TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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『故郷とは何ぞや?』

ーーーロレーヌ報道Webより抜粋

 

 

 

あれから何年が経った事だろう。

 

僕の生まれは古びた鉱山都市だった。

 

良質な鉄鉱石を算出していた僕の生まれ故郷は、アイリーンと呼ばれる企業の圧力に負けて僕達は追い出された。

僕達がその事実に気がつくのにそう時間は掛からなかった。

 

「…」

 

アイツらは僕達が出て行った直後にPMCを進駐させて街にあった建物を壊して再開発を行なった。

 

「これは…」

 

ここはエイレーネグラード、かつてはラストタウンと呼ばれた都市である。

 

「…」

「…」

 

あれから何年も経ち、戦争が終わった後に僕達に父さん達の会社からの連絡で僕達は数年ぶりに故郷に帰ってきた。

改名された時、アイリーンによって街は大きく作り替えられており、僕達の覚えている駅前広場は何もかもが変わっていた。

あの寄り道をした売店はビルごと真新しいバスターミナルになっていた。

 

「なんて事だ…」

 

目の前には破壊されて焦げた建物が並んでいた。

街には微かに焦げた香りが漂っており、駅前には乗り捨てられて錆びた車の残骸が残されていた。

 

「…」

 

僕達はあの後、年齢が二桁になってしばらく経った年齢まで成長した。

幼馴染のナルクやカオリとは、高校生になった今も同じ学校に通っている。

 

「ユウキ?」

「…ん?」

 

久しぶりに町長さんや食堂のおばちゃんとも再会して、少し懐かしく思いながら僕達は父さんと共に列車に乗った。

少し前まで戦争があり、軍警察はエイレーネグラードにも空爆を敢行していた。

 

この街に飛来した爆撃機の数は一二八機、鉄鉱石を産出する産地であり、下の製鉄所もアイリーンが買収をした事で僕達は最終的に国すらも離れた。

父さん達のいた会社の一部をアイリーンが購入し、その中にはあの製鉄所も含まれていた。

それで僕達は戦争直後に引かれた国境線を超えて引っ越した。

 

「どうする?俺は夕方までここに残るが…」

 

すると父さんが僕に話しかけた。

 

「…行くよ」

「分かった」

 

僕はそう返すと、父さんも分かっていた様子で軽く頷いてから僕達を見送る。

流石にこの歳になると、父さん達も子供だけで出歩く事に不安を覚えることはなかった。怪我だけ気をつけろと言って僕達を送り出した。

 

「行こうぜ」

「うん」

 

ナルクとカオリ、僕は二人と共にうまくやってきたと思う。

二人と別れる事が無かったのは運が良いと思う。少なくとも、僕はそう思っている。

 

「久しぶりね〜」

「道路は変わっていないんだね」

「それ以外は…まぁ変わっちまったがな」

 

あぁ、本当に変わってしまった。僕の覚えている中で残っていた建物は駅舎くらいだろう。

あの鉄骨鉄筋コンクリート製の近代的駅舎は駅前ロータリーが変わろうとも健在だった。

 

「わぁ、これまだ残ってたんだ」

「古い建物でもアイリーンは残していたんだね」

「爆撃も生き残ってら」

 

駅の近くは爆撃機による戦略爆撃が無かったのだろう、建物はほぼ損害がなかった。

その街の光景はまるで違う、育ってきた生まれ故郷の姿はここにはもう無かった。

 

「…ここに住んでた人はどうなったの?」

 

その景色を前に思わずカオリが聞いてしまう。そこに僕達の知っている寂れた街はなく、瓦礫と残骸の広がる焼け野原が残されていた。

 

「さぁ?」

「戦争中に逃げちゃったっていう話があるけど」

 

軍警察は爆撃を行った後にこの街に進駐した。事前に爆撃地点を公開していた事で、多くの住人は住んでいた場所から安全な田舎町まで大規模に疎開を行っていた。

そしてそのまま終戦を迎え、サブラニエは四つの国に分割された。

オロシャ連邦とその他三つの構成国に分かれて。

 

