞えば、軍警察は有効なカードの一つを失う。

 

 

このトラオムの世界に生まれた国々では、どのような国でも『自国でエーテル機関が生産可能な程の技術力』を有している。

地下資源に関する諸問題はあれど、技術力の下地に関しては完全に足並みが揃っていた。

 

少なくとも自国でエーテル機関の製造が可能な時点で、E兵器を生産できる事は可能であった。

 

 

ーーであるなら、世界に拡散される前に喉元を押さえておく必要がある。

 

 

軍警察はこの方針に従い、戦時中にエーテル・ボンバの貯蔵施設やエーテル関連施設を中心に爆撃を行ってきた。

サブラニエ、正確にはアイリーンの有していたエーテル関連技術を早々に接収し、E兵器の情報が漏れる事を防ぐ必要があった。

 

「はぁ…」

 

大きくため息を漏らしてロト・フランツェは腕を組んで机を見下ろす。

戦争が終わり、数多の政府機密資料を確保した軍警察。その資料は全て情報部に送られており、特に対外情報の管理を担う六課にそれら資料が続々と届いていた。

 

「まずいな…」

 

その数多の資料は、戦前にアイリーンが行ってきた数々の買収や裏取引、マネーロンダリングなどに関する内部資料ばかりがあった。

 

「こりゃひでぇな」

 

そこで情報部にやってきたライルがやや呆れた表情で山積みの資料を見る。

 

「あぁ…アイリーンだった頃の資料が恐ろしいぜ」

「アイリーンはよっぽど悪どいことをしていたな…」

 

そのうち一つを取ってパラパラと流し見るライル。そこには裏帳簿の情報がびっしりと埋まっていた。

 

「あぁ、俺たちが思っていたよりも悪質な方法で拡大をしていたようだ」

 

たった数年でアイリーンが急拡大できた理由を察しながらロトは呆れた様子でそれを見る。

 

「銀行や投資会社への恐喝、都市の強権占有。いずれも戦前からアイリーンが産んだ禍根だ」

「話によりゃあ、アイリーンが占有して住民を追い払った都市は返還されるんだろう?」

「ああ、終戦条約でサブラニエは四つに分割されたからな。住民は避難済みだ」

「けっ、やってるのは強奪と変わらねぇじゃねえか」

 

そこでここ数年で何度も書き換えられた世界地図を眺める。

 

「噂じゃあ、新しい暦ができるって話だが?」

「あぁ、そこら辺は歴史学者にお任せだ」

 

ロトはそう言って軽く息を吐く。

 

「ふっ、順調に出世しているな」

「おかげで俺のオフィスには荷物が少ないよ」

 

タルタロス鉱山崩落事故の捜査により、ジェローム・サックスを逮捕したことで傭兵ギルドに多少の混乱を巻き起こしたロト・フランツェ。

この事件の厄介な点は、ジェローム・サックスがアイリーン社との裏取引があったと言う事実である。

 

「司法局の根回しは?」

「有意義な判例ができると言って快く了承してくれたさ」

 

ロトは持っていた紙の資料を本と机の上に置く。

 

「いつ判決だ?」

「確か一週間後のはずだ。明後日最終公判が行われて、その後陪審員による判決。あとは裁判員が刑量を行うだけだ」

 

ライルの問いにロトは自分のメモ帳を確認する。

 

ーー全く、どうしてこんな事になったのやら。

 

「仕事頑張れよ」

「おいおい、君の所も手伝ってもらうぞ?」

「勘弁してくれよ…俺の部署は暗殺と防諜専用なんだぞ?」

 

ライルはため息まじりに消えると、残ったロトはそこで少し考える。

 

「(アイリーン社は戦前からレッドサンの能力を欲していた…)」

 

しかしある時期からアイリーンは、レッドサンの殺害に舵を切り始めたことが今まで集めた資料から判明している。

 

「(どうしてだ?)」

 

謎は深まるばかりであった。




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