その内の三つに分割された国の一つにエイレーネグラードはあった。

今は再びラストタウンと名前を変えて地図には残っており、この街には間も無く軍警察の常備駐屯部隊が駐留を開始する。

戦時中は敵部隊、特に陸上戦艦が駐機する軍事拠点が郊外にあったことで苛烈な爆撃の対象となっていた。

 

かつて自警団が訓練場に使っていたあの場所には、かつてのサブラニエ地上軍の残した基地が残されている。

 

「なんか噂だと、引き揚げ列車に乗ってみんな逃げ出したらしいぞ?」

 

そこでナウルが聞いて来た話をすると、そこで少し太めの通りに出た。

 

「あっ…」

 

通りの形はほぼ変わっていないので、三人はそこにかつて自分たちが通っていた学校のあった教会があった事を覚えていた。

ただその教会は今、何かしらの雑居ビルに変わり果てていた。

 

「「「…」」」

 

呆然と変わってしまったそのビルを前に三人は黙り込んでしまう。

サブラニエにおいて、宗教やそれに関連した施設は破壊の対象となっていた。この教会もその対象に入ってしまったのだ。

 

「…はぁ」

 

軽くため息を漏らし、僕はそこでナウル達に一言。

 

「ちょっと、あそこに行ってくるね」

「あぁ…」

「分かった」

 

二人もそれに頷くと、同じように反対の道に分かれて歩き出す。

 

「…」

 

この大きく様変わりした道路には二本の軌条が埋め込まれており、駅前ロータリーまで繋がっていた。

軍警察からの連絡で、アイリーンによって奪われたと判断された街は元の住人達に連絡が行って帰れる事となった。

 

しかし、新しい街で新しい人生を送っていた僕達は正直悩んでいた。

街の至る所では破壊されたビルの残骸なんかが並んでいて、正直まともに住む為にはまずは復興を行う必要があった。

 

「よっと…」

 

簡単に瓦礫を乗り越え、崩壊した道路を進む。

自分が知っている時に比べて道路は広く、廃墟ばかりでも発展していた。

 

「すごいな…」

 

大量の資金を投じて街の再開発を行なったというのがよく伺える。そこに僕の覚えている街の姿なんて見当たらない。

あの古びて廃墟になったバーですら、今は区画ごとスーパーマーケットになっていた。

 

「本当に…」

 

発展した生まれ故郷を前に僕は正直懐かしさと、驚き、唖然と…色々な感情が込み上げてよく分からない事になっている。

帰ってきたんだ、という感情はこれだけ大きく変わってしまっているともはや湧かない。

駅前ですらあれほど変わってしまい、街には見たことのない市電が走っていたんだ。ずっと昔、まだ前の街が活気に溢れていた頃に建てられたビルの他にも新しくビルが建てられていた。

 

そうして僕達を騙して鉄を生み出しながら発展して来た街は、軍警察の空襲で徹底的に破壊された。

 

「…」

 

そして通りの角を曲がって少し歩いた時、ある場所で僕は立ち止まった。

 

「…」

 

その場所は、かつて僕が住んでいた家があった場所だった。

今は崩壊した背の高いアパートが残されており、人がいる様子はなかった。

 

「…」

 

僕はここで『ただいま』という言葉が出なかった。

 

ただ僕は『あぁ、ここはもう僕の故郷じゃないんだ』と思ってしまった。

 

かつてここら辺にいっぱいあった長屋の姿はまるで無く、広げられた道路や整備された歩道、ブロック工法で作られた量産性に長けたアパート、枯れた街路樹。

そこに僕の住んでいた家は無く、同時に覚えていた家の形すらも朧気になった。

 

「…」

 

崩壊したアパートの瓦礫の中に、一つの写真立てが残されていた。

表面のガラスは砕けていたが、中の写真は無事だった。その写真には嬉しそうに笑顔で肩を組んだり、椅子に座ったりしている五人の家族が写っていた。

それを手に取り、僕はただ静かにその写真にそっと触れた後になんだか悪い気がしてその写真立てを瓦礫の山の中に静かに戻した。

 

「…誰かが、住んでいたんだ」

 

多分、戦時中に疎開か避難をして、そのまま帰れなくなった人達だ。

現在、こう言った都市に住んでいた人達は今のオロシャ連邦などからの移民ばかりだったので、オロシャ連邦国内に難民として留まったままだ。

 

「それを…奪ったんだ」

 

確かに、戦前僕達はここで暮らしていた。

 

アイリーンの圧力で僕達は街を離れた。そしてその先で僕達は新しい街で、新しい学校に通い、新しい友人を作った。

そんな僕達にいきなり『故郷を奪還したぞ!さぁ帰ってこい!』と言われても『どうすりゃあいいんだよ』と言うのが正直な僕の意見だ。

街はこんなふうに破壊され、かつての家は跡形も無く、かつて住んでいた人達は新しい生活を送っていた。

 

「…帰ろう」

 

ここには最早、僕達が住むような場所はない。

 

「…はぁ」

 

こう言う時、ふと僕はあの人に会えるなら聞きたい。

 

この街を離れる直前、この街に訪れた運び屋。この街の葬式に付き合ってくれた人でもある。見た目の割には精神年齢があまりにも成長しすぎているだろう、と今でも思ってしまう。

それでいてあの人にはどこと無く頼もしく、それでいて優しさもある不思議な人だった。

 

「何しているのかなぁ…」

 

あれから時も経ち、僕もかなり成長をしたと思う。あの時僕の手を握った力強く、それで柔らかい手の感触。少し冷たかったあの手は特徴的だ。

 

「…スフェーンさん」

 

まだ世間知らずだった時、後光が差したようなあの時の背中は今でも憧れている。

無論、それが烏滸がましい事であるとあの時の自分を振り返って思っている。

 

「よっ」

「あっ、ナウル」

 

戻る途中、先に角で待っていたナウルを見かけると軽く小走りで駆け寄った。

 

「ごめんね」

「いいさ、まだカオリも戻って来ていないからな」

 

そして二人は少し待っていると、瓦礫の奥から物悲しげな様子の彼女が帰ってきた。おそらく、僕たちと同じ事を思ったのだろう。彼女は僕たちに近づいた後に一言、

 

「帰ろう」

 

とだけ言って、僕たちもそれに頷いた。

 

 

 

戦前にアイリーンによって占有された都市の多くは、アイリーンの占有以前に住んでいた住人が帰ってくることが無かった。

 

後にこの時の心情を彼はこう述懐した。

 

『私の生まれ故郷は、アイリーンによって奪われた。世間一般の目線からすればその様に思われる事だろう。

 

当時まだ幼かった私は、その事をあまり深く理解していなかった。ただ引っ越しをするような感覚で私たち家族はあの街から離れた。

 

戦後、私たちには故郷に帰る機会が与えられ、それを知った父親達が懐かしんでいるのと喜んでいた事にほんの興味が湧いて視察をするために幼馴染達や父親達と一緒に列車に乗り込んだ。

 

この時、新たな場所で知り合った友人達から同情や哀れみの目を向けられることから逃げたかったのもあるだろう。

引っ越した先で差別や侮辱、偏見の目で見られなかった私達にとって、それはとても鬱陶しく極まりないものだった。

 

そして着いた先で、何もかもが作り変えられ、看板にはアイリーンの名を冠した地名の看板が掲げられたままの駅前のロータリーを見て誰もが唖然となっていた。

 

爆撃であらゆる場所が廃墟となったかつての故郷。

道路は広くなり、大通りには駅まで繋がる市電、至る所に立つ雑居ビル、中心部にはどこからでも見える高いオフィスビル、密接して建設されるアパートメントの数々。

 

それら作り変えられた街を見上げながら、私はかつての家があった場所に辿り着いたが、そこには真新しい壊れたアパートメントが聳え立っていた。

 

ーー故郷とは何だ?

 

私は家に帰ってから、ずっとその事を考えるようになった。

あの時、瓦礫の中から見つけた家族写真を見て、私は酷い罪悪感に襲われた』

 

ーーーローデン日報第225号 ユウキ・ベッカー『戦後政策は何故失敗したのか』より抜粋




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